軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

253話 森の中を進むキャラバン

俺たちは共和国の村から、村人を連れ出した。

これは他国の住民の拉致なので、大きな問題になるかもしれんが、見過ごすことができなかった。

やはり俺はタダのオッサンで、為政者なんかにゃ向かないのかもしれん。

いまさら後悔をしても――いや、後悔はしてないのだが、やってしまったからには彼らを俺の領まで連れていかねばならん。

深夜、大木の間を縫うように作られた道ともいえない道をたどり、森の中を3時間ほど進む。

移動に使ったマイクロバスのトリップメーターは100kmほどを指している。

俺とアキラが運転している車は、この世界のどんな生き物よりも速い。

瞬間的な速度なら獣人たちの方が速いのだが、あの村の獣人は全部連れてきてしまった。

追手をかけるのは不可能だろうし、あの郷長と呼ばれる小物が俺たちを追ってくるとは思えない。

とりあえず村人たちはなにも持っていないので、自炊をさせるための食材と道具を揃えて彼らに与えた。

あとは自分たちでなんとかしてもらう。

さすがに70人以上の村人の食事を人数分用意するのは無理だ。

村人たちも、もらった食材と道具を使って料理を始めたのを見届けると、俺たちもコンテナハウスの中で朝食にする。

そこにアキラとツィッツラもやって来た。

「オッス、アキラ」

「オッスオッス!」

「一緒に飯を食おう」

「おう」

コンテナハウスの中のベッドをアイテムBOXに収納して、飯にする。

料理はできないのでインスタントやグラノーラが中心。

「美味い!」「美味しいねぇ」

インスタントものでも、エルフたちには評判がいい。

森猫たちにはネコ缶。

俺たちの食事だけ別なので村人たちには申し訳ないし、少々気になるのだが――コンテナの窓から村人たちを見れば、俺が与えたものを使って料理を作って食べている。

サツマイモはそのまま焼いて食べているようだが、すごい喜んでいるようだ。

サツマイモは甘くて美味いからな。

黒狼と首長竜の肉を使って、スープも作ったらしい。

なんとかなっている様子。

「へへ、ケンイチ大盤振る舞いだな」

「村一つを新規に立ち上げようってんだから、それなりの投資は必要さ。彼らはマジでなにも持っていないし」

「そうだなぁ……帝国でも、あんな貧乏な村は見たことがねぇよ」

アキラも俺と同じ意見のようだ。

「あれじゃ原始人と変わらんよなぁ」

村人の姿を見て俺はため息をついた。

「旦那、獣人たちにも服を着せるのかい?」「にゃ?」

「王国では獣人たちも服を着ているから、着せるしかないだろう」

「ケンイチ、村の人は食べるものとか平気?」

アネモネが村人たちの心配をしている。

「とりあえず必要なものは渡してきたよ。さすがに70人以上の食事となると用意できないし」

「まぁ、それはしゃーないなぁ」

アキラも窓から外を眺めている。

「アキラ、どうした?」

「下手に畑を作らないで、焼き畑をやっていたほうがよかったかもしれねぇなぁ……」

「だが中央からの指令は森の開拓なんだから、やるしかなかったのだろう」

「森だとそれなりに食料も手に入るが、都市部ではどうなっているのやら――くわばらくわばら、考えたくもねぇ」

アキラがグラノーラを食べながら身震いをしているが、さぞかし悲惨なことになっているんだろうなぁ……。

残念ながら助ける術はない。

自分たちの国は、自分たちでどうにかしてもらわないと。

革命政府を倒しての反革命ってことになるだろうが、かえって酷くなる可能性すらある。

「アマランサス、共和国が倒れて無政府状態になったら、カダン王国は侵攻すると思うか?」

「せぬじゃろうのう……そんな体力は今の王国にはないゆえ。それに侵攻すれば逆に難民が押し寄せるわぇ」

「ああ、それはある」

元世界でもよくある事例だ。

その前に、帝国に睨みを利かせつつ、共和国に侵攻するような体力は王国にはない。

「――となると、峠に砦を作って難民を食い止めなけりゃ……」

「峠の下には砦がすでにあるわぇ。峠を越えてくる者がおらぬゆえ飾りと化しておるが……」

「アキラ、帝国はどうだ?」

「ブリュンヒルデは、国力をアップさせるのが最優先だと言っていたので、無視するか王国に押しつけるつもりだろうな。ハッキリ言って貧乏な国に侵攻するメリットがねぇ」

土地を手に入れても荒れ放題の原野、国民を手に入れても貧民しかいないんじゃな。

豊かな土地や鉱物資源があるから、それを争奪するために戦争になるのであって、なにもない国を襲っても仕方ない。

そういえば共和国の向こうってのはどうなっているのだろう?

