軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未来人

「はぁ……まったく、なんなんだ」

「まったくです。いい加減にしないと王様に言い付けますよ」

「これから起こる真実を目にして、まだ同じ事が言えるのなら幾らでも言い付けて良いですぞ」

「言いましたね。良いでしょう、何が起こるか楽しみにしましょう」

と、話をしている間にお義父さんは寝息を立て始めました。

窓からこぼれる町の明かりが、僅かに室内を照らしております。

「暗い所でも見える魔法を使いますかな?」

「そんな魔法を何処で習得したんだ?」

「きっとこの先の出来事をーとかですよ。黙ってましょう」

不満が多いですな。

この二人の信用を得るのは相当ですぞ。

魔法で音が漏れないので、適当な雑談を踏まえながら俺達は待ちました。

やがて……ガチャリと扉が開きました。

俺達が見ているとも知らずにノコノコと赤豚がやって来ましたな。

「あれ? 確か尚文さんの仲間ですよね?」

「仲間なんだから一緒の部屋で寝るのは当たり前だろ」

「ですが、鍵が開く音がしましたよ。尚文さんが寝る時にテーブルに鍵があるのを確認しました」

「仲間とは別室……? じゃあどうやって入ったんだ? いや、スペアキーとかか」

「確かにそれなら……ですが、何か様子がおかしいですね」

赤豚が寝ているお義父さんを物色し、テーブルに乗った金袋やくさりかたびら、お義父さんが着ていた服を取って行きます。

錬と樹は食い入るように覗き穴を見つめています。

「あれ、内緒で洗濯するとかのサプライズでしょうか?」

「なら金まで持って行くのか? あれはどう見ても……」

まあ弁護するのは無理でしょうな。

くくく……ですぞ。

赤豚よ、そのまま己の容姿と同じく、豚の様に穢れた心を曝け出せ、ですぞ。

「ブブ、ブブブブ……」

やがて何かを呟いたかと思うと赤豚は部屋を出て行きましたな。

しばらく錬と樹が硬直したまま動きませんでした。

「今、尚文さんの仲間が言った言葉を聞きました?」

「ああ、アレじゃあまるで……泥棒みたいだぞ」

「理解していただけましたかな?」

「いや、尚文の仲間が泥棒をする所を見せられたからなんだって言うんだ? まあ……可哀想だとは思うし、誰が犯人か教えてやろうとは思っているが」

ああ、確かにこの段階ではお義父さんが泥棒の被害に遭っただけにしか見えませんな。

それこそ被害届でも出しておけ、みたいな反応ですぞ。

おや? 樹が凄く真面目な、正義感が暴走した表情をしています。

「詰問はまだですぞ」

「何故ですか! アレは泥棒じゃないですか。犯罪ですよ! 現行犯で捕まえましょう!」

「それは無理ですな。奴はこの国の姫ですし、明日にはおと――尚文が強姦魔の罪を被せられて城に連行されるのですぞ」

「なんですって!?」

「黒幕はアイツですぞ。被害者は女、その女が強姦の被害にあったと嘘泣きして騒ぐのですぞ。真実を知らない者にはどう映りますかな?」

今のセリフ、口が腐るかと思いました。

奴が女? 豚ですぞ!

錬が黙って考え込み始めましたな。

良い傾向ですぞ。

「元康、これが見せたかった事なのか?」

「まだありますぞ。それを教えるにはこのローブを羽織って、付いて来てほしいのですぞ」

「わかった」

「ですが……」

「樹、何やら俺達の知らない所で事件が起こっていて、元康はそれを知っているらしい。茶番にしか見えないが、最後まで付き合ってやろうじゃないか。少しは楽しめるかもしれない」

「錬さんまで、はぁ……わかりました」

「で? この後、何が起こるんだ?」

「俺が酒場で酒を飲んでいると奴が盗んだくさりかたびらを持ってやってきてプレゼントするのですぞ。俺がそれを突っぱねると、奴は今度は樹の所へ行ってくさりかたびらをプレゼントするのですぞ」

「とんだネタばらしだな」

「盗品を渡すなんて……」

樹が嫌悪感に駆られています。

が、信じる半分、疑い半分で居る様ですな。

まだ何処かで自分の信じる国を信じているご様子。

「なあ、ならその証拠品を――」

錬と樹にローブを着せてから俺が指示した酒場の隅で座って飲み物を飲んでもらいましたぞ。

俺は普通に酒場で酒を飲んでおります。

しばらくすると赤豚が偶然を装ってやってきました。

これで何度目ですかな?

