軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

正義の否定

ジャスティスボウ?

洗脳が解けて、理解してくれる?

他人がそんな簡単に同調してくれる訳ないだろ。

現に樹、お前は俺を理解しようともしていないじゃないか。

むしろ洗脳してるのはお前だ。

何がジャスティスボウだ。

「この弓はまだ僕では扱いきれないからとマルティ王女が僕の体が安定するまで、ここで力を蓄えていてほしいと言ったので休んでいたのですが、そうも言ってられないようですね」

なるほど……ここに来るまでの資料を流し読みした。

その中に重要な資料があったな。

そして、一つの結論に至る。

樹は……勇者と言う被験体として、ここであの短剣の媒体として眠らされていたんだ。

大方、ヴィッチに甘い言葉で囁かれて、怪しい武器の欠片か何かを弓に吸う様に頼まれ、出た弓を解析する。

で、便利だから樹を短剣の量産の為の媒体にして眠らせていたとかそんな所だろう。

それを伝説の武器の複製に応用したんだろ。

樹の視点で考えてみよう。

霊亀に負けて全てを失った所でヴィッチに唆されて新たな力であるカースシリーズが目覚める。

ロボットアニメで言う所の機体交換的な興奮状態のまま、弓の力が体に馴染むまで眠らされていたとか錯覚しているんだな。

どちらにしても、やはり樹もカースシリーズに侵食されていた。

まあ事件が始まった段階から気付いてはいたが。

「樹、一応教えてやる。その弓は正義なんて生易しい物じゃない。洗脳する力を持った禍々しい弓だ」

「違います! この弓は! まさしく正義なんです! でなければ僕の話を理解しなかったマルドが応じるはず無いじゃないですか!」

相手を主人公が訳のわからない論理で倒して、理解して貰っていく漫画やアニメを見た覚えがある。

一応筋が通っているように見えるけど、倒したら理解してくれる論理って別視点だとこうも歪に見えるんだな。

暴力に屈した程度で揺らぐ信念なんて最初から無いに等しい。

「さあ、みなさん! 僕と戦い! 何が正しいのかを理解してください!」

錬の時とは次元が違う。

錬はなんだかんだで自分が悪いと理解していたが、樹は違う。

自分の正義を何処までも愚直に信じて突き進んでいる。

七つの大罪で該当しそうな物というと傲慢……だが、微妙な線だ。

他にあると言うと虚飾? も、何か引っ掛かる。

これはアニメや漫画とかで独自解釈される八つ目の大罪とかかもしれない。

中二病になるけどな。

俺が見た事のある八つ目は二つ。

一つは正義。

行き過ぎた正義は何処までも冷酷で残酷だ。

どんな小さな罪でも決して許さず、死をもって償わせる。

もう一つは……狂信。

どこまでも自分の信じた事を突き進み、その先に破滅が待ち構えていたとしても辞さない。

あるいは、例に挙げた四つ全てが該当している可能性か。

元康がラストエンヴィースピアとか言っていたからな。

錬も暴食と強欲といった具合に複数のカースに侵食されていた。

今まで判明しているのは同時に二つだが、三つ四つができるかもしれない。

ともかく、正義なんておぞましい物を今回の事件で思い知らされた。

樹が導こうとしている正義とはどんな物かを垣間見た気がする。

「違います!」

とても大きな声でリーシアが樹の宣言に異を唱えた。

「イツキ様はナオフミさんを誤解しています!」

「リーシアさんですか、貴方も尚文に洗脳されてしまっているのですよ」

「イツキ様は言いましたよね。ナオフミさんが奴隷に重労働をさせて利益を吸い取っていると」

樹は不快そうな顔をしながら頷く。

「では何故、ナオフミさんの所で生活している方々は皆健康なのですか? 使い潰された奴隷から話を聞いたのですか? 死にそうなほど、酷い目に遭っている方と話をしたのですか?」

「そんな事知りません。ですがここに居た沢山の人達が言っていました」

「人伝ではありませんか! イツキ様自身がご確認なさったかと聞いているのです!」

なんだ? リーシアが普段よりも激しい剣幕で樹に詰問しようとしているような……。

少なくとも、こんなに怒っているリーシアは見た事が無い。

そもそもリーシアと言えば、ふぇええ、とか言って困っているか、びくびく怯えているかのどちらかだし。

「私はナオフミさんが村に奴隷の方々を連れてきて一から復興して行く様をずっと見てきました。ナオフミさんの所で働いている奴隷……亜人の方々はいつも楽しそうに、村を良くしようと尽力していました! 奴隷の身分に身を落とした方々をナオフミさんがどれだけ救ったのか、イツキ様は知っているのですか? それを……重労働させて利益を吸う? いい加減にしてください!」

「そうだ! あの村にいる子達の中で嫌々仕事をしている子なんて一人もいない!」

錬も便乗して樹の説得を始める。

谷子が妙に静かだなっと思っていたらガエリオンに「勇者ってみんなこんな風なの?」って聞いている。

今のガエリオンはキュアとしか喋らないと思うぞ?

