軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65話 工事開始

アストランティアを治めている子爵夫人に泣きつかれて、用水路を作るという普請の手伝いをする事になった。

他領との合同でやっている工事なので、こちらが遅れるとメンツに関わるという。

上手くいけば、貴重な魔導書が手に入るというので仕事を引き受けた。

さて、現場へ到着したのだが――なるほど、工事が行われている真っ最中だ。

沢山の馬車が並び、簡易のテントが張られている。恐らく、ここで働くための物資を供給している商人の部隊だろう。

しかし、すぐ目の前には、森があるではないか。

「森!? もしかして、森を切り開く作業が残っているので?」

「左様だ」

「左様って……こりゃ、参ったな」

これじゃ、残り5kmが殆ど森の中って感じだろ。こんな工事は人力じゃ絶対に間に合うはずがない。

「本当に、こんなに早く到着するとはな!」

車を停止させると、夫人はドアを開けて現場監督らしき、役人の所へ向かった。

少々小太りで、緑色の服を着た男が、ペコペコ頭を下げている。その男も、叩き上げ――という感じではない。

どこぞの貴族の息子とか、そういった素性なのだろう。

「ケンイチ、ごめんなさい……私が、口を滑らせたばかりに。まさか、こんな大変な普請だとは」

「まぁ、気にするな。子爵夫人は貴族社会で揉まれた方だ。老獪さでは君より一枚上手だったんだろう。年の功ってやつだ」

「誰が歳だ!」

少し離れた場所で、現場の視察をしていた夫人がこちらを振り向く。

「うおっ! 地獄耳……」

しかし、仕事を引き受けてしまったからには、何とかせねばなるまい。とりあえず、ここをキャンプ地とする。

現場から少々離れた場所の草むらを刈り、家を設置する。

車を降りたベルが、早速周辺のパトロールを始めた。しかし草むらに入ると、本当に姿が隠れて見えなくなるな。

こんな感じで、魔物に近づかれて襲われたら対処出来ないが、それを防ぐためにベルがパトロールをしてくれているわけだ。

それに、耳の良い獣人達もいるしな。

「ここが家になるにゃ?」

「旦那、もう少し草を刈った方がよくねぇか?」

「まぁ、とりあえずな。普請の現場が移動すれば家も移動するから、こんなもんだろう」

夫人の所へいき、現場監督と今後の打ち合わせをする。辺りには人夫が沢山働いているのだが、さすが力仕事だけあって獣人達が多いようだ。

ミャレーやニャメナのような猫人ばかりで、犬人の姿は見えない。

「其方、あの家を持ってきたのか?」

「ええ、そのために小さい家にしているのですから」

夫人に、役人へ紹介していただく。

「ボリジ、私が雇った魔導師である」

「初めまして、カナン様に雇われた魔導師のケンイチと申します」

「ボリジです。よろしく」

「ボリジよ、この者の召喚獣を使って作業を進める故、心してかかれ」

「し、召喚獣でございますか?」

現場監督が 訝(いぶか) しげな顔で俺を見ている。

「カナン様、実際に見せた方がよろしいでしょう」

「そうであるな」

作業している人夫達にどいてもらい、コ○ツさんを召喚する。

「召喚!」

アイテムBOXから出すだけなので掛け声は必要ないのだが、一応、魔法という事にしてあるので見せかけだ。

地響きを立てて、黄色の巨体がアイテムBOXから呼び出される。

「うわぁぁぁ!」「なんじゃこりゃ!」「化け物だ!」

逃げ惑う人夫の中――俺は颯爽と運転席に乗り込むと、人夫達が掘り起こしていた場所を鋼鉄製のバケットで一掬いした。

一掬い重量としては、おおよそ1tぐらいであろう。

「うむ! これだ! なんという力強さと頼もしさよ! どうだ、ボリジよ。この召喚獣がいれば、普請の終わりも見えたのではないか?」

「は、はい、その通りで……」

「すげぇ!」「鋼鉄の魔物か?」「ずっと唸ってるけど、大丈夫なのか?」