四度目くらいでしょうか。

いい加減、ウンザリしますな。

ですがここが年貢の納め時ですぞ。

「ブブブブブ……」

「そうですな。はは、はいですぞ」

適当に相槌だけをし続けますぞ。

豚はこれだけで会話が成立する気持ち悪い生き物ですな。

自分の考えしか無く、相手には肯定しか求めていない矮小で愚鈍な下等生物ですぞ。

やがて赤豚は盗品のくさりかたびらを俺に差し出しました。

「い、良いのですかな?」

「ブブブブ!」

豚の笑顔などという吐き気を催す物を我慢しながら俺はくさりかたびらを受け取りました。

すると赤豚は満足したのか立ち上がりました。

記憶を紐解くと、そろそろお義父さんの決まり事があって帰らないといけないとか愚痴った気がしますぞ。

お義父さんがそんな事をするはずないですぞ。

やがて赤豚は去って行きました。

俺もそれとなく酒場を後にします。

すると錬と樹がすぐに追いかけてきました。

「証拠品をゲットですぞ。そして明け方に奴が俺の泊っている宿にやってきて起こしに来るのですぞ」

「まさか……本当の事だったなんて……これはどういう事なんですか?」

「なんでこんなに言った通りになるんだ? 何かの演技? それともビックリ? いや、幾らなんでもこんな事をワザワザ俺達に見せる理由がわからない」

樹の疑問に錬も続きますぞ。

興味津々で錬と樹が俺の返答を待っています。

やっと話せる状況になりましたな。

「信じられないかもしれませんが、俺は未来から来たのですぞ」

その返答に、錬は再度深く考え込み、樹は少し首を傾げます。

ここからが勝負ですぞ。

前回のお義父さんも、どうやって錬と樹を信じさせるのかが重要だと言っていました。

今までの行動は錬と樹の信用を得る為の物ですな。

少なくとも、話を聞いてくれる段階には出来たはずですぞ。

尚、この作戦は前回のお義父さんが提案してくれました。

多少の誤差はありますが、ほとんど成功と言って良いでしょうな。

「少々信じがたいですが……」

「何なら俺の知る未来の知識をお教えしますぞ。例えば樹の世界は異能力があるとかですかな」

「何をそんな当たり前の事を……」

「はぁ!?」

錬が呆気に取られた表情を浮かべました。

この時点でこの知識を知っているのは俺だけですからな。

当然の反応ですぞ。

「樹、確認を取る。その異能力というのは事実か?」

「え、ええ……」

「その話をこの世界に来てから誰かに話したか?」

「いえ、話していませんね。というか、そんな当たり前の事を話したりしませんよ」

「……」

「その反応……まさか錬さんの世界に異能力は存在しないんですか?」

「ああ、存在しない。異能力なんてあったとしても創作物での話だ」

「そ、そうですか……」

「まあ、絶対音感の様な物を異能力と呼ぶのならあるとも言えるが、そういうのとは違うだろう?」

「はい、異能力は先天性が大半ですから、後天性の絶対音感は違います」

錬も樹も、それまで浮かべていた表情を硬いモノに変えました。

しばし沈黙が続きます。

その沈黙を破ったのは錬でした。

「樹、元康が言っている事はきっと真実だ。俺のいた日本に異能力なんて存在しない。そしてその事実を知っているのは……樹だけのはずだし、樹と元康が同じ世界の出身なら樹の反応が正しくて疑問を持たない」

「確かに……」

「更に元康はポータルスキルや魔法を習得している。未来から来たという話が事実なら持っていてもおかしくはない。そして元康は俺や樹の居場所を知っていた。確かに突飛な話だが、辻褄は合う。で、あの女だ」

早口でまくし立てる様に錬は樹に言いました。

どうやら信じてくれた様ですな。

まあ異世界に転移したばかりですから、未来から俺がやって来た、という話を受け入れられるだけの土壌があったとも言えますが。

「まだまだ話は出来ますぞ。これでも信じられないのですかな?」

「では、尚文さんの仲間……姫でしたっけ? あの方はどうしてあんな真似をしたんですか?」

「奴等の目的は勇者同士の不和を招くことですぞ。この国は、盾の勇者が宗教的に敵の国……なのが理由であり、おと――尚文を犯罪者に仕立て上げて、最終的に俺達に倒させる目論見があるのですぞ」

「宗教的に敵!? じゃあ僕達に尚文さんを殺させようとしているんですか?」

「なるほど。俺達が……というより剣、槍、弓の勇者がこの国にとって宗教的な神で、悪魔である尚文を犯罪者に仕立て上げて殺す事で自分達の欲求を満たそうとしているのか」

「嘘だと思うのなら広場の方から見える教会のシンボルを見るのですぞ。あそこには剣、槍、弓の三つしか無いですからな」

ある意味、証拠をぶら提げている様なものですな。

錬も樹も今日の内に一度位は目にしたはずですぞ。

「異世界、勇者に続いて陰謀、未来人と来たか。雲行きが怪しくなってきたな……」

確信を得るように錬は静かに頷きました。