軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異能力者

「この世界に来る前から備えている能力?」

んん?

樹は何を言っているんだ?

というか、アレだ。

初めて錬達と話した時のVRMMO談義に似ている気がする。

あの時、錬は普通のMMOを古臭いと言って俺達を困惑させた。

それに近い何かを今の樹には感じる。

「なあ、錬。お前は樹が何を言っているかわかるか?」

「悪い。色々な可能性があるからよくわからない」

「ふむ」

俺も錬と同じく何通りか憶測はあるが、とりあえず今の樹には嘘が吐けないから聞いてみた方が早いだろう。

今の樹は思った事をそのまま言うしな。

きっと今回の能力者云々も聞けば答えるはず。

「あのな樹、その能力って言うのは何なんだ? 伝説の武器の力の事を言っているのか?」

「違いますよ。確かに伝説の武器にもそう言った技能があるかもしれませんが、僕が言っているのは全くの別物に決まっているではありませんか」

「はぁ……詳しく話せ。お前の世界で言う所の……能力とは何なんだ?」

ラフタリアやサディナには手で黙るように指示を出して樹の話を聞く。

「何って、尚文さんは理解しているのではありませんか? それとも尚文さんが住んでいた所は能力管理が行き届いていない田舎だったのですか?」

おや、質問に質問が返ってきた。

カースの所為で言われた事はなんでも答えるはずなんだがな。

実際今も無表情で淡々と話している。

となると、樹にとって『能力』というのは極々当たり前の事なんじゃないか?

カースに侵食された思考でも、空気ってどうやって吸うのか? みたいな事までは起こらない。

空気の吸い方を他人に聞いたら、こんな反応が返ってくるかもな。

「だから、その能力を始まりから話せ」

「わかりました。そもそも能力とは僕の世界で言う所の二十五年ほど前の事、様々な災害や事件を起こしたり解決したりする者を研究した結果に判明した、人それぞれ所持する力の総称です。他にPSIや超能力とも言われる事がありますね」

……ええっと。

つまりは、樹の世界って。

「錬、意味はわかるか? いや、お前の世界はVRMMOがあるんだ。異能力なんて概念があったか?」

「そんな物がある訳無いだろ」

いやー……SFの世界の住人である錬なら理解できるはずだ。

まあどちらかと言えば現代ファンタジーとか伝奇モノに該当するのか?

というか樹の世界って近未来で異能力のある世界だったのかよ。

この世界に来る前の俺だったら異能バトルモノか! みたいな感じで興奮していたかもしれない。

問題はその異能力とやらが存在する世界で樹がどんな立場で、どんな能力を持っているか、か。

「で? 樹、お前のいた世界では能力はどんな風に扱われているんだ?」

「まずは能力を所持する者だけが集まる学校が必ず一つの県に一つは絶対にあります。まあ普通は何個もありますけどね」

「はぁ……」

能力者ね。

今一ピンとこないなぁ。

「能力はS~Fランクに分けられ、学校ではその能力によってクラス分けされます。もちろん学校に依りますけどね」

「お前の世界には能力者しかいないのか?」

「いいえ? そう言う訳では無く、無能力者もいますよ。むしろ無能力者の方が多いくらいです」

「それで、お前は?」

「その中で僕はEクラスの『命中』の能力者でした」

命中……ああ、だから樹は弓の勇者なのか?

どうなんだ? 勇者として選定される基準とかあったんだろうか?

よくわからん。

「その命中とはどんな能力なんだ? 一応確認させてくれ」

「狙い撃ちをすれば普通の人よりも高精度で当てる事が出来る能力です。その気になればスナイパーのように遠くから狙撃できますよ?」

「ああ、そう」

そう言えば樹って攻撃を外した事が無かったな。

だから誘拐疑惑事件の時、メルティが居るにも関わらず俺に向かって矢を放ったのか。

絶対の自信がなければ攻撃なんてしてくるはずもないよな。

正義馬鹿で人質諸共とかでは無かったのか。

となるとあの時の行動に対する認識が少し変わるな。

そもそも、今思えば樹がした発言の中に違和感こそ無かったが、ソレを思わせるモノがあった気もする。

しかし『命中』か。

聞いた限り随分と性能が高い様に思える。

S~Fとしているし、下から数えた方が早いというのは何故なんだ?

