作品タイトル不明
266話 隠し畑
俺たちはサクラに戻るために峠越えをしている。
使われなくなって数十年たってしまった廃道だ。
落石はあるわ、魔物はいるわ、最後は土砂崩れに巻き込まれた。
久しぶりに走馬灯が回ったが、なんとか切り抜けられた。
たくさんの難民を連れた、その旅が節目を迎えようとしている。
この難関を越えれば、あとは平地だけだ。
王国内なら街道は整備されているし、スピードも上げられるので、サクラまで3~4日で到着できるだろう。
なにもトラブルがなければだが。
俺としても、なにがなんでも急ぐつもりはない。
無理をして事故ったりすれば、大変なことになるしな。
せっかく、1人の脱落者も出さずに難所を越えられたんだ、平地ほど引き締めていかないと。
がけ崩れの現場を徒歩でクリアした俺たちは、再びマイクロバスに乗って走り出した。
俺が乗っているト○タのコ○スターは、新規に購入した銀色の車体。
今まで働いてくれたバスは、土砂の下敷きになってしまい回収不能だ。
あの峠は使われることはしばらくないので、土砂に埋まったまま朽ち果てていくだろう。
曲がりくねった下り道を進んでいくと、周りの緑が濃くなり傾斜がゆるくなってくる。
もう森の中で道にもたくさんの草が生えているが、ここが使われていない証拠。
晴天の中、そのうち道がまっすぐになり、崖もなくなった。
「ケンイチ! 道がまっすぐになったね」
「ああ」
俺はアネモネに返事をしながら、無線機のマイクを取った。
「アキラ、どうやら峠を抜けたようだぞ」
『ははは、まさに波乱万丈だったな』
「がけ崩れに巻きこまれるとか、人生初体験だし」
『俺も、自分が巻き込まれたんじゃないのに走馬灯が回る初めての体験だったぜ』
後ろからミャレーが顔を出す。
「ケンイチ、峠を抜けたにゃ?」
「ああ」
「やったぁ! さすが旦那だぜ!」
「「「おおおっ!」」」
村人たちもどよめく。
「それでは、私たちは王国に入ったのですか?」
マサキが村人たちを代表して俺に聞いてきた。
「ああ、そういうことになる」
「「「やったぁ!」」」「もう、飢えることはないんだ」「そうだ!」
後ろから村人たちの歓声があがる。
それを聞きながら、俺は窓を開けた。
「お~い! 峠は抜けたぞ! もう怖い思いをすることも、そんなにないと思う」
「「「おおお~っ!」」」
上から獣人たちと子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
1人の脱落者も出ないでよかったが、その脱落者に俺自身がなるところだった。
まったく一寸先は闇ってのは本当だな。
草は生えているが、道はまっすぐでしっかりしている。
これなら、少しスピードを出しても大丈夫だろう。
――といっても、今までの時速10kmから20~40kmほどに上げるだけ。
スピードを上げてもギャップなどがあったら、バウンドして屋根にいる連中を振り落としてしまう。
なにより安全第一だ。
たまに休憩を入れて、その間に村人たちは薪などを拾っているようだ。
休憩が終わり再び車を走らせると、無線機のマイクを取る。
「アキラ、少しスピードを上げる」
『了解』
「後ろから見て、屋根の乗っている連中の様子はどうだ?」
『問題ないみたいだぜ?』
「そうか」
スピードを上げて休憩を入れつつ4時間ほど走る。
途中に何箇所か集落跡のような場所があったので、廃墟から使えそうな家をアイテムBOXにいれた。
石壁しか残っていない家ばかりだが、屋根を張ればまだ使える。
バスを走らせて昼前になった頃、突然森が開けた。
かなり広い畑が広がっており緑の麦が揺れている。
「おお、畑だ! この近くに村があるのか」
「「「おお! 凄い畑だ!」」」「こんなに豊かに実っているのか?!」
後ろの座席から村人たちの声が聞こえてくる。
元世界の畑からすると、たいしたことはないのだが、あの村の畑に比べたら雲泥の差。
彼らが驚くのも無理もない。
「大丈夫、お前たちも、すぐにああいう畑を作れるようになる」
「本当ですか?!」
「ああ、そのためには、色々と農業を学ばないとな」
「「「はい!」」」
「わぁ、畑だ!」
アネモネも窓の外の畑を眺めている。
