作品タイトル不明
まさかの悪役令嬢ですか!?3
たらりと汗が流れる。
確かにラノベみたいって思ってた。
もしくは乙女ゲームかもって。
他人事のように考えていたけれど、もしかしたら、本当に私の知らない乙女ゲームの世界なのかもしれない。
それにしても、なんとなくそんな気はしていたのに、なぜだか今の今まで私の頭の中には、“悪役令嬢”の四文字が出てこなかった。
悪役令嬢モノのラノベだって何冊か読んだことがあったのに。
でも、まさか自分が悪役令嬢に転生!だなんて、思いもしないじゃない!
だって私は、恐らくヒロインであろう、ユリア・フランツェンと全く面識がないんだもの。
この前食堂で居合わせたように、すれ違ったり姿を見たことくらいならある。
だけど言葉を交わしたり、それこそ嫌がらせをするようなことは一切ない。
それに乙女ゲームだって、必ず悪役令嬢が出てくるものばかりとは限らないのだ。
実際、前世の私が死ぬ前にハマっていたゲームにだって、婚約者のいる攻略対象者はいたけど、その婚約者達は悪役令嬢ではなかった。
大人しく身を引いてくれたり、どうせ親が勝手に決めた婚約だし好きにしたら?とあっさり婚約破棄する協力をしてくれたりしていた。
だから私もそんな立ち位置なんだろうって、勝手に思っていたのだ。
だけど、違った。
アルフォンスのこの嫌な笑み、絶対“今からおまえにざまぁしてやる!”って顔じゃないのよー!!
心の中で大絶叫しながら、ぐっと唇を噛む。
ざわざわと騒がしくなる周囲。
そんな中、ユリア嬢は涙目でアルフォンスの腕にしなだりかかった。
良く見れば、そのうしろに食堂にいたあの三人組――――癒やし系年下美少年、イケメン同級生、お色気年上キャラが立っている。
つまり、五対一。
まずい、完っ全に不利じゃないのよ!
ど、どどどどうすんのよ、なんでこんなことになったのよ!?
そんな戸惑う私の反応に満足したように、アルフォンスが勝ち誇ったような顔をして口を開いた。
くっ、ピノキオよろしく鼻が伸びている幻覚まで見えるわ!
「貴様がユリアにした仕打ちは全て知っている!高位貴族の権力を振りかざし、取り巻きの女生徒を使って数多の嫌がらせを行い、あまつさえ 婚約者(俺) 以外の男に色目を使っているだろう!?」
いや、ひとっつも身に覚えがないんですけど!?
あえて言うなら、確かに以前の私は権力を笠に我儘放題していた。
でも人に嫌がらせなんてしていないし、取り巻……いや、少し前までいつも一緒にいた女生徒達とはもう交流もない。
それでもって一番心当たりがないのが、“アルフォンス以外の男に色目を使う”ってやつ!
まああえて言うなら、幼等部の男の子(三〜五歳)とは仲良くしていた。
だがそれはノーカウントだろう。
というか、自分こそ 婚約者(私) 以外の女に色目使ってんじゃんよ。
自分の言動を棚に上げて、色々捏造しないでくれる!?
使い古された断罪劇のような台詞の数々からも、やはりこの世界は乙女ゲームの世界なのかもしれない。
だって本当に教本通りの台詞だもの。
もうちょっとひねりはないの?っていうくらい。
それにもうひとつ、卒業生を祝う場でこんな騒ぎを起こして、本当にこの男、馬鹿じゃないだろうか。
私がこんなことを思っても仕方ないが、卒業生達に申し訳なさすぎる。
しかし今はそんなことを言っている場合ではない、それくらいこの状況はまずい。
悪役令嬢に転生したラノベの主人公たちは、みんなこの婚約破棄イベントに向けて対策を打ってきた。
イベント自体を回避しようとしたり、ざまぁ返しをしたりするために、奮闘してきたのだ。
けれど、記憶を取り戻してから私がしてきたことと言えば……。
①家族と仲直り
②子ども達と遊ぶ
この二点だけなのよ!
