軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

孤児院での決意4

「アイリス、それと子ども達はすぐに中に入れ!」

殿下がすぐに子ども達に避難するよう声を上げる。

空を飛んでくる魔物の数は、およそ数百――――いや、千は超えるかもしれない。

「ユリア、アイリス様とみんなをお願い!あなたは魔法で 防御壁(シールド) を張って!」

「分かりました!って、ディアナ様!?」

「ディアナ!?」

院内へと子ども達を誘導し、ユリアに後を託す。

アイリス様が私を呼んだけれど、大丈夫ですと笑って扉を閉め魔法で鍵をかけた。

窓から焦った顔のミラの姿も見えたけれど、アイリス様をお願いと口パクで伝える。

ミラなら口の動きで読み取れるだろう。

ユリアはさすがヒロインだけあって、支援系の魔法に優れていると聞いている。

ミラもかなりの魔法の使い手だし、冷静にみんなをまとめてくれるはず。

彼女達に任せておけば、中は安心だ。

「ルッツ、市民に建物の中に入るように伝えろ。避難場所として孤児院を開放するともな」

私の意図を理解してくれたのか、殿下がルッツ様にそう指示を出した。

「承知致しました。一応確認はしますが、森から来たということは、ブルーム団長達も気付いてこちらに向かっているはずです。それまで耐えましょう」

そうか、お父様達が来てくれるならば心強い。

それまでなんとか街に被害のないように食い止める。

「おい、お嬢サマ!どうなってるってんだ!?」

そこへ男の子達と遊んでいたはずのレンがやって来た。

子ども達を中に避難させてから来てくれたらしい。

そこではっとレンの能力に気付く。

「お願い、レン。ルッツ様について行って市民の避難を誘導して頂戴」

「はぁ!?突然なに言ってんだ!俺はあんたの……」

「分かってる。でもこれは命令よ。あなたの空間移動魔法があれば、避難が遅れている人を建物の中に運ぶことも、魔物に襲われた時に逃げることもできる。ルッツ様を守りながらそれができるのは、あなたしかいないわ」

目に力を込めて訴えると、一瞬たじろいだ後、レンはため息をついた。

「……分かった。命令だからな、仕方ない。お嬢サマ、死ぬなよ」

「ええ。ありがとう」

そう答えると、レンはルッツ様と共に駆け出した。

そんなふたりを見送ると、殿下が私の方を向いた。

「さて、建物の中に入らずに、これから君はどうするつもりだ?」

「当然、戦います。私の魔法の腕はご存知でしょう?」

上等だと殿下が笑う。

ヒロインの対の存在、悪役令嬢だからだろうか、私は攻撃魔法に勝れている。

実際に魔物を相手にしたことはないけれど。

「……ですが不慣れですので、その点はご容赦頂きたいです」

「分かっている。君は私が守るから、存分に力を発揮してくれ」

じんと胸が熱くなる。

その言葉は、私への信頼に溢れていたから。

それでいて、守るからという言葉までくれた。

「……殿下は、ズルいです」

「なにを言っている?……そろそろ来るぞ」

先程まで黒い点に見えていた魔物達のその姿が、くっきりと分るところまで接近してきた。

射程範囲に入ってきたあたりで、私は手のひらを空に向かってかざす。

「 火炎旋風(ファイアー・ストーム) !」

こんな時だからこそ、悪役令嬢のチート能力を使わないとね!

