軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ホットクレープ

お義父さんが仕入れた情報によると弓の勇者である樹が程々に有名だそうです。

おかしいですな。

俺が首を傾げているとお義父さんが疑問に答えてくださいました。

「未来の記憶とは違うのかな?」

「そうですぞ」

「うーん……ありそうなのは元康くんと錬がメルロマルクで全然活躍していないから……かな? 話題になる勇者がメッキリと聞かなくなると自然と地味な方が目立ち始める感じでさ」

「なるほど」

つまり最初の波までは錬が矢面に立っていましたが、その錬も国への不信感からゼルトブルへ行った現在、目に見える活躍をしているのは樹だけになってしまっているという事なのでしょうな。

そもそも今回のループでは、樹はこの国に優遇されています。

錬がゼルトブルへ消えた今、メルロマルクは樹一人を特別に優遇する方針に切り替えたのかもしれません。

未来では三勇教は俺や錬の活躍をピックアップしていましたが、それも叶わず……自然と樹が台頭する事になってしまったのでしょう。

話によると樹は隠れた正義の味方をするのが好きだったご様子。

その隠している活躍を三勇教が必死に流布した結果、樹自身の名声が広まったという事なのでしょう。

さすがお義父さんですな。

しかし、同時に正体不明の神鳥の聖人が各地で活躍していると、三勇教もかなり焦っているのではないですかな?

盾の勇者を語る偽者も各地で暴れているとの話を聞くそうですぞ。

「まあ、今回の騒ぎは俺達の出番は無いね。神鳥の聖人として行くにしても……樹達はユキちゃん達を見た事があるから行ったらばれちゃうだろうし」

「そうですな」

「しかし……樹は一体何が目的でこんな正義ごっこをしているんだろう。まあ、人に説教するのとか気持ちが良いとか思ってるタイプなのは決闘した時にわかったけど」

「未来では正義正義とうるさいとお義父さんが言ってましたぞ」

「あー……うん。正義の味方に憧れを持っているんだろうね。それなら……問題なさそうかな?」

こうして俺達は面倒は樹に任せ、騒ぎの収拾を見届けたのですぞ。

翌日、お義父さんの話通り、隣町の貴族は樹一行に退治されたという話が町に伝わってきました。

もはや樹の活躍は各地で聞こえる様になりつつあります。

隠しても隠せない樹がどんな顔をしているか気にはなりますな。

まあ、きっと誇らしげにドヤ顔をしているんでしょうが。

「さてと……次は北の国境沿い辺りを巡回して、一度補給に戻ろうか」

自由になった祝いにとお義父さんは町の人達に食料を無料で配給してくださいました。

皆さん感謝の言葉を投げかけてきます。

「樹に会う前に早めに退散しよう」

「それではさらばですぞ」

町の人達が手を振る中、俺達は出発しましたぞ。

神鳥の聖人という話は、今では樹こと弓の勇者一行の活躍と比例するように有名になりつつあります。

そして樹から逃げる様に北の方へ行きました。

なんでも隣国から食料を買い付けに来ている商人が多いそうですぞ。

「兄ちゃん、なんか物々交換が凄く多いけど、良いのかー? あと、アクセサリーが全然売れねえ」

「ん? ちょっと待って」

俺のアクセサリーが……売れないですと!?

馬鹿な!

フィロリアル様達を象ったこの崇高なシンボルを誰も見向きもしないなんて……目が腐ってますぞ!