「どうしてそんなに性能が高そうなのに、ランクが低いんだ?」

「それは僕が上位互換である『必中』の能力者では無いのでEクラスだったんです」

「必中だとどうなるんだ?」

「尚文さんに矢を放った際に妨害されてしまいましたが、必中では放った矢の全てが絶対に命中します」

「へぇ……」

「後ろを向いていて、前に放っても矢が尚文さんの所へ飛んで行くでしょうね」

ホーミングかよ!

そりゃあ異能力だな!

「野球選手とかに多い能力ですね。もちろん、規制されますけど」

「つまり樹は下位互換能力だから超能力の学校で下に見られていたと言う事か」

「尚文、ちょっと言い過ぎだと思うぞ」

「そうです。ですから僕はイヤな現実から逃げ出すためにゲームに熱中していました」

樹も堂々と答えてるし、嫌味も通じねえ。

つまり樹の正義馬鹿……ヒーロー願望は優秀な能力者であるという歪んだ思想から生まれたものだったのか。

「元々僕は自分が特別だと小学生の時の能力判定を受けて天狗になっていました。中学生になって能力者は専門の学校に入るのですが……上には上が居る事を知って絶望していたのです。それは高校に入っても変わりませんでした」

一般人も多いけれど、異能力を所持して生まれた樹は小学校低学年の時、異能力所持と言う事で自信を育んだ。

それが能力者を集めた学校へ行く事になり、自分の能力が大した事では無いと言う現実に打ちのめされて、ゲームに逃げ始めた訳か。

確かにマンガやラノベの主人公って基本的に優秀な能力を持っているよな。

しかし、実際に異能力が存在する社会だとピンからキリまである訳だから、下から数えた方が早い奴には地獄かもしれない。

つまり正義にこだわるのは、サブカルチャーよろしく、異能力を工夫して悪を倒すその姿を自分と重ねていたんだな。

「話はわかった。それで? 俺が乗り物酔いや酒を飲んでも酔わないのは能力だと?」

「はい。尚文さんの能力は『酔い無効』だと推測されますね。下位互換に『酔い耐性』と言う物があります、こっちはFランクの能力です」

「酔い無効は?」

「将来性からC~Dランクでしょうね。重力系の超能力犯罪者相手には条件付きでSですが」

「ふーん。その能力の将来性って何なんだ?」

「よく考えてみてください。乗り物酔いをしないと言う事は、重力による過負荷、三半規管が異常に強く、重力の影響を一定化する能力でもあるのですよ? 宇宙パイロットには必須と言われる能力でした。名称も『重力攻撃無効』に変えるか物議を醸していた能力です。まだ解明が済んでいない能力でした」

そんな万能能力なのか?

いやいや、俺はあくまで普通の乗り物酔いをしない体質だし、大なり小なり俺の世界にもいた。

この世界でも酒で酔わないだけだろ?

とは思うが、段々怪しくはなってきている。

元康が食って失神したルコルの実をバクバク食ってなんともないし、フィーロの最高速に乗っていてもなんともない。

他の連中は慣れていてもきついと言うからには厳しいんだろうな。

「後は尚文さんはダブルスキルの疑いがありますね」

「字面から複数の能力を持つとかそんな感じか?」

「ええ」

「他に何が?」

もはや、聞き流しながらで良いだろ。

樹の世界は近未来で超能力が幅を利かせていると。

で、樹が俺や錬、元康を内心馬鹿にしていたのは無能力者と思っていたと考えれば辻褄が合う。

それにしても錬がVRの存在する世界で、樹が異能力ときたか。

元康はなんだろうか。

女の子と話をする時、要所要所で選択肢が出現するとか、そんな世界か?

