軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

105 クローディアの国際デビュー

占星術師のアーティファクトについては、リリアナのかつての乳母であるステラ・バーネットに交渉を任せることになった。彼女は現在ブラッドレー家が運営している孤児院に勤めており、その献身的な働きぶりから周囲の評判も上々で、ことに子供たちから大変慕われているらしい。

彼女の穏やかな暮らしを乱すのは心苦しかったが、本人曰く「落ち着いたらあの方に会いに行く予定でしたし、少しでも私のしたことの償いになるのでしたら喜んで」とのこと。

またルーシーによればトラヴィニオン辺境伯家のアーティファクトも調整のために王都に持ってきているので、もてなしのために貸与してくれるとのことである。漫画で見た大砲型アーティファクトの現物を拝むことができるのはクローディアとしても楽しみだ。

そこに王家の所有するアーティファクトとブラッドレー家の所有するアーティファクトも加わるのだから、もてなしの材料としては十分すぎるくらいだろう。

銘酒については予定通りアシュトン侯爵の秘蔵コレクションを提供してもらうことになった。アーティファクトと違って消耗品であるため非常に申し訳なかったが、アシュトン侯爵夫人から「王家のお役に立てるなら我が家にとっても誉ですから、喜んで提供させていただきます。主人も泣いて喜んでおりますわ」という力強いメッセージをいただいた。ちなみにアシュトン侯爵は結婚式の披露パーティで泥酔した一件で、今でも夫人に頭があがらないということだ。

猫についてはユージィンがヴェロニカ王妃に伝えたところ、「うちの子たちはお客様にも慣れているから、おいでいただいても大丈夫よ。お会いするのが楽しみだわ」と大変張り切っていたという。

客人のもてなしについて一件落着したことで、クローディアは後顧の憂いなく王妃教育に邁進した。

そしていよいよエイルズワース祭前日の朝。最初の客人であるリッケンバルトの王太后が到着した。

「会えて嬉しいわ、クローディアさん。クローディアさんの活躍はまるで物語のようだって我が国でも評判になっているのよ」

シャーロット王太后は「気さくでおっとりした老婦人」という事前情報にたがわぬにこやかな態度で王族の一人一人と挨拶を交わしたあと、準王族であるクローディアにも笑顔で声をかけてきた。

「お目にかかれて光栄です、シャーロット王太后陛下。『物語の国』と謡われるリッケンバルトの皆様にそんな風に思っていただけるなんて本当に嬉しゅうございます。私にとってリッケンバルトは憧れの国なのです。『領主館の客人』『湖上の誓い』、それに『左腕の封印』を読むたびに、リッケンバルトの美しい風景をいつも想像しています」

「まあぁ、『左腕の封印』って若い人の間で流行している小説でしょう? 最近の作品まで親しんでくださっているなんて嬉しいわ。ぜひユージィン殿下と一緒にいらしてちょうだいね。国民一同大歓迎するわ」

「はい。機会があれば、ぜひうかがいたいです」

その後も軽いやりとりを交わしたあと、シャーロット王太后は侍女たちと共に用意された部屋へと引き揚げた。

「完璧だったよ、クローディア」

緊張の解けたクローディアがほうと息をついていると、傍らのユージィンが微笑んだ。

「本当ですか? 『美しい風景』の発音が少しおかしくありませんでした?」

「そんなの、全然気にならなかったよ」

「そうよ、クローディアさん。初々しくてかえって良かったくらいだわ」

ヴェロニカ王妃も同調する。

「それに有名な古典の『領主館の客人』や『湖上の誓い』はともかく、最近流行しているリッケンバルトの小説まで目を通しているなんて驚いたわ。王太后陛下は本当に感激していたようね」

「『左腕の封印』は趣味で読んでいる恋愛小説ですの。王太后陛下の前で名前を出すのはちょっと軽薄かなって迷ったんですけど、喜んでいただけたのなら良かったです」

『左腕の封印』は呪われた宿命を背負う黒衣の辺境伯と美しく清らかな令嬢の恋愛を描いたロマンティックな物語で、ルーシーと貸し借りしながら楽しんでいる作品なのだが、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。

ともあれ国王が苦虫をかみつぶしたような顔をしているところを見ると、クローディアは本当に成功したのだろう。

一方リリアナは「良かったわね、クローディアさん、毎日必死に頑張った甲斐があったじゃない?」と茶目っ気たっぷりに片目をつぶって見せた。悪気がないのは分かっているが、なんとなく張り倒したくなるのは何故だろう。

その後も続々と客人たちを乗せた馬車が到着し、王族である国王と王妃、リリアナとユージィン、そして準王族であるクローディアはそろって彼らを出迎えた。

相手は皆他国の王族で、伯爵令嬢であるクローディアよりもはるかに格上の者ばかりだが、皆愛想良くクローディアと言葉を交わし、よしみを結ぼうとしてくれた。それはクローディアが次期王妃であることに加え、レナード侯爵夫人やトラヴィニオン辺境伯といった王国貴族がそれぞれの国際人脈を使って良い評判を広めている影響もあるようだ。

「ユージィン殿下、並びにクローディア様、お二人の素晴らしいご活躍はわが国でも有名です」

「マクシミリアン陛下、素晴らしい後継を得られて羨ましい限りです。さすがはアスラン王のお血筋だと、わが国でも評判なんですよ」

ユージィンが賞賛されるたびに顔を引きつらせる国王の姿が、なんというか、痛々しい。

ヴェロニカ王妃に対しては健康が回復したことを祝う言葉が多く聞かれたが、「本当に長い療養でしたわね」と意味ありげに微笑む者もいて、こちらの事情が近隣諸国にも伝わっていることを感じさせた。対する王妃は幽閉生活など少しも感じさせない余裕たっぷりの態度で優雅に客人たちをあしらっており、クローディアからしてみると、「さすが師匠!」といった感がある。

そしてユージィンはと言えば、軽いユーモアを交えながら客人たちと談笑する姿は颯爽としていて眩しいほどだ。やはりこの人は生まれついての王子様なのだと改めて実感させられる。

一方、共通語がほとんど分からないリリアナは、通り一遍の挨拶を繰り返しながら、いかにも退屈そうな様子である。まあ元々「堅苦しいのは苦手」が口癖なので、こういう場は好きではないのだろう。

そんな風にして出迎えを繰り返し、クローディアもそろそろ慣れてきたころに、見覚えのある人物が現れた。

「よう、久しぶりだな、ユージィン」

精悍な顔立ちの青年は、不遜な笑みを浮かべて言った。

ヴィクター・バルモア。

ユージィンとライナスの留学先であるバルモア王国の王太子にして、少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』の後半に登場する「俺様キャラ」だ。