軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第60話 カミングアウト

ひかりと別れた翌日、ラストスパートと言わんばかりに、俺はさらに深層へ赴いていた。

螺旋階段を降り10層に足を踏み入れた瞬間、耳が詰まった。

自分の足音が消え、石畳を踏んでいる感触はあるのに、音がない。呼吸の音も、鎧の軋みも、壁を伝う風の音も。全部吸い込まれたように消えて、耳鳴りだけが頭蓋の内側で鳴っている。

崩れかけた石柱が等間隔に並んでいて、その奥に砕けかけた石の玉座。

座っていたのは黒ずんだ法衣の人影。

5層の術師とは似ても似つかない。ボロ布をまとった兵隊ではなく、それは格調の高い法衣に見える。布の隙間から見える骨格は白く、頭蓋の眼窩に青白い炎が2つ灯っている。

手には杖すら持っておらず、素手。10本の骨の指が膝の上で組まれているだけだ。

立ち上がる気配もなくただ、眼窩の炎がこちらを向いた。

その瞬間、足元が沈んだ。

膝がガクッと折れかける。身体が急に倍の重さになった。全身を見えない手で押さえつけられているような圧。足の裏が石畳に吸いつく。

身体強化を全開にしてどうにか立っているが、立っているだけで筋肉が悲鳴を上げている。

「なんだ、これ……!」

こんな感覚は初めてだ。距離にして15メートル。あいつは座ったまま、指一本動かしていない。

踏み込もうとした。3歩目で足元の石畳がうねった。固い石が水面のように波打って、足首まで沈む。バランスが崩れて片膝をついた。地面が信用できない。立て直す間に石畳は元に戻っていた。

「くそっ……!」

距離を取り、腹の底から魔力を引いた。絞って、鋭く放つ。

透明な衝撃が真っ直ぐ飛んだ。

人影が片手を上げ、骨の指が開く。

魔法が空中で停止し霧散する。

「……嘘だろ。」

出力を上げた。腹の底から引きずり出す勢いで、右手に集中させた。ぶん、と空気が歪むほどの一撃。7層の牛頭を後退させたのと同じ出力。

結果は同じ、魔法の消失。あいつはまだ座っている。

剣しかないか。重力の圧に逆らって走った。足が重い。いつもの半分も速度が出ない。身体強化を限界まで上げて、それでも走る。間合いに入った。

振り下ろす瞬間、身体が弾かれた。

「がっ――!」

何が起きたか分からなかった。剣が触れる前に、全身を巨大な手で殴られたような衝撃が来た。内臓がひっくり返る。5メートルほど飛んで、背中から壁に叩きつけられた。肺の中の空気が全部抜ける。口の中に血の味が広がった。

見えなかった。何をされたか分からない。

あいつがようやく玉座から立ち上がった。

一歩。石畳を骨の足が踏む音すら聞こえない。広間の温度が落ちていく。吐く息が白くなった。壁面の石が霜で覆われていく。肌の表面から熱が抜かれていき、骨の芯まで冷える寒さが、じわじわと身体を侵食した。

歯の根が合わない。指先の感覚が薄れていく。剣の柄を握っている手が、自分のものかどうか分からなくなる。

もう一歩。

眼窩の青い炎が揺れた。

次の瞬間——頭の中に直接、何かが走った。視界が白く飛ぶ。ノイズ。脳を掻き回されるような不快感。思考が途切れた。身体から力が抜けて、膝が崩れる。0.5秒。いや、1秒か。時間の感覚が分からない。

