軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

わがまま姫様の憧れ4

「ところでアイリス。話し相手として呼んでしばらく経つが、ブルーム侯爵令嬢とはうまくやれているか?」

答えの分かりきった問いかけをするクラウスに、アイリスはこくりと頷く。

「ええ。毎日楽しくなったのは、ディアナのおかげ。だっていつも新しいことを教えてくれて、たくさん笑わせてくれるもの」

ディアナを想い笑顔になるアイリスに、また大人達の心が和む。

「グエンとも仲良くなったし。ふふ、騎士団を見に行った日も、弟ができたみたいで楽しかったわ」

自分よりも幼い子をかわいがることはとても良いことだと、騎士団演習の日の帰り際、ディアナはアイリスに話していた。

今までそんな存在がいなかったから分からなかったけれど、頼りにされたり世話を焼いたり、ありがとうと言われることがアイリスはとても嬉しかった。

自分がなんだかお姉さんになったような、そんなくすぐったい気持ちになるのは初めてだった。

「ディアナみたいになりたいなぁって思ったら、色んなことを頑張りたくなって、そうしたらどんどん楽しくなってきて。私、今すごく毎日が楽しいの」

楽しいを連発するアイリスの表情は、穏やかで。

少し前の、わがまま姫様と呼ばれてきた姿が嘘のようだ。

「そうか、それは良かった。ブルーム侯爵令嬢のような、素敵なレディになれると良いな」

多少素敵なレディという言葉が似つかわしくない言動はあるが、とクラウスは心の中で呟いた。

「ええ。ところでお兄様……」

「?なんだ?」

眉を寄せるアイリスに、クラウスは首を傾げた。

「どうしてお兄様は、ディアナのことを“ブルーム侯爵令嬢”って呼ぶの?私や、そこのお兄様の秘書官もディアナって名前で呼んでるのに」

予想外のアイリスの発言に、ぴしりとクラウスが笑顔で固まる。

「………………アイリス。貴族のご令嬢を名前で呼ぶには、許可がいるんだ。軽々しく名前で呼んではいけない、知っているだろう?」

なんとかして言葉を絞り出したクラウスに、アイリスは頷く。

「知っているわ。だから私も、ディアナに名前で呼んでって言ったし、ディアナも私に名前で呼べば良いって言ってくれたもの」

だけど……とアイリスはクラウスのうしろに控えていたルッツを見た。

「どうしてお兄様は呼ばないの?呼んで良いかって、聞けば良いじゃない」

誰もが思っていながら口にできなかったことを指摘され、クラウスの胸にグサリとなにかが刺さった。

「それにディアナだって、私や秘書官のことは名前で呼ぶのに、お兄様のことだけ“殿下”って呼んでるわ。私知ってる、そういうの、“タニンギョウギ”っていうんでしょ?」

グサグサグサ!と追い打ちをかけるように、アイリスの言葉がクラウスの胸を貫いていく。

「お兄様も、ディアナに言えば良いのに。名前で呼び合おうって。お兄様はディアナと仲良くなりたくないの?」

「そ、そういうわけではないが……」

瀕死寸前のクラウスに、なおもアイリスの口撃は止まらない。

「ちっとも難しくないことなのに、どうして言えないの?」

「お、大人には色々と事情があるんだアイリス……!!」

必死にそう言い訳するクラウスを、アイリスはふぅん?と呆れた目をして見つめた。

(すごいわ姫様、あの殿下がタジタジだわ……)

(子どもとは時に残酷ですねぇ。ここまで正直に疑問を口にできるのは、王女殿下だけでしょうね)

沈黙を守る侍女達とルッツは、ふたりの会話の行く末を見守る。

「そ、そういえばアイリス!騎士服を着てみたいと言っていたな!おまえのサイズに合わせて作らせたものがもうすぐできあがるそうだぞ!?」

((あ、話を逸らしたな))

ルッツと侍女達の心の声が重なる。

「えっ!?本当!?」

だがアイリスにとっては重要なことだったため、目を輝かせてクラウスの話に乗った。

「ディアナが着ていて、かっこいいなぁって思ったのよね」

「そうか、おまえも騎士服の似合う凛々しい女性になれると良いな」

上手く話を逸らせたことに満足しながら、クラウスはアイリスに相槌を打った。

しかし次の瞬間、その表情が一変することとなった。

「ええ!私も魔法の勉強を頑張ったら、ディアナみたいな攻撃魔法も使えるようになるかしら?いつもの優しいディアナも、その、好きだけど、騎士達を相手にしている時のディアナも格好良くて素敵だったわ!」

ん?

アイリスの言葉に、クラウスとルッツが固まった。

「自分よりずっと年上の騎士達を、あんな風にやりこめちゃうなんて、すごかった。おーっほっほっほ!だっけ?ああやって笑いながらすごい魔法を次々と使えるようになりたいわ。今の私にはそんな余裕ないもの」

拳を握り締めてやる気いっぱいのアイリスを、ふたりは微妙な気持ちで見つめた。

「ア、アイリス。その、あれは別に真似しなくても……」

こくこくとクラウスのうしろでルッツも同意したが、アイリスはきょとんとした。

「?どうして?すっごく素敵だったじゃない!お兄様も笑っていたでしょう?最高に成功したって言ってたし」

まさかディアナの豹変ぶりを笑ったことが、こんな形で返って来るとは。

「ディアナにあの笑い方、習おうかしら。ちょっと悪い感じの美人ってあんなに格好良いのね。あ、もちろん前みたいに侍女達に意地悪したりはしないから、安心して?」

ちっとも安心できない。

くらりと眩暈を覚えるクラウスだったが、これほどディアナに対して憧れを持っているアイリスを否定することも憚られ、ただ黙って話を聞くことしかできないのであった――――。