軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 盾の勇者のバレンタイン【7】

時間になったので、何食わぬ顔で馬車を引いてきたヒヨちゃんの馬車に、ラフタリアと一緒に乗り込み出発した。

ちょっと遠出の予定だ。

チョコレートの買い付け相手との本格的な交渉をする。

もちろん、買い付け相手はチョコ農家だ。

どんな農家だよと何度も思うがな。

今、村にあるチョコの調達は商売系の奴から斡旋してもらったチョコ農家から購入しているのだが、もう少し安めに売ってくれそうな農家があるので、そっちへ向かう。

少しでも安く、それでいてクオリティの高いチョコの調達が課題としてあるからな。

というのも、そのチョコ農家と言うのが義賊の実家らしいのだ。

だから家族のコネで安く売ってくれる……とか。

ただ、その時の会話を思い出すと微妙に引っかかる事を言っていた。

確か……。

「盾の勇者様、そういやバレンタインとかはどうするんですか?」

「バレンタイン? そういや商人共がそんな話をしていたな。この世界にもあるのか?」

「はい。俺の実家がチョコ農家だし、色々と援助してもらっているから助けになるかと思って……」

「お前の実家がチョコ農家!?」

……チョコ農家。

凄い言葉だ。チョコレート作りをする家柄なのか?

その場合、パティシエって言うんじゃないのか?

いや、パティシエは菓子職人の事か。

となるとチョコレートを専門で作っている組合か何かの事だろう。

と、その時は流していたが、村に着いてチョコレートが実る木があるのだろうと結論付けた。

……それにしても、作っている奴等が糖尿病になりそうな農家だよな。

「俺、チョコ農家の仕事が嫌で冒険者業に憧れて家から飛び出して……盗賊に身を落としてしまったんですよ」

へー……よくある展開というか、夢見て挫折した典型みたいな過去をしてるんだな。

実家に戻って家業を継ぐんだとか言ってたが、チョコ農家を継ぐというのはどうなんだ?

それはそれで楽しそうだとか、ちょっと思ってしまった。

「最近じゃ手紙で実家とやり取りしてて、盾の勇者様がチョコが欲しいなら買ってくれると良いかな? って、斡旋も出来るぜ?」

「ふむ……考えておく」

「そんで……俺の親父を……」

と、義賊は呟きかけて視線を逸らした。

「出来れば妹と母さんだけと交渉をしてください。この書状をもっていけば応じてくれると思います!」

「あ、ああ……」

そうして俺は義賊からチョコ農家の紹介状をもらった訳だ。

今のシーズンはチョコの需要が上がっているから高めなんだ。

かといって、チョコレートなんて長期保存するメリットは俺の村には無い。

オフシーズンに購入して魔法で冷凍させておけばいいかもしれないけど、その場合は来年になるだろう。

元々去年は波の影響で不作だったらしいし、今年は高騰傾向にあるとか。

で……チョコ農家があるのは過去のメルロマルクの国土から僅かに離れた寒い方の地だ。

余り温暖な地域でチョコレートの木とかがあったら溶けそうだもんな……。

今は二月だし、寒い時期に取れるのも、なんだかんだで考えられている。

「なんか甘い匂いがしてきましたね」

「そうだな」

馬車で移動していくと、徐々に甘ったるい匂いが漂い始めた。

チョコレートの匂いだけではなく、単純に甘い匂いだ。

あまり馴染みの無い匂いだな。

現実世界でもこんな風に匂ってくる場所はそう無いだろう。

あれだ。もしかしたらお菓子を製造している工場とかではこんな匂いがするんだろうか。

尚、これまでの道でもバレンタイン需要で市場にはチョコレートの販売がかなり行われているのに気付いた。

この世界、イベント好きだな。

……考えてみれば発祥は勇者が広めた事になるんだよな?

宗教的催しにもなってるのか?

一家庭が、必ずチョコを購入するとかあったら、そりゃあ需要もあるし風習も根付くな。

アクセサリー商の系列店舗もチョコレートアクセサリーとか売ってた。

食い物で着飾るとはどうなんだ?