「っ……ぁ……」

膝に手をついた。吐き気がする。頭の中を直接かき混ぜられた後の、泥のような不快感。

視界が戻った時、骨の指が持ち上がっていた。指先に青白い光が凝縮されている。5層の術師が撃っていた紫の魔法弾とは比較にならない密度の光。

来る。

必死に身体を横に転がした。光が通過した場所の石畳が蒸発した。石が液体になって、赤く爛れた跡が残っている。熱と冷気が同時に肌を打つ。矛盾した感覚に頭が混乱する。

「……やばっ――」

もう1発が来た。壁に向かって転がった。心臓が激しく脈動している。咄嗟に石柱に身を隠した。

ポーションを飲もうとして腰のポーチに手を伸ばす。震える指で蓋を開け中身を口に流し込んだ。甘い液体が喉を焼いた。傷が塞がる。だが身体の重さは変わらない。

覚悟を決めて剣を構え直すが、手が震えている。

全部通じない。魔法は消される。剣は届かない。重力で動けない。思考を乱される。こいつの前では、制御も精度も戦術も、全部おもちゃだ。

9層まで順調だった自分が笑える。調子に乗っていた。パターンを覚えれば対処できる。そんなものが通用する相手じゃない。

眼窩の炎がこちらを見ている。骨の指が再び持ち上がる。

逃げろ、と頭が叫んでいる。階段は背後の壁沿いにある。だがあいつとの間に遮蔽物がない。背中を見せた瞬間にさっきの光が来る。

詰んでいた。

ダンジョンマスターとして覚醒し、攻略者として活動するようになってから初めて、明確に死を意識した。

このままでは本当に死ぬ。

ちまちま魔法を打っても消されておしまいだ。薄い希望だが、出力を上げた魔法は、僅かにかき消されるまでの時間が長かったように思えた。

なら――全部だ。

「……来い。」

蛇口を壊すイメージ。

腹の底に意識を落とした。いつもなら手のひらまでの経路を作って、そこを通す。が、今はそんな手順は踏まない。

壁を壊した。自分の中にある魔力の流れを堰き止めていたもの全部を、力任せに破壊する。

来た。

奔流。腹から背骨を駆け上がって、両腕に、指先に、全身に。制御はしない。

手のひらから溢れた光は――今までのように透明ではなかった。

最初に見えたのは銀色。透明な魔力の中に、冷たい銀の筋が走っている。指先の空気が凍りつく。吐く息が白くなる。それは自然の力を従える冷酷で優しい魔力。

次に、光の縁が紫に燃えた。腕の内側を焼くような灼熱。銀の冷気と同時に、皮膚の下を溶岩が流れるような圧倒的な熱。鼓膜の奥で地鳴りのような低い振動が響く。竜の力の欠片が、俺の中にあった。

手のひらの中で暴れる力の奔流を叩きつけた。

「おおおおおおっ――!」

両手を突き出して、全部を前に押し出した。身体中の魔力を残らず、一点に。

光が広間を呑んだ。

轟音。音が死んでいたはずの空間に、初めて音が戻った。石柱が砕ける音。壁が崩れる音。空気が引き裂かれる音。全部が同時に鳴った。

衝撃で身体が後ろに吹き飛ばされた。背中が壁にぶつかる。また口の中に血の味。視界が白い。何も見えない。

――右腕に、激痛が走った。

痛みというより、爆発。肩から先で何かが破裂した感覚。

「ぐっ……!」

白が引いていった。

広間の半分が消え、石柱が根本から折れている。壁に大穴が空いている。天井から石の破片がぱらぱらと落ちてくる。粉塵が白く漂って、奥が見えない。

右腕を見ると、肘から先がない。

断面が焼け焦げ、血は出ていない。魔力の奔流が通り抜けた熱で、傷口ごと焼き切られている。袖の残骸が肘の上で黒く縮れて、煙を上げていた。

どこか冷静な思考が、視界の端で動く影を捉える。

粉塵の奥で、何かが動いた。

「……嘘だろ。」

瓦礫の中から、黒い法衣が立ち上がった。右半身が吹き飛んでいる。骨格がむき出しになっている。左腕も肩から折れて、だらんと垂れている。眼窩の青い炎は、片方が消えていた。残った左の眼窩の炎だけが、ちらちらとこちらを見ている。