人夫達が、ビビって遠巻きにコ○ツさんを眺めている。

「良かったなボリジよ。この普請が間に合わなければ、其方の首が飛ぶところであったのだから、ケンイチ殿は命の恩人という事になる」

「カナン様、まだ終わったわけではありませんよ。残っているのが、殆ど森ではありませんか」

俺はコ○ツさんのエンジンを止めて下に飛び降りた。

「うむ! だが、この召喚獣があれば、なんとかなるであろう?」

「ボリジ様、水路はこれを使って私が掘り進めますので、人夫達には森の木々を伐採させて下さい」

「わ、解りました」

「手持ちの斧は揃ってますか?」

一応、聞いてみたのだが……。

「いえ、まだ……でして……」

どうも手際が悪すぎるな。

ここから、アストランティア、アキメネス共に100kmは離れているのだ。馬車で行って帰ってくるだけ4日は掛かる。

今から商人に発注して、あちこちからかき集めても、下手をすれば1週間程掛かる事も考えられる。

間に合わなくなるぞ。

「カナン様、とりあえず私の手持ちの斧をお売り致します故――え~と……」

シャングリ・ラを検索する――大体1挺1万円ぐらいだな。サンプルで1挺購入して、夫人に見せてみる。

「これになりますが……」

斧を受け取った夫人は、しげしげと確認すると人夫の1人を呼びつけた。

「これで、木は切れるか?」

「は、はい……こりゃ、新品でごぜぇますね。こんな良い斧を使わせてもらえるんで?」

「うむ!」

その隙に、プリムラを呼んで耳打ちをする。

「プリムラ、あの斧を街で売るとしたら、1本いくらぐらいだ?」

「え~、新品で打ちたてでしょうから、金貨1枚(20万円)ぐらいでは?」

「カナン様、本来は1本金貨1枚なのですが、お友達価格という事で、1本銀貨2枚(10万円)でお譲りいたします」

「なに?! お友達だと?」

「ダメでございますか? それでは通常価格の金貨1枚という事で……」

「いや、我等はお友達であろう! うん! その通りだ!」

「承知いたしました。それでは、これを20本お譲りいたしますので、総額金貨10枚(200万円)という事に」

「あい解った」

早速、シャングリ・ラから新品の斧を残り19挺購入する。購入ボタンを押すと、ガシャガシャと斧が落下してきた。

「ア、アイテムBOXでございますか?」

「その通りである!」

驚いているボリジの横で、何故か夫人が得意げなのだが。

「ボリジよ、この斧を持たせて、早速森の木々を伐採させるがよい!」

「承知いたしました」

俺の渡した斧を持って、人夫達がバラバラと森の中へ入っていく。

森の中なのだが魔物はどうなんだろうか? 近くに街道も通っているから比較的安全なのかな?

「ボリジ様、森の中で魔物の危険性は?」

「昼であれば、大丈夫だと思われますが……街道で襲われたとは聞いたことがありませんし」

昼なら安全か……だが、工事が進めば、徐々に森の中でキャンプをしなければならないだろう。

「獣人は猫人だけでしょうか?」

「ああ、森の中の普請となれば、黒狼に遭遇する事が多いので……その」

「黒狼は犬人達の神の使いという事ですからねぇ。森の中で襲われたりすると退治せねばなりませんし……」

「そういう事でございます」

なにはともあれ、少しずつでも進めないと終わるものも終わらん。

俺は早速作業にとりかかる事にした。

「旦那ぁ、俺達はどうするんで?」

ニャメナが手持ち無沙汰だ。

「ああ、召喚獣の飯の用意をしてくれ」

「はぁ? どうやって?」

コ○ツさんの燃料消費量は1日で400Lだ。バイオディーゼル燃料を作っていたんじゃ間に合わないので、当初の予定通りに、シャングリ・ラで売っている白灯油を使う。

白灯油は1缶2600円で4L入りだ。400Lって事は、こいつが毎日100缶必要になる。

購入個数に100と入れてボタンを押すと、ガラガラと空中から鉄の四角い缶が100個降ってきて、山積みになる。

ちゃんと100降ってきたな。品切れとかあるのかな?

