軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

将軍様……

北へ向う道中で立ち寄った町での事。

「あ? 商業通行手形だと?」

町へ入ろうとした時、検問所の様な場所で町の見張りらしき人物に領主からの通行税と商業税を請求されたのでリユート村発行の商業通行手形を見せたのだが……。

「そんなものは受け付けん! さっさと払え!」

「ですが」

ラフタリアの交渉にも見張りは応じず、金の請求ばかり。

俺も前に出て交渉しようとしたのだけど、見張りは一歩も引かなかった。

「強情な奴だ!」

一触即発な程、見張りは俺達に向けていきり立っていた。

うーむ……ここまで強く出るには何か理由があるな。

この世界で行商を始めて幾つか学んだ事がある。

一つは脅迫、力による威圧を行うことで無理を通したり、弱みを握って高めに買わせる事。これは舐めた相手に効く手段。

次に交渉、相手と話をしながらノリで下げたり上げたりを行うことで人間関係を循環させる。敵意の無い相手に効く。

この二つが効かない相手となると、考えられる理由は……。

「ここの領主はとんでもない奴みたいだな」

ふと、町の方を見ながら呟く。すると見張りの奴の表情が若干変化が生まれる。

「領主様の悪口を言うな! 不敬罪に処すぞ」

なるほどな。これは上が問題を抱えているパターンだ。この場合、脅迫も交渉も意味が無い。

あっちは引くに引けないのだ。引いてしまえば自分が処罰されてしまう。

それでも下げさせる方法といったら騒ぎを起こすか、その領主が出るまで問題を起こすしかない。

けど……そこまでのリスクを払うメリットが俺にはない。

「わかったよ。お前も苦労しているな」

俺が言われた金額を見張りに渡す。

すると見張りの奴、肩透かしを食らったように呆けた。

「ああ……それなら良いんだ」

そして見張りはポツリと耳元で答える。

「すまない……」

「しょうがないさ」

クズ王の管轄かな? この国も腐った領主というのがいるのだろう。

荷車に満載した食料を叩き売ろうかと思ったが、売り上げに税がかかるので売るのはやめておいた。

そして、宿を取る。近隣と比べて遥かに高い。

この町……殆どの場所に税が掛かっているのか、日用品から食料、武器防具、細工品、挙句の果てに宿代まで、なにもかもが割高だ。

住み辛いな。

商業も衰退傾向にあって、市場も活気が無い。

相当重い税金が掛けられているに違いない。

「何処の村であの食料を買ってくれるか、情報を集めてくる」

「分かりました」

「はーい! ごしゅじんさまーおみやげ待ってるねー」

「あれだけ食料があってまだ欲しいのか!」

フィーロの奴、ここの物価が高いというのに土産を要求するとは……。

宿の室内にラフタリアと人型になっているフィーロをおいて俺は酒場の方に顔を出した。

ちなみに盾をブックシールドに変えて、ラフな格好で酒場に入る。

そこで見覚えのある、遭いたくない奴を見かけた。

「……のようです」

弓を持っているというのに何故か剣を腰に差し、格好も地味で質の悪い装備をしている。

しかも俺のブックシールドに似た様な、偽装ができる小さな弓だ。

初対面だったら手甲と勘違いするな。

そして仲間なのか取り巻きの一人に目立つ色の鎧を着せて、自分はその影に隠れている。そんな感じだ。

そう、弓の勇者である樹が酒場の隅で何やら話し合いをしている。

こっちに気付いていないようだ。

何を話しているのか……近づける範囲まで行って聞き耳を立ててみよう。

「ここの領主は……」

どうやら仲間達とここの領主の悪名について情報を収集していたみたいだ。

奴等の話によると、領主の奴、私腹を肥やすために国の方針以上に税を引き上げ、近隣の商人から賄賂を受け取り、用心棒を雇って異議を唱えるものには厳罰に処しているとか。

これまたありきたりなダメ領主の話だな。

「これは少し、懲らしめてあげなくてはいけませんね」

おおっと!