そもそも食べ物で遊ぶなよ……。

とは思うが、そんだけ活性化した市場なんだろう。

「それでー……チョコを売ってくださる農家は何処なんですか?」

「ん? ああ、ちょっと待ってくれ」

ラフタリアに尋ねられて俺は義賊の紹介状に書かれた地図を確認する。

「あっちだな」

チョコ農家が大量にある……チョコレートの木の群生地帯を俺達は進んでいく。

これだけで俺は複雑な気持ちになる。

チョコレートの木の実物を見てしまった。

バナナみたいな実り方で板チョコレートが実っている。

ファンタジーな光景だ。いや、どちらかといえば童話か?

パンの木とも形状が違うんだな。

俺の村のパンの木はクレープの木の様なウツボカズラみたいな部位は無い。

単純に根から吸い取った栄養だけで実るっぽい。

パンの実の先には種の様なジャムの部分があって、そこを埋めると数日で新しく木が生える。

とんだモンスターツリーだよな。

食糧問題が一挙に解消できる。

問題は……ラトの調査で判明してるが土壌へのダメージがかなりあるって事か。

しっかり管理しないとあっという間に連作障害と枯れた大地に成りかねない。

この辺りはデューンとルーモ種の連中に任せて頑張ってもらっている。

最悪、伐採して寝かせる土地を確保してる所だ。

元がバイオプラントだから種さえあれば数日でどうにかなるしな。

で、チョコレートの木は幹にチョコレートがべったりと付着してた。

なんでこんな付着してるんだ? と幹に近づくと、理解できる。

幹の部分に小型の昆虫型の魔物が引っ付いて死んでいた。

おそらく、クレープの木と似た構造部分がここなのだ。

やはり虫の養分も吸い取っているんだろうか?

気持ち悪い木だな……。

「ナオフミ様。なんかチョコレート以外の木もあるみたいですよ?」

ラフタリアが指差した先を見ると、飴っぽい木やマシュマロっぽい木があるのに気づく。

スイーツランドかここは!

「と、とにかく……チョコ農家に行くぞ」

チョコ農家も繁忙期なのか必死に実ったチョコを集めて出荷作業をしてる。

俺が見てたチョコの木にも農家の連中がやってきてチョコをもいでいた。

なので、ついでに聞いてみる。

「なあ」

「はい?」

俺が盾の勇者だって事は知らない様子のチョコ農家が忙しい中話しかけられてムッとした表情で振り返る。

「この農家はどう行けばいいかわかるか?」

「ああ、ロウ坊のとこ?」

なんか忙しい中話しかけてきたって顔だったチョコ農家が同情の目を俺に向けてくる。

なんだ? なんか問題でもあるのか?

それなら義賊に制裁を加えるのだが……。

「それなら一度町を突っ切ってから、東へずーっと道なりに行った先にあるよ。出来ればロウ坊の母親と妹さんとだけ話をするといい。あそこも困ってるだろうからみんな心配してたんだ」

「はぁ……」

なんだろう……粗悪品とか売りつけられそうな空気だな。

「あそこは……質は良いんだけどねー……」

俺の考えを察したのか教えてくれる。

というか仕事を中断して良いのか? 同業者の連中がこっちを睨んでんぞ?

ムッとして近づいてくる奴等は、話しかけられた奴が東の方を指差すとなんか理解した様子で頷いてる。

……凄く不安になってきた。

「なんなら案内しようか?」

「いや、忙しいだろうからそこまで手を煩わせるつもりはない」

「そうかい? じゃあ他に気になる事はあるかい?」

「何か隠してんなら教えろ」

「それはー……行ってみればわかる。これ以上は答えたくないなぁ……こちらも村八分とかにしてる訳じゃないんだけどね」

隠してる訳じゃないのか……だが、これじゃあ購入意欲が減るぞ。

「他には?」

「チョコレートは一度収穫した後、次に実るのはいつになるんだ?」

「この時期は実るのが早いから一月後、そんときは白いチョコが実る。で、時期が過ぎると四ヶ月後だね」

白いチョコ……こりゃあホワイトデーもあるな。

覚悟しておこう。

本来は四ヶ月周期で、バレンタイン近くなると成長が早まるのか。

やっぱ俺の所の木とは異なるな。

パンの木にしろクレープの木にしろ、年中実っている。

土台の違い……か?

元々がどんなモノなんだろうか?

「チョコレートモンスターが出現したぞー!」

なんて話をしてるとヘドロみたいなチョコレート型の魔物が現れた。