軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

時間遡行

「聞きますぞ」

シルトヴェルトの使者……確か亜人が主体の国でしたな。

メルロマルクとは長年敵対関係にあるという話を聞いた事があります。

それにしても話ですか。

どのような話でしょうか? 私だって未来の全てを知っている訳ではありませぬ。

欠落している記憶も多く、聞かねば判断は出来ませんな。

「はい。槍の勇者様も是非お聞きください。どうか盾の勇者様共々我が国へ来てくださるようお願いいたします」

彼の話はこうですぞ。

この使者は四聖勇者召喚を聞きつけ、近隣に来ていたシルトヴェルトの使者であり……メルロマルクで迫害されるお義父さんを迎えに来たそうですぞ。

「って話なんだけど……Lv上げも少しは捗っているし、近々国を出るなら良いんじゃないかと思うんだけどどうかな? Lvもそれなりにあるらしいし……」

「うーむ……」

本来はメルロマルクで活動してきた私達ですが、他の国に行くのは悪い選択ではありませんな。

ですが、俺にはフィーロたんの飼い主になるという夢がありますぞ。

おそらく、お義父さんがフィーロたんを購入したのはメルロマルクの奴隷商から……。

今日孵るフィロリアル様からフィーロたんが生まれないのならもっと粘る必要があるのですぞ。

「槍の勇者様の意見を聞いてからと盾の勇者様もおっしゃっているのです。どうか……」

「わかりましたぞ」

確かにこの国はお義父さんには厳しいでしょう。

ですが、俺はこの国でやらねばならない事が多すぎますぞ。

「じゃあ……」

「お義父さん、名残惜しいですがシルトヴェルトでの活躍を期待してますぞ」

俺の言葉にお義父さんは納得したように頷く。

「……そうだね。いつまでも元康くんに甘えていられないもんね。良い機会だから行くよ」

「では盾の勇者様」

「うん。シルトヴェルトへ行く話、受けさせてもらえるかな」

「はい! 槍の勇者様! ありがとうございます」

「なんの、これも一期一会ですぞ」

「クロちゃんはー……」

「グア?」

宿屋の扉の前から室内を覗きこんでいるクロちゃんにお義父さんが手を振ってますぞ。

「元康くんと一緒の方がいいよね」

「……グア!」

何度か迷ったように俺とお義父さんを見比べた後、クロちゃんは頷きました。

そして……シルトヴェルトの使者が用意した馬車がやってきて、お義父さんは乗り込みます。

「お金は大丈夫ですかな?」

「問題ありません。盾の勇者様が必要とする金銭は私達が提供させていただきます」

使者も丁寧な口調で俺の問いに返してくれますぞ。

「元康くん、今までありがとう。君もシルトヴェルトの方へ来たら挨拶に来てよ。歓迎するから」

「わかりましたぞ。私も目的を達成したらすぐにでもお義父さんの元へ馳せ参じますぞ」

「う、うん。元康くんのお陰で俺、気が狂いそうになったのを助けてもらったんだ。だから……」

お義父さんは深く頷いて、走り出す馬車から身を乗り出しつつ手を振って言いました。

「ありがとうー! 大変な世界だけど、俺頑張るよー! 必ず恩を返すからねー!」

「また会いましょうぞー!」

俺とクロちゃんは手を振って、お義父さんを送り出しました。

未来の出来事を思うと、お義父さんはこの国で戦い続けるよりは幸せに、良い条件で戦えるでしょうな。

さあ! 俺にはまだ仕事がありますぞ!

フィーロたんのごしゅじんさまになるという使命があるのです。

それから二日後の事でした。

「もとー……クロもっと走りたいー」

クロちゃんが天使の姿になって一緒に新たなフィロリアル様達の育成を手伝ってくれるようになりました。

ただ、クロちゃんが安全な所にいると言う戦いをするのだと高Lvの狩り場は難しいですな。

足が速いので、既にメルロマルクじゃいけない所は無くなりつつある所ですが。

馬車の購入を視野に入れますかな。

「今日も新しい卵買うのー?」

「そうですぞ」

「もう群れが作れるよー」

「まだですぞ」

フィロリアル様が全部で七匹以上はいますな。

でも天使になったのはクロちゃんを筆頭に四名……まだまだ足りませぬぞー!

