軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カルマースクイレル

徐々にエスカレートしていく拷問が続いたある日ですな。

「くぅううううう……」

「や、やめて下さい! それ以上したら死んでしまいます!」

介抱してくれたモグラへの拷問は苛烈となり、貴族はとうとう刃物を取り出して急所を外す形で突き刺していたのですな。

「ふははは……もっと叫べ! どうやらお前、この奴隷の事をずいぶんと信用しているようじゃないか。どうだ? こいつを殺せば自由にしてやっても良いぞ?」

そんな悪魔の提案を受けて樹はモグラを震えながら見つめました。

心のどこかで何者かが囁いたと樹は言いましたぞ。

一人は楽になるため、自由になるためにモグラに手を掛けろと言う声。ですがそんな言葉は何が何でも受け入れられるものではないと即座に考えを振り払ったのですぞ。

仮にも勇者に選ばれる存在なのですぞ。こんな選択は何があってもしませんな。

であると同時に、止めどない怒りが沸々と心を支配して行っていたのですぞ。

モグラは後ろ手に吊るされたまま、樹に向けて微笑んでいたのですな。

「イツキ……さん。どうか、自由に……私を……」

殺して下さい。そうすれば……という願いを樹は耳にしてしまったのですぞ。

どう考えてもこの貴族が解放なんてするはずはない。

そんなことはわかり切っているのに僅かな希望の為にモグラは樹に残酷な提案を告げるのですぞ。

「そんな事、しない!」

樹はそれでも踏み出さないと、言い切り心の奥底から湧き出る憎悪の感情を貴族に向けて睨みつけたのですな。

「チッ! つまらん! なら直々に殺してやる! 存分に絶望するが良い! ハハハハハ!」

そう、貴族は剣を握りしめてモグラの心臓を刺そうと腕を引いたのですな。

ドクン! っと樹の心臓が一際強く鼓動を強め、時間がとてもゆっくりに感じたそうですぞ。

――チカラガ、ホシイカ?

ああ……こんなにも酷い、どこまでも残酷で許しがたい悪が居るのに、こんなにも危機的状況なのに誰も助けに来てくれない。

正義とは一体何なのか。

こんな状況こそ正義の味方は助けに来てくれるものじゃないのか?

日本に居た頃の低能力者故の陰湿な差別を受けた時だってこんな気持ちにはならなかった。

――スベテガ、ニクイカ?

そう……今、この瞬間に正義の味方が現れないと言うのなら、正義なんて代物は想像の産物なんだろう。

『目の前の掛け替えのない人を助けられない正義なんていう、実にくだらない物を僕は信じていたんだ……ええ、ならばこんな正義は捨てましょう。ここからは僕のエゴ、ただやりたい事をしていく事にします。その為に……どんな罪を犯すとしても、勇者ではなく魔王と呼ばれたとしても――救いたい人がいる!』

