軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

わがまま姫様の教育係、就任2

「まあね?昨夜のこともあるから、公爵とは積もる話もあるだろう。けれどまさか女性に存在を忘れられるなんて扱いをされるなんてね」

……それはおモテになられるって話ですかね?

まあそりゃあそのご尊顔ですもの、おモテになられるでしょうよ。

でも正直に言わせてもらうと殿下は私のタイプではない。

お忘れかもしれないが、前世の私の推しは、乙女ゲームの頼りになるムキムキ騎士団長だった。

殿下はというと……長身だけれど体格はスラリとしているし、頼りになるというか腹黒そうという印象だ。

敵にはしたくない感はあるから、ある意味頼りにはなるかもしれないけれど。

というか、直感だけれど、関わると面倒なことに巻き込まれる気がする!

「そうですわね、大変失礼致しました。こんなマナーのなっていない私などがこれ以上殿下とご一緒すると失礼を重ねることになるかと。ですので私はこの辺で……」

「ブルーム侯爵令嬢?逃げようとしないでくれるかな?」

早口でやんわりと断ろうとした私に、殿下はまた先程の黒い笑みを向けた。

失敗した。

逃げようとしているのがバレバレだったようだ。

仕方なく上げかけた腰をもう一度下ろす。

うう、早く帰って 推し(グエン) に癒やされたい。

そんな逃げ腰な私に、殿下ははあっとため息をついた。

「本当に君は変わっているね。私の誘いをこんなに嫌がる女性は初めてだよ」

うわ、引く。

なに、その女はみんな自分に惚れて当たり前みたいな発言。

ナルシスト?自信家なの?

そうは思ったが、表情に出しては不敬にあたる。

ぎこちなく笑顔を作り、「まさか、そんなつもりはなかったのですが」とだけ返す。

するとつまらなさそうな顔をして……と思ったら、すぐに面白いものを見つけたと言わんばかりの表情に変わり、殿下は口を開いた。

「まあでも、やはり君が適任だと確信したよ」

ええええっ!?

“君に決めた”とか言われてしまったけれど、今日の私の印象でやっぱりやーめた!と言ってもらえるかも?と思ったのに。

それどころか、適任だとか確信だとか言われてしまった。

これはいよいよ逃げられないかも……。

一体なにをさせられるのだろうと心臓がバクバクする。

「おや、笑顔の仮面は外すことにしたのかい?嫌そうな顔をするねぇ。私に見つめられた大抵の女性は、頬を染めて胸が早鐘を打つものだけれど。新鮮な反応だなぁ」

いや、一応心拍数は上がってますよ。

悪い意味で。

もう取り繕っても無駄だと悟った私は、げんなりとした顔を隠そうともしなかった。

そんな私達のやり取りをハラハラとした表情で公爵が見ていたことに気付く。

「その、ディアナ嬢。不安に思うのも最もだが、どうかクラウス殿下の話を聞いてはくれないだろうか?私からも、頼む」

息子とは険悪だったが、公爵には色々とお世話になった。

そんなディアナの記憶がちゃんと残っている。

だからこんな風に言われると……。

「わ、かりました……」

拒否できない……っ!!

「そうか!聞いてくれるか!」

ぱあっと喜色をあらわにする公爵、そんな顔を見せられてはもう断れない。

「では、とりあえずお話を聞かせて頂けますか?

とりあえず聞くだけ、ですからね?」

腹をくくった私は、そう言って殿下に向き直る。

「なぜ私の言葉は聞かないのに公爵の頼みは……とか色々言いたいことはあるけれど。とりあえず、話だけは聞いてくれるんだね?」

まあ聞くだけで終わらせないけどね?

そんな言葉が続くような気がしたが、気付かないフリをして大人しく殿下の話を聞くことにした。

「ええっと、つまり。我儘放題のお姫様の教育係になって、彼女をなんとかしてほしい、と」

殿下の話をまとめると、こうだ。

殿下を含めた王子三人は、早世された前王妃様の子どもだ。

そして今話題に上っている姫様は、現王妃様の子ども。

アイリス・フォン・リーフェンシュタール第一王女殿下、現在六歳。

腹違いの兄である第一・第二王子は、複雑な思いもあって彼女にあまり積極的に関わらなかった。

父である現王陛下は、初めての姫の誕生にそれはもう喜んで溺愛した。

母である現王妃様も同じ。

そして家族で唯一、第三王子である目の前の方のみが、姫様を敬遠することも、甘やかすこともなく、妹としてかわいがった。

簡単にいえば、躾担当だったってわけね。

そんな殿下だったが、姫様が三歳になったばかりの頃に、隣国との戦争に赴くことになった。

さて、ここまでくればみなさん大体の想像がつくだろう。

躾面を担当していた兄がいなくなり、溺愛する両親の愛情を一身に受け、蝶よ花よと甘やかされ続けられた彼女がどうなったかというと……。

まあ、そういうことだ。

「そうなんだよ。情けないことに、王や王妃、使用人達や私もすっかりお手上げでね」

「三年もの間離れていましたからね、姫様も記憶が薄まってしまっているでしょうし……」

再会した時、殿下のことも、殿下が教えてくれたことも、すっかり忘れてしまっていたらしい。

仕方のないことといえば、仕方のないことだけれど。

はははと軽く笑う殿下だが、どうも無理をして笑顔を作っている気がしてならない。

それを言うなら、最初から彼の笑顔はどことなく違和感がある。

王族だし、それも必要なことなのかもしれない。

けれど、今は別に無理して笑う必要はない。

「失礼ですが、その、無理をして笑わなくても……。殿下は姫様のことを考えて、本当に困っていらっしゃるのでしょうし」

辛い時こそ笑顔で隠そうとしがちな人は多いけれど。

前世の園でも、ワンオペ育児で精神が参っていた保護者の方で、真っ青な顔で『大丈夫ですから……』と笑っていた人がいた。

全然、大丈夫じゃないのに。

「殿下は、本当に姫様のことを考えておられるのですね。お優しいお兄様がいて、姫様は幸せですね」

断るつもりだったけれど、これはもう仕方がない。

そう腹をくくった私は、殿下に向かってそう微笑んだ。