途中で品切れになったら、1L入りのを400個買う羽目になるな……それはちょっと勘弁してもらいたい。

もっと、大きな重機も購入出来そうなのだが、絶対に燃料の用意で詰むなこりゃ。

それから、120L入る青いポリの浴槽が4つだ。

「ポチッとな」

デカいポリ製の浴槽が4つ落ちてきた。これに足すことの、白灯油に混ぜてディーゼル燃料にするための改質剤と、2ストオイルが少々――まったく大変すぎるぜ。

「え~と、君たちの大事な任務は、この鉄缶の中に入っている油を、この青い容れ物の中へ空けてくれ」

「この蓋を開けて、全部流し込めばいいのかい?」

「そうだ。数は沢山あるけど、手分けすれば簡単だろ?」

「ケンイチ殿、その大量の油が、この召喚獣の食料なのか?」

「その通りでございます」

「むう……油代で破産するの……」

しかも、ここら辺で灯油として使われている海獣油では、重機の燃料としては使えないし値段も高い。

燃料の用意を皆に頼み、ついでにテーブルや食材もアイテムBOXから取り出し準備をする。

パンやスープなど、彼女達に用意してもらう物を、それぞれに任せる。

アネモネはパン、プリムラはスープ作りの達人だ。獣人達には獲物を用意してもらえばいい。

俺が、重機に乗り込もうとすると、草むらの中からベルがやって来た。

「よしよし……森の中は大丈夫だったか?」

ベルの顎下を撫でていると、黒い毛皮の獣人が話しかけてきた。

「魔導師の旦那、その森猫は旦那の使いなんで?」

「ああ、そうだ。俺の彼女だからな、手を出したりするんじゃないぞ?」

「そ、そんな、森猫様に手を出すなんて滅相もねぇ」

俺の隣に凛としたポーズで座っている森猫の前に、獣人達が並んで座りはじめた。

そして、次々と礼をしてから作業へ戻っていく。

「森猫が、猫人達にとって神の使いってのは本当なんだな」

「そりゃそうだよ、旦那」

さて、俺も作業に取り掛かるか。

コ○ツさんが咆哮を上げて、巨大なバケットで土の山を掬い上げ――そして脇へ小山を作る。

勿論(もちろん) 、適当に掘っているわけではない。測量した通りにまっすぐ掘らなければならないし、凹んでいる所は浅く、出っ張っている所は、多めに削らなければならない。