まだ生きているのか。

残った左の腕が持ち上がった。骨の指先に、また光が凝縮し始める。弱々しい。さっきまでの密度はない。だが、確実にこちらを狙っている。

逃げるか。

足は動く。背中を向ければ階段まで走れるかもしれない。こいつはもう満足に動けない。見逃してくれるかもしれない。

――ふざけろ。

腕一本持っていかれて、逃げて帰るのか。

足元に剣が転がっていた。全力解放の衝撃で吹き飛ばされた時に手放していた。

残った左手で拾った。刃がついていて、振れば切れる。それだけでいい。

痛みが来た。腕の断面から、肩まで、背骨まで、全身に炎を流し込まれたような激痛が爆発した。走るたびに響く。視界が明滅する。吐き気がして足がもつれる。

だが止まらない。

あいつの指先の光が膨らんだ。撃たれる。間に合わない。

光が来た。

端から避ける気はなく、左の脇腹を掠めた。肉が焼ける匂い。死ぬほど痛いが、止まらない。

あいつの眼窩の炎が揺れた。次の魔法を詠もうとしている。骨の指が震えている。

が、間に合った。

「があっ――!」

左手一本で、振り下ろした。剣が骨の肩に食い込んだ。手応え。骨が砕ける感触が、柄を通じて手のひらに伝わった。

止まらない。

引き抜いて、もう一度。今度は横薙ぎ。頭蓋を叩き割った。眼窩の炎が散った。青白い光が火花のように弾けて、消える。

法衣が崩れ、骨が石畳の上にばらばらと散らばった。今度こそ、動かない。

膝が崩れた。剣が手から滑り落ちた。石畳に金属音が響いた。そのまま前のめりに倒れて、左手で辛うじて顔面を庇った。

石畳が冷たい。頬が石に触れている。粉塵の匂い。血の匂い。焦げた匂い。全部が混ざって、鼻の奥にこびりついている。

肩から先が燃えている。痛みが全身を支配している。視界が明滅して、意識の縁がぼやけている。

どれくらいそうしていたか分からない。10秒か、あるいは10分か。

「……はぁ……っ。」

左手で身体を起こした。壁まで這い背中を預けて座る。喉が乾ききっている。左手でポーチの蓋を開けようとした。片手では上手くいかない。歯で蓋を噛んで引っ張って、ようやく開いた。左手でポーションを掴んで口に流し込む。

瓦礫の中に、何かが光っていた。

骨が散らばった跡。砕けた石の隙間に、拳大の魔石が転がっている。深い紫色に青い光が脈打っている。今まで見たどの魔石よりも濃い色をしていた。

這って近づいた。左手で掴む。ずしりと重い。指の隙間から光が漏れている。

ポーチに押し込んだ。これだけは持って帰る。

左手で壁を掴んで、立ち上がった。膝が折れかけた。

振り返って、来た道を見た。螺旋階段。9層に戻る道。

9層を通り抜けるのに、降りてきた時の3倍はかかった。

8層。7層。階段を上がるたびに空気が軽くなる。重圧から解放されていく。全部出し切った。本当に全部。腹の底に何も残っていない感覚は初めてだった。

砦の外に出た。

崩れかけた門を抜ける。

門の横の石壁にもたれて、座り込んだ。

頭の中が、妙に澄んでいる。

身体はぼろぼろだ。なのに、思考だけが透明になっている。死にかけた後の、変な感覚。余計なものが全部削ぎ落とされているようだ。

さっきの一撃を思い出す。

銀色。紫。風。揺らぎ。全部、俺のものじゃない。俺の本来の魔力はおそらく透明だ。あの色はあいつらのもの。

命を救ってくれたのは、みんなが積み上げてくれたものだった。

夕日が眩しい。

今俺は、ひかりにだけ嘘をついている。

それが小骨のように喉の奥に引っかかったままだ。昨日の病院で、ひかりは「信じます」と言ってくれた。

俺も、あいつを信じるだけだな。

左手でスマートフォンを取り出した。画面が割れている。左手の親指で、慣れない操作をする。ダンジョンボードのDMを開いた。ひかりのアイコン。

『これから会えるか?』

送信した。1分もしないうちに既読がついた。

『大丈夫です、どこで会いますか?』

『外でもよければ、病院の近くの公園があったろ、あそこでいいか?』

『はい、弟も調子がいいみたいで、大丈夫そうです。待ってますね。』

左手で壁を掴んで立ち上がった。右の袖が肘の下で空っぽに揺れている。このままじゃまずい。腰のポーチの予備の包帯を、左手と歯を使って断面に巻いた。上着を脱いで、右腕の残りに被せるようにして左手で抱えた。遠目には、上着を腕に抱えている人間に見えなくもない。

