軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

厄災の波

村に着くと、丁度、波から溢れていた化け物たちが、まさに暴れだす瞬間だった。

駐在していた騎士と冒険者が辛うじて化け物たちと戦っているが、多勢に無勢……防衛線は決壊寸前だ。

「ラフタリアは村民の避難誘導をしろ」

「え、ナオフミ様は……?」

「俺は敵を引き付ける!」

防衛線に駆け出し、イナゴの群のような魔物に向けて盾を使って殴りかかる。

無論、金属を殴った音がしてダメージはまるで入っていない。

だが注意を引く位はできる。

これまでラフタリアとやっていた事と何も変わらない。

「グギ!」

イナゴのような小さな魔物が群を成して俺に向って襲い掛かる。他にハチ、グールと化け物の種類は決まっているようだ。

ガン! ガン! ガン!

蛮族の鎧のお陰か、それとも盾の効果か、相変わらずダメージは受けない。

「ゆ、勇者様?」

「ああ……お前等、俺が引きつけている間にサッサと体制を立て直せ!」

リユート村の連中は俺と顔なじみの奴も多い。

「は、はい!」

これ幸いにと、深手を負っていない奴まで下がり、防衛線が俺一人になった。

「おい……」

何を考えていやがる。

半ば呆れつつ、化け物たちは俺を倒そうと牙やハリ、爪で攻撃してくる。

ガキンガキンと音を立てているけれど、痛くも痒くもない。ただ、全身を這われる感覚は気持ち悪くてしょうがない。

化け物を殴りつける。

ガイン!

ったく、この世界の連中はどうしてこうも人任せなんだ?

厄災の波が始まって早々イラだってしょうがない。

「た、助け――!!」

世話になっていた宿屋の主人が後方で化け物に襲われそうになっている。

化け物の爪が宿屋の主人を貫こうとする瞬間、俺は咄嗟に叫んだ。

「エアストシールド!」

スキルを唱え、宿屋の主人を守る盾を呼び出した。

突然現れた盾に宿屋の主人は驚いていたが、俺の方を向く。

「早く逃げろ!」

「……あ、ありがとう」

腰が抜けていた主人は礼を言うと、家族と一緒にその場を去った。

「きゃああああああああああああああああ!」

絵に描いたような絹を裂くような悲鳴。

見ると逃げ遅れたらしき女性の方へ魔物が群を成して近づきつつある。

俺は射程圏内まで近づき、

「シールドプリズン!」

女性を守る四方の盾を呼び出した。

突然の盾の出現に、化け物たちはターゲットを俺に変更する。

そうだ。こっちにこい。狙いは俺だけで良い。

シールドプリズンの効果時間が切れる前に化け物を引きつれ、村の防衛線にまで戻る。

ガインガイン!

