軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最底辺のポーター、裏切りの帰路

翌日。

関東最大規模を誇る『第1ダンジョン』のゲート前。

指定された集合場所に、俺は大きな 背負子(しょいこ) と巨大なリュックを抱えた『ポーター』の格好で現れた。

ジャージ姿のまま背中よりも大きな荷物を背負う姿は、どう見ても金に困った末路の底辺おじさんだ。

「……はっ? 嘘だろ、おい! なんで昨日のおっさんがここにいんだよ!?」

俺の顔を見るなり、大声でゲラゲラと笑い出したのは剛田だった。

彼らCランクパーティー『紅蓮の牙』の四人が、今回のまどかの護衛だ。昨日のフルプレートアーマーを着たリーダーの男に、ローブ姿の魔法使いの女、そして軽装の 斥候(スカウト) の男がいる。

「剛田、知り合いか?」

「知り合いも何も、俺の女にストーカーしてた痛ぇ元事務員ですよ! いやー、協会クビになってホームレスになったかと思えば、まさかウチらのポーターやってるとは傑作だぜ! なぁ、おっさん!」

剛田が俺の肩をバンバンと乱暴に叩く。

周囲の冒険者たちも、蔑むような視線をこちらに向けてクスクスと笑い声を上げていた。

「おいおっさん、ポーターは弾除けと荷物運びが仕事だ。俺たちの足を引っ張ったら、魔物の餌にして置いていくからな!」

俺は何も言い返さず、ただ黙って頭を下げた。

「マスター、あの金髪ムカつきます! 今すぐそのドヤ顔を【存在強奪】してやりたいです!」

「我慢しろ、エク子。今はまだ『ただの気の弱いポーター』だ」

しばらくして、漆黒のパンツスーツに身を包んだまどかが現れた。

彼女は俺たちを一瞥すると、冷徹な声で告げる。

「無駄口を叩いている暇はないわ。行くわよ」

まどかを中央に配置し、前衛に剛田とリーダー、後衛に魔法使いと斥候。

そして俺はその最後尾を、重い荷物を背負ってトボトボとついていく陣形が組まれた。

目的の受け渡し場所は、このダンジョンの『第三階層』。

そこに出現する魔物はDランク相当であり、Cランクパーティーである彼らにとっては、まさに赤子の手をひねるような難易度だった。

『グルルルッ……!』

通路の奥から現れたのは、Dランク魔物の『ケイブウルフ』の群れだ。

だが、剛田が大剣を一振りするだけで、狼の魔物たちはあっけなく両断されていく。

「ハハハッ! どうだおっさん、これが本物の冒険者の力だ! 腰抜かしてチビってんじゃねえぞ!」

剛田は魔物を倒すたびにわざわざ振り返り、俺に向かって自慢げに剣をひけらかした。

確かに彼らは強い。一般人から見れば超人的な動きだ。

だが、中級ダンジョンでCランクのオークや装甲百足と素手で死闘を演じた俺の目から見れば、剛田の剣筋には無駄が多く、隙だらけだった。

(……大振りすぎる。あの動きなら、俺が五発は殴り込めるな)

そんな俺の内心の評価など知る由もなく、一行は順調に第三階層のセーフエリアへと到着した。

そこにはすでに、まどかの本家『黒犬』の使いである黒服の男たちが数名待機していた。

「柊まどか様。ご苦労様です」

「ええ。要求された素材はすべて揃っているわ。確認しなさい」

まどかがアタッシュケースを開けると、本家の男たちは中身を確認し、満足げに頷いた。

特に問題が起きることもなく、受け渡しは極めてスムーズに完了した。

本家の人間たちは素材を受け取ると、そのまま足早にダンジョンの奥にある転移陣を使って帰還していく。

これであんたの立場も少しは安泰だな、と俺がまどかに視線を送ると、彼女は小さく安堵の息を吐き出していた。

「……終わったわ。さあ、私たちも地上へ戻るわよ」

まどかの号令で、再び同じ陣形を組んで来た道を引き返す。

俺の仕事もこれで終わりだ。地上に戻れば、約束の護衛費用100万円が手に入る。

……そう思っていた、矢先のことだった。

第一階層へと続く階段の手前。

魔物の気配が途絶えた開けた岩場で、先頭を歩いていたリーダーの男が、不自然にピタリと足を止めた。

「どうしたの? 早く進みなさい」

まどかが咎めるような声を上げた瞬間。

チャキッ、と。

冷たい金属音が響き、剛田の大剣が、そして後衛の魔法使いの杖が、一斉にまどかへと向けられた。

「……何の真似かしら、これは」

まどかの声が、氷のように冷え切った。

だが、剛田たちは悪びれる様子もなく、ニタニタといやらしい笑みを浮かべてまどかを完全に包囲していた。

「悪いな、まどかサン。アンタの護衛依頼もオイシかったが、本家の人間から直々に『もっと割のいい仕事』を頼まれちまってよ」

剛田が下卑た笑い声を上げる。

「本家が……? あの受け渡しの最中に、あなたたちを買収したというの?」

「そういうことだ。アンタに手柄を立てられちゃ困る連中が、身内には腐るほどいるってことさ」

リーダーの男が一歩前に出た。

「ダンジョン内での不慮の事故。魔物に襲われ、まどか様は無残に命を落とした。……我々は必死に守ろうとしたが、あの『無能なポーター』がパニックを起こして魔物を大量に引き寄せてしまったせいで、全滅の危機に陥った……。どうだ? 完璧な筋書きだろう」

俺をスケープゴートにする気か。

なるほど、適性なしで身寄りのない最底辺のポーターは、彼らにとってこれ以上ないほど都合のいい『生贄』だったというわけだ。

「……あなたたち、後悔することになるわよ」

まどかは囲まれながらも、一切の恐怖を見せず、凛とした態度で剛田たちを睨みつけた。

「強がりはそこまでだ。アンタの首、本家への手土産にさせてもらうぜ!」

剛田が殺意を剥き出しにし、大剣を上段に構え、まどかに向かって振り下ろそうとした。

その直前。

ドサッ。

背後の静寂を破り、重い背負子が地面に投げ出される音が響いた。

全員の視線が、音のした方角――最後尾にいた『ただのポーター』へと集まる。

「……おいおっさん、てめぇはそこで大人しくガタガタ震えてろ。すぐに楽にして――」

「なぁ、剛田」

俺は背負子を完全に下ろし、首の骨をゴキゴキと鳴らしながら、ゆっくりと前へ歩み出た。

「お前たちの剣筋、ずっと後ろで見てたんだが」

俺はジャージの袖をまくり上げながら、静かに、そして絶対的な確信を持って告げた。

「遅すぎて、あくびが出そうだったよ」