人目につかない道を選んで、大通りまで出た。左手を上げてタクシーを止めた。後部座席に乗り込む。

「どちらまで?」

運転手がミラー越しにこちらを見た。汚れた服と顔に一瞬だけ目が止まったが、何も言わなかった。

行き先を伝えると車が走り出した。窓の外を夕日が流れていく。

病院の近くで降りて公園まで歩いた。桜の木が3本と、ベンチが2つ。遊具はブランコだけの、住宅街の隅にある小さな公園。

ベンチに座った。上着を膝の上に広げて、右腕の断面を覆ったままにした。夕日が桜の葉を透かしている。風が顔を撫でた。

ひかりの足音が聞こえた。駆けてくる音。

「遥さん!」

公園の入口からひかりが走ってくる。笑顔だった。

その笑顔が、3メートル手前で凍った。

足が止まった。俺の全身を見ている。汚れた服。顔についた粉塵。乾いた血の跡。

「遥さん……何があったんですか……!」

「ダンジョンでちょっと無茶した。あー、まぁ、座ってくれ。」

左手でベンチの隣を叩いた。平気な顔を作った。ひかりがおそるおそる隣に座った。目が赤い。泣きそうなのを堪えている顔だ。

ひかりの視線が、膝の上の上着に落ちた。上着の下の形がおかしいことに気づいたのだろう。袖が途中で終わっている。その先に、手がない。

ひかりの顔から、血の気が引いた。

「……遥さん、腕……!?」

隠していても分かったか。

ひかりの目から涙が溢れた。声を出さずに、ぽろぽろと。唇を噛んで堪えようとしているのが分かった。

「ちょっとやらかした、まぁ、生きてるからセーフだろ。」

「……セーフなわけないです。」

「まあまあ。」

ひかりが左手の甲で目元を拭った。鼻をすすった。

喉の奥で言葉を転がした。前置きを考えて、やめた。回りくどいことを言うほど嘘が増える。もう決めたことだ。

「ひかり。」

ひかりはこちらをまっすぐ見ている。

「俺ってさ、ダンジョンマスターってやつなんだ。」

風が吹いた。桜の葉が数枚、ベンチの間を通り過ぎた。

「――え?」

side:ひかり

意味が分からなかった。

遥さんの言葉が、その意味が頭に入ってこない。

ダンジョンマスター。

遥さんが?

ベンチに座って、いつもと同じ顔をしようとしている。黒い髪。黒い目。でも全然いつもと同じじゃない。服が汚れている。乾いた血がこびりついている。30分前のDMでは普通だった。「大事な話がある」としか書いてなかった。

ダンジョンマスター。

頭の中で、その言葉だけがぐるぐる回っている。

遥さんが何か言っている。口が動いている。でも音が遠い。

――ダンジョンマスターは、攻略者にとって最大の脅威である。

学校の先生の声が聞こえた気がした。1年生からはじまる攻略者基礎学で最初の常識として教わること。

攻略者がダンジョンの最深部に到達した場合、マスターは全力で排除にかかる。

マスターを倒すことは、攻略者にとっての最終目標であると同時に、社会への貢献でもある。ダンジョンのコアを破壊することで蓄積された魔力が解放され、攻略者は飛躍的な成長を遂げる。

攻略者の敵。

その敵が、隣に座っている?

「……ひかり?」

遥さんの声が聞こえた。心配そうな声。いつもの声だ。翠嶺洞で助けてくれた時と同じ声。石廊殿で一緒に戦った時と同じ声。ランクアップ試験の前に「大丈夫だ」と言ってくれた時と同じ声。

「……え、あの、ちょっと、待って、ください。」

声が震えた。自分でも分かるくらい震えていた。手が膝の上で握りしめられている。爪が掌に食い込んでいる。

「ゆっくりでいい。」

遥さんが言った。急かす様子はない。ベンチの上で少し距離を取ってくれている。

頭の中が嵐だった。

敵?この人が?

虫が苦手だって泣きそうになったわたしをフォローしてくれた人が? 弟が倒れた時、真っ先に駆けつけてくれた人が?

――エリクサー。

そこで、頭の中の嵐が止まった。

エリクサーを用意できそうだ、遥さんはそう言った。ツテがある、と。

ツテじゃなかったんだ。

ダンジョンがヒント、それどころか答えに違いない。

深呼吸して思考を落ち着ける。

翠嶺洞で初めて会った時から、遥さんはダンジョンマスターだったんだ。

あの日のことを思い出した。

翠嶺洞の2層。薄暗い洞窟の中で、ロックリザードの群れに囲まれて、もうダメだと思った。足が動かなかった。双剣を構えていたけど、手が震えて、まともに振れなかった。5体。いや、もっといたかもしれない。灰色の鱗が暗がりの中でうごめいていて、黄色い目がいくつも光っていて。

