軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43 先に行って下さいませ

救援信号は周辺に急を知らせるのみならず、学院内で待機している教師たちに位置と状況を知らせる機能を持っている。というかむしろそちらが本命だ。

ゆえにすぐにも学院本部からの救援が来るものと期待していたし、クローディアたちはそちらに下級生を託してお役御免になるものとばかり思っていたのだが、未だに救援の影も見えない。

学院本部には責任者のモートンをはじめとする七名の教師たちが常時詰めているはずなのに、彼らはなにをしているのか。

「ここまで酷い魔力切れだとポーションの効果も限度がありますし、一刻も早く救護室で治療を受けた方が良いのですが……」

ルーシーが心配そうにつぶやいた。

下級生たち五名のうち二名はポーションのおかげでそれなりに回復したものの、残る三名はまだ動くのも辛そうな状況だ。これ以上放置すれば死なないまでも、後遺症が残ってしまうだろう。

「もしかしたら別の場所でも騒ぎが起こって、そちらに手を取られているのかもしれないな。手遅れになる前に、我々の手で学院まで送り届けることにしよう」

ユージィンの言葉に、他の四名も同意した。そして話し合いの結果、回復した二名は自力で移動してもらうことにして、ユージィンとライナスが動けない男子生徒を一名ずつ背負い、エリザベスは動けない女生徒を、ルーシーは全員分の荷物を担当。クローディアは護衛として、移動中に魔物が襲ってきた場合の迎撃を行うことになった。

この割り振りに関しては、ライナスが「殿下にそんな真似はさせられません! それくらいなら俺が二人まとめて運びますよ!」と主張したが、ユージィンに「無茶を言うな。どうやって背負うつもりだ」と一蹴された。

「――申し訳ありません、ユージィン殿下。僕らがふがいないばっかりに、殿下にこんな恐れ多いことを……」

「気にするな。学院生徒はみな平等だ」

「申し訳ありません、ブラッドレー様、公爵家の方にこんな……」

「フン、光栄に思いなさい」

「わりぃな、先輩」

「お前態度でけぇよ!」

恐縮する下級生たちを宥めながら分担通りに担ぎ上げ、身体強化を展開させて、さあ出発しようとした矢先、ずずん、と地面が振動した。続いて木々の向こうから、巨大な頭部が現れる。地響きを立てながら近づいてくるそれは、紛れもなく――。

「なによこいつ、さっきの化け物がもう一体?」

「違う、一体じゃない!」

ライナスが悲鳴のような声を上げた。

「――殿下、十体……いえ、十二体の巨人がこちらに向かってきています!」

突如もたらされた凶報に、一同の間に戦慄が走る。

そこから最初に立ち直ったのはユージィンだった。

「みんな、急げ!」

ユージィンは皆に呼びかけると、下級生を背負って走り出した。ライナス、エリザベス、ルーシーもそれぞれ分担通りに下級生や荷物を背負ってあとに続き、残る二名の下級生もなんとか彼らについて行く。

一方、クローディアはその場に残って、迫りくる巨人と対峙した。

「クローディア嬢、なにをやってるんだ!」

ユージィンが気付いて呼びかける。

「ここは私に任せて先に行って下さいませ!」

クローディアは「前世で一度言って見たかった科白」を口にすると、巨人の顔面に爆炎魔法を叩きこんだ。続いて四肢を分断すると、バランスを失った巨人がどうと地面に倒れ込む。あと十一体。

「馬鹿言うな、君一人を置いていけるわけがない!」

「そうです、クローディア様お一人なんて危険すぎます!」

「早く来なさいよ! なに格好つけてるのよ!」

「十三体で打ち止めとは限らないんだぞ! もっと増える可能性だってあるんだからな!」

ユージィンに続いてルーシー、エリザベス、ライナスからも反対の声が上がったが、クローディアはここで引く気は毛頭ない。

「全員で逃げたところで確実に追いつかれますわ。どうせ戦うならここで足止めいたします。私なら大丈夫ですから、手遅れになる前に下級生たちを救護室に連れて行ってくださいませ!」

自分たちだけならいざ知らず、下級生たちを連れて逃げ切るのは不可能だ。このまま一緒に逃げたところで、遅かれ早かれ巨人たちと対峙するのは避けられない。そして倒すのに手間取っているうちに、魔力切れのひどい三名は手遅れになってしまうだろう。

加えて言うなら、クローディアはあの巨人が十三体で打ち止めであることを、前世の知識として知っている。あと十一体なら、なんとか魔力が持つはずだ。

「皆様が十分に離れたら、私も離脱してあとを追います。ユージィン殿下、ご決断を!」

クローディアは振り返ると、まっすぐにユージィンを見据えて言った。貴方ならその決断ができるはずだ、という意を込めて。

ユージィンは痛みに耐えるような表情を浮かべたのち、「……分かった」とうなずいた。

「みんな、行くぞ!」

ユージィンは皆に呼びかけると、再び前を向いて走り出した。そのあとに下級生二名が続き、ライナスとエリザベスも一瞬ためらってからあとに続いた。

一方ルーシーはクローディアのところに駆け戻ると、ポーションの瓶を差し出した。

「クローディア様、これを」

「予備のポーションですわね、有難く使わせていただきますわ。さ、ルーシー様も早く!」

「はい、お気をつけて!」

ルーシーが駆け去った数秒後に、揺れる木々の向こうから三体目と四体目が現れた。

「さあいらっしゃい、私が遊んであげますわ!」

クローディアは不敵に微笑むと、「前世で一度言ってみたかった科白、その2」を高らかに宣言し、巨人たちを迎え撃った。