軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

獣人

「あ、ナオフミ様」

奴隷商のテントに顔を出すとラフタリアが手を振って出迎える。

「これはこれは盾の勇者様」

「お前さ、俺の奴隷に余計な入れ知恵しやがったな。ああいうのは困るからやめてくれ」

「はて、何の事でしょうかね」

めっちゃ笑ってる奴隷商。

ここで怒ればペースに乗せられてしまう。程々にしておくのが良いだろうな。

「とにかく、卵が大量に見つかったからな。魔物の注文は一時中断だ」

「そう言うだろうと思って集めておりませんです。ハイ」

「てめぇ……」

落ちつけ、ペースに乗るな。落ちつけー……。

「新たなフィロリアルは要りませんかな? あの卵の中には無かったと思いますが?」

「鑑定済みなら教えろ!」

我慢も限界だコラ!

なんというか、コイツの手の上で踊らされている状況が気に入らない。

「それは後のお楽しみにしておいた方が良いと思っております。ハイ」

頭が痛いな。

コイツと付き合っていると疲れる。

面倒だからささっと話を片付けて帰ろう。

「で、あの村出身の奴隷は見つかったか?」

「それが……」

ラフタリアの表情が暗い。あんまり芳しくないようだ。

「申し訳ありませんが、まだ見つかっておりませんね」

「そうか……」

「盾の勇者様の評判を聞いてこれなのですから、メルロマルク国内ではもう見つからない可能性が高いですね」

「ふむ……」

波の生存者でもあるラフタリアと同郷の亜人を探しているが……確かに波の生存者という点でそこまで人数はいないか。

全部で一五人。これでも集まった方……か?

「一応、範囲を広げてみようかと思っております。ハイ」

「やってくれるか?」

「他ならぬ盾の勇者様の頼みです故、協力は惜しみません」

どうも胡散臭い。なんか金をくれ的な手のポーズが気になる。

「他にはそうだな……手先が器用な奴とか技術が優秀な亜人奴隷は無いか?」

建築とか調合とか、武器の修理とかを専門に覚えさせたい状況になりつつある。

薬の販売だって調合が出来るのが今のところ俺だけというのが痛い。

一応、村で興味を持った奴に少しずつ教えているが、数が少ない。

「それならお連れのラクーン種は手先がそれなりに器用ですが」

俺はラフタリアを見る。

そういえばラフタリアには何も教えていなかったなぁ……精々、魔物の皮とかをなめす作業をさせていた程度だ。

自発的にやりたがらないという事は生来、不器用なのかもしれない。

「何か失礼な事を考えてませんか?」

「別に……」

「そうですねぇ……ルーモ種辺りが手先などの細かい作業が向いていますかね。気性も大人しいですし」

「ほう……」

「おそらく、見た事は無いかと思いますです。ハイ」

「珍しいのか?」

「あちらの国では普通に居ますが。どちらかと言うと獣人ですのでメルロマルクでは数が少ないです。ハイ」

へー……。

動物っぽいのか。そういや、うちの所に居る亜人はみんな人間ベースだもんな。

「ここに居るのか?」

「ええ、運よく用意しておりますです」

「見せろ」

奴隷商はテントの奥へと案内する。

「こちらですね」

案内された檻の方を見る。

檻の中には怯えながら毛布を纏って震えている子供がいる。

暗くて良く見えないな。

「ふむ……」

「脱がせましょう」

奴隷商が指示を出すと屈強な男が檻を開けて子供の毛布を奪い去る。

「や、やめて!」

「ほう……」

俺はそのルーモ種の子供の外見を確認した。

一言で言うのなら、モグラだな。ワーウルフとかみたいに人型のモグラだ。

モグラの様な人種がルーモ種というらしい。

身長は低いな。俺の腰くらいしかない。子供だからか?