樹の台詞に危うく足を滑らして転びかけた。

まず何処からツッコミを入れたら良いものか……。

自分の正体を意味も無く隠して、何がしたいのかは置いて置くとして、何処の将軍だ、お前は。

世直しの旅でもしたつもりになっているのだろうか。

噂を聞く限り、弓の勇者が何かした、という話は聞かない。

結果論だけなら俺も神鳥の聖人とか言われているから人の事は言えない。だが俺の場合、盾の勇者という悪名があるからな。未だに正体がバレると警戒されるので、最近では勝手に勘違いしてくれる聖人でごまかしている。

少なくとも、俺の知る範囲で弓の勇者である樹が経歴を隠す理由が思い浮かばない。

これは例の……国の依頼って奴か?

だが、樹は情報が少なすぎる。

後で弓の勇者が解決させた、という情報すら流れてこない。

意図的に隠しているのか……?

「では皆さん、行きましょう」

話を終えた樹達は酒場を後にして夜の町に消えていった。

……明日にはこの町の領主は降ろされているな。

たぶん、領主の屋敷で一暴れした後、部下である仲間が樹の正体を明かして説教するとかそんな所だろう。

クズ王の耳に入って、ここの領主は別の奴に変わるとか安易な結末が予想できる。

俺の世界の時代劇で世直しの旅に出るご老公みたいな感じで。

……馬鹿じゃないのか?

関わり合いになるのも面倒だ。

俺は当初の目的である食料の売却先の情報を軽く探して、その日は宿に戻った。

フィーロへの土産? そんなもん、こんな物価の高い街で買う訳ないだろ。

当然土産を持ってこなかった俺に対してフィーロは何か言っていたが、俺は魔法書を読み解いて、その日は終わった。

そのおかげで魔法を一つ覚えた。

魔法屋のばあさんが言っていた通り、補助回復系が多いのは盾の勇者だからだろうな……。

翌朝。

俺の予想通り、国から雇われた冒険者がこの町を密かに視察し、領主は失脚したという話が町にもたらされた。

何か町の往来のど真ん中で、美人の女の子と何やら世間話をしている樹達を見かけた。

「本当に、ありがとうございました」

「いえいえ、なんて事はありませんよ。これは秘密ですよ」

秘密ですよ、じゃねーよ!

うん。

疑惑が確信に変わった。

樹の噂がなんで出てこないか分かったぞ。

コイツ、自身を隠し、目立たないけど実は凄いんですよって思っているタイプだ。

それを実感して喜ぶというのは、ちょっと趣味が悪い。

あいつは馬鹿だ。

自己顕示欲を満たす為だけに自分の正体を隠していやがる。

でなければ、こんな目立つ所で立ち話なんて普通しないだろ。

少なくとも俺の様に負い目がある、という訳がないのだけはわかった。

大方、あの女性も税の代わりに連れ去られそうになっていた、病気で床に伏せっている爺さんの娘とかそんな所だろう。

馬鹿馬鹿しい。俺達は足早にその町を後にした。

それから半日ほど進んだ隣国の国境付近の村での事。

昨日売れなかった馬車の食料を売り出すと見る見る売れた。飢饉のあった地域に入ったらしい。

ただ、何かこの村の住人じゃないっぽい奴が多い。

服装とか、なんていうのだろう。この国と微妙に異なる。

「なあ。お前等……」

隣国の圧政を敷く悪い王が退治されたとか噂を聞く地域だったはずなのだが。

その辺りの連中が行商に来ているのか?

