軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クレープの木

「後はキールか」

「兄ちゃん。俺、早くあの木の傍に行きたいから早くしてくれよ」

なんだ、その態度は。

自分が叱られる立場だと理解しているのか?

いや、まあ俺も加害者だから強くは言えないが、少しイラっと来たぞ。

ちなみにあの木とは、キールが村の一角で一つの種を植えて育てている木の事だ。

その種はみるみる大きくなって、なんか実を宿していたんだよなぁ。

朝だったからあんまり見てなかったけど、甘い匂いがした気がする。

って言うか、村の中にパンが実る木があった。

なんだよアレ。ファンタジーも大概にしろ、あんな物食って腹壊したらどうするんだ、と呆れながら文句を言ったら、おかしくなった俺が作った物だと言われた。

ああもう……。

多分、キールも何か作ってもらったんだろう。

「じゃあ、罰としてその木を伐採するか」

「兄ちゃん! 例えそれが兄ちゃんであっても、絶対に許さないぞ!」

「どうせ増えるだろ」

「兄ちゃんが増えないって言ってた」

「パンの木は増えるらしいぞ?」

ぐるるるるとキールはけるべろす形態に変身して唸る。

まあ、縛られているから、動けないだろうし、俺の奴隷紋で黙らせられるとは思うけど。

ふむ……さすがにここまで嫌がる事をやるのは忍びない。

反省云々以上の罰を与えるのは虐待だ。

「じゃあキール」

「なんだ兄ちゃん?」

「これからお前は常時女の格好をしろ。ふんどしは禁止。イミアが用意した服を絶対に着用だ」

「えええええええええー!?」

思いっきりイヤそうな声でキールは騒ぐ。

コレ位なら虐待にはならないだろう。

「それで行商だ。ノルマはフィーロのファンと同数までファンを稼ぐ事、それ以下ならずっと女の格好だ」

「わ、わかったよ兄ちゃん」

「こんな所で良いか?」

「些か甘いと思います」

そうか?

フィーロと同数ってかなり無理難題吹っかけたつもりなんだが。

正直、フィーロやアトラと比べると難易度は高いぞ。

でも、キールって地味に行商の成績良いんだよな。

やらせれば達成できるのかもしれない。

「でもそれがナオフミ様ですよね」

下手に口出しすると自爆しそうだから合わせておこう。

実際自分に非があるのに強く叱りつけると言うのは抵抗がある。

もちろん、赤の他人とかなら痛くも無いけど、腐っても配下にそこまでやる程、非情になれない。

ああ、肩身が狭い。

「盾の神様、どうしたのですか?」

「ッ!」

これだよ。

元々研究所で治療中だった奴隷共は、どいつもこいつも俺の事を神様と呼びやがる。

その所為で言われる度に精神ダメージが……。

「あのな、出来れば盾の勇者って呼んでくれ。もしくは他の連中みたいに盾の兄ちゃんでも良い」

「何を言うのですか。偉大なる盾の神様、そんな恐れ多い事私達は出来ません」

ぐ……さわやかな笑顔が俺に刺さる。

神様って言われるのってこんなにも痛い事だったんだな。

「次はナオフミ様が自身を罰する……という事になるんでしょうか?」

「かもな」

……そうだなぁ。

身に覚えがないけどかなりの騒ぎにしてしまった自覚がある。

「もう少し守銭奴的な行動を自粛する。後な、あんまり自虐的な事を決めさせないでほしいんだが」

「確かにそうですね。すいません。ナオフミ様には波で戦うと言う物がありますから程々にしましょうと、みんなに言っておきます」

「助かる」

なんか俺だけ罰せられないのは不公平な気もするけど、おかしくなった俺に付いて行った奴で罰を与えられているのはアトラとフィーロとキールしかいないから……良いか。

「しっかし」

俺は村を見渡す。

人口と魔物が大々的に増えた所為でかなり大きくなってしまった。

もはや町に成りそうな勢いだ。

それはラフタリアも同じなのか、言葉を続ける。

「発展しましたね」

「ああ……」

研究所で治療中だった奴隷も治療出来て、結果的には……良かったと自分を慰めて正当化してやる。

「よし! 今日もLv上げに出かけて、波に備えるぞ」

「はい」

でー……フィーロが元康とデートなので足代わりの魔物で誰か付いて来てくれないかと注文すると、改造されたラフ種とフィロリアルを押し出してフィーロの配下一号が名乗り出た。

出来れば断りたかったが、なんか無言の圧力を受けて連れていく羽目に……。

特に何か問題のある行動をした訳じゃない。

ただ……何だろう。奴の俺を見る目がすっごく気になる。

「なあラフタリア」

「なんですか?」

「クエ」

遠くで休んでいる配下一号を指差してラフタリアに聞いてみる。

「アイツがなんか変なんだが知らないか?」

「そうですね……村のフィロリアルは全員、ナオフミ様の方へ付いて行ってしまったので……」

「そうなのか?」

「はい。最初は私達の方に付き従っていたのですけど、あの子が攫われてしまってからは……どうもそれから様子がおかしくて」

「クエ……」

俺の方を情熱的な目で見るな。

発情中のフィーロを彷彿とさせてなんかイヤだ。

「戦ったのか?」

「はい……七番目の塔の時に捕えました」

「ふむ……」

発情してるのか?