――死ぬ。

そう思った瞬間横から何かが飛んできて、ロックリザードが1体、あっという間に壁に叩きつけられた。

大きな背中が見えた。その人は信じられないくらい速くて、強くて、3体が同時に飛びかかったのを、全部捌いた。

終わった後、その人が振り返った。

黒い髪。黒い目。少し息が上がっていて、汗をかいていて。

「大丈夫か?」

それが遥さんだった。

石廊殿で一緒に戦った。私なんかよりはるかに強い遥さんは、どこか抜けててパーティー行動の基本を知らなかった。魔石の換金方法も、ランクアップの仕組みも知らなかった。わたしが教えた。先生みたいに偉そうに説明して、笑ってくれたのを覚えている。

おかしいなとは思っていた。あんなに強いのに、攻略者の常識がない。Eランクのまま放置していた。簡易買取所で魔石を売っていた。ステータスが異常に高いのに、動きが荒い。つじつまが合わないことだらけだった。

でも、気にしなかった。遥さんは遥さんだったから。

弟が倒れた時、攻略者活動を休止した。遥さんに「先に行ってください」と言って無理に笑った。遥さんは何も言わなかったけど、弟が急変した夜、DMを送ったらすぐに来てくれた。ユキさんを連れて。

ユキさんが弟の手を取って、魔力を流してくれた。小さな身体が楽になったのが分かった。弟の苦しそうな顔が和らいだ。

ユキさんもきっとダンジョン関係なんだ。

全部繋がった。

「……遥さん。」

声が出た。まだ震えている。でもさっきよりはましだ。

遥さんがこちらを見た。黒い目。心配そうな目。わたしの答えを待っている。

「……おう。」

「ユキさんは、遥さんの仲間、ダンジョンの関連……ですよね?」

「そうだ。」

「エリクサーも、遥さんのダンジョンで。」

「蓄積魔力で交換できる。みんなで稼いでる最中だ。」

言い訳も、取り繕いもなくただ、事実だけを並べている。いつもの遥さんらしいと思った。

膝の上で握っていた拳を、ゆっくりほどいた。掌に爪の跡が残っている。

遥さんはずっとずっと私を助けてくれていた。

「……どうして、話してくれたんですか?」

「決心がついたからだよ。それに、弟さんの治療をダンジョンでやることになる。連れてくるには、ひかりに話さないといけない。」

少し間があった。遥さんが空を見上げた。

「本当は……もっと前に言うべきだった。ずっと後回しにしてた。」

わたしは攻略者だ。ダンジョンマスターは敵だと習った。それは社会の仕組みとして正しい。

でも、わたしの目の前にいる人は、わたしのヒーローなんだ。

すごく強いのに、ちょっと抜けてて、優しい、ただの遥さん。

教科書に書いてあることと、わたしが自分の目で見てきたこと。

どっちを信じるかなんて、決まっている。

「遥さん。」

まっすぐ見た。目が合った。

「わたし、全然分かってなかったです。遥さんがどれだけ大変なことをしてくれてたか。こんなに傷付くほど……。」

遥さんが目を逸らした。

「いや、これは、俺がしくじっただけ……。」

「ふふ、そんな言葉では騙されませんよ。」

立ち上がった。遥さんの正面に回って、頭を下げる。

「ありがとうございます、これまでわたしにしてくれたこと全部。こんなになるほど、無理をさせて、本当にごめんなさい。」

「自分でやると決めたんだ。気にしないでくれ。」

「それでもです!」

「じゃあ、もらっとくよ。これからもよろしくな。」

「はい!こちらこそです!」

その後、遥さんはあと1~2週間ほどで準備ができると言ってくれた。

夕日の中で、遥さんが小さく息を吐く。肩の力が抜けたのが分かった。

「はー……言えてよかった。」

小さな声だった。わたしに聞かせるつもりじゃなかったのかもしれない。

なんだか、すごく遥さんらしいと思った。

――――

貯金残高:11,200,000円 / ダンジョン蓄積魔力:1,170

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3(※NEW)

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)

【ダンジョン構成】

入口 → 物資補給エリア → 宿泊エリア(1泊5,000円/管理:シノの式神「コンシェルさん」&猫又)→ 食堂エリア(管理:コムギ)→ 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――