夕方には森の入り口まで、まっすぐな水路が掘れた。距離で200mぐらいであろうか。

この世界では手元が暗くなったら、作業終了である。ろくな明かりのないこの世界では、余程の事がなければ残業等はない。

高額な金を払えば別だろうが、そんな仕事をさせれば人夫が逃げてしまい、作業を続けるのが困難になってしまう。

その気になれば、俺だけでも明かりを点けて夜の作業も可能なのだが、そこまで切羽詰まった状態でもないしな。

まぁ、今日のところはこんなもんだろう。

作業が終わった人夫達が森から出てきた。今日は、ここでキャンプになるようだ。

そして男達が、役人の馬車らしき所から何かを貰っている。

「あそこで、今日の給金を貰うのですか?」

一緒にいた夫人に、質問してみた。

「いや、ここで貰うのは、これだ」

夫人が見せてくれたのは鉄のチップ。どうやら、これがここだけで通用する貨幣の代わりになっているらしい。

某漫画のペ○カみたいな物か。そしてそれを持って、商人の馬車の所へ行くと、あれこれと買い込んでいる。

彼等が手に持っているのは食料や酒であるが、工事が終わった時に街で最終的な精算をして、金貨銀貨に交換するシステムらしい。

「何故、このような仕組みに?」

「本物の大金を馬車に置いていると、野盗等に狙われるからな。それに盗みがあったりしても換金出来ぬわけであるし」

「あの派手な明かりが点いている馬車は?」

灯油ランプだろうか? それとも、魔法を使ったランプなのか、結構明るい赤やピンク色の光を放っている。

「あれは移動娼館だ」

ははぁ、そりゃ100人以上の男共がいるんだ、客には困らないってわけか。

ここで稼いだ金を、全部使ってしまう男も沢山いるという。

「宵越しの金は持たねぇってか」

潔いというべきか、それとも刹那的というべきか――まぁ、彼等の稼いだ金だ、どう使おうが彼等の自由だ。

さて家に戻るか。

「カナン様、よろしければ私の家でお食事でも。貴族様がお食べになるような上等な料理ではないかもしれませんが」

「私の馬車も到着しておらぬし、馳走になるか」

だが俺の家族達の下へ戻ると、獣人達がなんだか不機嫌そうだ。

「どうした? 何かあったのか?」

「ここを娼館だと思ってる奴らがいるにゃ!」

「全くふざけやがって!」

なるほどなぁ。移動娼館みたいな物だと勘違いしたか。

「まぁ毛並みの良い綺麗どころが揃っているからなぁ。明日には噂が広まっているだろうよ」

「ふふ、まさかこんな所にまで家を持ってきているとは、夢にも思うまい」

夫人の感想が普通の人間の思考って事だな。

「だが、その鳥や獣の山はなんなんだ?」

香箱座りしているベルの前に、うず高く、鳥や小型の獣が置かれている。

「森猫様にお供えだにゃ」

「森の中で仕事をするんで、森猫様にお供えをしているんだよ」

「よく行われる儀式なのか?」

「そうにゃ。木の枝に吊るしたりするにゃ」

「へぇぇ」

まぁ、このままここに置いても獲物が傷んでしまう。彼女には猫缶を捧げて、獲物は俺のアイテムBOXへ入れる事にした。

辺りが暗くなり始めた頃、あちこちにオレンジ色の焚き火が灯り、煙がまっすぐに立ち昇る。

「パンは出来てるよ!」

「スープも出来てます」

「ウチも鳥を捕ってきたにゃ!」

「捌いてあるぜ!」

「おおっ! ありがとう。それじゃ、鳥があるから唐揚げにするか」

「「「おお~っ!」」」

一口サイズに切ってもらった鳥肉を、溶かし卵に潜らせて――シャングリ・ラで買った唐揚げ粉をまぶす。

そして、カセットコンロで温めた油で揚げる。

「アネモネ、ちょっと魔法で油の温度を上げてくれ。あまり上げ過ぎないようにな」

「うん! む~ 温め!(ウォーム) 」

すぐに、鍋に入った油がチリチリと言いだした。

「やっぱり、アネモネの魔法は便利だなぁ」

「えへ」

唐揚げ粉をまぶした鳥肉を次々と投入。その間に、アイテムBOXから食器をだして、テーブルに並べてもらう。

「まさか、こんな野外で本格的な食事が出来るとは」

次々とテーブルの上に並ぶ料理とパンに夫人が驚く。そして、最後に大皿に山盛りになった唐揚げが置かれた。

ベルには素揚げの鳥肉をあげよう。

「よっしゃ~食うぜ!」

「にゃー!」

真っ先に獣人達が飛びついた。彼女達には、テーブルマナーも何もないからな。

「申し訳ございません、無作法で」

「構わぬ、私が無理を言って馳走してもらっているのだ。それに我等は友人ではないか」

だが、唐揚げを一口食べた夫人が驚く。