そんな気持ちで中級炎属性魔法を放つ。

先頭を飛んでいた数十体の魔物は今の一撃で仕留めることができた。

「その調子だ。できるだけ空を飛んでいるうちに遠隔魔法で数を減らしておきたいな」

「はい、街に被害が出るのは最小限にしたいです」

ここが広い荒野なら上級の爆発魔法でもかましたいところだが、あいにく市民達が建物内に避難している。

「 雷撃旋風(ライトニング・ストーム) !」

「 火炎弾(アストラル・ファイア) !」

殿下と私は次々と魔法を放ち、できるだけ空中で仕留め、なおかつ魔物を焼き尽くすようにしていった。

スパッ!と切ったその体が街に落ちてくるのはとても危険だから。

とはいえその数はものすごく、ふたりだけの魔法で追いつくわけもない。

「くそ、降りてきたな。――――来るぞ」

「はい!」

魔物達は完全に私と殿下を標的と見なしたらしく、次々とこちらに向かって飛んで来る。

孤児院の庭はかなりの広さがあるが、炎属性魔法は周囲を巻き込む可能性があるため、危険だ。

「私は氷属性に切り替える」

「私も地上では炎属性を控えます」

同じことを考えていたのだろう、ふたりで顔を見合わせ頷き合う。

魔物達が地面に降り立った瞬間、殿下は剣を鞘から抜き、魔法を組み合わせながら魔物達を掃討していく。

ならば私は。

「 細氷河(ダイヤモンド・ダスト) !」

まずは魔物達の動きを止めなければ。

そう判断し、上級広範囲魔法で魔物達を凍らせた。

凍らせ切れなかった魔物は殿下に任せ、今度は炎属性魔法で後方の、まだ空にいる敵も減らしておく。

それを繰り返し、できるだけ効率良く魔物達を倒していく。

「ディアナ嬢!」

その声にはっと振り返れば、気配を消した魔物が私をうしろから狙っていたようで、それに気付いた殿下が剣で薙ぎ払ってくれた。

「あ……ありがとう、ございます」

「守ると言ったからな。もう少しだ、頑張れ」

殿下の額にも汗が見える。

もう少し、もう少ししたらきっと――――。

さすがに疲労から集中力が切れかかってきた、その時。

「ディアナ!殿下!お待たせ致しました!」

頼もしい声が響いた。

馬を走らせるお父様、そしてそのうしろからも見慣れた第二騎士団の騎士たちの姿が。

「魔お……王子殿下!」

「軍曹殿〜!無事ですか〜!?」

……軍曹って誰のことよ。

あの悪役令嬢モードでの 演習(シゴキ) を受けた騎士達からの声を聞いて、ガクリと力が抜ける。

大丈夫、魔力も残っているし、まだ戦える。

余計な肩の力も抜けた、ここからが本番だ。

「さあ、やっておしまいなさい!ここで市民達を守れなかったら、騎士の名折れよ!」

ノリに合わせて上官仕様でそう叫べば、騎士達がおう!と声を上げてくれた。

「殿下!もう少しです、頑張りましょう!」

一緒に。

俄然やる気が回復してきた私に、殿下がふっと笑みを零した。

「ああ。だが油断はするな。君が倒れたら、悲しむ人が大勢いる。……私もその中のひとりだということを忘れるなよ」

「え?あ、ちょっ……」

そう言い残して殿下はまた魔物へと斬りかかっていく。

「大丈夫ですか?私がお守りしますので、魔法に集中して頂いて結構ですよ」

そこへ副団長のマルちゃんがやって来た。

どうやらお父様に私が魔法攻撃に集中できるよう、魔物から守れと命令を受けて来てくれたらしい。

「ありがとうございます。それでは遠慮なくやらせて頂きます」

“守る”。

その言葉は、先程殿下に言われたことと同じなのに。

「どうして、さっきはあんなに胸が熱くなったんだろう……」

「?なにかおっしゃいましたか?」

「いえ、なんでもありません。――――いきます。 岩石落下(ロック・レイン) !」

それを考えるのは後だ。

ちゃんとこの気持ちと向き合って、認めるのも。

「――――さあ次々行くわよ!もちろん死者なんて出ないように、自分達の命も大切にしなさい!」

「「「「はい!」」」」

そこかしこから、それに応える声が上がる。

私達は、負けない。

必ず守ってみせる。

そんな強い心を持って、魔力が切れるまで攻撃魔法を放っていった。