アマランサスに聞いてみる。

「ユリオプス王国というのがありましたが、共和国ができてからまったくの音信不通ゆえ……」

「どうなっているか解らないのか?」

「うむ――じゃが、峠もなく平地で陸続きなので関係は続いていると考えるのが妥当だろうのう」

「それじゃ共和国が倒れたら、そっちへ流れ込むか」

「少なくとも着の身着のままで峠は越えられねぇと思うわ」

アキラの言うとおりだ。

アネモネは暗い顔をしたまま黙って食事をしている。

黒くてドロドロとした大人の社会を目の当たりにしてしまったのだ。

そりゃ暗くもなる。

ハッキリ言って――誰も関わり合いになりたくなく、共和国には人知れずひっそりと滅亡してほしいというのが、周辺国の思惑じゃないだろうか……。

「やれやれ、本当に只人の国ってのはねぇ」「勝手に国を作って間抜けな踊りを踊って勝手に滅ぶと」

エルフたちがグラノーラを食べながらまた嫌味を言っているが、彼らからみればそう見えるのも仕方ない。

朝食を食べ終わったので、コンテナハウスを収納して村人たちの様子を見に行く。

「マサキ、飯は食ったか?」

「この魔法の粉は凄いです! 一振りでスープの味が見違えるように」

「そうだろう」

元世界の地元では、爺婆たちにとって化学調味料はなくてはならないもの。

戦後のものがないときに、一振りでどんなものも美味くなる――爺婆たちにとっても魔法の粉だったのだろう。

「はい! この芋も素晴らしいです! こんな美味い芋は初めて食べました。ぜひとも、これを育てたいのですが!」

村人たちは、サツマイモに飛びついたようだ。

「畑を耕して、その芋を植えればドンドン増えるから、育てていいぞ」

「「「おおおっ!」」」

「こんな美味いものを腹いっぱい食えるなんて!」

村人たちは喜んでいるが、千里の道を一歩踏み出したばかり。

「気が早いぞ? まだまだ先は長いんだ」

「はい!」「んだ!」「んだな!」

死んだような顔をしていた村人たちに活気が溢れている。

やっぱり頑張れば豊かになれるという希望があれば、目が輝く。

彼らは水が貴重なのが解っているので、洗いものもせずに焚き火の灰を入れて葉っぱや草で拭いたりしている。

草をまとめれば簡易のたわしになるし、灰のアルカリで油は落ちる。

アルカリで殺菌もできるから理にかなっているな。

川などがあったらまとめて洗えばいいわけだし。

それに俺のアイテムBOXに収納すれば、雑菌などは全部死滅するからより安全で食中毒の心配もいらない。

ただボツリヌス菌やO-157などが出した毒素などはそのままだから、油断はできないが。

「全員、服も着たな」

「こんな立派な服をいただいて、ありがとうございます」「ありがとうございます」

サイズが合わない者は、個別にサイズを注文してやる。

多少、服が違うが仕方ない。

「服が違うからとかいって、イジメたりするなよ?」

「そ、そんなことはしません」

そこに村の獣人たちがやってきた。

「旦那、あたしたちも、やっぱり着ないと駄目かい?」

ナンテンや獣人たちも一応服を着てみたようだが、着慣れない様子でウロウロしている。

「王国では、獣人たちも服を着ることになっているんだよ。うちの獣人たちを見れば、ちゃんと服を着ているだろ?」

「わかっちゃいるけどさぁ」

「まぁ慣れてくれ。結構似合っているじゃないか」

彼女はデニムのミニスカと、Tシャツをきている。

「そ、そうかい?」

「ああ」

彼女はうちの獣人たちをチラチラ見ているのだが、なにか気になるのだろうか?