「何を言おうと当人がハッキリと自白したのです。これは揺るぎようがありません!」

「自白? 奴隷をコキ使うって奴か? その通りだが?」

「……尚文の所の連中は違うだろ。あんな楽しげに仕事をする奴を奴隷と呼ぶのは厳しい」

む……違うのか?

だが社会的にも奴隷紋的にも奴隷というカテゴリーだと思うんだが。

「むしろナオフミさんこそが村の方々の奴隷かのように働かされているんですよ!」

「な……!」

「そうだ! 毎日夜遅くまで村や町に尽力しているんだぞ! 簡単な調合まで一人でやっているんだ! これではどっちが奴隷かわからない!」

「なんだとぅ……お前等、なんてことを言うんだ!」

今すぐリーシアの奴隷紋を作動させてやろうか!

俺は断じてアイツ等の奴隷では無い。

「尚文は、村の子達の親代わりだ!」

「ちげぇよ!」

何を勘違いしているんだ、こいつ等は!

というか、錬もリーシアも頭に血が上って何を言っているのかわからなくなっているんじゃないのか?

ん? 谷子が俺の脇腹を小突く。

「違うの? みんなお母さんみたいって慕ってるよ」

「違う! 俺は奴隷としてお前等をコキ使っている」

「そういうつもりだったんだ。全然出来てないよ」

「あのな……」

「ごしゅじんさまはねー口は悪いけどすっごく優しくて、叱る時は本当に悪い事をした時だけなんだよ?」

フィーロまで便乗を始めやがった。

悪い事をしていないのに叱る方がおかしいだろう。

何より士気に関わる。

昔、近所のコンビニの店長が性格悪いのか、店員がとっかえひっかえ変わっていた。

しかし、それから数年後、店長が変わってしばらくしたら、アルバイトの募集がパタリと無くなったのを見た事がある。

もちろん俺もバイト先で良い店長やエリアリーダーがいる店は自分の能力以上に働ける事を知った。

思考がズレたが、やる気のある連中の気力を無意味に下げる必要は無いとは思っているが、優しいかと言われると違うだろうと断言できる。

「断じて違う!」

「尚文様、私は信じております」

何を信じているんだ!

コイツ等……村の連中を含めて、後で説教だな。

「何を言おうと事実が物語っているのです! 尚文は悪と決まっています!」

樹も一歩も譲らないようだ。

だがリーシアは話を続ける。

「イツキ様? あなたは清廉潔白だとでも言うのですか? 私にはとてもそうは思えません」

「演技はいい加減にしてください。見ている方が吐き気がします。吐き気を催す邪悪が!」

樹が苦い表情をしながらリーシアを睨みつける。

すっげー罵倒だ。

それをお前が言うのかって話だ。

「確かに僕は罪を犯しました。大量の死者を出してしまった事は否定しようがないでしょうね」

「イツキ様……」

「ならば僕がすべきことはただ一つ。この世の悪を全て滅ぼし、そして僕も自らを滅しましょう。永遠に!」

「無理だな」

この世の悪を全てって、人がいる限り争いが無くならないのと同じように、世界が滅びない限り樹が自身を滅する時なんて来ない。

で、樹の基準だと俺や錬、元康も悪認定。

むしろ自分に頭を垂れない連中は全て悪という認識で間違いない。

要するに、樹の言う悪全てが滅びる時は、命の終わりだ。

「……僕の力はとてもちっぽけかもしれない。それでも僕は……僕はその理不尽を許すつもりはありません!」

樹がどこかの主人公みたいな事を叫びながら、弓を俺に向けて弦を引く。

すると矢が出現した。

「尚文! その理不尽を撃ち貫きます!」

風を切る音を立てて樹の放った矢が俺に向かって飛んできた。

フロートシールドを遮蔽物として移動させて受け止める。

「理不尽……ね」

それはこっちの台詞だけどな。

洗脳の弓の力で国を滅茶苦茶にしている奴が何を言っているのやら。

後は勇者を殺すなとかその辺りもそうだよな。

「……イツキ様、どうしてもご理解為さらないのですね」

リーシアが剣を前に出し、戦闘態勢に入る。

「イツキ様、私は貴方の正義を否定します。私の正義は貴方を認めません!」

「樹! 元に戻ってくれ! そんな呪われた力に身を任せていたら、その先は破滅しか残らない!」

「邪魔をしないでください!」

樹が弓を上に向けて引いた。

またも矢が放たれる。

軌道は……やっぱり俺。

今度は矢掴みで止める。

「シャイニングアロー!」

更に樹は弓を強く引くと、光り輝く矢が出現する。

発射までに時間が掛るという所か。

「イツキ様の考え、良くわかりました。私はイツキ様の敵として全力で戦わせていただきます!」