ぐっ……。

だんだんと圧し掛かる魔物が多くなって体が重くなってくる。

そこに降り注ぐ火の雨。

化け物の群れの中から外を見ると騎士団が到着し、魔法が使える連中が火の雨をこちらに向けて放っていた。

「おい! こっちには味方がいるんだぞ!」

俺だけだが。

あっという間に引火して燃え盛る化け物たち。

昆虫が多いからな、火の魔法で燃え盛っていく。

どうやら俺は物理防御力だけでなく、魔法防御力も高い様だな。

真紅に燃え盛る防衛線の中、味方の誤射とはなんだろうかと腹が立ちながら、俺はその戦場からツカツカと騎士団を睨みつけながら近づき、マントを靡かせ、炎を散らす。

「ふん、盾の勇者か……頑丈な奴だな」

騎士団の隊長らしき奴が俺を見るなり吐き捨てた。

そこに飛び出すように剣を振りかぶる影。

ガキンと音を立てて吐き捨てた奴は剣を抜いて鍔迫り合いになる。

「ナオフミ様に何をなさるのですか! 返答次第では許しませんよ!」

殺意を込めて、ラフタリアが言い放つ。

「盾の勇者の仲間か?」

「ええ、私はナオフミ様の剣! 無礼は許しません!」

「……亜人風情が騎士団に逆らうとでも言うつもりか?」

「守るべき民を蔑ろにして、味方であるはずのナオフミ様もろとも魔法で焼き払うような輩は、騎士であろうと許しません!」

「五体満足なのだから良いじゃないか」

「良くありません!」

ギリギリと鍔迫り合いを続けるラフタリアを騎士達は囲む。

「シールドプリズン!」

「な、貴様――」

鍔迫り合いの相手を盾の牢獄に閉じ込め、俺は多勢に無勢を働こうとした騎士達を睨む。

「……敵は波から這いずる化け物だろう。履き違えるな!」

俺の叱責に騎士団の連中は分が悪いように顔を逸らす。

「犯罪者の勇者が何をほざく」

「なら……俺は移動するから、残りはお前達だけで相手をするか?」

燃え盛る前線から化け物たちが我が者顔で蠢き、最前線にいる俺に襲い掛かる。

その全てを耐え切っている俺に、騎士達は青い顔をした。

仮にも俺は盾の勇者だ。コイツ等だけでは持つはずもあるまい。

「ラフタリア、避難誘導は済んだか?」

「いえ……まだです。もう少し掛かると思います」

「そうか、じゃあ早く避難させておけ」

「ですが……」

「味方に魔法をぶっ放されたが、痛くも痒くもない。ただ……俺が手も足も出ないと舐めた態度を取っているのなら……」

ラフタリアの肩を叩きながら、騎士団を睨みつける。

「……殺すぞ。どんな手段を使っても、最悪お前等を化け物のエサにして俺は逃げてもいいんだぞ」

俺の脅しが効いたのか騎士団の連中は息を呑んで魔法の詠唱を止める。

「さて、ラフタリア。戦いを始めるのは邪魔な奴等を逃がしてからだ。なに、敵はいっぱいいる。それからでいい」

思いのほか、耐えられるようだからな。これなら大丈夫そうだ。

「は、はい!」

指示に従い。ラフタリアは村の方へ駆け出す。

「くそ! 犯罪者の勇者風情が」

牢獄の効果時間が切れた途端、隊長らしき馬鹿が俺に怒鳴りつける。

「そうか、お前は……死ぬか?」

俺の背後に迫る化け物たち。

さすがに守ってもらわねば自分に降りかかるのを察したのか馬鹿は黙って下がる。

まったく、どいつもこいつも、碌な奴が居ない。

俺が守るしか能の無い盾の勇者じゃなかったらこんな奴等、誰が好き好んで助けてやるか。

その後、足止めが効いたお陰か波から溢れ出た化け物の処理はある程度完了した。

邪魔な連中の避難を終えたラフタリアが前線に復帰すると俺は攻撃に撃って出た。

騎士団の連中の援護を利用しつつ、空の亀裂が収まったのは数時間も後の事だ。

「ま、こんな所だろ」

「そうだな、今回のボスは楽勝だったな」

「ええ、これなら次の波も余裕ですね」

波の最前線で戦っていた勇者共が今回の一番のボスらしきキメラの死体を前に雑談交じりに話し合いを続けている。

民間人の避難を騎士団と冒険者に任せて何を言ってやがる……。

一ヶ月も経っているというのにゲーム気分の抜けない奴等だ。

注意するのも面倒な俺はそんなクソ勇者共を無視して、波を乗り切った事を安堵していた。

空は何時ものような色に戻っている。やがて夕日に染まるだろう。

これで最低一ヶ月は生き延びられる。

……ダメージを受けなかったのは、波がまだ弱いからだろう。次が耐えられるか正直分からない。

いずれ俺が耐えられなくなった時……どうなるのか。

「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」

本来は行きたくない。けど、俺には金がない。だから俺は引き上げる連中に付き添い。一緒に付いて行く。

確か、支度金と同等の金銭を一定期間毎にくれるはずだ。

銀貨500枚。今の俺には大金である。

「あ、あの……」

