軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィッチ

その日の晩、就寝した時、声が聞こえた。

『ククク……あの女と駄鳥の所為で押さえつけられてしまった我に丁度良い依り代が来るとはな……楽しみだ』

なんだ? この声……聞き覚えがあるのだが、思いだせない。

『我を焼き焦がした汝の怒りは美味かったぞ……いや、違うな。我と我が力を合わせて力を増したのだったな。だが、まだ足らん、満足できん』

こいつは……誰だ? 誰の声なんだ?

『奴を殺すのは我が行う事になりそうだ。我を殺した責任、その身で贖わせてやる』

凄くイヤな汗が動けない体から流れるのを感じる。

『外に出るのを楽しみにしている』

その日の晩、俺はそんな悪夢を見た。

声の主が何なのか、俺は知っていたような気がする。

この事は夢の一部として消えていった。

「卵が孵化するまで後どれくらい掛るんだろうな」

「そうですね」

「フィーロも卵温めたい」

「ダメだって言われているだろうが」

行商の旅をしながら俺たちはそんな雑談をしていた。

それなりに大きな町に着いた。今まで、何回もここで行商しているから町の連中もこっちとはある程度顔見知りだ。

で、大分売り切り、これからどうするかと馬車から外を眺めていると、見覚えのある後ろ姿を確認した。

「フィーロ、止まれ」

「どうしたのごしゅじんさま?」

馬車を停めさせ、俺は卵を隠す様にローブを被って降り、奴に近づいた。

建物の陰から町の大通りを覗き込んでいるようだ。ラフタリアも誰か気づいて俺に問いかけようとしてやめる。

「そうだ。ラフタリア」

「なんですか?」

「前回は忘れていたけど、お前、隠れる魔法が使えるよな」

「はい。勉強して私以外も気づかれにくく出来るようになりましたよ」

城で魔法について教わったラフタリアは上位の隠蔽魔法も覚えていた。

最近では元康や錬対策を考えている風な事も言っており、とある魔法も研究していた。

ポータルスピアーだったか、アレを使われたら終わりだが、閃光剣の方はどうにかできるらしい。

「じゃあそれを頼む」

「分かりました」

路地に身を隠し、ラフタリアは意識を集中して、人の姿になったフィーロと俺の手を握る。

『力の根源たる私が命ずる。理を今一度読み解き、我等に幻影の衣を纏わせよ』

「アル・ハイドミラージュ」

ふわっとラフタリアの魔法が俺たちを包み込む。

「これで大丈夫のはずですよ」

「ああ、助かった」

手を繋ぎながら、俺達は目的の奴を尾行する。

どうやら奴も誰かを尾行しているようだ。

いや、正確には話しかけるタイミングを見計らっているようにも取れる。

「どうするかな……エレナみたいな事にならないと良いんだけど」

俺達が後ろに着いて来ているのをまったく気付いていないのか、一人期待に胸を躍らせている。

一体、何に不安になっているんだ、この馬鹿は。

と、思いながら馬鹿の視線の先を覗き込む。

そこで馬鹿の顔色が変った。

最初、魔法が解けてバレたとか思ったが違う。

視線の先にいる奴を見て俺も声を失った。

なんとビッチが女2を連れて……何故か錬と話をしている。

何を話しているんだ?

