軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35話 絵本を作ってみよう

――次の日。

森猫のベルが朝のパトロールに出かけた後、朝食を食べる。

普通にスープとパンだ。アネモネに元世界の物を食べさせると 拙(まず) いと思っているのだが……。

でも喜ぶので、ついつい食べさせてしまう。

ここへやって来て2日目だが何も問題はないようだ。

モンスターとのエンカウント率、非常に高し!――とかだったら困ったことになると思ったのだが杞憂だった。

今日は太陽電池パネルを設置する事にしよう。

だが、アネモネは絵本を読むために、家で日本語の勉強をするようだ。余程、絵本が気に入ったらしい。

邪魔をしないように俺だけ外に出てパネルを設置する事にした。

先ずは方位磁石で方向を調べる。南向きにセットしなければならないからな。

「ああ、そっちが南か……」

てっきり滝を正面にして湖側を南だと思っていたが、川と並行して家がある方が南――対岸が北らしい。

どうりで夕日が湖の向こうへ沈むわけだよ。

ダリアを出た時には北へ向かって出発したはずだが、街道がうねうねと曲がっていたからな。方向感覚が狂ったらしい。

朝は崖の影が落ちるが、すぐに日向になる。当初の予定通り緩い斜面に太陽電池パネルを10枚設置した。

だが、こいつはやっぱり目立つなぁ……。

シャングリ・ラでカモフラージュネットを買って、パネルの北側と西側の2方を囲ってみよう。

「う~ん、無いよりはマシか」

不自然な感じはするが、金属パネルとフレームがむき出しよりは良い感じだ。

早速、モバイルバッテリーをアイテムBOXから取り出して充電を開始する。

「後は、便所と風呂か……」

風呂と便所をアイテムBOXから取り出す。

ここには水が沢山あるからな。井戸を掘る必要もない。

トイレは橋の上に小屋を作って水洗にしようとしたのだが前の便所を使って、また堆肥を作る事にした。

草刈りで出た枯れ草も沢山あるしな。やはり堆肥を作ってリサイクルした方が、スローライフっぽいだろう。

ただ生活排水は水石で浄化してから、川に流す仕様にする。

家と風呂、そして便所の配置は森の中に建てていた時とほぼ同じだ。

後は柵が残っているのだが、それはおいおい立てる事にしよう。

前に柵を作った時は結構苦労したのだが、井戸用に買ったエンジンドリルがあるからな。

あれで杭の穴を掘って差し込めば良い。もう使わないからアイテムBOXの肥やしになるかな? ――と思ったが意外と使えるぞドリル。

俺が便所の設置を調整していると――家の右側、暗い森の陰になっている茂みがガサガサと動いている。

「なんだ?」

俺はアイテムBOXからクロスボウを取り出した。矢は既に装填済みだ。

「お~い! ベルか?」

俺がクロスボウを構えながらゆっくりと近づいた――。

「ニャァァァァァ!」

「うわぁぁぁぁぁ!」

突然、黒い生き物が俺に飛びかかってきた。危うくクロスボウを撃ちそうになったのだが、聞き覚えのある声で引き金から指を離した。

「酷いにゃぁぁぁ!」

俺に飛びかかってきたのは、黒い毛皮を着て背中に弓を背負った獣人のミャレーだった。

「お前かよ! 危うくクロスボウ――いや弩弓で撃つところだったぞ!」

「酷いにゃ! 黙っていなくなるなんてにゃ!」

「どうやってここを見つけたんだよ」