「クエエエ」

魔物を倒した配下一号は褒めて褒めてと近づいて来て頭を下げる。

お前喋れるだろ。

「ああ、はいはい」

適当に撫でまわしているのだけど、何故か首元を執拗に撫でさせようとしてくる。

あれ? コイツって引き際が上手いんじゃなかったっけ?

なんか少し変わったな。

「クエェエエエエ……」

凄く気持ちよさそうだな。

まあ、肌触りは悪くないから撫でてやっても良いけど、コイツはぶりっ子だからあんまり好きじゃない。

で、適当なタイミングで手放すと凄く名残惜しそうに鳴く。

何なんだよ。

と言う謎は翌日の昼に判明した。

元康と一日デートを終えたフィーロが眠そうに話しかけてきた時だ。

「なあフィーロ」

「んー……なーに?」

「お前の配下一号の態度がおかしいぞ。お前の座を狙っているんじゃないのか?」

「どういう事ー?」

物陰から俺を凝視する配下一号を俺は指差す。

「ああ、ヒヨちゃん? 大丈夫だよーアレはねーごしゅじんさまにメロメロなだけー」

「…………」

ヒヨちゃんと言うのかアイツ。

本名は忘れたな。俺も聞いたような気もするけど。

っておい。

「……待て、凄く不吉な事を言ってるぞ」

「そうです。なんであの子がメロメロなんですか?」

「えっとねーフィーロが飛べるようになった後ね。ごしゅじんさまがね。ヒヨちゃんを攫って来いって言うから連れてったの、そしたらね。ごしゅじんさま、ヒヨちゃんに――」

「な、何をしたんですか?」

ラフタリアの質問に俺も頷く。

あのぶりっ子があそこまで執着するようになったってある意味気になる。

「……凄く羨ましかったの、フィーロもやってって言ったら「お前は既にワシに忠誠を誓ってるからダメだし、コイツにはこれが効くからしただけ」って」

「何をしたんですか!」

フィーロの説明じゃわからん!

しょうがない。遺憾だがアトラに聞いてみよう。

フォウルに邪魔されてイラっとしてるアトラの所へ向かう。

「あ、お前! なんでお前の方から来るんだよ!」

フォウルは俺が近付くとイヤそうに声を出す。

昨日は……まあごっつい抱き枕だったな。

ラフタリアに無理言ってラフ種を招きたい。

「悪いな。少し気になってアトラに聞きたい事があるんだ」

「まあ、何でしょう。尚文様? 今なら何でも致しますわ」

今でなくてもお前は何でもするだろ、言わなくても。

と言うのは流して……。

「フィーロの配下のヒヨだったか。アイツに俺は何をした?」

「毛づくろいですわ」

「毛づくろい?」

「はい。それはもう……捕えられて敵対意識丸出しのヒヨちゃんが、忠誠を誓う程の、激しくも優しい、濃密な毛づくろいをしたお陰で、フィロリアルさん達は尚文様の陣営に加わりました」

「濃密?」

「はい。ヒヨちゃんは何度、気持ちのよい声を上げたのか、私も覚えきれませんわ」

「ナオフミ様!?」

「身に覚えがないわ!」

え? これって比喩か?

配下一号に、俺、強姦とかしたの?

「フィーロ、俺は配下一号に襲いかかったのか?」

「子作り? 違うよー」

違うらしい。

と言うか子作り言うな。

「フィーロもあんな風に撫でて欲しいー……羨ましかったなぁ……近いと言うと、今日のお昼にごしゅじんさまが小さいお姉ちゃんを撫でる時みたいな感じな凄い奴ー、恍惚とする位なでるのー」