彼等は俺の馬車を覗くと、鬼気迫る勢いで商談を持ち掛けてきた。

何か金じゃなくて物々交換で買おうとしている。薬草は良いけど材木とか……木工品とか渡されてもな。

俺は馬車を降りて、そいつ等から事情を尋ねる。

「金の方が助かるんだが」

藁の束とか紐とか炭とか渡されても、こっちは大量に在庫を抱えている分、処分に困る。

大量の薬草は薬にすれば良いから買い取るが。

「すいません。何分、売るものが殆どなくて……」

見ると、なんともやせ細っていて、今にも死にそうに見える。

「……どうせもらい物だ。少しだけ炊き出しをするから食っていけ」

しょうがないので大きめの鍋を村の連中から借りる。

村の連中も飢えで苦しんでいたのもあって、快く協力してくれる。

生モノ故に腐る危険がある。もらってまだ4日ほどだけど。

まあ俺は腐敗防止の技能を取得しているので、普通よりは腐りづらいが。

「ありがとうございます!」

みんな貪るように振舞った鍋を食べきる。

その間に、どうしてこんな事になっているのかを尋ねた。

なんでも圧政を敷く王は倒されたまではよかったのだという。

税も軽くなり、人々の生活が少しだけ楽になった。

けれど、それも直ぐに元に戻ってしまった。

なんとレジスタンスだった連中が今度は税を引き上げたのだと言う。

「なんでだ? せっかく悪い王を倒したんだろ?」

「……その、国の運営となると金が必要になり、戦力の減少を抑える為に税の引き上げが起こりまして」

なるほど、別に圧政を敷いていた悪い王、ではなく、国を守る為に軍事力を最低限確保しようとしていた訳か。

民なくして国ではないというが、民を守れなくては国ではない、とも言えるのか……。

そんな状況で王様の悪い噂だけを集めていたら、そりゃあ退治されるかもしれないな。

王様の気分なんて知った事ではないが、悪い王として処分された王様に妙な親近感を覚える。

王とかって、悪い事だと分かっていてもやらなきゃいけない事もあるだろうし。

ま、この国のクズ王は、最初から馬鹿で悪だけど。

「頭が変わっただけで生活が出来ません。ですからどうにか金になるものを持ってきて、こうして少しでも裕福なメルロマルク国に来ています」

「王様がかわいそうー! 本当はみんなのことを一番に考えてたのにねー。今おなかが空いてるのはだれのせいなんだろうねー?」

「黙れ鳥! 飼い主である俺の精神を疑われるだろうが!」

「はーい」

人の傷口を抉る様に毒を吐いたフィーロを叱る。

最近こいつは妙な知恵を付けて来たのか、口が悪くなってきた。

「一体誰に似たんだ……」

ボソッと呟くとラフタリアがこっちを微妙な表情で見ている。

「なんだ?」

「いえ、なんでもありません……」

フィーロはああ言っているが、あの樹がレジスタンスに加担したんだ。根からの善人では無かったのかもな。

ともあれ、こいつ等は密入国して闇米とかを買いに来ている感じか?

そういえば食べ物の物価がこの辺りじゃ急上昇しているようだし。そのお陰で稼げてはいるけど。

確か、樹が……将軍様がこの辺りの世直しをしているんだよな。

アフターサービス位しておけよな……。

その場で自分の正義感を満足させているだけになっているぞ!

「このままじゃ何処かの国が弱っている私達の国に攻めてくるかもしれない……でも、飢饉で生活ができないんですよ」

「なるほどなぁ……」

波の影響なのか、各地で飢饉が頻発しているのかもしれない。

「しょうがないな」

俺は改造したバイオプラントの種をそいつ等のリーダーらしい奴に一個渡す。

「これは?」

「植えたら直ぐに育つ、国の南方の地で問題を起こした植物の種を特殊な技術で改造した物だ。おそらく大丈夫だろうが管理には気をつけろよ。下手に扱うと危険な代物でもある」

「は、はぁ……」

「また近々、この辺りを通る。その時にでも礼を寄越せ」

3台あった荷車の2台が完全に売り切れたのでオマケで種を渡し、その場を後にした。

次にこの近隣に来たとき、熱烈な歓迎をされるのは別の話か。

俺の正体も完全にばれていたし、その小さな隣国も飢饉から脱して住民は食べるに困らなくなったらしい。

尚、ここで腐るほど大量に薬草を手に入れたので、東の地方で疫病が流行していると聞き、俺達はそっちに売りに行く事にした。