と樹は心の中にある引けない一線を飛び越える覚悟と、己の考えていた正義を捨てる決断をして怒りに身を委ねたそうですぞ。

すべてはこんな事が許される世界への怒りだ、とかですな。

まあ……納得の理由ではありますぞ。

……そうですな、本来のお義父さんはとてもお優しいので憤怒を引き出すのはとてもつらい事なのだとも思えますぞ。

樹もこの国の真実に気付いたという事でしょう。

さすがの俺も鎧達がこの短い期間に樹を売るのは予想外でしたな。

精々責任の押し付け合いでもして空中分解、奴等の醜さを悟った程度だと思っていました。

しかし、アークとの出会いで思うのは、なんとなくですが憤怒というモノを無暗に引き出すのは良くないのだろうという事でしょう。

最初の世界のお義父さんが赤豚の本体を倒すまでに最終的に憤怒の力を使わなくなりましたが、もしもそのまま憤怒を引き出していたら一体どうなっていたのか……。

ちなみにライバル曰く、最初の世界を始めとした冤罪から助ける事が出来なかったお義父さんはドラゴン達にとって非常に心地よい何かを纏っているのだそうですぞ。

腹立たしいですがそういった意味でも憤怒のカースをお義父さんに持たせてはいけないのですぞ。

ボウっと手足を縛られて動けない樹の周囲に黒い炎が巻き起こり手かせ足かせが溶解したのですな。

「アイアンメイデン」

新たに出たスキルがここで役に立つかと思ったのですが発動条件が表示されたので即座に使ったのですな。

「バインドアロー!」

ドスっと突如モグラに止めを刺そうとした貴族の影から矢が飛び出して拘束したそうですぞ。

弓を引かなくても出すことが出来るスキルでもあるのですな。

「うぐ!? な、なに――!?」

突如現れた拘束する矢を受け貴族は目を白黒させて樹の方に顔を向けたのですぞ。

ユラァっと樹は感情のままに殺意を持って立ち上がったのですぞ。

そうして手に握るは憤怒の弓というカースシリーズですぞ。

俺も変化自体はさせられる代物ですな。

フィロリアル様を鳳凰に殺された際に発露しましたがフィーロたんやお義父さんのお陰で使わずに居るのですぞ。

もちろんタクトにやられた際には成長した代物ですな。

弓が変化すると同時に樹の体に変化が現れ、体毛が黒く変化していったそうですな。

ちなみにわかる事なのですがフェアリー姿でカースシリーズを使用すると一時的に帽子が消え、色が黒くなり体つきが変わるのですぞ。

活性化地で出現するカルマ―系のボスのような変化をしてしまうそうですな。

「な、何をしている! よくもこんな真似をしてくれたな! 首輪がお前の首を切り飛ばすぞ!」

ぐぐぐ! っと貴族に危害を加えた事で樹の首につけられた首輪が急速に締め上げ始めましたが、カースを発動させた樹は首輪を握るだけではじけ飛んだそうですぞ。

「何とも弱い首輪ですね。こんなっ……こんなものに僕は……苦しめられていたんですか」

弱い自分を縛り付けるモノを見下ろして蔑んだとか。

正義の味方は居ない。

けれどこの人を救いたいのだ。

明日の二人でも、未来の三人でも、遥か未来の沢山の人でもない。

今、目の前にいる邪悪を滅ぼし、この瞬間にも霞んで消えそうになっている、この人を救い上げる。

正しさでも義憤でもない。

他者から与えられた運命でも、災いの波から世界を救う勇者でもない。

次の瞬間に首が飛んで息絶えたっていい。

今、この人を救えるのならば、明日も、未来も、幸福な結末も……望まない。

それが出来る人間になれるのならば、と樹は話しました。

「な……」

いともたやすくはじけてしまった首輪と拘束された状況に貴族はやっとの事、自らの状況を理解したのですぞ。

青い顔をしながら憎悪の感情を立ち昇らせる樹に恐怖で顔が歪んで行ったそうですな。

「テラーフレイム、アゴニーショック!」

「な、あああ……ギャアアア!? あああぁああ!?」

恐怖を増幅するスキルを樹は貴族にぶちかまし、火だるまにした後に痛みを増加させる付与効果で悶絶させたそうですぞ。

「し、死ぬ!? だ、だれか! 誰か助けてくれええええ! あああ、奴隷が! この奴隷がこんな真似をして許されると思っているのか! あああああ! い、命ばかりは――」

「ははははは! 無様な事ですね。あれだけ僕たちを拷問しておきながらこの程度の痛みすら耐えられないなんて……あなたがしていた事はこの程度で終わりじゃないんですよ?」

フツフツと心の奥底から沸き起こる憎悪と怒りに飲まれそうになっている中、衰弱して意識が朦朧としながら震える口で樹にやめるように目線を向けるモグラに近づいて容体を確認したそうですな。

スッと……樹の理性がモグラに手当された時の優しい顔を思い出させて憤怒の弓が起こす怒りを制御可能な所まで抑え込んでくれたとか。

「くうううう、こんな真似を……そいつが――」

ゴスっと樹は弓を引いてモグラの奴隷紋を作動して樹を脅そうとした貴族の頬に矢で突き刺して縫い付けてやったそうですぞ。

「うるさい。その腐った音を出すのをやめて下さい。不愉快です」

「あが――!? ッ!?」

口を縫い付けられて貴族は目を白黒させていたそうですな。

「さあ、終わりの時間ですよ。一秒でも長くあなたが生きている事が不愉快ですからね。もっと嬲って苦しむ様を見て居たいですが、それはお前のような外道を一人でも多く殺して鬱憤を晴らすとします。では……くたばれ」

これからやりたい事をする……そんな自分勝手な生き方をするのだから、まともな死に様は望めないだろう、と樹は思ったとか。

ならば自分が死に絶えるその日までに一人でも多くこの貴族の様な外道を道連れにしてやると決めたそうですぞ。

そうして、これまでは人間は殺さずに居た樹でしたが心の底からの殺意を元にスキルを放ったのですぞ。

『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は鉄の処女の抱擁による全身を貫かれる一撃也。叫びすらも抱かれ、苦痛に悶絶するがいい!』

「アイアンメイデン!」

詠唱と同時にお義父さんも使った事のある拷問器具が召喚されて貴族を包み込むように開いて閉じたのですぞ。

拘束していた矢が砕けた音が樹には聞こえたそうですな。

「――――――――!」

「地獄に堕ちろ!」

カッと樹の怒りに反応してアイアンメイデンは燃え盛りながら砕け散り、貴族は無数に串刺しになって絶命したのですぞ。