でも、だからってアルフォンスの言葉を認めるわけにはいかない。
私は、なにも悪いことはしていないのだから。
その時、前世でヨシ君のお母さんを前に謝罪した時のことが脳裏に浮かんだ。
あの時は、唇を噛んで頭を下げたけれど。
「アル……いえ、クロイツェル公爵令息」
ぐっと顎を引き、胸を張る。
今の私は、保育士の藤澤月じゃない。
誇り高い、ブルーム侯爵家の令嬢。
言いがかりの言葉を受け入れる道理なんて、全くない。
身に覚えがない悪事など、悠然と、品位を損なわず、冷静に、胸を張って否定すれば良いのだ。
そんな私の反応に、アルフォンスとユリア嬢が怯んだ。
足、震えるな。
あの時とは違う。
ちゃんと、私はそんなことしていないって、否定することができるのだから。
下半身に力を入れて、ゆっくりと口を開く。
「私は……」
しっかりと自分の声で否定しようとした、その時。
「でぃあなさまを、いじめるな!」
私の少しうしろから、かわいらしい子どもの、しかし叫ぶような声が響いた。
「そうよ!でぃあなさまは、とってもやさしいのよ!」
「えらそうなおにいちゃんのほうこそ、でぃあなさまをいじめてるじゃない!」
「ぼく、しってる!そういうのって、“じぶんのしたことをたなにあげて”ってやつなんだよ!」
次々と上がる少年少女の声、振り向けば、幼等部のみんなが目に涙を溜めて必死顔で声を上げていた。
「みんな……」
「そ、そうです!ブルーム侯爵令嬢は、そんな方ではありません!」
「とても優しくて、素敵な方です!」
そして幼等部の教師達からも、援護の声が上がる。
一般的な悪役令嬢もののラノベだったら、ここで悪役令嬢を助けてくれるのは、隠された王子や隣国の王子などのヒーロー達だろう。
しかし私にはそんな人はいない。
だけど、私にはこんなにも頼もしくて優しい、信頼を築いてきた子ども達がいる。
「そうですよね、実際お会いした雰囲気からも、子ども達の話からも、ブルーム侯爵令嬢がそんな嫌がらせをするような方には見えませんわ」
「うむ。もし下心があったとしたら、私達低位貴族の子どもにすり寄る意味が分からない。きっと侯爵令嬢は心から子ども達を好いてくれているのだろうしな」
そんな必死に私を守ろうとする子ども達の姿を見て、その父母達もアルフォンスの言葉は間違いではないのかと暗に示した。
ざわざわと会場が揺れる。
たじろぐアルフォンス達、どちらが正しいのだろうかと戸惑う周囲の人々。
そんな空気の中、凛とした声が響いた。
「やれやれ、お子様達や教師陣の方が余程見る目があるようだね」
突然現れた第三者の声。
反射的に振り返ると、そこには銀髪に紫がかった深い青色の瞳の、“王子様”が立っていた。
え、まさかの隣国だかなんだかの 王子様(ヒーロー) の出現!?
いやでも全然知らない人だし、私を助ける理由なんてないはず。
それに、助けるというよりも、どことなく面白いものを見つけた、みたいな顔をしてる気がする。
え、どういうこと?
唖然とする私を見て、謎の王子様?はくすりと微笑んだ。
「面白い。ディアナ・ブルーム侯爵令嬢、君に決めた」
「は、はい!?」
まるで、カプセルボールに捕まえたポケットなモンスターをバトルに使用する時のように言われても。
私、この人に“ゲットだぜ!”された覚えなんて、ないわよ!?
現実逃避しかけた私は、そんな馬鹿なことを考えながら、これって結局なんのゲームなのよ……と呟くのだった――――。