軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王子様はそれを知りたい2

「“できるだけ”か。本当に君は面白いな、ブルーム侯爵令嬢」

くくくっと堪えるように殿下に笑われてしまい、なんとなく恥ずかしくなる。

「だって、絶対とは言い切れないんですもの。そこで変に嘘はつきたくないですし……」

ごにょごにょと答えるしかない私を見て、さらに殿下は笑みを深める。

「正直だな、君は。……安心してアイリスを任せることができるよ」

そして、ふわりと“お兄ちゃん”の顔をした。

そうか、寂しかったと素直に言えなかったアイリス様と同じように、三年間離れているうちに妹が変わってしまい、どう関わって良いのか分からなくて殿下も悩んでいたのよね。

腹黒策略家な王子様だけれど、ちゃんとアイリス様の“お兄ちゃん”なんだ。

兄と妹……タクトとメイちゃんとは少し違うけれど、お互いのことが大好きだという点は一緒。

貴族どころか王族だし、その上ふたりは腹違いの兄妹、色々あるだろうけれど、普通の兄妹っぽくてなんだか良いなと思ってしまった。

私だって腹違いの弟のグエン推しだしね!

こんなことを言っては不敬にあたるかもしれないが、下の弟妹LOVE同士、気持ちは分かる気がする。

うんうんと満足そうに頷いていると、でもねと殿下がまた真剣な眼差しを向けてきた。

「私は君を犠牲にしようとは思っていないからね。未知の知識を使う時は、こんなことをしてみたいとできるだけ事前に話してほしい。そうじゃないと、君を守ることができないから」

まも……守る?

「あ、ええと、はい。そうですね、分かりました。相談、させて頂きます……」

その表情と言葉の破壊力に、そうぎこちなく返すのが精一杯だった。

いや、しっかりしろ私。

別に変な意味じゃなくて、面倒なことに発展する前に対応しておきたいからっていう意味であって。

ドラマとかでよく見る「君を守りたい」なんて恋人に囁く台詞では決してない。

イケメンと甘い台詞のコンビネーション、なんて恐ろしいんだ……!

一瞬とはいえ、不覚にもドキドキしてしまったではないか!

「あ、でも。殿下に相談をとおっしゃいましたが、そんな機会、ありますでしょうか?今日は初日だからか、わざわざ時間を作って下さったみたいですが、お忙しい殿下に私などと話す時間がそう頻繁に取れるとは思えないのですが……」

冷静になってきて気付いたのだが、相談といっても、どうやって殿下にコンタクトを取れば良いのか。

自慢ではないが、「忙しいし迷惑かな……。ちょっとくらいなら、これくらいのことなら、別に聞かなくても良いよね!」といって勝手にやってしまう自信がある。

その結果、チートが災いしてえらい騒ぎになってしまい……というのはラノベの定番だろう。

最近忘れがちだが、この世界は乙女ゲームだか悪役令嬢モノのラノベだかの可能性もある。

ヒロインのバッドエンド?でストーリーが終わったのかもしれないが、油断はできない。

多忙な殿下には無理だとしても、どなたか信頼の置ける方に相談できるに越したことはない。

「どなたか、私の相談にのって下さる信頼の置ける方はいらっしゃいますか?やはりクロイツェル公爵でしょうか……あら?」

真剣に考えて答えたのだが、なぜだか殿下はテーブルに肘をつき、組んだ両手に頭を乗せて項垂れている。

……私、なにか変なこと言ったかしら?

???と頭の上にハテナマークがいくつも浮かんだ私は、首を傾げた。

「ぷっ」

そこに小さく吹き出す声が響き、音のした方に目をやると、秘書官の男性がそっぽを向いて微かに震えていた。

……笑ってる?

先程もそうかなと思いつつ、気のせいだろうと思っていたのだが。

「……ルッツ、慎めと言っておいただろう」

そんな笑いを噛み殺す秘書官を、殿下は眉間に皺を寄せて窘めた。

「す、すみません。殿下を相手にそんな返しをするご令嬢がいるなんて、ぶぶっ!」

ルッツと呼ばれた秘書官を、殿下はじろりと睨む。

しかしそんな殿下の表情も、彼にとっては笑いの堪えられないものだったようで、また視線を逸らして小刻みに震えている。

……随分とフランクな関係なのね?

意外だわ、なんとなくだが殿下は上下関係に厳しそうだと思っていたのだけれど。

そんなふたりをじっと見つめていると、私の視線に気付いた殿下がはあっとため息をついた。

「……こいつはルッツ・エッカーマン。エッカーマン伯爵家の三男だ。私とは母親同士が従姉妹でね。年が同じということで、幼い頃からつるんでいたんだ」

嫌そうな顔をしているが、“つるんでいた”なんて表現をするのだから、仲良しなのかも?

「ディアナ・ブルームです。よろしくお願い致します、エッカーマン卿」

アイリス様の時とは違って、きちんとカーテシーをして挨拶すると、エッカーマン卿は笑いを収めてこちらを向いてくれた。

「ルッツ・エッカーマンです。とうぞお見知りおきを。ああ、堅苦しい言葉遣いは結構ですよ。どうぞ気楽にルッツとお呼び下さい」

わ、正面からちゃんと見ると、とっても整った顔をしているわ。

淡い茶髪に翠の切れ長の目、キツネ顔の知性派イケメンって感じ。

「……では、私のこともどうぞディアナと。ルッツ様は殿下の秘書官様、なんですよね?」

「そうそう、いつもこき使われています」

あははと笑うルッツ様は、とても気さくで話しやすい方だ。

「ディアナ嬢のお噂はかねがね。更生されたとお聞きしましたが、随分と楽しい方だったのですね」

「まあ、その、はい。色々とありまして……」

「ははっ。こんなに楽しい方なら、もっと早くお会いしたかったです。王女殿下が珍しく懐きそうだと聞いて半信半疑だったのですが。ご本人にお会いして、納得しました」

伯爵家の三男と言っていたが、よく周りを見ているというか、空気を読んでいる。

兄弟の下にいけばいくほど、幼い頃からそういう力を自然と身に着けている気がするよね。

そういえば殿下も兄弟の三番目、このふたり、似ているところがあるのかもしれないわね。

「……そろそろ私の存在を思い出してもらっても良いだろうか。この 件(くだり) は二回目のような気がするのだが、ブルーム侯爵令嬢」

「「あ」」

はたと気付けば、殿下が黒いオーラを出していた。

クロイツェル公爵の時に犯した失態を繰り返すとは……。

「も、申し訳ありません、殿下」

すぐに頭を下げて謝罪したものの、その後しばらく腹黒策略家様のご機嫌は斜めのままなのであった……。