「どうした? うちの獣人たちがなにか気になるのか?」

「随分と綺麗な女たちだね……」

「俺が毎日ブラシをかけてやっているからな」

「ええ? ……ブラシかけ……?」

「森猫たちもなでてやっているぞ」

そこにベルがやってきた。

「なぁ、お母さん」

「にゃー」

彼女の黒光りする毛皮をナデナデしてやる。

「いいなぁ……」

「金を稼げば、ブラシぐらいは買える――あ、そうだ。尻尾を見せてみろ」

「あ、うん……」

彼女がくるりと尻を向けると、ミニスカに穴が開いている。

自分の爪かなにかで穴を開けて尻尾を出したのだろう。

「獣人用の服ってのがなかったからな」

彼女の尻尾の付け根が皮膚病で禿げているのだが、そこを消毒してやる。

「うにゃ!」

消毒が終わったら 回復(ヒール) だ。

尻尾の付け根をモミモミしてやる。

「ななな~ん」

ぷるぷると震えているナンテンが可愛いが、それを見ていた他の獣人の女たちがじりじりと俺の所に迫っている。

村からやってきた獣人の女はナンテンを入れて5人だが、そのうち2人は犬人だ。

なぜすぐにでも俺に抱きつかないでじりじりしているのかといえば、ミャレーとニャメナが威嚇してプレッシャーをかけているからだ。

「ほい! 治療終わり!」

「にゃ!」

「旦那! そいつの毛皮もなでてやるとか言い出さないよな?!」「そうにゃ!」

うちの獣人たちが妙な心配をしている。

獣人ハーレム要員にするんじゃないかと心配しているようだ。

「ただ治療しているだけだ。早く治さないと、他の獣人たちに感染ったら大変だろ?」

「そ、そうだけどさぁ……」「うにゃ」

「なーん」

うちの獣人たちと話していると、ナンテンが俺に身体を擦り付けてきた。

「ぎゃぁぁ! てめぇ!」「ふぎゃぁぁ!」

ミャレーとニャメナがナンテンを突き飛ばすと、身体をスリスリして、においを上書きしようとしている。

「くせぇにおいをつけやがって!」「そうにゃ!」

「あんたらばかり、ずるいじゃないか!」

村の獣人たちから抗議の声が上がるが、ミャレーとニャメナは聞き入れない。

「うるせぇ! 旦那は俺たちのもんだ!」「そうだにゃ!」

「くさい?」

うちの獣人たちに言われて、ナンテンが自分の身体をクンカクンカしている。

「くさくないから心配するな」

俺は獣人たちにブラシを買ってやった――1人1個だ。

「ほら、毎日自分たちでブラシかけをしろ」

ブラシには紐がついているので、腰の部分にぶら下げてやる。

村の獣人たちの毛皮がボサボサなのは、手入れをしていないからだ。

獣人たちは毎日結構な毛が抜けるため、ブラシをかけてそれを取り除いてやらないと、古い毛が取れずに絡みつきボサボサになってしまう。

俺からブラシを受け取った獣人たちは、早速自分の身体にブラシをかけ始めた。

わさわさと毛の塊が宙を舞う。

獣人たちとの話は済んだので、マサキの所に行く。

「とりあえず必要なものは揃えたと思うが、あとは自分たちで稼いで、自分たちで追加してくれよな」

「稼ぐ……金を稼げるんですか?」

村人たちが不思議そうな顔をしている。

「基本は自給自足だが、農作物が余ったら他に売れば金になるぞ。金が手に入ったら他のものを買えばいい」

「「「おおおっ!」」」「本当に、自分たちの食い扶持以上のものを作れるだか?」

「俺が教えるとおりに農業をやれば、もっとたくさんの収穫が望める」

「そうなのですか?」

「ああ、それに俺の領では、水産加工場を作ったり砂糖を作ったりと色々とやっているぞ」

「砂糖ですか? それはすごい!」

この世界で砂糖は高級品だが、順調にハマダ領での生産が増えれば、もっと手軽に使えるようになるだろう。

「最初は税金を取らないから、早く自分たちの生活を軌道に乗せることだけを考えてくれればいい」

「税金はないのですか?」

「なにもないところからは取れないだろう? 儲けられるようになったら取るからな」

「あの……税金はどのぐらいになるのでしょうか?」

村人たちはそれが心配だろうな。

頑張っても稼ぎの半分も取られたんじゃやってられない。

俺も税金を取られて頭にくることが多かったから、それは解る。

「稼ぎによるが、2割から3割だ」

「本当にそれだけで?」

「まぁ、王国でも税金が高い所は5割って話もあるみたいだが、うちの領はそんなには取らないから心配するな」

「「「おおおっ!」」」

「さっきも言ったが――まずは、俺の領に着くのが目的だからな」

「解りました」

出発に備えて、荷物を村人用のコンテナハウスに入れてもらう。

腹も膨れたし目的ができたので、村人たちの表情も明るく動きも軽やかだ。

「よ~し! 皆、また鉄の箱に乗り込んでくれ~」

「「「解りました~」」」

皆がマイクロバスの中に乗り込むと、昨日と同じようにナンテンと獣人たちが屋根に上る。

「おい、獣人たちは。そこで平気なのか?」

「大丈夫だよ」「大丈夫でさ」「おうよ」

問題ないらしい。

「明るいから、もうちょっと速度が出せるかな?」

――とはいえ道が道なので、やっぱり難しいか。

皆が乗り込んだのを確認してから出発をする。

「アキラ大丈夫か?」

『アキラ、*&&^%$』

ツィッツラの声が聞こえるが、翻訳できない。

アキラの声だけが返ってきた。

『オッケー!』

「オッケーにゃ!」

ト○タのコ○スターが異世界で動き出した。

本当に今更なんだが、異世界で通販が使えるとか、いったいどういう力なのだろうか?

