軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

集団心理

町の方へ行くと、遠くからでもわかる程の火が立ち上っていた。

人々は逃げまどい……ではなく、無事な連中は町はずれの現在メルティが住んでいる屋敷に立て籠っているようだ。

敷地に入ろうとしている正義ゾンビ共は俺や国の罵詈雑言を言いながらプラカードを掲げているように見える。

この正義洗脳されている奴の厄介な所は感染しているか一目で見分けづらい所にある。

相当のダメージを受けるとゾンビのように意識混濁したまま歩きまわるのだが、一見すると、暴徒にしか見えない。

暴走した異議申し立てにも見えるのが厄介な所だな。

囲むように作られた石垣を暴徒共は上ろうとするけれど、その度に風の魔法や兵士が上から槍で突いて落とすという段階で堪えている状況だ。

で、そんな火の手が上がる町の中で錬やフィーロが率先して暴徒共を攻撃して失神させている。

その隙に他の連中が洗脳された連中を縛り上げる。

「大丈夫か!?」

「あ、ごしゅじんさまー! あのねー」

「尚文、そっちはどうだった? 樹は見つかったか?」

「いや」

俺は村での出来事を簡潔に述べて、錬達を守るように洗脳された連中の前に立つ。

この洗脳状態の連中、狙う相手に優先順位があるようだ。

主に俺やメルティなど、ターゲットとなる相手を優先する。

「正義の為に死ね!」

昨日まで俺に向かって微笑んでいた商人が短剣片手に突っ込んでくる。

問答無用でエアストシールド、チェンジシールドのコンボのカウンターでマヒさせて放置した。

「お前等が守っている連中にはいないのか?」

「ああ、この子が大丈夫だって言ってる」

「あのね。なんかーわかるよ」

そうか、フィーロは野生の勘でわかると言う所か。

幸いにしてフィロリアル共もフィーロに協力して救助活動を続けている。

「で、これがその短剣なのか?」

「ああ」

俺は錬に向けて短剣を見せる。

もちろん、どんな短剣なのかを見て貰う為だ。

下手に盾に入れるのも危険だし、錬にコピーして貰うのが一番だろう。

危険な道具だが、コピーさせても変化させなければどうにか……出来るかもしれない。

「ちょっと持ってみろ」

「ああ」

錬が短剣を握りしめる。一瞬、錬の剣が光る。

「カースシリーズ……集団心理の短剣?」

集団心理と来た。

というかカースシリーズ?