馬鹿=元康を無視してビッチに近づく。というか捕える為に進む。

元康や錬は逃げられてしまうから捕まえられないが、ビッチは別だ。

捕えたら面白い事が待っているらしいし、やらない手は無い。

俺はラフタリアに視線を送る。

コクリとラフタリアも頷く。フィーロも状況を理解しているのか黙ってついてくる。

何か聞こえてくる。結構大きな声だ。

「槍は勇者の器ではありませんわ。私は初めて出会った時からレン様こそ、世界を救う勇者だと確信しておりました」

ビッチが凄い事を言っている。

飛び出していって顔面に拳を叩きこんでやりたい衝動に駆られるな。

「それに……槍は盾と同じく私達に無理な関係を強要しておりましたの。私、言うに言えなくて……こうして自由の身になった今、レン様を探しておりました」

凄くウザイセリフだ。そしてほとばしる今更感。

お前、元康と何ヶ月一緒にいたと思っているんだ。

俺は咄嗟に元康の方を見る。

「ぐぬぬ……」

すげぇ、あの有名な顔付きで覗きこんでいる。

「しかし、お前は前々から何か問題があるって女王が言っていたと思うのだが……」

さすがに錬も警戒気味だ。

まあ、あれだけ暴れた訳だしな。

「レン様はママの正体を知らないのですわ。ママはメルロマルクの女狐と呼ばれた女。私を辱める事によって多大な利益を生み出す構図を作り出したのです。外道な盾に信用してもらうために、そして槍も取り込まれてしまっている」

「そ、そうだったのか……」

どうする? ここで異議を申し立てる為に大声を出すか?

つーか凄い信憑性のある事を言っているなぁ。

俺も信じ掛けたけど、ビッチが言っている事だし、間違い無く嘘だ。

むしろビッチが貶めようとしている相手ほど信用できると言っても良い。

メルティに然り、現在の元康に然り。

やがてビッチは錬を抱きしめて髪を撫でた。

「レン様……お仲間を亡くしてとても辛かったでしょう……今は泣いて良いのです。大丈夫です。世界の全てがレン様を罪人だと言い張ろうとも、私は信じます。レン様が世界の為に戦ったのだと」

弱った奴に取り入るのがうめぇ。

ラフタリアが凄く微妙な顔でビッチを見ている。

俺に言った台詞に似てるもんな。

というかパクリか?

よし、後少し……もう少しでビッチの肩を掴める。

「待て!」

そこに元康が駆け寄ってくる。

その表情は凄く憎たらしい物を見る目だ。

これが噂のネトラレという奴だろうか。

いやいや……。

「あら、槍じゃないの」

凄く嫌味ったらしい顔で髪を後ろに回しながらビッチは悠々と元康を睨む。

どことなく俺はトラウマを刺激されて、腹が立ってきた。

ビッチ、貴様が笑っていられるのも後僅かだ。

「どうしたのかしら?」

「それはこっちの台詞だ! 一体どうしたんだ! 錬に取り入りやがって、探したんだぞ!」

「あはは、無謀な突撃をするほど私、馬鹿じゃありませんの。レン様、聞いてください」

嘘泣きをしながら錬に縋りついてビッチは言い放つ。

「ピンチになったら、あの槍は私達に向かって注意を引き付けろ、その間に俺が倒すって私達を壁替わりにしようとしたんです。私達は怖くなって逃げたんですよ。そうしたらしつこく追ってくるんです。敵前逃亡は許さないって」

「嘘だ!」

頭が痛くなってきた。

ビッチもようやる……っと、さっさとそのビッチを捕まえるとするか。

というか元康のこの表情、見覚えがある。

当たり前だ。あの日の俺じゃねーか!

ビッチ……貴様はまた同じ事を繰り返すんだな。

勇者三人を毒牙に掛けようとは……貴様はビッチを超越したビッチ、名付けてヴィッチだ。

魔女という意味も兼ねている。

抵抗されたと言って殺してやろうか。

うん、そうしよう。それしか考えられない。

「お前、そんな事をしようとしたのか、尚文と同じかそれよりも外道だな。信頼を裏切るなんて人の風上にも置けない奴だ」

「錬、アバズレは嘘を言っているんだ! 信じてくれ」

「誰が信じるか!」

「そうです! 毎晩私達に関係を強要して……じゃないとパパを殺すって脅したんです!」

「嘘を言うな! 俺は……本当に心配したんだぞ!」

元康の不幸をもっと見ていたい気もするが、もう我慢できん。

俺は殺意の篭った手でガシっとヴィッチの肩を掴んだ。

「え?」

ラフタリアが指を弾き、魔法を解いた。

「よくもまあそこまで嘘がポンポン出てくる物だな、ヴィッチ」

「盾!」

ヴィッチの眉が高く跳ね上がる。憎い相手を見つけたみたいな表情だ。

だが、それはこっちも同じ。

「悪いが城に来てもらおう。お前は死んでも捕まえる」