軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士団演習3

「くそっ、おい、なんとかしろよ!」

「無理だよ、囚われた仲間が多すぎる!」

「おいおいおい!攻撃魔法まで飛ばして来やがるぞ、あのお嬢様!」

「おーっほっほっほ!まだまだ行きますわよ!ちゃんと避けないと、すぐに捕まってしまいますよ!」

ゲーム開始の合図から三十分後、私は絶好調だった。

警備兵と賊の二チームに分かれた騎士達に、まず私はルールを説明した。

もちろんブルーム家の子ども達に教えたものと同じ。

なんだ簡単じゃないかと、当初は騎士達も緊張を緩めた。

――――しかし、それで終わりなわけがなかった。

『皆様が慣れてきた頃に、私が様々な障害を魔法で加えます。武器も魔法も使わずに、それを避けながらゲームを続けて下さい。ああもちろん、どちらのチームにも平等に行いますので安心して下さい』

それって無差別ということか……?背後から殿下の呟きが聞こえたが、綺麗に無視した。

そして油断した騎士達が順調にゲームを進め、開始から十五分後、私は行動に移した。

「警備兵チームは、今から五分以内に賊を追加で五人捕らえなければ、警備兵のみを襲う土人形を放出します」

「賊チーム、今から五分以内にエリア内に隠されたボタンを三つ押せば、牢から仲間を三人解放します。失敗したら三人捕まります」

「ああっ!魔物からの襲撃が!炎の矢が飛んできますので気を付けて!」

……とまあ、様々な課題や障害を増やしていったのだ。

「なるほど、これは体力も知力も団結力も必要となるな」

「まさかここまで考えてくれるなんてね。ご令嬢の考えは私の予想以上だったよ、ブルーム団長」

「攻撃魔法も見事なものですねぇ。丸腰とはいえ、我が国の騎士団がこうも翻弄されているとは、いやはや感服です」

傍観者よろしくお父様と殿下、そしてルッツ様が感心しながら騎士達の動きを分析している。

その隣ではマルちゃんが記録をとりながら苦笑いをしていた。

もっと過酷にしてやっても良いな……とお父様がぼそりと呟いたのを聞き漏らさなかった私は、こくりと頷いた。

「ああああっ、大変!地震が発生しました!皆様地割れにご注意を!」

土魔法を駆使して、観覧席には少しも影響を与えないよう調整しながら、演習場に地震を発生させる。

「「「「や、やめてくれーーーーっ!!!」」」」

油断大敵、一寸先は闇だ。

騎士達の悲鳴を聞きながら、私は手を合わせた。

時の流れとは早いもので、昼過ぎから始めてもう夕方。

警備兵と賊チームを入れ替えながら四セット行い、騎士達はもうかなりボロボロだ。

「皆様、お疲れ様でした。私などの考えたお遊びに付き合って頂き、ありがとうございました」

はじめましての際に向けられていたものとは全く違う種類の視線を向けられながら、私は若干の嫌味を含めつつ謙虚そうにお礼を言った。

「「「「あ、ありがとうございました、すみませんでした……」」」」

騎士達は死屍累々といった感じ。

ちょっとやり過ぎちゃったかしら。

お父様がうしろから後押しするものだから、つい。

「おねえしゃま、つよーい!ね!」

「本当!グエンとふたりで盛り上がっちゃったわ!」

キラキラとした目をしてグエンとアイリス様が手を繋いで観覧席から降りてきた。

いつの間にか仲良くなったみたい。

……姉弟みたいでかわいい。

ふたりの愛らしい姿にほっこりしていると、お義母様がその後からついて降りてきた。

「もう、あなたもディアナも張り切り過ぎよ?全く……だから出発前に悪女の演技と高笑いは止めなさいと忠告しておいたのに……」

はあぁとため息をついて眉を下げるお義母様の発言に、私ははたと思い出した。

『あの悪女みたいな演技と高笑いは、今日は止めておきなさいね?』

「あ」

「こほん。……すまない、ディアナを侮られてつい、気が高ぶってしまった」

お父様は私の言動を気にしていないようで、そうお義母様に謝ったが、今になって恥ずかしくなってきた。

「くっ……。夫人、構わないよ。私も、くくっ、楽しませてもらったし、とても良い訓練になったから、な。ぷっ」

固まる私に、いつかの再現のように笑いを堪える殿下が止めを刺した。

「あ、あの……「そうですねぇ。ディアナ嬢は実に多才でいらっしゃる」

褒めているのか褒めていないのか、ルッツ様もそう被せてきた。

し、しまった……!

もう、どうして私はこうもノリやすい性格をしているのよ!

大人しくしていようと決心したはずの、出発前の私はどこに行った。

ちらりと騎士達の方を向けば、びくりとビビった彼らと目が合う。

その目の奥に潜むのは、怯えと畏怖。

たらりと汗が流れる。

「さすが団長のご息女、素晴らしいご指導でした!」

こちらも初対面の時の空気から少し変わったマルちゃんが、私に挨拶をしに来た。

「お父上に負けない指導力と魔力と非道……いえ、ひどくよく考えられた訓練でした!ありがとうございました!」

非道って言ったよね、今。

演習前はかわいいお嬢さんを相手にする感じの接し方だったじゃない。

怒らせたら怖い冷血非道な上官を相手にするような態度に変わったんですけど。

呆然とマルちゃんを見つめていると、ぶはっ!と殿下が吹き出した。

「よ、良かったじゃないか。騎士達の中の君の印象は、今日一日で激変したはずだ」

え、癇癪令嬢からどう変わったのよ。

冷血非道な上官とどっちがマシってレベルよね?

「うむ、これで変な虫がディアナにつくことはないだろう」

いやいやお父様、なんで満足気なのよ。

「もう……。だから言ったのに……」

お義母様、そこは私が調子に乗る前に止めて下さいよ。

「おねえしゃま、かっこいい!」

「お兄様、またディアナが騎士団に来る時は私も呼んでね!絶対よ!」

グエンとアイリス様、年少組ふたりの褒め言葉だけが私を慰めてくれる。

「……こんなはずじゃなかったんですけど、ね」

とほほと肩を落とす私に、殿下がぽんと背中を叩いた。

「訓練としては最高に成功だ。他の騎士団でも取り入れさせてもらうよ」

とっても良い笑顔をする殿下に、私はイラッとして頬を引きつらせた。

「ソレハヨカッタデスネ」

そういえば誕生会での職員達の寸劇でも、悪役になり切りすぎて、子ども達を泣かせちゃったことあったなぁ……と前世の自分を振り返るのであった。