リユート村の連中が俺を見るなり話しかけてくる。

「なんだ?」

「ありがとうございました。あなたが居なかったら、みんな助かっていなかったと思います」

「なるようになっただろ」

「いいえ」

別の奴が俺の返答を拒む。

「あなたが居たから、私たちはこうして生き残る事が出来たんです」

「そう思うなら勝手に思っていろ」

「「「はい!」」」

村の連中は俺に頭を下げて帰っていった。

自分達の村の損耗は激しい。これからの復興を考えると大変だろう。

命を助けて貰ったら礼を言うだけ、普段は俺を蔑むくせに……現金な連中だ。

「ナオフミ様」

長い戦いの末、泥と汗まみれになったラフタリアが笑顔で駆け寄ってくる。

「やりましたね。みんな感謝してますよ」

「……そうだな」

「これで、私の様な方が増えなくてすみます。ナオフミ様のお陰です!」

「……ああ」

戦後の高揚からか、それとも自身の出自と重ねてなのか、ラフタリアは涙ぐんでいる。

「私も……頑張りました」

「ああ、お前は良く頑張ったな」

ラフタリアの頭を撫でて、俺は褒めた。

そうだ。ラフタリアは俺の指示通りちゃんと動き、戦った。

それは正しく評価しなくてはいけない。

「一杯化け物を倒しました」

「ああ、助かったよ」

「えへへ」

嬉しそうに笑うラフタリアに少々不快な思いをしつつ、俺達は城へと向うのだった。

「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」

陽も落ち、夜になってから城で開かれた大規模な宴に王様が高らかに宣言した。

ちなみに死傷者は前回どれ程なのか知らないが、今回の死傷者は一桁に収まる程度だったらしい。

……誰の活躍かなんて自己主張するつもりは無い。

あの勇者共が湧き出す化け物達を倒してはいたらしいので全部俺の手柄だとは思わない。

だが、いずれこの程度では済まなくなるのだろうなと俺自身思っている。

砂時計によって転送される範囲が近かったから良かったものの、騎士団が直ぐにこれない範囲で起こったらどうするつもりなんだ。

課題は多いな……。

ヘルプを呼び出し、確認する。

波での戦いについて

砂時計による召集時、事前に準備を行えば登録した人員を同時に転送することが可能です。

これって騎士団の連中も登録しておけば一緒に行けたんじゃないのか?

あの態度だ。俺に登録されようなんて輩はいないだろうがな。

しかし……あのクソ勇者共は使わなかったな。

一体何故だ?

知っているゲームなら手配していてもおかしくないはずだ。

……大方、そこまで大変じゃないとか、確認を怠っているとかそんな所だったのだろう。

言うのも煩わしい。

俺は宴が催されている中、隅の方で適当に飯を食べる。

「ご馳走ですね!」

ラフタリアが普段は食べられない食べ物の山を見て、瞳を輝かせている。

「食いたければ食って良いぞ」

「はい!」

あんまり良いものを食べさせてあげられなかったからな……こんな時こそ好きなものを食べさせるべきだろう。それに見合う戦果をラフタリアは上げている。

「あ……でも、食べたら太っちゃう」

「まだ育ち盛りだろ」

「うー……」

なんかラフタリアが困った顔で悩んでる。

「食べれば良いだろ」

「ナオフミ様は太った子は好きですか?」

「はぁ?」

何を言ってんだ?

「興味ない」

女と言うだけであのクソ女が浮かんでくるんだ。好きとかそんな感情が浮かんでこない。

そもそもが女という生物が生理的に気に食わない。

「そうですよね。ナオフミ様はそういう方でした」

半ば諦めたかのようにご馳走に手を伸ばす。

「美味しいです、ナオフミ様」

「良かったな」

「はい」

ふう……宴とやらが面倒だな。報酬は何時貰えるんだ。

こんなクズの集まり、見ているだけで腹が立つ。

……よく考えると明日とかの可能性もあるな。

無駄足だったか? いや、食費が浮くから良いか。

本人は気にしている様だがラフタリアは亜人で成長期だ。食費もバカにならない。

「タッパーとかあれば持ち帰れたのにな」

保存が利かないから明日までだろうが、金を考えたらもったいない。

……後でコックにでも頼んで包んでもらおう。他にもあまりの食材を頂いて行くのも良い。

等と考えていると怒りの形相をした元康が人を掻き分けて俺達の方へ向かってきやがる。

まったく、一体なんだって言うんだ。

相手をするのも面倒だから避けようと人混みの方へ歩くと元康の奴、俺を睨みつけながら追ってくる。

「おい! 尚文!」

「……なんだよ」

キザったらしく手袋を片側だけ外して俺に投げつける。

確か、決闘を意味する奴だっけ。

元康の次の言葉に周りがざわめいた。

「決闘だ!」

「いきなり何言ってんだ、お前?」

ついに頭が沸いたか?

