軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

適性ゼロの日陰の荷物持ち

「おい、無能」

神崎が、ドンッ! と俺の足元に、巨大な三つのリュックサックを蹴り飛ばした。

「俺たちの予備のポーションと、武器のメンテナンスキット、あと食料だ。

お前は魔法で援護もできねえんだから、せめてロバの代わりくらいは果たせよ」

「……はい」

「足手まといになるなよ? 俺たちの華麗な戦闘の邪魔をしたら、ただじゃおかねえからな。荷物持ち、よろしくなァ!」

俺は何も言い返せず、黙って三つの重いリュックを背負い上げた。

肩に食い込むベルトの重みが、今の自分の惨めな立ち位置そのもののように感じられた。

模擬ダンジョンでの探索が始まった。

「オラァッ!! 燃え散れ!!」

神崎の放つ炎の魔法が、訓練用のストーンゴーレムを次々と粉砕していく。

取り巻きたちも、それに合わせて剣を振るい、見事な連携で敵を圧倒していた。

確かに、彼らは才能の塊だった。

一年生とは思えないほどの魔力量と戦闘センス。彼らだけで、この訓練は完璧に成立していた。

俺の存在意義など、どこにもなかった。

「おい結城! 魔力ポーション出せ!」

「は、はい!」

「遅えよグズ! どんくせえな!」

俺は、三人分の重い荷物を背負い、汗だくになりながら彼らの後ろを必死についていった。

足場が悪く、息が上がる。

マッピングのために立ち止まろうとすれば、「置いていくぞ」と怒鳴られる。

戦闘が終わった後のポーション係と、彼らが落としたゴミを拾うだけの役割。

支援科として学んだ『戦況把握』や『後方からの指示』など、口を挟む余地すら与えられなかった。

(わかってたさ。……周りの評価も、俺が無能だってことも)

汗が目に入る。拭う余裕もない。

理不尽な暴言を浴びせられ、顎で使われながら、俺はひたすら耐えた。

ここで言い返してチームを崩壊させれば、俺の評価は『無能で協調性もないゴミ』に落ちる。ただひたすらに、時間が過ぎるのを、この地獄のような合同授業が終わるのを耐えるしかなかった。

「ははっ、見ろよあの無能。息上がってやんの」

「ほんと、なんでこんな学校来たんだろうな。大人しくその辺の工場ででも働いてりゃいいのに」

取り巻きたちの嘲笑が、背中から降り注ぐ。

俺は下を向き、重いリュックのベルトを握りしめながら、ただ泥だらけの地面を見つめて歩き続けた。

暗闇の中で、誰にも見られず、誰からも必要とされない。俺の学園生活は、この先もずっとこうして、誰かの影を踏みながら生きていくのだと、絶望感に心が黒く塗り潰されていくようだった。

――その時だった。

「うおおおおおおッ!! すげえええええッ!!」

「やったぞ!! ボス級ゴーレム、討伐完了だ!!」

突然、俺たちがいるエリアから少し離れた、遺跡の広場の方角から、地鳴りのような大歓声が沸き起こった。

神崎たちも足を止め、驚いたようにそちらを見る。

「なんだ? あの歓声……まさか、もう最深部のボスを倒したチームがいるのか!?」

「開始からまだ三十分しか経ってねえぞ!? どんな化け物だよ!」

俺は、重い荷物に押し潰されそうになりながら、木々の隙間からその歓声の中心を見つめた。

模擬ダンジョンの広場。

そこには、一刀両断にされた巨大なボス級ゴーレムの残骸が転がっていた。

そして、その残骸の頂点に立っていたのは。

「――っ」

一人の少女だった。

肩で切りそろえられた黒髪が、吹き抜ける風に揺れている。

手にした白銀の剣は、一振りの芸術品のように美しく、彼女の周囲にはキラキラとした光の粒子(魔力の残滓)が舞い散っていた。

天道茜、だった。

「すっげえぞ天道!! 完璧な一撃だった!!」

「天道さんのおかげだよ! 私たちのサポート、合わせやすかったでしょ!?」

「うんっ! みんなの支援魔法がバッチリだったから、思い切り踏み込めたよ! ありがとう!!」

茜の元へ、戦闘科と支援科のクラスメイトたちが駆け寄り、歓喜の輪を作っている。

茜は、剣を鞘に収めると、仲間たちに向かってとびきり眩しい、太陽のような笑顔を向けた。

そこには、戦闘科だ支援科だという壁も、見下すような視線も一切ない。互いの力を認め合い、共に勝利を喜び合う、真の『パーティー』の姿があった。

「あいつ……天道茜か。あいつも特待生の一人だが、まさかこれほどとはな……」

神崎が、忌々しそうに舌打ちをする。

俺は、薄暗い森の影の中から、その光景をただ呆然と見つめていた。

肩に食い込む荷物の重さも、取り巻きたちの嘲笑も、その瞬間だけは遠くへと消え去っていた。

(……すごいな。やっぱり違う)

仲間たちに囲まれ、称賛を浴びる茜の姿は、あまりにも眩しかった。

まるで、光り輝くステージの上に立つ主役。

そして俺は、そのステージを照らす照明の光すら届かない、観客席の一番後ろの暗闇で、ただ泥に塗れてうずくまっているだけの観客。

羨ましかった。

妬みや嫉妬じゃない。ただ純粋に、あの光の中にいる彼女が、あの笑顔で誰かと手を取り合える世界が、俺には絶対に手の届かない、絶望的なまでに美しいものに見えたのだ。

「おい無能! 何ボーッとしてんだ! さっさと行くぞ!」

神崎の怒声で、俺は現実へと引き戻された。

「あ……はいっ! 今行きます!」

俺は、再び重いリュックを背負い直し、光の当たる広場に背を向けて、薄暗い森の奥へと歩き出した。

俺と天道茜。

入学式の日に偶然言葉を交わしただけの、接点なんて何もない二人。

『才能に愛された太陽』と、『適性ゼロの日陰の荷物持ち』。

二人の間に横たわる絶対的な壁の大きさを、俺はこの日、魂の底まで刻み込まれたのだった。

だがこの時の俺は、まだ知らなかった。

あの太陽のように眩しい彼女の笑顔の裏側に、どれほどの重圧と、悲壮な決意が隠されていたのかを。