軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65 良い知らせと悪い知らせ

昼休み。クローディアたちはいつものように四阿で昼食を共にしたわけだが、真っ先に話題に上がったのは当然のことながら実践演習の一件だ。

「私もクローディア嬢の考えに賛成だな。公平を期すなら加点を取り消すのではなく、巨人の被害を受けた者たちになんらかの救済措置を設けるべきだろう。こんなやり方では無用な軋轢を生むだけだ」

ユージィンが言うと、ルーシーも「私もそう思います。そもそも被害を受けた方たちだって、こんなことを望んでいないと思うのです」と同意した。

「だよな。巨人の被害に遭った奴らはみんな、俺たちが優勝してくれて良かったって言ってるぞ。俺が運んでやった下級生だって、『巨人を倒した上に優勝までかっさらうなんて、先輩方マジハンパねぇな!』って喜んでたし」

「ヴァルデマー辺境伯家のご子息ですわね。あの方の身分を知ったときはちょっとびっくりしましたわ」

「ああ。俺も驚いた。まああの態度で平民だったら、それはそれで嫌だけどな……」

などとしばらく盛り上がったあとで、クローディアはふと違和感を覚えた。

「……エリザベス様、今日はやけに静かですのね」

いつものエリザベスなら率先して「こんな理不尽、許せないわ!」と怒りの声をあげそうなものだが、今日は四阿に現れたときからずっと、不気味なまでに大人しい。

「そういえば先ほどからあまり召し上がっていらっしゃらないようですが、もしかしてどこかお悪いのですか?」

ルーシーが心配そうに問いかける。

「……別に、私だってそういう気分のときはあるのよ」

「でもお前、今朝は元気いっぱいだったよな」

「今朝?」

クローディアが聞き返すと、ライナスは「ああ、今朝、馬車置き場のところでたまたま会ったんだよ」と説明した。

「そのときはやけにハイテンションで――そういえばお前、あのとき『昼休みに重大発表がある』って言ってたけど、あの話は結局どうなったんだよ」

「……そんなこと言ったかしら」

「言ってたろ。すごく良い知らせだから、昼まで楽しみにしてろって」

「え、良い知らせなのですか? エリザベス様」

「すごく良い知らせって、それは私も気になりますわ!」

「エリザベス嬢、なにがあったか知らないが、とりあえず事情を話してくれないか?」

ユージィンにまで促され、エリザベスはついに観念したように口を開いた。

「その……父が私の学院卒業を機に引退するって宣言したんです。卒業式の翌日に、親族や寄り子を集めて大々的に発表するって。もうみんなに根回ししてるって、それで……」

ブラッドレー公爵の引退。

その言葉に、他の四人は互いに顔を見合わせた、次の瞬間、たちまち歓声が沸き起こった。

「まあ、それは素晴らしい知らせですわ。おめでとうございます、エリザベス様!」

「早々に目標を達成したな、おめでとう、エリザベス嬢!」

「本当に良かったです。おめでとうございます、エリザベス様!」

「なんだよ、勿体ぶるなよ。おめでとう!」

四人がたちまちお祝いムードに包まれたのも無理はない。

巨人騒動以降、ブラッドレー公爵家の親族や寄り子はエリザベス後継を既定路線と見なしており、「ご立派な跡取りがいらして、公爵閣下が羨ましいです」「エリザベス様は本当にご立派になられて、ブラッドレー公爵家は次の代も安泰ですな」「ところで公爵閣下の持病ですが、やはり温かい地方への転地療養が一番効果的だそうですよ?」などと口にするようになったが、当の公爵はまだまだダミアン後継に未練があるのか、いつごろ家督を譲るとも口にしない状況だった。

そこでエリザベスは積極的に公爵家の執務を引き受けることで実績を積む努力をし、周囲の評判も上々で、順調に外堀を埋めつつあったわけだが、ここにきてそれがようやく実を結んだというわけだ。さすがのブラッドレー公爵も、何の瑕疵もないエリザベスを後継から外すのは不可能だと思い知らされて、ついに観念したのだろう。

創立祭の夜、バルコニーで誓い合った目標の一つが達成された、しかもエリザベス自身の努力のたまものなのだから、これで盛り上がらないわけがない。

ゆえに四人は大いに祝福したわけだが、その高揚した空気は徐々に鎮静化していった。

当のエリザベスがこわばった表情を崩していなかったためである。

「……あの、エリザベス様?」

なぜエリザベスは喜んでいないのか。

「エリザベス嬢?」

なぜいつものように得意げに肩をそびやかし、「だから私が後継に決まってるって言ったでしょ!」と高らかに宣言しないのか。

「エリザベス様……」

ライナスと馬車置き場で会ってから昼休みまでの間に、一体何があったのか。

「おいエリザベス、お前まさか……」

ライナスがおそるおそる問いかけるとエリザベスはこくりとうなずいた。

そして血を吐くような声音で言った。

「私……私ね、卒業できないかもしれないわ……!」