「ナオフミ様? いつの間に……」

ギク……。

実は隠れてラフ種を撫でていた。

あの肌触り好きなんだよな。

でも撫でるとラフタリアが不機嫌になるから隠れてやってたのに。

何故浮気みたいな扱いになっているんだ。

とにかく、ああいう感じで撫でまくって……忠誠を誓わせたのか。

誓う意味がわからない。

「見ていたなら見ていたと言え! と言うか、ラフ種がダメならラフタリア! 尻尾を撫でさせろ」

何言ってんだ俺? セクハラになってるぞ。

逆ギレって奴だな。

「え……あ……う。わ、わかりました。私の目の入る範囲でなら少しなら良いですよラフ種を撫でるの」

やはり尻尾を撫でられるよりは良いか。

何が幸いするかわからないな。

「じゃあさ、どうしたら配下一号は大人しくなる?」

「しばらくしたら大丈夫だと思うよー? ヒヨちゃん。ごしゅじんさまの事、フィーロの好きとは違うってさっきも言ってた」

「ああ、そう」

「でも時々撫でてって」

はぁ……フィロリアルって変なの多いな。

やっぱりラフ種だな。

アイツ等は俗っぽくないし。

いや、まだ判明していないだけかもしれないが。

というか俺、アイツ等気に入り過ぎだろ。

「あ、キール君の所でクレープの木が実ったって、ごしゅじんさま食べにいこ」

「まてまて、クレープの木ってなんだ?」

パンの木は聞いたって……キールを罰する時に言ってた奴か。

それも俺が作ったんだよなぁ。

「尚文様、私も」

「お前はダメだ」

「うう……」

アトラは本当に危険な奴だ。

俺が何をしても肯定する。

こう言うのに従っているとダメになるのを俺は知っている。

出来れば、俺に依存しないように、自分と言う考えを持ってほしい。

俺はラフタリアに昔こう言った。

『気を付けないといけないのは自分と仲間、そして客観的視点だな』

そう、客観的視点だ。

赤の他人から見て、俺達は立派に見えるよう、自身を研ぎ澄まして行かないといけない。

常に甘えていて、今の自分を認めてくれる相手よりも、俺は理想を追って努力する相手と共に居たい。

更に俺は言葉を続けた。

『勇者の仲間だからって何をしても良いとか思っちゃダメだ。迷惑を掛けないようにしよう』

波の後の世界なんて俺はどうでも良いと思ってはいる。

だけどラフタリアはこの世界に残るのだから、居場所を確保しないといけない。

俺が居なくなっても、ラフタリアが幸せに過ごせる世界を作る。

ここの奴隷達は、なんだかんだで俺に依存してしまっていると言う問題が浮上した。

これからは第一にラフタリア達に頼らせて、それでも解決しないのなら俺が出てくればいい。

……あれ? それって俺がおかしくなる前と大して変わらないんじゃ……?

ああ、そのラフタリアを補佐するはずだったキールが暴走した所為じゃねえか。

これはキール以外でやる気のある奴に頑張ってもらうしかないな。

「ラフタリア」

「なんですか?」

「元この村出身の奴で、キールみたいにリーダーシップがある奴を補佐として育成しておいてくれ。出来れば俺に懐き過ぎていない奴を」

「……はい」

キールは最初こそ敵意剥き出しだったが、俺に懐き過ぎている。

最初なんか、元々アイツが住んでいた家の残骸をぶっ壊したのに、良くもまあここまで懐いたもんだ。

食べ物効果もそうだが、元々人付き合いが上手いタイプなんだ。

それでいてフィーロと同じく、あまり深く考える方では無く、本能で動いているタイプだから頭脳派が欲しい。

ヒヨがそれだったんだが、フィーロが上司だからそれも難しい。

と、話をしながら俺達は――絶句した。

「な、なんだこれは!」

フィーロがクレープの木とか言っていたけど、本当にクレープが木になっている!

御丁寧に花っぽいのが生地として丸く咲き、それから真ん中に実が宿ってくるくると巻きあがって、形を成して実っている。

虫とか寄って来そうだけど、大丈夫なのか?

と思ったら、虫を集める蜜の入った壺みたいなのが木の各所にある。

なんとなく覗きこむと……壺の中は食虫植物のように、中で虫を栄養に変えているようだ。

この虫から出た養分で実るのか?

うえ……気持ち悪い木だな……。

「あ、兄ちゃん!」

クレープをもいでいるキールが俺に話しかけてきた。

手には俺達用と思わしきクレープが握られている。

「兄ちゃんも食べるか?」

「いや……勘弁してくれ」

「そっか? すっげー美味いぜ? 兄ちゃんが自作するよりは味が落ちるけど」

「呪いの所為で料理も出来なくなってるけどな」

「だったら今はこの村で一番美味いデザートだ!」

キールが自信満々で答える。

やはりコイツにサブリーダーは無理だな。

行動が突飛過ぎる。

「キール君。村の子が言ってましたけど、この木から離れないと言うのは本当ですか?」

「そうだぜ! いつ泥棒が来るかわからねえじゃん!」

村に帰ってからキールはずっとクレープの木の傍らで寝てる?

どんだけ大事なんだよ。

「程々にな」

「わかったぜ兄ちゃん。あ、フィーロちゃんもクレープ欲しいのか?」

「うん!」

クレープを美味しそうに頬張るフィーロ。

それ……虫を栄養にして実ったクレープだろ? 食欲減退するんだけど……とは言わないでおこう。

フィーロって虫とか平然と食えるし。

ちなみにキールはクレープの木の隣に犬小屋を設置して住み始めたので、雨風が凌げるようにバイオプラントで仮設住宅を建ててやった。

キール……お前は大事な家を守ると言ってただろ。蔑にされた家が泣いてるぞ。

それとも家=クレープの木になったのか? 冗談はやめてくれ。

その後もキールはクレープの木の世話に尽力を注ぎ、キールの愛情に答えるかのようにクレープの木も成長して行った。

後に村の名産品となるクレープウッド伝説、誕生の瞬間であった……なんてな。

「冗談も大概にしてほしいな」

「そうですね」

ラフタリアがラフ種を横目に見ながら答える。

わかってるよ。俺も似たような真似したって事は。