「ちゃんとした畑は久々って感じがするよな」
「うん!」
「にゃ~、やっと帰ってきたって感じがするにゃ」「まったくだぜ」
獣人たちも、人の営みを感じてホッとしているのだろう。
「……」
後ろをチラ見すると、アマランサスが難しい顔をしている。
「アマランサス、どうした?」
「いえ」
「ここらへんに村か町があるってことなんだろうけど、なんていうところなんだ?」
「……ここらへんには、町はないはずですわぇ」
「え? セジーナって西の都市があるって話では……」
「セジーナはもっと東です」
西の都市を知っているらしい、セテラにも聞いてみる。
「そうねぇ。ここらへんはセジーナではないはず」
エルフも知らないようだ。
「かつて、峠の入り口にカリンという宿場町がありましたが、峠の封鎖でなくなったということでしたわぇ」
俺が廃墟から家を拾ったどれかが、カリンという宿場町だったらしい。
「アマランサスは、ここらへんの視察には訪れていない?」
「セジーナには何回か訪れたことがありましたが……」
「西の砦があったという話だったけど?」
「そのとおりですわぇ。共和国が来るはずもないので、形骸として残っているだけで」
「その話は、前に出たな」
「砦の先にはなにもないということでしたので、遠くから見ただけで視察は終わりましたわぇ」
「それじゃ、ここは王国の未管理地域?」
「そうなりますかぇ」
廃村寸前の土地で、領主がいないという所はある。
以前に俺が拾ってきた村の住民がいた所などがそうだ。
旨味がないので領主のなり手がいない。
税を取ると村が生きていけないので免除されているのだ。
ここらへんが共和国とは違う。
もちろん、それを悪用して私腹を肥やせば罰せられる。
脱税にもなるし。
「開拓したての土地も数年は税が免除されますわぇ」
「集落や村の収入が安定する前に搾り取ってしまうと、潰れてしまうからだろ?」
「そのとおりですわぇ」
ただひたすらに税を取ることなく、しっかりと土地に合わせた税収が行われているということだ。
「どこからか流れてきた連中がチマチマと開拓したにしては、規模がデカすぎるなぁ」
「おそらくは、貴族が絡んでおるのでしょう」
「それじゃ計画的な脱税?」
多分、脱税をしているのは村ではなくて、ここらへんを治めている貴族だ。
「そういうことになりますかぇ」
「ケンイチ、どうするの?」
畑を見ているアネモネが俺に聞いてくる。
「え? どうもしないよ。だって人の領地だし。一応、お城には報告はするとは思うけど」
「それで動かなかったら、王家が絡んでいるということだよねぇ」
「む……」
セテラがアマランサスに嫌味な視線を送る。
「ちょっと前まで 政(まつりごと) をしていたアマランサスが知らないんだ。王家は絡んでないだろう」
「王家って言ったって、1つじゃないんでしょぉ?」
「エルフの言うとおり、完全に否定することはできぬ」
それ見たことか――そんな顔をセテラがしている。
「まぁまぁ――とりあえず、町や村があったら聞き込みぐらいはしてみよう」
「これだけの規模であれば、小規模な集落では管理しきれまい」
「そうだな」
「にゃー」
アネモネと一緒に外を見ているベルが呆れている。
「そう言わないでお母さん。古今東西、こういうのはどこにでもあることだし」
元世界でも、税を逃れるための 隠田(おんでん) というのはあったことだし。
「むう……」
アマランサスが難しい顔をしている。
どう処理したものか、悩んでいるらしい。
もう王族ではないので無視してもいいのだろうが、彼女は国を捨てたわけではない。
民や国を食い物にする貴族が許せないだけだろう。
「まぁ、こういう場合にヤバいのは外国勢力との結託だろうけど、幸い峠が使われていた形跡がないし」
「聖騎士様の言うとおりですわぇ」
なぞの農地を見ながら道を走る。
道は整備されており、明らかに使われている様子が見える。
途中で村人らしき人々とすれ違うと、彼らは驚いているように見えた。
まさか、こんな場所に人が来るとは思ってもみなかったに違いない。
今は使われていない峠を通って。
「ケンイチ、村が見える」
アネモネの言葉に俺はマイクを取った。
「アキラ、ちょっと停車する」