よくよく考えてみればゲーム脳の馬鹿だ。

助けるべき人を見捨ててボスに突撃する様なイノシシだからな、槍のクソ勇者様は。

「聞いたぞ! お前と一緒に居るラフタリアちゃんは奴隷なんだってな!」

闘志を燃やして俺を指差しながら糾弾する。

「へ?」

当の本人はご馳走を皿に盛って美味しそうに食事中だ。

「だからなんだ?」

「『だからなんだ?』……だと? お前、本気で言ってんのか!」

「ああ」

奴隷を使って何が悪いというのだ。

俺と一緒に戦ってくれるような奴はいない。だから俺は奴隷を買って使役している。

そもそもこの国は奴隷制度を禁止していないはずだ。

それがどうしたというんだ?

「アイツは俺の奴隷だ。それがどうした?」

「人は……人を隷属させるもんじゃない! まして俺達異世界人である勇者はそんな真似は許されないんだ!」

「何を今更……俺達の世界でも奴隷は居るだろうが」

元康の世界がどうかは知らない。けれど人類の歴史に奴隷が存在しないというのはありえない。

考え方を変えれば、社会人は会社の奴隷だ。

「許されない? お前の中ではそうなんだろうよ。お前の中ではな!」

勝手にルールを作って押し付けるとは……頭が沸いているなコイツ。

「生憎ここは異世界だ。奴隷だって存在する。俺が使って何が悪い」

「き……さま!」

ギリッと元康は矛を構えて俺に向ける。

「勝負だ! 俺が勝ったらラフタリアちゃんを解放させろ!」

「なんで勝負なんてしなきゃいけないんだ。俺が勝ったらどうするんだ?」

「そんときはラフタリアちゃんを好きにするがいい! 今までのように」

「話にならないな」

俺は元康を無視して立ち去ろうとする。何故なら勝負しても俺には得が無い。

「モトヤス殿の話は聞かせてもらった」

人込みがモーゼのように割れて王様が現れる。

「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」

「知るか。さっさと波の報酬を寄越せ。そうすればこんな場所、俺の方から出てってやるよ!」

王様は溜息をすると指を鳴らす。

どこからか兵士達がやってきて俺を取り囲んだ。

見ればラフタリアが兵士達に保護されている。

「ナオフミ様!」

「……何の真似だ?」

俺はこれでもかと瞳に力を入れて王様を睨みつける。

コイツ、俺の言う事を全く信じなかった。

それ所か俺の邪魔しかしない。

「この国でワシの言う事は絶対! 従わねば無理矢理にでも盾の勇者の奴隷を没収するまでだ」

「……チッ!」

奴隷に施してある呪いを解く方法とか、国の魔術師とかは知っていそうだ。

つまり、戦わねばラフタリアは俺の元からいなくなるという事に繋がる。

ふざけるな! やっとの事で使えるようになった奴隷だぞ!

どれだけの時間と金銭を投資したと思っているんだ。

「勝負なんてする必要ありません! 私は――ふむぅ!」

ラフタリアが騒がないように口に布を巻かれて黙らされる。

「本人が主の肩を持たないと苦しむよう呪いを掛けられている可能性がある。奴隷の言う事は黙らさせてもらおう」

「……決闘には参加させられるんだよな」

「決闘の賞品を何故参加させねばならない?」

「な! お前――」

「では城の庭で決闘を開催する!」

王様の野郎、俺の文句を遮って決闘をする場所を宣言しやがった。

くそ、俺には攻撃力が無いんだぞ? 出来レースじゃねえか!