軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

孵化

壊れた元康から逃げる様に馬車を走らせ、結局一番安全な村へ向かっていると。

パキ……パキ。

背中からそんな音がする。どうやら卵がそろそろ孵化するようだ。

俺は背負っていた卵を降ろして確認する。

「卵が孵るんですか?」

「みたいだな」

ゴトゴトと馬車は揺れている。若干フィーロの足が速い。

まあ、あんな事があったからなぁ……。

フィーロの時の卵とは違ってずいぶん大きい。抱えるほどの大きさでは無いが、それでもダチョウくらいの大きさはある。

その卵にヒビが入って、徐々に中からドラゴンの雛が出てくる。

「ドラゴンって何を食べるんだろうな?」

「やはり肉ではありませんか?」

「あったっけな?」

村の倉庫に保存している燻製肉や干し肉が残っていれば良いのだがー……。

「ラトにでも聞くか」

「そうですね」

嫌々だけど教えてくれるだろう。

谷子が最近うっとおしいけど。

「キュアアアア!」

ドラゴンの雛が卵から顔を出して鳴き出した。

「孵ったのー?」

「ああ」

懐かしいな、フィーロもこんな感じで……いや、もっと元気だったか。

ドラゴンの雛の大きさは俺の頭くらい。フィーロと比べると明らかに大きいな。

「なんか変な体型をしているなぁ」

ひょうたんみたいなメタボな体型で、背中に申し訳ないほど小さい羽が生えている。

尻尾は太い。

角は二つで、まだうろこは生えていないようだ。

抱き上げてみると、体温が高いのが分かる。

「キュア!」

パチパチと瞬きをして俺と視線が合う。

「キュアア!」

片手をあげて挨拶をするかのように声を出す。

「名前は何にしましょう?」

「何が良いかな。村の連中と一緒に決めるか」

「そうですね」

「じゃあ村に急ぐー?」

「もう目の前だろうが、そんなに急がなくても良い」

生まれて早々乗り物酔いで死なれては困る。

ああ、そうだ。

卵の殻を盾に吸わせておくか。

俺はドラゴンの卵の殻を盾に吸わせる。

……バチ!

なんだ? 盾がスパークした。

……によりロックされています。

ロック?

そういえば……結構Lvが上がってきているのにドラゴン系の盾が解放されないんだよなぁ。

腐竜の盾とか出ても良いはずなのに、未だに解放されない。

何が理由なのかわからないけど、俺の盾にはドラゴン系の盾が存在しない。

精々、ラースシールドがドラゴン系と言えばドラゴンなのかもしれないけど。

今度、ラフタリアやフィーロを連れて山奥へ籠りに行くか?

呪いでステータス下がっているから俺は戦えるかわからないんだけどさ。

色々と試さないと行けないよなぁ。

ああ、そう言えば元康の所為ですっかり忘れていたけど、近々城下町に行かなければいけないな。

あのワープスキルの出るはずの材料である龍刻の砂時計の砂を手に入れないと行けないし、手先が器用な奴隷を親父に預けに行かないと。

「ふふ……なんか、かわいらしいですね。フィーロが雛だった頃を思い出します」

ラフタリアがドラゴンの雛を突いている。

ドラゴンの方もラフタリアが突いた指を掴んで甘噛していた。

この生き物が性欲の権化になるのか?

管理は徹底しないと危ないから気を付けよう。

村に戻って速攻でラトの研究所の近くに馬車を停める。

ラフタリアは村の連中に顔を出しに、フィーロは隣町にいるはずのメルティの所へ行った。

そして俺は、研究所内に居るラトと顔を合わせた。

「よ」

「あら、ドラゴンの雛が孵ったようね」

「まあな」

ドラゴンの雛をラトに見せる。

「じゃあとりあえず、診察するわよ」

マジマジとラトはドラゴンの雛を観察し、軽く触診した。

「うん。特に問題は無いほど健康ね。後、性別は雄みたいね」

「それは良かった」

変に育てて人間化とかフィーロみたいにされた場合でも雄なら問題ない。まあ人間化とかされる時点で問題あるんだけどさ。

「何を食べさせれば良いんだ? やっぱり肉か?」

「肉食傾向のある雑食だから基本は何を食べさせても平気よ」

ラトが放すとドラゴンの雛は俺に飛びついて昇り始める。なんだこいつは。

「特に気を付けないと行けない事とかは無いのか?」

「真夜中に食べさせてはダメよ。悪い子になるわ」

何処の悪魔だ?

あれか! 水を掛けると増えるのか?