七つの大罪以外にもあったのか。

なるほど、この短剣で切られると集団心理に汚染されて、何が正しいのか自分がわからなくなるという効果があるのか。

「待て……他にもコピーできそうだ」

錬が自らのステータス魔法を目で追っている。

「すまない。それ以上は、どうもよくわからない」

洗脳された連中を剣で倒しながら錬は答える。

「何か変な効果があるのか?」

「専用効果……洗脳解放、意志疎通、理解がある」

……すっげー怪しい。

錬もそれを理解しているのか、微妙な顔をしている。

「これが洗脳解放? 意志疎通? 理解と言えるか?」

「人々の心が一つになれば……って奴だろ?」

自分の思想に染め上げる短剣……って言えば良いんだろうか。

異を唱える者は敵であり、倒せば理解して仲間になってくれる。

ゲームじゃないんだぞ……。

気持ち悪い短剣だな。

「エクレールさんは何処ですか?」

リーシアが辺りを見渡して錬に尋ねる。

エクレール……女騎士だったか。

こう言う時こそああいう奴は役に立つだろ。戦う事しか出来ないからな。

「ああ、彼女は……」

錬が顔を曇らせた。

そして屋敷の方を指差す。

「屋敷で防衛ですか?」

「……おかしな連中の行動と言動にショックを受けたみたいなんだ」

「は?」

「どうしたら理解して貰える? とか、私の目指した正義はこんなモノでは無いと言って洗脳された連中に手がだせなくなってしまって」

ああ、女騎士は正義感が強いからな。

相手も正義を主張して、無理やりな暴論を振り回されたら怒りもするか。

「最初は怒っていただけだった。そんなモノは正義では無いって。だけど段々と、ここまで心を一つに攻めてくると言う事は、私は悪なのか? って自問自答して……」

「侵食受けてるだろ」

「守るためにやむなく攻撃を受けなくてはならない時があって……今は自らを縛って屋敷にいる」

まあ……なんて言うかああいうタイプってこういう事態に弱そうではある。

自分の正義が正しいと信じて揺らがないんだけど、意見のぶつかり合いを繰り返すうちにわからなくなる感じだ。

守るべき国民が洗脳されていても、一見すると見分けがつかないからなぁ。

これでゾンビみたいに露骨に操られてますって見せてくれれば良いんだろうが、相当追い込まれないとわからない。

下手をすれば味方のフリをしてるかもしれない。

長引けば疑心暗鬼で疑い合いを始める可能性がある。

ホント、厄介な洗脳だよ。

「奴隷や差別の無い、平等な世界を作るために、とか言いながら攻撃してくる奴等が多いから、きついのだと思う」

ま、言ってる事は一理あるもんな。

亜人と人間、両者が手を取り合って亜人優遇しているように見える国の方針に異を唱える。

洗脳されていると俺が言ったからと言っても、俺が洗脳していると返されたら水掛け論になる訳だし。

この場には洗脳を解いて助ける者がいなかったのだからしょうがないか。

平等? 差別の無い? 虫唾が走る気持ちの悪い台詞だ。

俺の世界だって本当の意味での平等を実行できた奴はいない。

優劣は何処にだって存在する。

生まれた時から生き物は優劣が存在するのに、そこで平等とは笑わせる。

平等で均等の取れた争いの無い世界を作るためにと、争わせる先導者がどれだけいると思っているんだ。

ま、錬を戦いでぶちのめしつつ、説教して説得した手前、やっている事は同じようなもんだ。

そもそも、平等とは何に対して使う言葉であるのだろうかとも思う。

少なくとも俺の知る平等とは全ての人間が平等に恩恵を受ける事ではない。

人間として等しく主張できる権利の事を指す言葉だ。

しかし、奴隷制度のある世界でそれを唱えた所で誰も賛同してはくれない。

俺の世界だって、奴隷制度が廃止されたのは近代になってからだぞ。

仮に賛同してくれたとしても、そいつには何か裏がある。

現に俺の世界の奴隷制度が廃止されたのだって、時代が変わって奴隷の必要が無くなったのも大きいと聞いた事がある。

どう考えても、この世界は安い労働力が必要だ。

現実的に考えて実現できない夢物語をほざいて暴れているガキにしか見えない。

それを三勇教と革命派貴族に利用されているだけだ。

「女騎士への説教は後回しだ。どうにか出来そうか?」

「数が多い。片っぱしから縛り上げているが時間が掛るだろうな」

「そうか……」

俺の連れてきた連中も一緒に戦闘を始めているが、それでも事態の収束には時間が掛りそうだ。

「ナオフミちゃーん」

……そういやサディナが居たんだった。

「あー……サディナ。ここに無限にわき出る洗脳された連中と、火を消す方法は無いか?」

「任せて! じゃあみんなー!」

サディナが銛を指揮棒みたいに掲げて振り始める。

人員がさっきよりも増えたお陰か高密度の魔力の凝縮を感じる。もはや大規模魔法だ。

ああ、コイツはなんて言うか、フィーロに匹敵する便利能力所持者だよなぁ。

ん? フィーロ?

「フィーロ、負けじとフィロリアル共を総動員して合唱魔法を使え!」

「はーい! ん、んん……」

喉を鳴らしたフィーロが歌を歌い始める。

それに合わせてフィロリアル達も囀りを開始した。

「ナオフミちゃん。洗脳されてない子達を避難させてねー」

「はいよ」

俺の指示を受けて、まともな連中は急いで退避させる。

前回のような状況にさせて堪まるか。

「待て!」

「我等の正義に賛同しろ!」

「盾の悪魔め!」

洗脳された連中はどいつも同じ事を言うな。

「錬!」

「任せろ! ハンドレッドソード!」

追いかけてくる連中を錬が剣を降り注がせる範囲攻撃で足止めさせる。

やっぱ攻撃出来る勇者って便利だよなぁ。

「「「タイダルウェーブ!」」」

「「「すいーとそんぐー!」」」

魔法で作られた巨大な津波が屋敷の前を牛耳っていた正義ゾンビ共を洗いながし、フィーロの唱えた合唱魔法を聞いた連中が白目を向いて倒れる。

多分、眠り効果のある合唱魔法だろう。

というかフィーロの歌はとうとう魔法にまで昇華されたか。

「とりあえずは鎮圧完了か?」

「いや、まだだ」

錬が町の奥の方を指差す。

すると出てくる出てくる。次々と洗脳された連中が。

どこにこんなに人が居たんだよ。

いや、まあ、パニックモノだと不自然に人が居たりするけどさ!

「……ここに事件の黒幕はいないだろうな」

こんな状況じゃ、村に来た魔法使いみたいな奴はいないだろ。

「いや、怪しい場所が一つある」

更に錬が町の広場の方を指差した。

ん? その近くでガエリオンらしい奴が火を吐いて応戦している。

背中には谷子が乗っているようだ。

「尚文、あの先に教会を建てただろ?」

「ああ」

「あの辺りが不自然に洗脳された連中が守りを固めているんだ。もう少ししたら行こうと思っていたのだけど、ついて来てくれないか」

「そうか!」

あそこに樹がいるかもしれない。ともすれば……。

「俺達は町の教会へ行ってくる。お前等は倒した連中を縛り上げるなり、何処かに閉じ込めるなりしてくれ」

「わかったわ。ナオフミちゃん」

ま、サディナは守りを任せておいた方が良い。

あまり戦力を割き過ぎないようにしないと危ない。

それに連戦で奴隷共も疲労の色が濃い。

いくらLvが高くなっても、怪我や疲労、空腹に強くなる訳じゃないからな。

「じゃあフィーロとフィロリアル共はガエリオンが戦っている所を目指していくぞ!」

「えー……ガエリオンの所へ行くのー?」

フィーロが露骨に嫌がる。

それは他のフィロリアル共も同じようだ。

「黙って付いてこい」

「はーい……」

「メルティは大丈夫なんだろうな?」

「うん。メルちゃん強いから大丈夫だよ」

「そうか、家を吹っ飛ばせる程だもんな」

武闘派な王女様か……創作物ではありがちだが、メルティも変わったな。

俺が原因なんだけどさ。

そんな事はどうでもいい。今は教会を目指そう。

フィーロの背中に乗って、颯爽と走り出す。

錬も一緒だ。

途中、洗脳された連中に遭遇したが、フィーロの速度に追いつけるものはいない。

俺の所のフィロリアルは優秀だからな。

フィーロとその配下一号以外は元康が育てた訳だけど。

アイツ、そのうちフィロリアルマスターとか言い出しそうだよな……。

言ったら何て文句を言おうか。