『オッケー』
バスを停車させると、バスから降りてアイテムBOXから出した双眼鏡を使う。
「旦那! どうしたのさ!」
上から、ナンテンの声が聞こえる。
「う~ん」
「あそこに見える村になにかあるのかい?」
彼女が村を指差す。
「たいしたことじゃない。お前たちは待っててくれ」
青空と白い雲が漂う中、双眼鏡に映るのは数百人規模の村。
やはり村があるのか。
一応、写真も撮る。
「ケンイチ、どうした?」
バスから降りて、アキラもやってきた。
「どうやらアマランサスの話では、ここらへん一帯が隠し畑らしい」
「あ~、帝国でもあったぜ? 森の深くが切り開かれて、突然畑になっているとか」
「空から見たら一発で解るだろうが、そんなものはないしな」
「ああ、元世界でも大麻やケシの畑が見つかったりするやつ」
話に出たのでドローンを飛ばしてみた。
上空から見ると、やはり広範囲に渡って開墾が行われており、麦畑が広がっていた。
このドローンは空中からの映像も記録できるので、録画をする。
「報告するのか?」
「一応な。報告しても動かなかったら王族もグルじゃないかと、セテラが嫌味を言っていたが」
「まぁ、ない話ではないな」
ここを摘発するなんてのは俺の仕事ではないので、最低限の報告だけして終わりだ。
わざわざ火中の栗を拾いにいく必要もあるまい。
村を過ぎると、また森の中を進む。
しばらく進むと砦が見えてきた。
砦の前には川が流れており、跳ね橋が上がっているらしい。
川には他の橋はないようなので、ここを通るしかないようだ。
「アキラ、砦があるが跳ね橋が上がっているな」
『また迂回するのか?』
「いや、ここは王国領だし、逃げる必要はないと思うが……」
あくまで正攻法でいいだろう。
とりあえず砦の前までバスを進めた。
アマランサスの話では、形骸化した砦にはろくに兵士も残っていないということだったが――。
ちゃんと整備もされており、砦の上には銀色の鎧を着た見張りの兵士の姿も見える。
いや――共和国からの侵入者に備えているのなら、それも当然なのだが、今はその心配はない。
実際にあの峠を馬車や馬で突破するのは無理だろう。
俺のチートがあったからこそ突破できたはず。
俺はバスを降りると、アイテムBOXから拡声器を出して砦に呼びかけた。
「俺は、ケンイチ・ハマダ辺境伯だ! 跳ね橋を降ろしてもらいたい」
「……」
これだけ大きな声を出しているのだから、聞こえているはずだ。
俺に続いて、アマランサスとアネモネも降りてきた。
「おい! 聞こえているだろ?!」
俺の声に反応したのか、砦の上にいた兵士がこちらを向いた。
「辺境伯様だかなんだかしらねぇが、許可なくここを通すわけにはいかねぇ!」
「許可って、誰の許可だ?!」
「ここらへんを治めている貴族様に決まってるだろ?!」
横にいるアマランサスに貴族の名前を聞く。
「この辺一帯はシラー伯爵の領地ですわぇ」
「あれ? どこかで聞いたような……」
「橋の普請で、テントの中に公爵と一緒にいたはずですわぇ」
「ああ!」
俺は手を叩いた。
「白金貨までやったのに」
「そうです」
再び、砦に呼びかける。
「それじゃ、シラー伯爵に取り次げ!」
「そんなことができるか! だいたい、お前らはどこから来たんだ! ここは通行できないようになっているだろう!?」
もう1人の男が出てくると、俺に弓を向けた。
「この怪しいやつめ!」
「ちょっと!」
躊躇なく発射された矢が、放物線を描いて飛んでくるのが解る。
とてもスローモーションで――これも走馬灯の一種だろうか。
俺に向けられた悪ふざけっぽい悪意だが、俺の前に出たアマランサスの剣によって叩き落とされた。
「この無礼者!」
アマランサスが砦の兵士に剣を突きつけ、怒りの声を上げた。
「いやぁ~誤射だよ! 誤射! ははは」「そう、1発なら誤射なんだよ」
砦の上で兵士たちが笑っている。
「聖騎士様、処すかぇ?」
アマランサスが激怒しているのだが、俺だって怒りたい。
艱難辛苦の果てに、やっと王国にたどり着いたってのに、味方からこの仕打ち。
「くそ、やりやがったな。こちとら、ただのオッサンじゃないんだぞ」
――そうは言ってみたものの、さてどうするか?