「なんて言うのは冗談。まあ食べさせすぎないように注意すれば良いわ。むしろ食事に追われるかもね」

「そうか」

「出来れば早いうちに狩りに行く事を勧めるわ。成長の始まったドラゴンの食欲は恐ろしい物があるから」

「……それを俺に言うのか?」

「ああ、伯爵の所はドラゴンの食欲に勝るとも劣らない子たちばっかりだものねー」

一本取られたと言いながらラトは頷いた。勝手に完結するなよ。

むなしくなるだろ。

「このドラゴンはどんな種類なんだ?」

「ウィル種よ。ドラゴンの中でも忠義を重んじる忠誠心の高い種類。純血種とティレラとの間に出来る混合種ね」

「ティレラ?」

「ティレラは大きなトカゲ目の魔物よ。飛べないけど乗り物として優秀、ま、珍しいけどね」

「へー……」

知らないな。会ったこともない。

「メルロマルクには生息していない魔物だから伯爵は知らないかもね。この辺りじゃ飼っている人もいないし」

「そうなのか?」

「どちらかというとフォーブレイやシルドフリーデン、シルトヴェルトで見る魔物よ。生息数は少ないわ」

「へー……」

「伯爵って活動範囲狭いわよね」

「うるさい」

余計な御世話だ。

そういや……三勇者共がやっていた危険な依頼とか俺には来ないな。

俺が受けていないだけだろうけどさ。

金になるのなら考えておいた方が良いけど、今はそれ所じゃないか。

雑務に追われるのもな……あ、奴隷共に解決させるとかも手だ。

女王に聞きに行かなきゃだめだな。

「こんな所に居たのか」

女騎士が谷子と一緒にやってくる。

「どうした? また何かあったのか?」

「それが――」

「この子があの卵から孵ったドラゴン!?」

女騎士の言葉を遮って谷子が瞳を輝かせてドラゴンの雛を見つめる。

「キュア!」

人見知りせずドラゴンの雛は愛嬌を振りまく。

「とりあえず、お前はドラゴンの雛と戯れていろ、私はナオフミ殿と話があるんだ」

「はーい!」

「なんでコイツの言う事聞いて行くんだお前は!」

主は俺だぞ!

まったく……ま、面倒を見させるには良いか。

俺はドラゴンの雛を谷子に渡して女騎士に顔を向ける。

「で? 何があるんだ?」

「ああ、実は国から戦闘顧問がやってきてな」

「戦闘顧問?」

「意味はわかるだろ?」

「一応は……戦い方を教えてくれるようなモノだろ? お前が村の連中に教えてくれていたように」

「概ね間違っていない。その専門家が来たんだ」

早く俺をその場に連れて行きたいとでも言うかのように女騎士は楽しげに説明する。

「伝説の流派、変幻無双流の伝承者がイワタニ殿に力を貸したいと来ているんだ」

「変幻無双? なんだそれ、どんな流派だ?」

中二病も甚だしい流派名だ。

思わず回れ右して雇用する前から解雇したくなる。

「過去、様々な戦場で無敗を歌った伝説の流派だ。私も小さい頃に憧れたものだ。唯一の伝承者が、この流派はもう必要無い。墓場まで持っていくと言っていたはずだったのだけど、イワタニ殿に助けられ、世界の危機に伝承させる事を決めたそうだ」

「ほー……強いのか?」

「そりゃあもう、様々な国で伝説になる程だ。四聖や七星と同じように」

「そこまでの流派なのか、そりゃあ凄いな」

「ただ、半世紀以上前に流派内で大きな争いがあって伝承者が殆ど死んだのでも有名だ。生き残った者はみな、墓場まで持っていくつもりだったらしい。その伝承者も一人しか残っていないそうだ」

どんな流派だよ。俺は蛮族の鎧の出所じゃないかと想像しだしている。

あの……神拳の伝承者みたいな。

「メルロマルクの過去の大戦でも参加した有名な者だそうだ」

「誰?」

「イワタニ殿と顔馴染みだと言っていたのだが……」

誰だ? そんな武闘派の知り合いなんていたかな?

「思い出せないなら会ったら良い。私も一秒でも早く教授してもらいたくてウズウズしているんだ」

この女騎士のテンション、そこまで凄い奴が来ているのか。

女騎士がグイグイと俺の手を引っ張って連れて行こうとする。

「じゃあ行くが、何かあるか?」

「バイオプラントの件は後で見て貰おうかしら、もう少し調整してくれないといけないし」

「わかった」

「キュア!」

「お前はー……飯でも食っていろ、その後はLv上げに行かせる」

谷子がドラゴンの雛をあやしながら、俺の指示に頷く。

なんだかんだで言われた事はしっかりやるんだよな。

魔物を殺す事も可哀想だからダメ、とか言わないし。

むしろ弱肉強食! みたいに狩りには乗り気だ。

コイツは一体何がしたいんだろうな。

「あなたの名前はガエリオンよー」

「勝手に名付けるな」

「キュア!」

ドラゴンの雛が頷く。どっちに対して頷いたんだ?

ちなみに村では既にドラゴンの雛の名前を何にするか決まっていたのを知るのはすぐ後の事だった。

谷子が名前をあげて、村の連中がそれで良いんじゃないかって事になったらしい。