軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

57 ユージィンの決意

アレクサンダーとのお茶会から二日のち。いよいよ待ちに待った王立学院創立祭がやってきた。

舞踏会用のドレスをまとったクローディアは、家族の前でくるりとターンして見せた。義母ヘレンのアドバイスで仕立てたドレスは深い青と白のグラデーションで、まるで海のように幻想的な色合いだ。

「思っていた以上に良くお似合いですわ」

義母は満足げに目を細め、ソフィアは「お姉様、妖精のお姫様みたいに綺麗です!」と歓声を上げた。

父は父で「あんなに小さかったお前が舞踏会に参加する年頃になったんだなぁ」となにやら感慨深げである。

ちなみにクローディアのデビュタントの年は三年も前に過ぎており、今まで舞踏会に参加していなかったのは、単にエスコート役のアレクサンダーが約束を反故にし続けた結果なのだが、それは言わないお約束である。

やがて定刻になり、ユージィン・エイルズワースが伯爵邸を訪れた。

普段の制服姿も素敵だが、正装をすると彼の水際だった美男子ぶりが強調されてまぶしいほどだ。

ユージィンはクローディアのドレス姿に一瞬息をのんだあと、「クローディア嬢……なんというか、本当に、とても綺麗だ。まるで海の女神のようだ」と称賛の言葉を口にした。

「もったいないお言葉ですわ。殿下もすごく素敵です」

「君の初めての舞踏会でエスコートできるのを光栄に思うよ。できれば二度目も三度目も私にエスコートさせてほしい」

「ふふ、ありがとうございます。機会があったら是非お願いいたします」

まあユージィンに婚約者ができるまでの繋ぎだとは思うが、美貌の王子様から申し込まれて悪い気はしない。

その後クローディアはユージィンに手を貸してもらいながら、王家の馬車に乗り込んだ。

華麗なドレスを身にまとい、王子様にエスコートされて、向かう先は舞踏会。まるでおとぎ話のような展開に夢見心地になりそうだが、あまり浮かれてばかりもいられない。

二人を乗せた馬車が走り出してから、クローディアは話を切り出した。

「ユージィン殿下、お伝えしなければならないことがあります」

クローディアの話とは、いうまでもなく石の巨人を目覚めさせた「侵入者」の正体についてである。ラフロイ侯爵は国王の意向や影響力の大きさなどから、事実の公表には首を縦に振らなかったものの、クローディアが身体を張って巨人退治に協力した仲間たちには真実を知る権利があると食い下がったところ、そちらは賛同してくれた。

ユージィンは真剣な表情で耳を傾けていたが、実の妹が関わっていたことはさすがにショックだったのか、「そうか、リリアナたちが……」とつぶやいたきり、しばらく黙り込んでいた。

「……あの、舞踏会の前にこんなことをお話しして申し訳ありませんでした」

「いや、君が謝ることじゃないよ、話してくれてありがとう」

ユージィンは安心させるように微笑んだあと、「クローディア嬢、君は以前、私に王座を目指す気があるかどうかを尋ねたことがあったろう」と意外な科白を口にした。

「え? ええ、ありましたわね」

「実を言うと、あのときはまだ迷っていたんだ。正直言って、王座には自分よりもリリアナの方が相応しいのではないかと思っていた」

「え、どこが……魔力量が多いからですか?」

「魔力量のこともあるが、一番の理由はそこじゃない。将の将たる器、というのかな。リリアナには人から慕われる特別な才能がある。私のように頭の固い人間よりも、あの子の方が家臣たちから慕われ、支えられて良き国王になるのかもしれないと思っていた。だから、あのときは『私はまだ迷っている』と答えるつもりだったんだ」

「ユージィン殿下、それは――」

「しかし、君の話を聞いて気持ちは変わった。この国の王にとって一番の使命は、邪神の脅威から民を守ることだ。七百年の間、我が王家はそのためにこそ血を繋いできたんだ。邪神の脅威に真摯に向き合わない人間にこの国の王は務まらない。エイルズワースの王位は私が継ぐ。そのためにはどんなことでもするつもりだ」

その声音からは、一点の迷いも感じられなかった。

「頼もしいお言葉、嬉しい限りですわ。私も宮廷魔術師としてユージィン殿下にお仕えできる日を心待ちにしております。――ですが、その前に、これだけは言わせてくださいませ」

クローディアはユージィンの端正な顔を正面から見据えて言葉をつづけた。

「僭越ながら申し上げます。私はユージィン殿下のことをお慕いしています」

「え……」

ユージィンの目が大きく見開かれる。

「もちろん私だけではありません。ライナス様も、ルーシー様も、エリザベス様も、みんな殿下のことをお慕いしています。ユージィン殿下には、人から慕われる特別な才能がおありですわ」

対するユージィンは一瞬気が抜けたような表情を浮かべて「ああ、そういう……」とつぶやいたあと、破顔した。

「ありがとう、クローディア嬢。私も……君が好きだ」

「……ありがとうございます」

思いのほか甘い声音と真剣なまなざしに、クローディアは顔が火照るのを感じた。

会話の流れから言って深い意味などないのだろうが、美貌の王子様から面と向かって好意を告げられるのは、少しばかり心臓に悪い。

(こういうのって、言うのはいいけど、言われるのは結構照れ臭いものなのね……!)

二人して妙な雰囲気になりながら、馬車は会場に到着した。