軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

67 分かったことは三つある

「フィリップ様……あの、なんの御用でしょう」

困惑するルーシーに、フィリップは「うん、ルーシーの授業ノートを貸してほしいんだ」と悪びれた様子もなく口にした。

「ノートを貸すのは別に不正じゃないからいいだろ? やっぱりルーシーのノートが一番分かりやすいからさ。全科目のノートを試験期間が終わるまで貸してくれ」

「それは困ります。私だって自分の勉強がありますから」

「あ、それは別に気にしなくていいから」

フィリップは安心させるような笑みを浮かべて言った。

「はい?」

「だからさ、ルーシーはそこまで頑張って上位を維持しなくてもいいってこと。俺はルーシーの成績がちょっとくらい下がっても全然気にしないし、父上だって別に気にしないと思うぜ? 騎士団長夫人にそこまでの学は必要ないからな。あ、もしかしてアンダーソン伯爵が厳しいタイプなのか? それなら俺から一言言ってやるから」

「いえ、私が気にするんです。私が、上位に入りたいんです! ですから、ノートはお貸しできません」

「え、ルーシーが?」

そう言うフィリップはなぜか驚きの表情を浮かべているが、一体なにを驚くことがあるのか。むしろこちらの方が吃驚だ。

「はい。申し訳ありません」

ルーシーの毅然とした対応に、フィリップは「申し訳ありませんって……」と困惑の表情を浮かべたものの、すぐに気を取り直したように、「えーっと、それじゃあさ、二人で勉強しようぜ!」と臆面もなく提案してきた。

「テスト前に二人で勉強会って、なんか婚約者らしくていいだろ? 俺に勉強教えてくれよ」

「私は他の方との約束がありますので、フィリップ様とはご一緒できません。勉強はどうか他の方となさってください」

「それが無理なんだって。いつもはオズワルドが簡単に要点をまとめてくれるんだけど、今回はなんかダミアンにかかりきりで、俺には自分でなんとかしろって冷たいんだよ。アレクサンダーはいつもリリアナ様にかかりきりだし、今から家庭教師を頼んでも間に合わないし」

「まあ、クレイトン様はブラッドレー様に勉強を教えてるんですの?」

横からクローディアが口をはさんだ。

「ああ、なんか『今回は絶対ダミアンにいい成績を取らせるんだ』って息巻いてて……って、お前に関係ねぇだろ。なぁ頼むよルーシー、最近レポートとか全然出してないから平常点が壊滅的で、テストで挽回しないとまずいんだよ。オズワルドたちはレポートの件は知らないから、そこまで深刻だって分かってないみたいで」

「まさに自業自得というやつですわ」

「だからお前に関係ねぇんだよ! なぁ、ルーシー、頼むから」

フィリップはなおもしつこく食い下がっていたが、次の授業を担当する薬学教師が来たことで、ようやくあきらめて自分の教室へと戻っていった。

席に着いたクローディアは、教科書を広げながら先ほどのやり取りを反芻した。

フィリップ・エヴァンズの話は実に下らないものだったが、得られた情報がないでもなかった。

とりあえず分かったことは三つある。

一つ目。やはり今回の措置にはオズワルド・クレイトンが関わっていること。

今回に限ってオズワルドがダミアンに良い成績を取らせようと息巻いているのは、成績不良で留年したエリザベスとの違いを際立たせ、公爵家の跡取り変更を円滑に行うためだろう。

原作でも「腹黒キャラ」オズワルドが「リリアナに恨みがあるエリザベスが公爵家当主になったら、即位したリリアナの足を引っ張るのではないか」と懸念して、エリザベスを陥れる形で公爵家の後継をダミアンに変更させるくだりがあるが、この世界でも同じことをやろうとしているに違いない。

二つ目。ブラッドレー公爵はこの件に関わっていないこと。

ブラッドレー公爵がオズワルドやモートンらと共謀しているなら、公爵が予めダミアンのための家庭教師を用意しておくはずである。オズワルドが自ら家庭教師役を務めようとしているのは、ブラッドレー公爵の引退がオズワルドにとっても寝耳に水で、今回の計画はいわば泥縄式に立てられたものであるからだ。

ブラッドレー公爵は別段エリザベスに恥をかかせるつもりで卒業式翌日の引退を決めたわけではなく、本当にエリザベスに家督を譲るつもりで関係者に根回ししていたのだろう。その点については若干の救いがあるといえなくもない。

とはいえ、実際にエリザベスが留年となったら嬉々としてそれを利用するに違いないので、あまり意味はないかもしれないが。

ちなみにダミアンが関わっているかについては現時点では判断がつかない。ブラッドレー公爵の引退をオズワルドに伝えたのはまず間違いなくダミアンだと思うが、単なる友人同士の会話でもその程度のことは話すだろうし、そこからオズワルドが勝手に画策することだって十分に考えられるからである。

少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』において「内気で素直な少年」だったダミアン・ブラッドレーを思うと、なにも知らずにオズワルドに利用されているだけなのではと思いたくなるところだが、あれは所詮リリアナ視点だ。同じリリアナ視点で「ちょっと意地悪だが、根は優しく思いやりに満ちた年上男性」に見えたハロルド・モートンの実態を思うと、あまり参考にしない方がいいだろう。

そして三つ目。フィリップ・エヴァンズは、廃嫡される可能性があることだ。