「おおっ! これは美味い! カリカリな歯ざわりと、噛めば口の中に肉汁が溢れる。単純だが実に洗練されている!」

「お気に召したようで、なにより」

夫人にワインを注ぐ。ニャメナには手酌でやってもらう。

「なんと! このワインも上等ではないか。このような逸品は中々ないぞ?」

いつもニャメナが飲んでいる、シャングリ・ラでも安いワインだ。

「やっぱり、焼きたてのパンは美味いな。アネモネはすっかりパン作りの達人だな」

「えへへ」

「うむ、確かにパンも美味い……しかも甘い。スープも晩餐会に出されても申し分ない程、美味だ。これなら宮中晩餐会でも使える」

「王族の方々が食しても平気でしょうかね?」

「これなら太鼓判を押せるだろう」

夫人も、しばらく食事を楽しんでいたようなのだが、そのうちに言葉が少なくなってしまった。

「カナン様、何か?」

「いや――皆、楽しそうであるな……と」

「そりゃ、楽しいに決まってるだろ! 仲間と食べる美味い料理に、美味い酒! アハハ!」

ニャメナは少々酒が回っていて上機嫌だ。

「そうか、そうであるな……」

皆で食事を食べながらワイワイしてやっているので、周りにいる人夫達も気になっているようなのだが、子爵夫人がいるのでは覗くに覗けないでいるらしい。

さて食事も終わったし、あとは風呂だな。1日中、車と重機の運転をしていたので疲れた。

だが貴族様もいるし、人夫達が周りでキャンプしている道路際でドラム缶風呂を沸かすのもなぁ……。

「う~ん……」

少々悩んだが、ツリーハウスに使っていた小屋をアイテムBOXから取り出して、こいつの中に風呂を入れる事にした。

それなら外からは見えないだろうし、ゆっくりと出来るだろう。

今まで、風呂のお湯は焚き火やアネモネの 憤怒の炎(ファイヤーボール) で沸かしたりしていたのだが、彼女が生活魔法を覚えた事で、もっと簡単に沸かせるようになったのだ。

さて貴族様の風呂がドラム缶風呂じゃ 拙(まず) いだろう。シャングリ・ラを検索して、FRP製の白い風呂を見つけた。

楕円をしたお椀型で猫の脚のような金色の足がついており、洋画で美女が泡風呂に使ってそうなやつだ。

1台10万円ぐらいだな。似たような形で数百万円する物もあるのだが、こっちは本物の陶器製かもしれない。

だが軽くて丈夫だし、FRP製で十分だろう――こいつを2つ購入して小屋の中に並べれば良い。

ここで最近発見した裏技を使う。

アイテムBOXの中には、川の水が入ったプラ製の大型容器が多数収納されている。

先程、購入したFRP製の浴槽をアイテムBOXへ入れ――プラ製の容器から水を選択して、そこへドラッグアンドドロップする。

そして、その浴槽をアイテムBOXから取り出すと――。

水で満たされている白い浴槽が目の前に出てくるって寸法だ。

川や湖から水だけを選択してアイテムBOXへは入れられないが、このようにすれば水の移動も出来るってわけ。

当然、このまま水を選択して、ゴミ箱へも捨てられる。

ガソリンランタンを吊るした小屋の中に、水がたっぷりと入った、白い浴槽が2つ並べられた。

小屋から出てアネモネを呼ぶ。

「お~い、アネモネ」

「は~い!」

「この白いお風呂を2つ、魔法で沸かしてくれ。2つだけど大丈夫か?」

「うん、いつものお風呂と同じぐらいだよね?」

「多分な」

「む~! 温め(ウォーム) !」

お風呂なので沸騰させる必要もない。すぐに湯気が立ち始める。魔法ってのは便利なもんだ。

憤怒の炎(ファイヤーボール) と違って、魔力の消費も少ないらしい。

いままでは、 火炎放射器(ファイヤーボール) で目玉焼きを作るみたいな事をやっていたからな。

「カナン様、お湯が沸きましたので、湯浴みをどうぞ」

「なに?! こんな所で風呂だと?」

「はい、こちらへ」

夫人を小屋の中の風呂場へ案内する。床が濡れてしまうが、風呂の水を捨てた後で、アネモネの魔法で乾燥させればいい。

「なんと! まさしく風呂だ!」

小屋の中へ足を踏み入れ、お湯で満たされた湯船を見て夫人が叫んだ。

「これが拭き布で、こちらが湯上がり後のローブでございます」

俺がバスローブを夫人に見せると、彼女がそれを手に取り、手触りを確かめている。

「これは、なんと上等な……」

「それでは、ごゆるりと」

「其方は入らぬのか?」

「私は家族と入りますので」

「よし、それでは命令だ。私と一緒に湯浴みをするがよいぞ」

ええ? すぐにこういう事を言い出すんだから、貴族ってのは困ったもんだ。