まあ、元康はいいよ。あんな状態だ。聞いてもまともな答えが返ってくるとは思えない。

「おそらく『アニマルフレンズ』と言う動物に自然と好かれる能力だと思います。獣医に向いていますよ」

「ああそう」

「ごしゅじんさまー頭撫でてー」

「兄ちゃんご飯ー、遊んでー」

「盾の勇者様、その……」

フィーロ、ふんどし犬、イミアが俺に群がってる。

……どうだかなー。

そういや小さい頃から動物には自然と好かれていたような気がする。

山を歩けば野鳥が俺の肩に止まるし、よく遭遇した。

一度は熊に遭遇して死んだふりで難を逃れたっけ。顔を舐められたけどさ。

後からその方法ではいけないと知った。

小学生の頃、近所の大型犬が背中に乗せてくれたし。

いや、自分から乗れって俺の前で座っていたんだぞ。ふざけて跨ったらそのまま走り出してさ。

木の棒を持って格闘ゲームのアイヌ少女の真似とかしたし。

この世界の魔物って気性が荒いから、あんまり懐く事は無いけど……。

村の魔物達は妙に親しげだよな。盾の力だろ。

うん。樹の話はあんまり信用できないな。

そもそも樹の世界での話だし、俺の世界にはそんな能力は無かった。

「まあ、樹の世界はそうなんだろうな」

樹がどう歪んでいるのか垣間見た気がした。

俺は無理矢理この話題を終わらせ、錬に目で樹達を追い出す様に指示を出し、ラフタリア達の方を向く。

「待たせたな」

「あの……弓の勇者と何のお話をしていたのですか? 能力とか内容はなんとなくわかりましたけど」

「ああ、樹の世界は一皮向けばこの世界と大して変わらないのが判明しただけだ」

「そんな事よりーナオフミちゃん。私と良い事しない?」

「しない。興味がない、出ていけ」

「もーナオフミちゃんったらー、そこが魅力的なのよね」

サディナは俺の拒絶をものともせず、ラフタリアをこれ見よがしに挑発してる。

あんまりそう言う事をしないで貰いたいんだけどな。

ラフタリアって色恋沙汰は本当に嫌っているし、世界が平和になるまでそう言うのは遠慮願いたいんだろう。

「サディナお姉さん! もう充分ですからナオフミ様から離れてください!」

「えー、さすがにお姉さんもこれは譲れないわー」

「良いから離れてください!」

「ああもう! とりあえずお前等うるさいからラフタリア以外は出ていけ!」

と、俺はラフタリアに誤解されない為に他の連中を追い出した。

「ああ、尚文様、ご無体な、そしてお兄様! 離れてください」

「ぶー、ごしゅじんさまのおうぼー」

「そうだぞ兄ちゃん! ご飯作ってよ」

アトラ、フィーロとふんどし犬がそれぞれ抗議するが知らんな。

扉を閉めてラフタリアとの再会を喜ぶとしよう。

「すまないな。騒がしくなってしまって」

「本当に、驚きの連続ですよ。まったく」

「そうだな」

ラフタリアを改めて見直す。

うん、所々、逞しくなっているような気がしたけれど、顔は前にあった時と変わらない。

「これで修業は終わったのか?」

「はい」

見ていなかったラフタリアのステータスを確認する。

Lvは……100だ。

もはや実質カンストするまで修業を繰り広げていたのか。

こりゃあ俺も追い付くために頑張らないとな。

「これからはずっといられます」

「それは助かる。なんだかんだで俺の手に余る事が多くてな。ラフタリアが居れば助かるだろう」

「ナオフミ様……頑張ります」

「頼りにしている」

なんだかんだでラフタリアとは付き合いが長いからな。俺のやりたい事を察して動いてくれる。

「当面の問題は……アトラ対策か?」

窓からアトラとサディナが覗きこんでいる。

フィーロも一緒だ。

……どうするか。なんだかんだで潜り込んできそう。

そもそもアトラは目が見えないのに窓を使う必要があるのか?

窓を使わなくても中を確認してきそうで怖い。

「ナオフミ様は拒んでいるのですよね」

「当たり前だろ? 懲りずに入ろうとするのはアトラだ」

「フォウルくんが止めてくれると思います」

「待て、サディナまで加わるとなると怪しい」

「そうですね……」

「と言う訳で、ラフタリア」

「な、なんですか?」

「今夜からお前が見張り役だ。任せたぞ」

「は、はい!」

なんかラフタリアが顔を赤くして頷いている。

おかしなことを言ったか?

まあ、風紀に厳しいラフタリアに任せておけばぐっすり眠れるだろう。

「じゃあこれから俺は朝の運動をしてから朝食を作るからラフタリアも付き合え」

「わかりました」

こうして俺達は日課である朝の運動に始まり、仕事を再開したのだった。