「臭いを辿ってきたにゃ。ケンイチの使う変な油の臭いと森猫の臭いにゃ」

油ってのは軽油代わりに使っている改質白灯油とかバイクの混合燃料の事だろう。

「ええ? マジか――それで解るなら、絶対に獣人から逃げられないじゃん」

「狙った獲物は逃さないにゃ~」

ミャレーの目がキラリと光る。

「俺が延々と川を歩いたらどうだ?」

「上流か下流に走ったら絶対に岸に上がるから、そこからまた追えば良いにゃ」

水の中なら臭いを追えないだろうと思ったが、さすが狩りのプロだ。動物ならそれで撒けるかもしれないが、獣人には知恵があるからな。

そう簡単には逃げられない。計算や読み書きは出来ないが、狩りや戦闘にステータスを全振りしているような連中だ。

「そりゃそうか……まぁ、解ったから俺の上から降りてくれ」

「ところでベルって誰にゃ? また新しい女かにゃ?」

「またってなんだよ。森猫の名前だよ」

「にゃんだ、そうかにゃ」

まさか、そこまで鼻が良いとは思わなかった。こりゃ獣人を敵に回すのは得策じゃないな。

どうしても逃げ切るなら追手を殲滅するしかないって事だ。

彼女の手には獲物――鳥が握られている。

「途中で捕ってきたにゃ」

「ミャレー、俺を追ってきたのは解ったが、これからどうするんだ?」

「そんなの、ケンイチと一緒に住むに決まってるにゃ」

「決まりなのかよ……一緒だった獣人の男達はどうした?」

「もう、あいつらの面倒を見るのは飽きたにゃ! これからは、ケンイチに面倒見てもらうにゃ」

男達が酔っ払って何かしでかす度に、彼女が尻ぬぐいをしていたようだ。それに飽き飽きしたらしい。

「いいけど――自分のメシ代は稼げよ。それから、アストランティアの街へ、お使いを頼んだりするぞ?」

「任せるにゃ!」

ここから街までは、ドローンで見た感じでは直線距離で6㎞ぐらいだろう。

獣人なら時速30㎞ぐらいで走れるからな。12分もあれば着く。

崖沿いに森の薄い所を行けば、魔物も少ないはず――そこら辺は彼女達の方が心得ているだろうが。

「ミャレー、 四脚(ケモノ) の解体は?」

「下拵えなら出来るにゃ」

下拵えってのは内臓を抜いて肉を水等で冷やすことだ。こうしないと肉が劣化してしまう。

「それじゃ鳥は食う事にしてだなぁ―― 四脚(ケモノ) は下拵えをした物をアイテムBOXへ入れておくか。街へ行った時に、 纏(まと) めてギルドへ出せば良い」

「解ったにゃ~」

喜ぶミャレーであったが、俺が移築した家を見て驚いた。

「もう家を建てたにゃ?!」

「アイテムBOXへ入れた家を出したんだよ」

「そんな事も出来るのかにゃ!」

「出来るんだなぁ――これが」

ミャレーがやってきた途端に外が騒がしいので、何事かとアネモネが外へ出てきた。

「あ、ミャレーが来た」

「にゃ~アネモネも一緒にゃ!」

彼女達は仲が良い。ミャレーはアネモネを肩に乗せて走り回っているが、その姿は姉妹のようだ。

「お~い! 俺は、家の中に入るぞ~」

「は~い」「にゃ~」

家の中で、アイテムBOXから缶コーラを出して飲む。ポータブルの冷蔵庫で冷やした時にアイテムBOXへいれておいたので冷たいままだ。

テーブルの上には、アネモネが読んでいた絵本がある。

「絵本か――ガリ版印刷機とわら半紙があるから、俺でも本が作れるな。この世界じゃ本は貴重だから薄い本でも売れるぞ」

薄い本と言っても、アレじゃないぞ?

