作品タイトル不明
漁夫の利と、そして激闘
壁のひび割れから覗く大広間は、まさに地獄絵図と化していた。
「ぐおおおおっ! クソッ、硬すぎるぞコイツ! 魔法をもっと集中させろ!」
「無理ですリーダー! さっきから上級魔法を連発してるのに、表面の魔力障壁が剥がれただけですよ!」
「MPポーションが尽きました……! これ以上は……ッ!」
左京玄弥が金で雇ったAランク相当の冒険者パーティー。
彼らの実力は確かに本物だった。
俺が壁の裏で息を潜めている数十分の間、彼らは見事な連携で極大魔法を連発し、リビングアーマー・ジェネラルを相手に一歩も退かずに戦い続けていた。
だが、相手はBランク上位の最凶クラス。
無尽蔵の体力と、魔法を減衰させる漆黒の重鎧。
そして何より、一振りで広間の石柱を両断する巨大な『魔剣』の威力が、ジワジワと冒険者たちのリソースを削り取っていった。
ガキンッ!!
「がはぁッ……!?」
ついに、リーダーの大剣が魔剣の重撃に耐えきれずにへし折られ、男は血を吐きながら床を転がった。
前衛が崩壊したことで、後衛の魔術師たちはパニックに陥る。
「……エク子。奴の残り体力の見立ては?」
「全身の魔力障壁は完全に消失! 装甲の繋ぎ目にもガタが来ています! 推定残りHP、約20%! ですが……怒り状態に入りました! 魔剣の出力が跳ね上がっています!」
「十分だ。……下請けの尻拭いをしてやるのが、有能な事務員の仕事だからな」
俺は新品のジャージの襟を正し、粉砕した壁の穴から、土煙を上げて広間へと足を踏み出した。
「なっ……! ジャージのおっさん!? 生きてたのか!」
「お前ら、下請けに出した『削り』のノルマは達成したみたいだな。お疲れさん。……あとは俺が引き継ぐ」
俺は脚力を爆発させ、魔術師たちに振り下ろされようとしていた魔剣の軌道上へと飛び込んだ。
「マスター、右斜め上から来ます!」
右腕に防御スキル『竜鱗装甲』を展開。
限界まで高めた規格外の腕力で、迫り来る魔剣の刃を両手で挟み込む。
ゴアァァァァァンッッ!!
足元の石畳が衝撃で陥没する。
物理的な重さは完全に殺した。――いける、と思った次の瞬間だった。
「なっ……!?」
ボワァァァッ!!
魔剣の刀身から、青白い『怨念の炎』が爆発的に噴き出したのだ。
「ぐっ、あああああッ!?」
「マスター!? ダメです、その炎は物理装甲を貫通する『魔法ダメージ』です! 知力が初期値のマスターには魔法への耐性が皆無だから、直撃したら消し炭になります!!」
熱いというより、魂を直接削られるような激痛。
俺はたまらず手を離し、後方へ大きく飛び退いた。だが、遅かった。
新品のジャージの両腕部分は燃えカスとなって消え去り、俺の腕は酷い火傷を負って皮がめくれ上がっていた。
「ハァッ……ハァッ……!」
すぐさま自己再生のスキルが稼働し、ジュージューと音を立てて火傷を治癒していくが、痛みが完全に消えるわけではない。
リビングアーマーは俺を新たな標的と認識し、怨念の炎を纏った魔剣を引きずりながら、ズシン、ズシンと距離を詰めてくる。
(……甘く見すぎたか。流石はBランク上位。いくら瀕死とはいえ、知力20の俺にとっては、あの魔法剣のバフは天敵すぎる)
俺は焼け焦げた腕を振り、深く息を吐いた。
ただの腕力だけで一方的に蹂躙できる相手じゃない。もしあの大剣をまともに食らえば、防御スキルごと両断される。
「マスター、どうしますか!? 一旦退いて態勢を――」
「いや、ここで引いたら魔剣(1500万)を失う。……やるしかない」
俺は重心を極限まで落とした。
魔法が防げないなら、魔法を撃たれる前に、あるいは相打ち覚悟で懐に潜り込むしかない。
宗一朗のじいさん相手に見せた『肉を切らせて骨を断つ』戦法だ。
『ゴオオオオオオオッ!!』
リビングアーマーが咆哮を上げ、魔剣を大上段から振り下ろってきた。
青白い炎の軌跡が視界を埋め尽くす。
「……ッ!!」
俺は避けない。
いや、完全に避ければ懐に入れない。俺はあえて左肩を前に出し、魔剣の刃を『受けに』いった。
ズバァァンッ!!