「元々、光に目が弱い種族故、夜間の警備にも向いている種族です」

「あわわ……」

怯えながらも隅っこで縮こまるルーモ種の奴隷。

ラフタリアが心配そうにしているなぁ。

「ラフタリア」

「なんですか?」

「俺は慈善事業でやっている訳じゃないのは理解しろよ」

「わ、わかってますよ」

とはいえ、手先が器用な種族なら……。

しかし……。

「なあ、この国は虐待趣味の奴が多くないか?」

うちに来る亜人奴隷もそうなのだが、どれも体の節々に鞭で打ったような跡があるのだ。

「この国は随分前に亜人と戦争をした歴史がある故、しょうがありませんです。ハイ」

「その時に戦っていた貴族とかが、過去の憂さ晴らしに虐待ってか?」

「戦争ですからね。家族を奪われた方を筆頭に格安で虐待だけして返却するプランがある位です。ハイ。再起不能にさせたら高額で買い取って頂くのです」

この国の闇は深いな。

亜人の村を作っている俺の事を貴族連中は苦虫を噛みきるような感覚で見てるかもしれない。

「法律上では奴隷にするのは良くても虐待はさすがに罰せられますです。ハイ」

「非合法って奴か……事実上合法にも見えるがな」

なんだかんだで裏路地の奥にあるこのテントを見て常々思う。

「その点、私の所では健全に商売を行っておりますです。ハイ」

健全ね……。

これ見よがしに自慢する奴隷商だが、凄く胡散臭い。

そもそも、じゃあなんで虐待された奴隷を売っているんだと……。

「まあ良いや」

俺はルーモ種の奴隷の背中の傷を見る。

……思いのほか深そうだ。

「ツヴァイト・ヒール」

回復魔法によってルーモ種の奴隷の傷が塞がっていく。

とはいえ、傷の根が深いからか、完治には程遠いが。

「え?」

「お前、手先が器用なんだってな」

「……わかりません」

ルーモ種の奴隷は顔を逸らしながら答えた。

出来ない事を出来ると言うよりはマシな返答だな。

「教えたらやるか?」

「……それが命令ならやります。だから……ぶたないで……」

今にも泣きそうな声を絞り出してルーモ種の奴隷は縮こまる。

まあ、奴隷なんてこんな物だよなぁ。

「そんな事する趣味は無い。ぶたれたいなら他の奴に頼むんだな」

「え……?」

「分かった。じゃあこんな感じの奴を集めろ。金は先払いしている分から引け」

「承知いたしましたです。ハイ」

「他にはいないのか?」

「最近、盾の勇者様が贔屓にしてくださっている状況です故、品不足になってきております」

ああ、俺の奴隷が優秀だからって奴隷商の所の奴隷は売れているんだったな。

そういや、空の檻が目立ってきている。

「ふふ……」

なんかラフタリアがこっちを見て笑っている。どうしたと言うんだ?

「さっそく奴隷紋を刻むか」

「ええ」

そんな訳でルーモ種の奴隷に登録を済ませる。この辺りはもはや作業感があるな。

「あ、そう言えば盾の勇者様」

「なんだ? 飯なら作らないぞ」

「それは残念なのですが、一つ注意を」

「ん?」

「最近、この国に魔物の研究を専攻する狂った錬金術師が来ているとの話でございます。ご注意を」

女王も同じことを言っていたな。そんなに危ない奴なのか?

「特に盾の勇者様の魔物はどれも粒ぞろい。狙われると大変危険です故」

「はいはい」

と、軽く応答しながら奴隷商のテントを出る。

「ま……まぶしい」

顔を両手で抑えながらルーモ種の奴隷は付いてくる。

ああ、光に弱いんだったか。

ラフタリアが魔法を使って、顔に当たる部分の光を弱めている。

「これで大丈夫かしら?」

「あ……はい」

そういやラフタリアの得意な魔法は光と闇の混合である幻だったな。

クラスアップの所為で他にも適性が出たらしいけど、一番はやっぱりその系統なんだな。

モグラの獣人だからなぁ。

ベタだけどサングラスとか付けさせるのが妥当だよなぁ。

本来、この種族ってどういった環境で活動しているのか知らないけど。

サングラスか……。

市場の方を歩いていると眼鏡が売っている。

「なあ」

「はいはい?」

眼鏡を取り扱っている行商に向けて声を掛ける。

「黒く透明な素材って無いか? 探しているのだが」

「ありますよ」

そう言って行商はレンズ単体を取り出す。

色は確かに黒い……素材はなんだ? ガラスとは違うし……魔物の素材か何かか。

ブラックフライウィングの羽……昆虫の素材か。まだ持っていない魔物だな。何処で生息しているのだろうか。

道沿いで出るような魔物じゃないのは分かる。洞窟とか山とか馬車で行きづらい範囲だろうな。

「……銅貨80枚になります」

欲する相手には吹っ掛けるのが商売の基本だよな。

「む……そうか、今回はやめておこう」

そう言ってから俺はそれを返して買い取り商の所へ行く。

城下町の買い取り商は顔なじみだ。

ローブを被っているから分からないようだが、買い取り商の奴は普通に仕事をしている。

「ブラックフライウィングの羽と言う素材は無いか?」

「へ?」

買い取り商の奴、俺の声を聞いて素っ頓狂としたような顔になる。

そして気付いたのか、微妙な笑みで俺を出迎えた。

「懐かしいな。バルーンの刑」

「も、もうそんな真似致しませんよ!」

「それよりもだ。無いのか?」

「あります。ありますから、やめてくださいよ」

「やらねえよ」

凄く焦った表情で買い取り商は俺の注文した素材を取り出す。

ブラックフライウィングの羽。

品質、悪い。

「品質が悪いな……銅貨10枚なら買うがどうだ」

「……はぁ。分かりましたよ」

「その代わり宣伝してやる。ラフタリアはその子を連れて路地の方へ行っていてくれ」

「分かりました」

「え? え?」

ラフタリアがルーモ種の子の手を繋いで行く。

「え!?」

買い取り商の奴、なんか声が裏返っているなぁ。

俺は買い取り商の前でローブを脱いで、大きく声を出す。

「ありがとう! 色々買い取ってくれて助かった。これからも贔屓にしてくれよ」

めっちゃ棒読み。

だが、声の大きさと俺を発見したことで、周りを歩いていた連中がざわめき立つ。

「それじゃあな!」

「あ、ちょっと!」

地響きが聞こえるんじゃないかというくらい、人が群がる音が聞こえる。

「盾の勇者様が贔屓にしているんですって!」

「あの人の売った素材ならきっと運が向いてくるはず! ぜひ売ってください」

「あ、あの――」

買い取り商の奴が対応に困りながら群がる客を相手しだした。

さて、適当な所で隠れながらローブを着るとしよう。