「元康くん、落ちついて。需要と供給の所為でしょ」

お義父さんが俺を抑えた後、馬車の外から辺りを見渡しますぞ。

見ると飢えているのか、痩せている者が多いですな。

なるほど。アクセサリーを買う事も出来ない層ばかり、という事ですか。

つまりフィロリアル様が悪いのではなく、社会が悪いのですな。

「あんまりお客の血色が良くないね。やせ細っていてボロボロだ」

「飢饉ですからな。だからこそ食料を配っているのですぞ」

「そうなんだけど……なんか変じゃない?」

「兄ちゃん、こいつらなんか訛りがあって聞き取り辛いぞ。メルロマルクの連中とは違うんじゃないか?」

「そうなの? 少し話を聞いてみるよ」

お義父さんはキールの言葉を聞いて馬車から降りて客に事情を聞いている様でしたぞ。

「とりあえず……少し炊き出しをしますので、皆さん落ちついてから買って行ってください」

お義父さんが大きな鍋を村の者から借り受け手料理を振舞いますぞ。

ついでにキールが望んでいたクレープを再現しようと熱した鉄板で挑戦しております。

「ガウ!」

「うん、ガエリオンちゃん。その火力を維持して」

サクラちゃんを初め、フィロリアル様達は料理を羨ましそうに見つめています。

「この前、物々交換で小麦粉が手に入ったからね。とりあえず甘いクレープを作るのは無理でもホットクレープを作る事は出来ると思う」

「ホットクレープとクレープって何が違うんだ?」

「生地自体は同じだけど、包む具が違うんだ。普通のクレープはお菓子だけど、ホットクレープは肉とか魚とかも使えるんだ」

「へー……美味いのかー?」

キールが興味津津でお義父さんが料理する姿を見つめております。

「よっと……出来た」

クレープ生地を丸く焼いて、お義父さんは器用に焼いた肉を挟んでキールに渡しますぞ。

「とりあえずは完成かな?」

「これがクレープか」

「本当は甘いんだけど、材料が足りないからそれで我慢して」

「わかったぜ」

キールがホットクレープを食べますぞ。

クレープ生地に、バイオプラント産のトマトの様な実を挟んだフレッシュな一品ですな。

「んー……味は良いけど微妙ー」

「キールくんは甘い方が好きだもんね。今度は甘いのを作ってあげるから我慢して」

「良いよ良いよ。兄ちゃんの料理はどれもウメーから」

「そう? また機会があったら甘いクレープを作ってあげるからね」

「楽しみだぜ! でも、これって葉っぱで肉を包んだ食い物と何処が違うんだ?」

「そう言われると厳しい所だね」

と、お義父さんは苦笑いをしておりましたぞ。

併用で行っていたスープをお義父さんは客に披露しております。

ホッと一息着いたのか客は落ちつきを取り戻した様ですぞ。

「みんな行き渡ったかな?」

お義父さんが落ちついて談笑をしている客たちに近づいて行きます。

「それで、一体何があったの? 君達はこの国の人達じゃないよね?」

「その……実は、私達は隣国の者でして……最近豊かになっていると言われているメルロマルクに食べ物の買い出しに来たんです」

「そうなんだ?」

「はい。我が国では飢饉と革命運動が重なり、税は安くなったのですが、食料生産がまだ……」

「しかも税を下げたはずの勝利した革命軍が、公約を破って税を上げまして、国は荒れ、むしろ悪くなる一方で……」

なんとも……だからこんなにやせ細っていたのですな。

どこの世界でも人を騙す輩はいるようです。

テレビなどで眺める政治の様な話ですぞ。

「これじゃあ革命をするだけ無駄だったとみんな嘆いていて……弓の勇者様が革命軍にいたのにどうしてこんな事態に……このままじゃ何処かの国が弱っている私達の国に攻めてくるかもしれない……でも、飢饉で生活ができないんですよ」

「え? 樹……じゃない。弓の勇者様が革命に参加したんですか?」

「はい。名を隠していたそうですが後になって判明した事実で、結構有名ですよ」

「なるほどなぁ……ちょっと待ってて」

お義父さんが俺達の方へやってきましたぞ。

「樹がどうやら革命に加担した様だけど……未来の世界でもそうなの?」

「聞いた事がありませんな」

「そうなの? 俺達が関わった所為で変わったのかな?」

「それ以前に樹はこんなに有名ではありませんでしたぞ」

「……誰かが広めている? この場合、メルロマルクとか三勇教か」

無難な所でそうでしょうな。

錬がおらず、俺達が聖人として行動している訳ですから自然とそうなるのでしょう。