軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

普通はダンジョンでは飲みません

第8エリア『幻惑の水晶宮』。

本来ならば、緻密な魔力制御と高い精神耐性が求められるこの高難易度ダンジョンに、一人の男の「プシュッ」という小気味よい音が響き渡った。

「……マスター、もう5缶目ですよ!? いくらなんでも飲みすぎです。もはや足元がおぼつかないじゃないですか!」

「っるせぇ……。まだだ、まだ足りん……。魔法のモヤモヤを……アルコールで…… 除菌(デリート) するんだよ……」

俺は、ドドンキでまとめ買いしたストロング系のロング缶を、震える手で一気に煽った。

【知力:20】。そしてアルコール度数9%。

この二つが掛け合わさった時、俺の脳内では化学反応(という名の機能停止)が起きていた。

「ひっく……。よし、完璧だ。……世界が……回ってる……。これなら、幻覚攻撃も……一緒に回って……中和されるはずだ」

「どんな理論ですかそれ! 完全にただの酔っ払いじゃないですか!」

俺は千鳥足で、水晶が妖しく光る回廊へと踏み出した。

直後、ダンジョンの仕掛けが牙を向く。

回廊の壁が鏡のように揺らぎ、俺の目の前に「過去のトラウマ」や「最悪の未来」を映し出す精神干渉魔法『鏡像の絶望』が展開された。

普通の冒険者なら、ここで発狂するか、深い自責の念に囚われて動けなくなる難所だ。

だが、今の俺の視界は、泥酔によってグワングワンに歪んでいた。

「……お? なんだ……? 鏡の中の俺……なんか……三人くらい……いるぞ……。しかも……全員…… 裸(パンイチ) に見える……。あはは、変なの……」

「マスター! それは魔物の幻覚魔法ですよ! 惑わされないで!」

「……うっ。……揺れるな……吐く……。

おい鏡の中の……俺たち……。俺の代わりに……事務作業……やっとけよ……。俺は……寝る……」

俺は、精神にダメージを与えるはずの幻影を、ただの「景色の乱れ」として完全に無視し、フラフラと歩き続けた。

【知力:20】による理解力の欠如と、酒による意識の混濁。

この二重のバリアが、高度な精神干渉魔法を「処理落ち」させて無効化するという、前代未聞の事態を引き起こしていた。

次に現れたのは、踏んだ者の魔力を吸い取って爆発する『魔力感知地雷』。

残念ながら俺にはそもそも感知されるような魔力がない。

さらに、酔った勢いで「あ、小銭、10円玉とか落ちてないかな……」と地面をジロジロ見ながら歩く俺の足取りは、予測不可能な複雑な軌跡(千鳥足)を描いていた。

「……ひっ。……あ、お星様だ……」

「マスター、危ない! そこ地雷が――って、避けた!? その不規則なステップで全部回避しましたよ!?」

バシッ、ドカン、ボシュッ。

俺の背後で、回避し損ねたトラップが次々と虚しく空回りしていく。

さらには、物理攻撃無効の 幽霊(レイス) の群れが襲いかかってきたが、俺は「おー、涼しいな……」と、すり抜けていく冷気(攻撃)を天然の冷房扱いして突き進んだ。

そうして2時間後。

本来なら数日かけて攻略するはずの迷宮を、最短距離(という名の迷走)で突き進んだ俺は、ついに最深部の巨大な扉の前に立っていた。

「……ここが……終点か……? ……なんか、喉……乾いたな。……あ、最後のプロテイン……」

俺は扉を蹴り開けるなり、中身をシェイクもせずに粉末のまま口に放り込み、残ったストロング缶で無理やり流し込んだ。

「ゴハッ、ゲホッ!! ……よし。……営業……スマイル……完了だ」

「マスター、顔が真っ赤ですよ! あと粉が口から吹いてます!」

扉の向こう、広大な水晶の玉座の間。

そこに鎮座していたのは、数多の魔導書を宙に浮かべ、幾重もの防御魔法を纏ったこの宮殿の主――Bランク最上位ボス『賢者なる 水晶霊(クリスタル・セージ) 』だった。

『――愚かな人間よ。我が幻惑の宮殿を、あのような醜い足取りで突破してくるとはな。だが、ここが貴様の終着点だ。その穢れた魂を、永遠の夢の中に――』

荘厳なテレパシーが響き渡る。

だが、俺は赤ら顔で、虚ろな目をボスの巨大な水晶の核へと向けた。

「……おい。……うるさいぞ。……それより……お前……。……なんか……美味そうな……かき氷に……見えてきたな……」

『……え?な、何!?』

「……イチゴ味か……? ……ブルーハワイか……? ……どっちにしろ……俺の……デザートに……してやる……」

俺は、よろけながらも拳を握りしめた。

【知力:20】と【アルコール度数:9%】。

物理と酔狂が極まった、かつてないほど「話の通じない」挑戦者を前に、賢者たるボスモンスターは、その長い生涯で初めて「恐怖」という感情を抱くことになる。

「……しゃあッ!! ……飲み会……二次会……開始だッ!!」