俺が絵本を眺めていると、アネモネとミャレーが入ってきた。

「それは何にゃ?」

「絵本だよ」

「にゃ~! 凄い綺麗な絵が描いてあるにゃ! これなら字が読めなくても解るにゃ」

萌え絵は獣人にも理解出来るらしい。これは意外な発見だ。

「そうかぁ、字が読めない人も多いからな。絵本は良いかもな」

だが、元世界の童話を絵本にするのもなぁ……何か良い題材は……。

「ここら辺に伝わる、お伽話とかはないのか?」

「あるよ! 森のエルフ様のお話」

話を聞くと、人間の男とエルフの女が種族の隔たりを越えて恋に落ちる物語らしい。

元世界の人魚姫みたいな物か。やはり、この手の話ってのは定番なんだな。

面白そうなので、表紙を入れて12枚ぐらいの構成で1日1枚~2枚の絵を描いて、ガリ版で絵本を作ってみようと思う。

ガリ版なら同じ本が何冊も作れるからな。10冊ぐらいは作ろうか。値段は――そう、1冊小四角銀貨1枚(5000円)ぐらいで。

10冊売れば5万円、100冊売れば50万円だ。定期的な収入源として見込めるかもしれない。

小学生の頃、ガリ版で文集を作った事があるから、その経験からすれば50枚や100枚ぐらいは印刷出来るはず。

昔の学校のテスト用紙なんて、ガリ版とわら半紙だったからな。その頃はもうコピー機が普及し始めていたと思ったが、ウチの学校はガリ版刷りだった。

単に、ど田舎だったせいもあるかもしれんが。

それでも皆がコピー機を使うようになって、ガリ版関係の道具を作っていた会社が次々と撤退、ガリ版はすぐに無くなったな。

俺がガリ版を使っていた最後の世代かもしれん。

ガリ版は置いておいて――本を作っても、1冊小四角銀貨1枚なら一般人でも買えない金額ではないはずだ。

まぁ確実性を狙うならエロ草子の方が良いんだけどな。

そっちの方が絶対に高く売れる。だが倫理的な問題があるし、そういうのがアウトな世界で――公序良俗に反するって事で捕まったりしたら 拙(まず) い。

だが、ウチのお得意様だった写本の爺さんの話からすれば、高い本でもエロが人気らしいからな。

まぁ別に危ない橋を渡る必要も無い。

俺が捕まったりすれば、アネモネが路頭に迷ってしまうしな。

------◇◇◇------

それから家の周りの柵を作ったり畑の世話をしたりの、空いた時間を使って絵本の原稿を描いた。

ペースは1日2枚ぐらいだが、ここら辺は元プロの絵描きなので造作も無い。

最初に使おうとしたわら半紙はA4だったのだが、この世界の本は紙を節約するためか大きさが少々小さい。

それに合わせてB5サイズに変更して、新しいわら半紙をシャングリ・ラから購入した。これは学校等で使うノートと同じ大きさだ。

絵を描く合間に、バイオディーゼル燃料についての電子書籍にも目を通し、おおよその把握が出来た。

簡単に言えば、アルカリとアルコールをサラダ油等に入れ、エステル交換という反応を起こしてディーゼル燃料に不必要な成分を分離するらしい。

シャングリ・ラで検索してみたが、目当てのアルカリもアルコールも売っている。

劇薬を使うので注意は必要だが、簡単な器具を使い自作できるようだ。

こりゃ、やるしかないだろう。

とりあえず絵本を作ったら、次はバイオディーゼル燃料作りだな。

成功すれば、ディーゼル機関が 捗(はかど) るぜぇ!