アイテムBOXに入っている岩と丸太で川をせき止めて、重機を渡すか。
いや――重機が渡れるぐらいに綺麗に道ができるとも思えんし。
せき止めたら川があふれるしな。
「う~ん、しょうがねぇ。ぶっ壊すか」
「それじゃ、私が処す出番だね」
遠距離攻撃なので、ここはアネモネの出番だろう。
目標は跳ね橋の上。
「アネモネ、跳ね橋の上が鎖につながっている」
「うん、そこを壊せば、橋が倒れてくるね!」
「そういうこと。左右にあるから両側を壊してくれ」
「解った」
後ろにいる、獣人たちにも声をかける。
「獣人たち、戦闘準備だ!」
「「「へ~い!」」」
彼らに透明なポリカの盾と、クロスボウを渡す。
「任せてくれよ旦那!」「そうだにゃ! 狙撃するにゃ?」
ミャレーとニャメナにも武器を渡した。
「いや、待て待て」
「ケンイチ!」
アキラとツィッツラがやってきた。
「こちらを攻撃してきたので、少々強引にやる」
「まぁ、正当防衛だしな」
アキラに跳ね橋の上を壊す作戦を説明した。
「それじゃ、右側は僕がやるよ!」
ツィッツラも協力してくれるらしい。
「それじゃ、アネモネは左側な」
「うん!」
俺たちが本格的に戦闘の準備を始めたのが上から見て解ったのか、砦の兵士たちが右往左往している。
だいたい、こっちは貴族を名乗っているんだ。
貴族を騙れば死罪だってあるこの国で、あの対応はない。
「だが、もう遅い」
「それじゃ、いっくよ~! む~」
アネモネとツィッツラの周りに青い光が集まり始めたので、獣人たちに告げる。
「おい、兵士たちは殺すなよ。殺すと面倒なことになるかもしれん」
「じゃが聖騎士様。貴族に矢を放ったとなれば、これは重罪ですわぇ」
「まぁ、なにも知らん下っ端の兵士たちだし」
「承知いたしました」
アネモネとツィッツラの魔法が炸裂した。
「 爆裂魔法(エクスプロージョン) !」
アネモネの魔法が青い光から赤い爆炎に変わる。
跳ね橋の左側上部を支えている城壁部分を吹き飛ばした。
「***@@**!」
エルフの頭上に現れた、巨大な光の矢。
これはマジックミサイルの上位互換の魔法だろうか。
白い矢が放たれると、右側の城壁を貫通した。
跳ね橋を支えていた鎖が断ち切られたことで、跳ね橋が落下。
川を飛び越え岸に激突――数回バウンドして轟音を鳴り響かせた。
「「「おおお~っ! やったぜ!」」」
「こんなすげぇ魔法があれば、城を落とすのも簡単だぜ!」
獣人たちが吹き飛んだ石の壁を見て盛り上がっている。
「ケンイチ様! 突っ込みますか?!」
獣人たちが今にも突撃しそうなので、止める。
マジな戦ではないし、砦に見えている相手はせいぜい十数人の部隊だろう。
脅すだけで十分だ。
俺はもう一度拡声器を取った。
「おい! 聞こえるか! 今度は大魔法で砦ごと吹き飛ばす! 給料安いんだろ? それに見合うのか、よく考えろ!」
もちろんこれはハッタリだ。
アネモネの魔法を最大にしても砦は吹き飛ばせない。
「まってくれぇ! 降伏する!」
砦の兵士たちが両手を挙げて並び始めた。
この世界でも、降伏には元世界と似たようなポーズをするらしい。
まさか、こんなデカい魔法が使える大魔導師がいるとは思わなかっただろう。
「今、そちらに向かう! おかしな真似をするなよ!」
「解った! 撃たないでくれ!」
一応、獣人たちに武器を装備させたまま、マイクロバスに乗せた。
「向こうは降伏したんだから威嚇するだけだぞ? 撃つなよ?」
「大丈夫でさぁ」
一応、念を押す。
「頼むぞ。アキラ!」
「おう!」
「アネモネ、ツイッツラ、ありがとうな」
「うん」「任せてよ」
皆と一緒に運転席に戻る。
「にゃー」
「はは、お母さんの活躍場所はなかったな」
「私のもねぇ」
エルフが暇そうに助手席で腕を組んでいる。
俺たちはバスを発進させると、落ちた跳ね橋の上を慎重に渡る。
もちろん、1台ずつだ。
なにせ屋根の上まで人が乗っている定員オーバーのバスだ。
橋が落ちたりしたら洒落にならん。
砦の門をくぐり、中に入る。
中はコの字形になっており、反対側はなにもないし、かなり崩れている。
この砦は元々、共和国の侵入を防ぐためのものだ。
正面だけを修復して使っているらしい。
2台のバスが砦に進入すると、魔法で崩れた瓦礫が転がっているので、注意して進む。
