軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61 全ての運命を覆して

やがて楽団の演奏が始まり、生徒会長のアレクサンダー・リーンハルトと副会長のリリアナ・エイルズワースが最初のダンスを披露した。

原作では皆が見ほれるほどに鮮やかだった二人のダンスは、どこかぎこちなく冴えないもので、彼らが先ほどの動揺から立ち直っていないことを感じさせた。原作では「あの男、リリアナちゃんにくっつきすぎじゃないのか?」「許さん、パパは許さんぞぉ」とやきもきしていた国王も、心ここにあらずといった様子だし、ハロルド・モートンや他の生徒会の面々もなにやら落ち着かない印象だ。

「――なあ、さっきの陛下の反応、なんか変じゃなかったか?」

「モートン先生や生徒会の連中も、なにをそんなに焦ってたんだろうね」

「そういえば、地下神殿に踏み込んで巨人を起こした犯人って、まだ分からないままなんだっけ」

「ああ。自力で地下迷宮を踏破できるくらいだから、かなりの実力者だろうって言われてるけど」

「……まさかリリアナ殿下が?」

「おい、滅多なことを言うな。勇者アスランの末裔である王女殿下が、邪神の眷属を目覚めさせるなんて、そんな馬鹿なことあるわけないだろ」

「でも私、変な噂を聞きましたわ。生徒会グループはあの演習で三位どころか十位にも入っていないって」

「ええ、私も聞きましたわ。あれだけの実力者揃いなのに、不思議だなって思ってましたの」

「魔獣狩りそっちのけで、なにをやっていらしたのでしょうね?」

そこここで、参加者たちがささやきかわす声が聞こえる。

(やっぱりみんな、そこは違和感があったのね……)

皆の前で公表されるのは上位三位までであり、四位以下はそれぞれに配られる成績表で自分の順位が分かるだけなので、本来ならば他人に知られることはない。

とはいえ、ある程度上位に入ったグループは、「俺たちは六位だったんだ」「私たちは八位でしたのよ」などと周囲に吹聴したくなるものである。そうやって各自の結果が広まるうちに、四位から十位まで出そろった結果、皆が「そういえば生徒会グループは一体何位だったんだろう」と不思議に思うのは、おそらく時間の問題だった。

それでも「まさか勇者アスランの子孫である王族がそんな真似をするはずがない」という思いが歯止めになっていたところに、先ほどの奇妙な振る舞いだ。

疑惑はひとつの確信をもって、今後もずっと語られ続けることだろう。

どこか白けた空気の中、リリアナたちのダンスは終了した。

儀礼的な拍手が贈られたあと、一般生徒のダンスが始まった。クローディアもユージィンと共に会場の中央に進み出ると、軽やかにステップを踏み出した。

踊り出してすぐに、クローディアは己のパートナーが大変な名手だと気が付いた。これを「ダンスはそこそこ得意な方」だなんて、まったく謙遜もいいところである。

クローディアが巧みなリードを楽しんでいると、ユージィンが改まった口調で言った。

「――クローディア嬢、さっきは王家の者たちが無礼な態度をとってすまなかった」

「別に気にしていませんわ」

クローディアは軽い調子で言ったあと、「だけどこの国で王座に一番ふさわしいのはユージィン殿下だって、改めて確信しましたわ」と声を潜めて付け加えた。

むろんユージィンが王座に至る道のりは、けして平坦なものではない。国王は敵意を隠そうともせず、最大の後ろ盾となるべき王妃は現在幽閉中。外戚に当たる公爵家も表舞台から完全に姿を消しており、その裏側にどんな陰謀が蠢いているかも分からない。それになにより、戦う相手はこの世界の主人公であるリリアナ・エイルズワースその人だ。それでも。

「障害を全て蹴散らして、この国の王になって下さいませ。及ばずながら、このクローディア・ラングレーがお力添えいたしますわ」

クローディアが微笑みかけると、ユージィンはまぶし気に目を細めた。

「不思議だな。君にそう言われると、なんでもできるような気がするよ」

「ええ、なんでもおできになれますわ、殿下なら」

軽やかにステップを踏みながら、クローディアは原作におけるユージィンの運命に思いをはせた。

ユージィン・エイルズワースは「留学先から帰国した」という形で物語に登場するものの、口を開けば「王族らしくしろ」とリリアナに小言をいうばかりで、見せ場らしい見せ場は存在しない。唯一の大ゴマは邪神騒動に巻き込まれて命を落とす場面だが、掲載当時のネット掲示板に彼の死を悼む声はなく、むしろリリアナが嘆き悲しむ姿に「あんな口うるさい兄貴でも愛してたんだな、リリアナは」「あんな奴のためにそこまで泣くことないのにな」「リリアナたんマジ天使」といった同情の声が寄せられていた。

そして肉親の死を乗り越えて一回り成長したリリアナが、クローディアごと邪神を葬る決断を下す展開は、多くの読者の心を打ったものである。

言葉を換えれば作中におけるユージィンの死は、「優しすぎるリリアナ」が精神的成長を遂げるための布石であって、それ以上でも以下でもない。

成長だけなら父親の死の方が効果的なのだろうが、彼が死ぬと邪神を倒したあとの「ハッピーエンド感」が薄れてしまうため、「死んでも読者に惜しまれず、なおかつ兄という立場上、リリアナがショックを受けても違和感のない人物」として便利に使われた感が否めない。

まるで主人公の養分となるべく生まれたようなキャラクター、ユージィン・エイルズワース。

今目の前にいるユージィンには、絶対にそんな運命をたどらせはしない。

――いや、ユージィンだけではない。

己をないがしろにする男に嫁がされるルーシー・アンダーソン。

弟に後継の座を奪われ、修道院に送られるエリザベス・ブラッドレー。

魔獣の群れに踏みつぶされるライナス・アシュトン。

そして平民落ちして一家離散の憂き目にあうラングレー家の人々――クローディアの父ウィリアム・ラングレーと義母ヘレン・ラングレー、異母妹ソフィア・ラングレー。

(全ての運命を覆して、みんなで幸せになって見せるわ)

クローディアはそう心に誓った。