絵本の原稿も出来たので、刷ってみる事にした。

夕飯を食べた後、LEDランタンを部屋に灯す。太陽電池パネルが稼働し始めたので、電気が使えるようになったのだ。

アイテムBOXからガリ版印刷の道具を出す。

「それでまた紙に何か描くの?」

「俺が描いてた絵があるだろ? これを紙に移すんだよ」

以前、森の中で女達に読み書き算盤を教えるために、このガリ版を使って教科書を作ったのだが、その様子をアネモネは見ている。

「へぇ~!」

本を作ると言う俺の言葉に、アネモネの目がキラキラと輝いている。

「ケンイチ、本を作れるにゃ?」

「まぁな」

「凄いにゃ! ケンイチは何でも作れるにゃ~!」

「別に何でもってわけじゃないんだが……」

印刷機のスクリーンへインクを塗り、ローラーで延ばした後、スクリーンを上げると――。

「ほら」

俺は刷り上がった絵本の表紙をアネモネに見せた。

「すごぉぉぉ~い!」

とりあえず10部作りたいから、同じ絵を10枚刷ろう。

「これ、私も欲しい」

「それじゃ、11枚か――」

「ウチも欲しいにゃ!」

「字が読めなくても良いのか?」

「絵が描いてあるから、話が解るにゃ~!」

「そうか――それじゃ、12枚刷るか」

インクを落としローラーで延ばしては――スクリーンを上げる。作業は簡単だ。

「私もやってみたい!」

「おお、良いぞ。簡単だからな」

一枚やらせてみたが問題なく出来たので、連続で刷らせてみる。彼女も楽しそうだ。

「凄い! 何枚も同じのが出来るね!」

「12枚ずつだぞ。終わったら次の絵に交換な」

「うん!」

アネモネが凄く楽しそうなので、今日のお勉強は休みにして、本を全部刷ってしまう。

とりあえず12部作るが、原版があれば摩耗するまで刷る事が出来る。

枚数が多くなると徐々に印刷が潰れてきてしまうので、そうなったら原版の寿命だ。

本当はパソコンでも購入してIllu○tratorとかでページを組み、この世界のフォントを作ってプリンターで出力した方が綺麗なのだが。

まぁ、それは野暮ってもんだろう。この手作り感が良いのだ。

もっと印刷のクオリティを上げて確実に枚数を増やしたければ、銅版画にすれば良いしな。

銅版画も高校の美術部で経験済みなので問題ない。

シャングリ・ラで銅版画を検索してみると、ミニプレス機がセットになっているキットが10万円で売っている。

マジで何でも売ってるな――全く感心するわ。思わず笑ってしまう。

「何をニヤニヤしてるにゃ? どこかの女の事でも考えてるにゃ?」

「いや、何でもない。女なんていないし――よし、今日は遅いのでもう寝よう。明日はこれを本にするぞ」

「まだ眠たくない」

――とか言いつつ、アネモネの目は閉じそうだ。そりゃいつも寝ている時間を大幅に過ぎているからな。

「ダメダメ、明日な。それに汚れてしまったから川で手を洗ってこないと」

「うん……」

印刷に夢中になってたせいか、アネモネはインクだらけだ。これは石鹸で落ちるかな?

LEDランタンを持って暗い外に出る。頭上は満天の星だ。

森の中では木が邪魔で真上しか星空を見ることが出来なかったが、ここでは360度見渡せる。

滝のある崖のところが唯一陰になっているが、ほぼ全周が星空だ。

ここで天体観測も良さそうだなぁ。だが知らない星座ばかりだ。やはり、ここは地球ではないらしい。

改めて現実を見せられて軽くショックだが、今更悩んでも仕方ない。住めば都で、ここではここに合った生活を送れるだろう。

何と言っても、シャングリ・ラというチートがあるじゃないか。

まるで夢みたいだが、ところがどっこい夢じゃありません。コレが現実。

アネモネに石鹸を渡して手を洗わせる。

だが、手を洗っている最中に船を漕ぎ始めた。

「おっと! 危ない! 川に落ちたらどうする」

彼女を川から離すと、そのままアネモネが俺に抱きついてきた。どうも眠気が限界のようだ。

ランタンを手に持ち、アネモネを抱きかかえて家へ入る。

「眠っちゃったにゃ?」

「ああ」

仕方ない、彼女の服を脱がして裸にすると寝間着に着替えさせる。アネモネの手を見ると、インクが取れてないのだが……。

試しにアイテムBOXからアルコールを出して拭くと綺麗になった。

「俺たちも寝るかぁ」

「にゃ~!」

ミャレーが服を脱いで裸になる――どうやら、彼女も一緒に寝るようだ。当然、ベルもやってくる。

3人と1匹じゃダブルベッドでも狭いんだが……。

どうしよう。

そんな事を考えていると、ミャレーが抱きついてきた。

「ケンイチ……」

「こらこら、隣にアネモネがいるからダメだっての」

「寝てるから大丈夫にゃ」

「意外となぁ、子供って起きてたりするんだよ、こういう時に」

「ウチも、父ちゃんと母ちゃんがウチの横でしてたにゃ」

「だから、ダメだって言ってんだろ!」

変なトラウマを植え付けたらどうする。子供の精神衛生上宜しくない。

揉めていると――俺とミャレーの間に森猫が入ってきてくれた。

獣人達にとって森猫は神の使い、邪険には出来ない。彼女は大人しく引き下がった。

本当にもう。獣人達は欲求にストレート過ぎる。

まぁ、獣人とやっても子供は出来ないらしいのだが――つまり混血不可能って事だ。

それが良いのか悪いのかは解らないが。