ここを守っていた十人ほどの部隊が、下に降りて武器を地面に置いていた。
反抗の意思がないと示しているのだろう。
俺はバスを降りたが――バスの上からは、獣人たちがクロスボウの照準を兵士たちに合わせている。
俺の後ろには護衛のアマランサスがいるし、この状態でなにかできるとは思えないが。
「さっきも言ったが、ケンイチ・ハマダ辺境伯だ」
「馬なしで動く、鉄の魔獣?」
兵士たちが、マイクロバスを見て驚いている。
「そうだ。お前らは貴族に弓を向けたってことで、重罪になる」
俺の前に1人の兵士が飛び出して、膝をついた。
背は小さいが、横に広いガッチリとした体型の男。
身体も四角いが顔も四角い。
「辺境伯様! 私1人の責任です! 部下たちは、私の命令に従っただけです! 何卒、私の首だけで収めてくださいますようお願い申し上げます!」
いくら俺が貴族だからといって他領の人間を処罰することはできない。
撃たれたのは間違いないので、正当防衛ってことにしてもいいんだが。
「お前が、ここの責任者か?」
「は、はい!」
「聞きたいことがある。砦の向こうにある畑は――隠し畑だな?」
「そ、そうです……」
「よし! お前だけ俺たちと一緒に来い。シラー伯爵に抗議する」
「し、承知いたしました……」
ここの責任者ってことは、隠し畑がどういうことか知っているはずだ。
「それじゃこの砦は、隠し村を外部から隠して、中にある村から村人を逃さないようにするためか」
「はい……物資は定期的に運び込まれます……」
「それじゃ、共和国と似たようなことを王国の貴族がやっていたことになる」
俺の所にアマランサスがやってきた。
「そうですわぇ。物資が行き渡っているだけ、多少マシとはいえ」
「あの村の住民たちに自由はないのだから、これは大問題だ」
「はい、おそらくは、ここで脱税された金は反王家勢力の資金源になっていると思われますわぇ」
「ああ、あのナントカって公爵と一緒にいたシラー伯爵も、反王家派とか言ってたなぁ」
「エキナセアベアです」
「そう、それ」
政治のゴタゴタは勘弁してくれよなぁ。
「俺は別に王家に不満もないし、今のままでも構わないから王家派ってことになるか」
「そうですわぇ」
「アマランサスもいるしなぁ」
「私は籍を抜いた身でありますし」
「それでも、影響力はデカいと思っているよ」
「興味はありませぬ。すべては聖騎士様のために」
「王国のためじゃないのか?」
「はい」
もう戦闘はない。
皆から武器と防具を回収するとアイテムBOXに収納。
捕まえた砦の責任者をバスの屋根に乗せると、アキラの車に行く。
「アキラ、ここを治めているシラー伯爵がいる、セジーナという都市に行く」
「オッケー」
「ここからそんなに遠くはないようだ」
「車での話だろ? ははは」
「まぁ、そうだ」
馬車だと丸一日とかかかる距離なんだろうな。
車を走らせること1時間――砦から森になりすぐにまた畑が広がる。
王国の一番西にある都市、セジーナが見えてきた。
砦から距離にして約40km。
多重の堀と城壁に囲まれており、かつては共和国の侵攻に備えた城郭都市であることをうかがわせる。
道には人も多く、前に馬車がいたりすると、追い越すのが大変。
堀に架かった橋を何箇所か渡り、やっと城郭の門に近づいた。
「止まれ~!」
帷子と革の鎧を着て槍を持ち、警備をしている兵士に停められる。
「なんだ、これは!? 馬はどうした?!」
窓から顔を出して、兵士に説明をする。
「こいつは魔法で動く、鉄の魔獣だ」
「……アストランティアの近くに、そんな魔獣を使う貴族様が住んでいるとか、聞いたことがあるが……」
「それが俺だ。ケンイチ・ハマダ辺境伯だ」
「こ、これは失礼いたしました! 辺境伯様!」
兵士が気をつけをして、背筋を伸ばす。
「通っていいかい?」
「どうぞ!」
もめなくてよかった。
いくら貴族だからって無茶はできん。
門を壊したのは――あれは正当防衛で不可抗力だし。
屋根まで人を乗せたマイクロバスが、城壁の中に進入した。
一応、車体と門のクリアランスを確認する。
「ナンテン! 頭の上は大丈夫か?」
「はは、門の天井に手がつくぜぇ。大丈夫だよ、旦那!」
心配なので降りて目視する。
大丈夫だ。
さて、シラー伯爵邸を訪ねるか。
まぁ、会ってはくれないだろうが。