軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 盾の勇者のバレンタイン【5】

「そういやアトラがいないな」

「アトラちゃんはフォウルくんと一緒に居ますよ。ナオフミ様が今日は邪魔だから捕まえておいてくれと言ったじゃないですか」

そういやそうだった。

精霊であるアトラを掴む事の出来る手袋のお陰でフォウルはアトラに触れるようになった。

暖が取れるアクセサリーで寒さもある程度、耐えられるようになって、多少は動けるようになっているし。

あの騒がしい小悪魔であるアトラを捕まえておいてくれるんだから万々歳だな。

さすがは俺の弟分だ。

「ああ、尚文様。ご機嫌麗しゅうございます」

アトラがフォウルに捕まえられて、やってきた。

なんか俺に向かって手を伸ばしてる。

そんなにも兄と一緒に居るのが嫌か?

「兄貴、今日は何やってたんだ?」

「ん? 昼前は、用事で出かけたろ。その後は次の商売のために試作品だ」

「なんだこの黒いの。食べられるのか?」

どうやらフォウルは知らないらしい。

まあフォウルの人生にチョコレートが関わったとは思えないが。

「これはチョコレートだ。お菓子だが……実になるって事は果物……?」

とりあえず、疑問は忘れてフォウルにチョコについて詳しく説明した。

好きな異性に渡す時期限定の通過儀礼的なイベントって感じで。

ちなみに、なぜかアトラの方は知っていた。

この二人の情報網にどんな差があるんだろうか。

「尚文様、私、バレンタインは力を入れます」

「ああ、はいはい。フォウルはー……」

村じゃ地味にモテる方だけどフォウルはアトラ以外はあんまり興味無い感じだ。

意味の無いイベントになりそうだな。

「アトラからチョコがもらえると良いな」

とまあ、叶わない夢を呟く。

「あ、ああ……」

ん? なんかフォウルの反応が鈍いな。

クリスマスプレゼントをもらった時は大層喜んでいたんだが。

その後はみんなでおやつを食べ、村の料理班はチョコ作りをしたい連中へチョコの加工方法を教えていた。

何故か魔物やフィロリアル辺りも覚えに行っているようだったけどさ。

メルティも村で販売用のチョコレートの調達が出来るのを理解するなり、納得してフィーロと一緒に出かけて行った。

こんな感じで日々は過ぎた。

「ほら、ガエリオン。おはよう、おはようよ? ほら」

「キュアアア……キュアアア」

そんな日々の中で谷子がガエリオンと面と向かって何かしているのに気づいた。

ちょうど俺は次の行商に出る準備と気分転換の散歩を一人でしている所だった。

「何やってんだ?」

「ん? ガエリオンにそろそろ言葉を教えようと思ってんの」

「へー」

「ガエリオンは特別な竜なんでしょ?」

「ああ、竜帝らしいな」

竜帝の欠片の大半が、現在、ガエリオンに宿っている。

ガエリオンは既にドラゴンの王様のような状態だ。

クソ女神戦でもそれなりに活躍したし、限界突破の方法も親ガエリオンが行う。

ま、俺からしたら締りの無い残念竜帝な訳だが。

「キュア……」

なんか困った様子で子ガエリオンが俺の方に視線を送る。

『汝が人語を解する魔物を嫌うからな』

と念話で親ガエリオンが呟いた。

え? 子ガエリオンって俺が喋る魔物が好みじゃないから喋らないのか?

「ラフー?」

「お? ラフちゃんじゃないか」

サディナと一緒にサルベージの旅に出ていたラフちゃんがちょうどやってきて俺の上に駆けあがって乗る。

「キュア!」

ガエリオンも張り合うように俺に飛びついた。

「わ、コラ!」

「ラフー?」

「キュア?」

で、二匹揃って首を傾げる。

あ、喧嘩する訳じゃないのね。どっかのお喋り鳥とラフ種は異なる扱いか。

「こら、ガエリオン。こっちへ来て言葉の勉強!」

谷子が増せた親みたいな様子でガエリオンを叱りつける。

だが、ガエリオンはどこ吹く風とでも言うかのように俺に引っ付いて離れようとしない。

「まったく! そんなんじゃ立派なドラゴンになれないよ?」

もう世界一のドラゴンだろ。

とは言わないでおこう。今のガエリオンは確かに子竜の姿な訳で。

「そう言えばラフちゃんはバレンタインとかは参加するのか?」

魔物共も何やらチョコレートに興味津津な感じだった、ラフちゃんもこう言うイベントに参加するのだろうか?

