軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87 君に似ているような気がして

「ええ、職場見学に行っていましたの。色々と興味深いお話が聞けて楽しかったですわ」

クローディアが言うと、ユージィンは「それは良かったな」と微笑んだ。

「もしこのあと予定がないなら、少し庭園を散歩しないか? 異国の珍しい花がちょうど見頃なんだ」

「まあ、殿下に案内していただけるなんて光栄ですわ」

ユージィンにエスコートされながら王宮庭園に足を踏み入れると、そこはさながら別世界だった。見たこともない花が咲き乱れ、小鳥が歌い、巨木が亭々と枝を茂らせている。歩くほどに緑は深くなっていき、ここが王都の真ん中にあるなんて信じられないほどである。目当ての花は庭園の奥にあるらしく、二人でゆったりと散策を楽しみながら互いに今日あったことを語り合った。

ユージィンは今日タルボット侯爵と面談し、侯爵が関心を寄せる貧民対策について話し合ってきたという。ユージィンが温めてきた救済案を彼に披露したところ、大いに共感を得られたようで、「殿下こそ次期国王に相応しいお方です」と諮問会議での支持を約束してくれたということだ。

トラヴィニオン辺境伯は舞踏会でユージィンと顔を合わせた翌日に支持を表明してくれたので、ユージィンはこれで十五人中九人の支持を手にしたことになる。

「皆の協力のおかげだな」

ユージィンは笑ってそう言うが、いくらクローディアやルーシーが推薦したところで、ユージィン本人が資質に欠ける人間ならば、侯爵や辺境伯とて支持することはなかっただろう。きっかけはどうあれ、結局はユージィンの能力や人柄が支持を集めているのだと思う。

一方、クローディアの方は今日訪問した魔術塔についてあれこれ語ったわけだが、最後に王妃についてラフロイ侯爵から聞いたことを話すと、ユージィンは「やっぱりラフロイ侯爵は知っていたのか」と静かな口調で言った。

ラフロイ侯爵が守秘義務によって縛られていることは、ユージィンも薄々察していたのだろう。

「母の件については夏季休暇の間にガーランド公爵領に行って、祖父母に直接尋ねてみるつもりだ。一体なにが飛び出てくるのか正直少し不安だが、どんなことでも受け止めて、先に進みたいと思っている」

ユージィンは淡々と言葉を続けた。

「そのうえで、祖父にはガーランド公爵として諮問会議で私を支持してくれるよう依頼するつもりだが……仮に出席が難しいなら、代わりに評決権を別の高位貴族に委ねてもらえないかと頼んでみようかと思っている」

「まあ、それは良い案だと思いますわ」

娘のしたことを受けて自主的に謹慎中ならいずれにしても難しいかもしれないが、それでも自ら会議に出席するよりは、まだしもハードルが低いだろう。もし応じてくれたなら、ユージィン支持はこれで十人目ということになる。

「評決権を委ねてもらう相手としては色々考えたんだが、やっぱりラフロイ侯爵が一番適任だろうな。諮問会議の重鎮だし、周囲からの信頼も厚い。代理で評決というのは前例のないことだが、ラフロイ侯爵なら他の出席者も納得してくれると思う。だから侯爵が全てを知ったうえで私を支持してくれているのはとても有難いことだと思うよ」

ユージィンはあくまで前向きな口調で言った。

やがて少し開けたところに出ると、鮮やかな青がクローディアの目に飛び込んできた。

「まあ……これが殿下のおっしゃっていた花ですの?」

「天上花というらしい。まるで空が落ちてきたような色だろう」

「ええ、本当に……!」

形は百合に似ているが、特徴的なのはその色だ。どこまでも深く澄んだ、まるで夏空のような青。

「気に入ってくれたかな」

「ええ、とても素敵ですわ」

ユージィンに促され、クローディアは近くのベンチに腰を下ろした。二人して天上花を眺めていると、地上に落ちてきた夏空に吸い込まれそうな心地がする。

「咲いているうちに一緒に来られて良かった。この花の清々しい美しさが君に似ているような気がして、いつか見せたいと思っていたんだ」

「ま、まあ、それはありがとうございます……」

礼の言葉を口にしながら、クローディアは顔が火照るのを感じた。

(ユージィン殿下って、こういうことをおっしゃる方だったかしら)

生真面目な彼にしては随分と甘い科白である。不思議に思いつつ隣を見やれば、ユージィンも照れたように顔を赤くしているのが目に映る。

目が合うと、互いにふっと笑いあった。

爽やかな風が花を揺らし、甘い香りも漂ってくる。

「……クローディア嬢、私が正式に王太子になったら、君に大切な話があるんだ」

「大切な話、ですか」

「ああ、つまりその……将来に関わる大切な話だ」

ユージィンの言葉に再び頬が熱くなる。

将来に関わる大切な話。

まさか、そんなはずはないと思う一方で、もしかしたらと思ってしまうのを抑えきれない。

「あの、ユージィン殿下、それって――」

クローディアの問いかけは、ユージィンの「誰だ!」という声によって遮られた。

「誰だ、そこでなにをしている」

ユージィンは誰何しながら立ち上がると、クローディアを庇うように前に出た。

ややあって、花壇の向こうから見知った青年が現れた。

「やあ、申し訳ございませんユージィン殿下! お邪魔するつもりはなかったのですが、たまたま声が聞こえたものですから気になって」

にやにや笑いを浮かべて現われたのは宰相の息子にして公式の「腹黒キャラ」オズワルド・クレイトンに他ならなかった。

「何故君がここにいる」

「父に届け物をするために宰相室に寄った帰りに、ちょっと庭をぶらついていただけですよ」

「ここは王族のプライベートスペースのはずだが」

「陛下が許可して下さったのです。リリアナ殿下のお友達は、自由に出入りしてよいと」

「父上が……」

ユージィンは苦々しげにつぶやいたものの、それ以上追求しなかった。国王がリリアナの友人に特権を与えるのは、いかにもありそうな話だと彼も思っているのだろう。

「ところでユージィン殿下、今日はタルボット侯爵とお会いになったと聞きましたが……支持集めは順調ですか?」

「ああ、おかげさまでね」

「それはおめでとうございます……と申し上げたいところなのですが、あいにく殿下は無駄な努力をなさっておいでです」

「どういう意味だ、クレイトン」

「どうかお怒りにならないでください。私としてもこんなことを申し上げるのは大変心苦しいのですが、殿下には『王太子の座を辞退する』と正式に表明していただかねばなりません」

「クレイトン、君がリリアナを女王にと望んでいることは知っているが――」

「いえいえ、あの方のためではございませんよ。ああもちろん私がリリアナ殿下こそ王座に相応しい方だと思っていることを隠し立てするつもりはございませんが、それとこれとは別問題です。リリアナ殿下のためではなく、もちろん私自身のためでもなく、ただ偉大なるアスラン王が打ち立てたこの国のため――そう、このエイルズワース王国の正義のために、ユージィン殿下には辞退を表明していただかなければならないのです」

オズワルド・クレイトンは楽しげな笑みを浮かべてそう言った。