「ぐあぁぁぁッ!!」
竜鱗装甲がガラスのように砕け散り、魔剣が俺の左肩に深く食い込む。
鮮血が舞い、骨が軋む嫌な音が響いた。怨念の炎が傷口を焼き、意識が飛びそうになる。
「マスターッ!?」
「……捕まえたぞ、デカブツ」
俺は血反吐を吐きながらも、魔剣を食い込ませたまま、左腕でその巨大な剣身をガッチリと抱え込んだ。
これで、奴は剣を引き抜けない。
『……!?』
リビングアーマーの兜の奥の赤い光が、明らかな動揺を見せた。
「知力20の脳筋を、舐めるなよッ!!」
痛覚を怒りに変換し、限界まで引き絞った右拳。
己の持つ規格外の筋力の全てをその一点に集中させ、漆黒の胸当て――その中心にあるコアに向かって、渾身のストレートをブチ込んだ。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!
大砲の直撃すら凌駕する破壊のエネルギー。
分厚いBランク上位の装甲が、メシャァッ!という凄惨な音と共に陥没し、俺の右腕は肘まで敵の胸の中にめり込んだ。
「砕けろォォォッ!!」
内部で拳を開き、コアごと掴んで握り潰した。
『――条件達成。【存在強奪】が発動します』
『――Bランク上位存在の強奪を確認。ボーナスを加算します』
システム音が鳴り響き、崩れ落ちたリビングアーマーの巨体が砂嵐のノイズに包まれ、世界から完全に 消去(デリート) された。
直後、強奪した莫大なエネルギーの奔流が俺の肉体を駆け巡り、斬り裂かれた左肩の傷を瞬時に塞いでいく。
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【名前】結城 誠(35)
【Lv】32(↑UP)
【HP】4200(+700)
【筋力】1380(+400)
【耐久】1250(+400)
【敏捷】880(+400)
【知力】20(+0)
【獲得スキル】
【怨念耐性 Lv1】(NEW)
【剛腕 Lv1】(NEW)
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「ハァ……ハァ……ッ」
光の粒子が収まった後。
俺の足元には、黒光りする禍々しい【亡霊将軍の魔剣】だけがコロンと転がっていた。
魔物そのものの存在を強奪したため、100%の完全ドロップだ。
「マ、マスター……無茶しすぎです! 肩の骨、見えてましたよ!?」
「うるさい。……だが、これでようやく筋力が1300オーバーだ。……そして案の定、知力は20のままだな」
俺は息も絶え絶えになりながら魔剣をインベントリに放り込み、ゆっくりと振り返った。
そこには、俺の理不尽な相打ち戦法を目の当たりにして、ガチガチと歯の根を鳴らして震える冒険者たちがいた。
「ヒィッ……! バ、バケモノ……! あんな一撃を食らって、なんで平然と立ってやがる……!」
リーダーの男が、折れた剣を放り出して後ずさる。
俺は血まみれで両腕の袖が吹き飛んだ無残なジャージ姿のまま、彼らを見下ろして冷たく言い放った。
「安心しろ、俺は無駄な殺しはしない。……だが、左京玄弥にはきっちり伝言を頼むぞ」
「て、伝言……?」
「ああ。『お前が用意してくれた下請けの削り作業のおかげで、楽に稼げた。次もよろしく頼む』……ってな」
俺は痛む肩をさすりながら、わざとらしくニヤリと笑ってみせた。
いくらボロボロに苦戦しようが、最後に立っていたのは俺だ。
自分の策が完全に逆利用され、美味しいところだけを掻っ攫われたと知れば、あの底知れない眼鏡男も少しは顔を歪めるだろう。
「さあ、帰るぞエク子。1500万の納品だ」
「了解です、マスター! 美桜ちゃんのエリクサーに、また一歩近づきましたね!」
呆然とする冒険者たちを置き去りにして、俺は隠しきれない疲労を引きずりながらも、堂々とダンジョンの出口へと向かった。
知力20の弱点を突きつけられた苦しい戦いだったが、ボスからの最初の特命依頼は、これ以上ないほどの『完璧な出し抜き』で幕を閉じたのだ。