「ラフー?」

「キュアー?」

この二匹が首を傾げると可愛げがあるな。

敢えて喋らない二匹の魔物……ま、片方は念話と言うかもう一つの人格になるとペラペラ喋るけどさ。

二匹とも甘えん坊なのは変わらない。

俺は二匹の頭を撫でて降ろす。

「魔物ってチョコレートは毒とかじゃないのか?」

こう言うのって谷子やラトが詳しいだろ。

そのラトも谷子と一緒にフィールドワークに出ることが増えて、村にはめったにいなくなってしまったがな。

「種類によるってあのババアは言ってた。ドラゴンはチョコは平気」

「ふーん……ラフ種はー……わかるはずもないか」

多分、大丈夫だとは思う。

現実のタヌキとか犬にやったら毒でやばいけど、ラフちゃんは大丈夫だろ。

同様にキールもチョコは問題ないみたいだし、この辺りは適当だな。

「盾の勇者はチョコが好きなの?」

谷子に聞かれて俺は考え込む。

んー……別に好きか嫌いかと言われれば微妙。

「ぶっちゃけ、あんな油の何処が良いのかよくわからんとは思う時はあるな。配っていた事はあるが……元々俺の世界じゃチョコレートって薬のカテゴリーだったらしいしな」

ああ、だから適当に作っているのに妙に品質が良いんだ。

調合の補正と料理の補正が一緒に掛ってるのだろう。

「油って……ヘヘヘヘヘヘヘ」

谷子がなんか嫌な感じにケタケタ笑う。

こう……口の端を片方上げて目が三日月型にしてニヤケルような笑いって言うのか?

気持ち悪い笑い方をするなぁ。

なんか段々人間離れした存在になってきた気がする。

前はもっとピュアだったろ。段々と悪い意味でおかしくなってきてる。

こりゃあ一度、何処かで矯正させないと大変だぞー……。

何が原因だ?

「盾の勇者って面白いね」

「ここで面白いと言われてもな。というかお前……なんか変じゃないか?」

カースシリーズでも侵されてきているんじゃないのか?

一応、谷子は鞭の眷属器の所持者として活躍している。

だから精神を蝕む呪いの武器とかを出していると人格が歪みかねない。

「そう? ババアと一緒に魔物達と会話してたから表情間違えたかな?」

「キュア……キュア」

子ガエリオンも谷子に向かって鳴く、すると谷子はショックを受けたように下を向いた。

「どうしたんだ?」

「ガエリオンにも同じ事言われた……少し練習してみる」

長いフィールドワークで感覚がずれたとか……なのか?

ラトの方も不安だな。

村に来るなり変な行動で驚かされそう。

突然リンボーダンスしたり、ウホウホとかで会話されたら俺じゃ翻訳できない。

伝説の武器も魔物の言葉までは翻訳してくれない。

「少し、ラトと一緒に仕事を休んで村で人間性を学んだほうが良さそうだな」

「うん。打診してみる。剣の勇者がウザいけど」

うわぁ……ウザいとか言われてんのか。

哀れだな、錬。

コイツがバレンタインにチョコをくれるか、かなり怪しいぞ。

ちなみにラトの方が重症だった。

原始人に退化してたぞ。顔は良いのに……残念な研究者だ。

当面のフィールドワークはやめさせる方向で、村に勤務させる事になった。

僅か数ヶ月でなんでこうなったんだ。

どちらかと言えば常識人だと思っていたんだが、やはり研究となると人が変わるんだろうか。

きっと谷子は定期的に村へ戻ってきていたから軽症で済んだんだろう。

「じゃあ俺は出発前に行く所があるから……」

「そ? じゃあね。じゃあガエリオン、こっちで言葉の勉強」

「キュアー……」

嫌だけど渋々と言った感じでガエリオンは谷子と一緒に発音の練習をしていたのだった。