「卵買ったら走って、魔物倒してあそぼー!」

「そうですな! 盗賊を倒すのを忘れてはなりませぬぞ」

後は、様子を見て他国へ行ってクロちゃん達のクラスアップをさせるのですぞ。

などと考えていたその時――視界に剣、槍、弓、盾……四つのアイコンが出てきました。

そして、その内の一つである盾が赤く点灯した。

「もと――」

ピタリとクロちゃんが……いや、世界が灰色になって止まりましたぞ。

「え?」

俺はクロちゃんに手を伸ばしますぞ。

コチンコチンに……固まっているかのようです。

次の瞬間。

槍がカタカタと震え始め、視界にアナログの時計が出現して長針が逆方向に巻き戻り始めました。

「おお……」

視線を前に向けるとローブを着た男達が何やらこちらに向って唖然としていた。

「なんだ?」

「あれ?」

このフレーズ……聞き覚えがありますぞ。

「ここは?」

錬が城の魔法使いに向かって話しかけている。

辺りを見渡すと、見覚えのある召喚された当日の光景……三度目の姿がそのまま映し出されていました。

「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」

「「「はい?」」」

お義父さんと錬と樹が一緒に寸分違わぬ状況で言いましたぞ。

……どうなっているのでしょう。

また俺は召喚された瞬間に戻っている様ですぞ。

状況も全く変わらない。

育てていたクロちゃんは……きっと卵に戻ってしまったのでしょうね。

あ……でも前回思い出せなかった事が蘇って来ましたぞ。

武器の強化方法などです。

うん、前よりもお義父さん達を強くできるでしょうな。

しかし……何故戻ってしまったのでしょうか?

思い当たる節がありませんな。

とはいえ試してみるのが一番でしょう。

「樹くん」

「なんですか? ってあなたはなんで僕の名前を知って――」

「お義父さんをハメた恨み! ブリューナクⅩ!」

「え……? ぐは――!?」

俺は槍に力を込めて樹にスキルを放ちました。

勇者と言えど所詮Lv1の樹では避ける間もなく塵となった。

「な、何を――」

お義父さんが絶句してますな。

ご安心を! この元康、何があろうともお義父さんには危害を加えませんぞ!

今度は弓のアイコンが赤く点灯しました。

またもやカタカタという音が響き、時間が巻き戻っていきます。

「おお……」

視線を前に向けるとローブを着た男達がこちらに向って唖然としていた。

二回目である。

「なんだ?」

「あれ?」

先ほど仕留めたはずの樹が事態が飲み込めずに辺りを見渡しております。

これは、間違いないでしょうな。

念の為確認をします。所謂ついでという奴です。

「錬くん」

「ん? なんだ?」

「流星槍Ⅹ!」

「うわっ!」

そんな間抜けな声と共に錬の全身に風穴を開けました。

今度は剣のアイコンが赤く点灯。

直後、先程と同じ現象の発生を確認。

「おお……」

視線を前に向けるとローブを着た男達がこちらに向って唖然としていた。

三回目である。

「なんだ?」

「あれ?」

やはり……どうやらこの龍刻の長針は――勇者が死ぬことで召喚された時間に巻き戻す効果があるようですぞ。

これが能力、時間遡行……そして専用効果の分岐する世界と言う事ですか。

しかも巻き戻りに体の意識が慣れてきたお陰で大分思い出せてきました。

おそらくはあの赤く点灯したアイコンは死んでしまったという合図なのでしょう。

つまり、俺と別れたお義父さんは何かが原因で死んでしまったという事になります。

この元康、一生の不覚。

忠義を尽くすべき存在の危機に立ち会う事もできぬとは!

どうやら俺がやらねばならない、フィーロたんと出会う為にしなきゃいけない事は、状況的に見てお義父さんを守る事のようです。

幸いにしてループの仕方は判明しました。

この元康が関わる事によって状況が変化するというのなら、より良い未来を手繰り寄せて見せますぞ。