軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嫉妬の簒奪者 その2

「はぁっ、はぁっ……! ごめんなさい、遅刻しました!」

天道茜が、寝癖を直す暇もなく学園のダンジョン入り口に駆けつけた時。

そこは、すでに阿鼻叫喚のパニック状態に陥っていた。

「退避しろ! 生徒を全員外へ出せ! ダンジョンの魔素が異常値を示している、内部でブレイクが起きたぞ!!」

「教師陣は防衛線を張れ! 絶対に魔物を外へ出すな!」

血相を変えた教師たちが、結界を張り、逃げ出してきた生徒たちを誘導している。

茜は、その只中で息を呑んだ。

「先生! 何があったんですか!? 私のクラスの……結城くんたちは!?」

「天道か! 君も早く避難しなさい!

……結城を含む神崎のチームが、まだ内部の第4エリアに取り残されているという情報があるが、今は救助隊の編成が……っ!」

その言葉を聞いた瞬間、茜の頭から血の気が引いた。

(結城くんが、まだあの中に……!?)

神崎たちが、適性ゼロの結城誠を庇って戦うはずがない。

そんなことは、茜が一番よくわかっていた。

あの時、彼を囮にして逃げたように。今回も絶対に、彼を捨て駒にするに決まっている。

「待ってて、結城くん……っ!」

茜は、制止する教師の声を振り切り、白銀の剣を抜いて、魔物が溢れ返るダンジョンへと単身飛び込んでいった。

――茜の嫌な予感は、最悪の形で的中していた。

「おい、どうすんだよ神崎! ポーションもねえし、囲まれたぞ!」

「うるせえ! 俺のせいじゃねえ! ……そうだ、おい無能!!」

魔法が底を尽きた神崎は、狂乱した目で、最後尾で荷物を抱えて震えていた俺を睨みつけた。

「お前、荷物全部置いて、あいつらの前に出ろ!!

お前が囮になってる間に、俺たちは脱出ルートを探す!!」

「なっ……また、そんなこと……!」

俺が抗議する間もなく、神崎と取り巻きの二人は、俺の背中を力一杯蹴り飛ばした。

バランスを崩し、俺は魔物の群れのど真ん中へと転がり落ちる。

「じゃあな無能! 俺たちのために死ねて本望だろ!」

一目散に逃げ出す神崎たち。

俺は、迫り来るオークの振り下ろす棍棒を、間一髪で地面を転がって回避した。

怖い。死にたくない。

俺は、無我夢中で立ち上がり、神崎たちとは別の方向――入り組んだ遺跡の通路へと、死に物狂いで走り出した。

息が肺を焼き、転んで膝を擦り剥いても、ただひたすらに走った。

適性ゼロの悲しさか、身体能力も一般人並みの俺は、すぐに体力の限界を迎えた。

「はぁっ、はぁっ……がはっ……」

崩れ落ちた瓦礫の陰に身を隠し、俺は口を手で覆って必死に呼吸音を殺した。

すぐ外を、魔物の群れが通り過ぎていく。

見つかれば終わりだ。

武器もない、魔法も使えない。俺はただ、暗闇の中でガタガタと震えながら、己の無力さを呪うことしかできなかった。

(また……逃げちまった。俺は、いつだって逃げてばっかりだ)

その時だった。

瓦礫の向こう側から、紅蓮の炎が吹き荒れ、魔物たちの悲鳴が上がった。

「結城くん!! どこ!? 返事して!!」

悲痛な叫び声。

俺は、信じられない思いで瓦礫の陰から顔を出した。

「……天道、さん……?」

「結城くんッ!!」

返り血で顔を汚し、息を乱した茜が、俺を見つけて泣きそうな顔で駆け寄ってきた。

「よかった……っ! 本当に、よかった……!」

茜は俺の無事を確認すると、その場にへたり込むようにして俺の腕にしがみついた。

「どうして……天道さんが、ここに……」

「助けに来るに、決まってるじゃない……っ! 結城くんがいなくなるなんて、私、絶対に嫌だもん……!」

涙目で微笑む彼女の顔を見て、俺の胸がギュッと締め付けられた。

また、助けられてしまった。俺はいつも、この太陽みたいな女の子に守られてばかりだ。

「ありがとう、天道さん。……出口へ向かおう。ここは危険すぎる」

「うん。私の後ろから離れないでね」

茜が立ち上がり、剣を構え直す。

俺たちは、警戒しながらダンジョンの上層を目指して歩き出した。

だが、俺たちの運命を狂わせる『本当の絶望』は、魔物の群れなどではなかった。

出口へと続く大通路。

そこに、一人の男が立っていた。

黒い燕尾服に、シルクハット。

顔の半分を奇妙な仮面で隠し、手にはステッキを持った、まるで場違いな手品師のような男だった。

その足元には、数匹の凶悪な魔物が、飼い犬のようにおとなしく傅いている。

「やあやあ、よくここまで辿り着いたね。少年、そして……才能に溢れた、美しき少女よ」

男の声は、どこか芝居がかっていて、背筋に冷水が走るほど不気味だった。

「誰……? 学園の先生じゃないよね」

茜が剣を構え、俺を庇うように一歩前へ出る。

「僕かい? 僕はただの『コレクター』さ。美しいもの、強いもの、そして……『才能があるもの』を集めるのが趣味でね」

男はステッキをクルクルと回し、仮面の奥から粘着質な視線を茜へと向けた。