アキラのマヨネーズも大概だけどな。

「ケンイチ、今日はぁ、どのぐらい走るのぉ?」

セテラが助手席で耳をピコピコさせている。

「解らんが、進めるだけ進む。道がよければいいんだがな」

俺の悪い予感が的中した。

マイクロバスは順調に乗客を揺さぶり2時間ほど走ったのだが、突然動かなくなった。

故障などではなく、道がぬかるんでスタックしてしまったのだ。

少々、地盤が悪い場所らしい。

水はけが悪く、なにかが原因で水がたまっているらしい。

「しょうがねぇ……」

「聖騎士様」

アマランサスが心配そうにしているが、方法は一つしかない。

「アキラ、スタックだ。道が悪すぎる。皆を降ろしてしばらく歩くぞ」

『やっぱり駄目か。了解!』

道を魔法で凍らせる手もあるかもしれないが、貴重な魔法をそんなことで使うわけにはいかない。

なにが起こるか解らないのだ。

スタックしたら皆を降ろして、バスをアイテムBOXに収納すればいい。

魔法は温存するに越したことはない。

ウチの家族にも長靴を買ってやり、それを履かせると外に出た。

「あはは、変な靴ぅ~」

セテラが長靴を楽しんでいるのだが、それを履けないで困っているのが森猫たちだ。

このまま泥の中に入れば、真っ黒な毛皮が泥まみれになってしまう。

「にゃー」「みゃ」

森猫たちが本当に嫌そうな顔をしているので可哀想……なにかいい方法は……。

「そうだ!」

俺はシャングリ・ラから、プラ製の真っ赤な大型ボブスレーを購入した。

雪国で子どもが乗って遊ぶものを、泥の上に浮かべる。

「お母さんたちは、これに乗ってくれ」

「にゃ」「みゃー」

「ニャメナ、紐を引っ張ってやってくれ」

「任せてくれよ旦那」「ウチも引っ張るにゃ」

真っ赤な船に乗った森猫たちを獣人たちが引っ張っていく。

これで鉄の箱の中は空になった。

「よし!」

マイクロバスをアイテムBOXに収納すると、アキラたちが乗っていたバスの所に行く。

「ケンイチ、悪い! こっちにも長靴をくれ~」

「はいよ~」

アキラたちにも長靴を買ってやる。

バスから村人たちが降りたのを確認すると、アイテムBOXに収納した。

「「「おおお~っ! すごい!」」」

「悪いが、道がよくなる所まで歩くからな」

「「「はい」」」

ぬかるみを皆で列になって歩く民族大移動。

ぬかるみが酷いところには丸太を出して、その上を歩く。

本当に丸太は大活躍だ。

時間があったら、森の木を切り出すか……。

皆が丸太を渡り終えたら、終いからアイテムBOXに回収していく。

ちょっと泥だらけになってしまったが、アイテムBOXに入れて出すだけなので、俺の手は汚れることはない。

そのまま入れておいて池や川があったら洗えばいいし。

1時間ほどかけて、地面がしっかりしている所までやってきた。

「ふう、やっとかよ。こんなの馬車で通れないぜ?」

アキラが泥だらけの長靴を草で拭いている。

村人たちがそうやっているので、真似をしているようだ。

シャングリ・ラから買った水を使って長靴を洗うとか、そんなブルジョワなことをするわけにもいかないしな。

「前は通れたのかもしれないが、あとで水没したとか?」

「ああ、なるほど、そういう可能性もあるか……けど、そんな所に村を作ったら、補給ももらえずに壊滅するぞ?」

「そうなった村も多いんじゃないのかなぁ……」

「うわぁ……帝国に転移してよかったわ。死ぬよりはブラックのほうがなんぼかマシだし……」

アキラの話では、仕事は命がけだったが食うに困っていたわけじゃないらしいし。

「マサキ、他の村の話などは?」

「補給隊から、たまに聞くぐらいで」

人知れず全滅してしまった村の話など入ってくるはずがない。

この深い森の中で廃墟になっている村もあるってわけだ……なんと恐ろしい。

最初に王国じゃなくて、ここに転移してたらどうなっていただろうか?

シャングリ・ラで物資は買えるが、商売をしないとチャージができない。

森の中に生息している動植物を手当り次第に売却に入れてみるという手もあるが……。

サクラの崖から掘り出した鉱石に値段がついたぐらいだ――たとえば、美しい花の苗など値段がつかないだろうか?

ありもしない架空の攻略法を考えながら、マイクロバスをアイテムBOXから出した。

「よ~し、また乗ってくれ」

長靴を草で拭いた村人たちが、次々に乗り込んでいく。

少々汚れてしまったが、王国領に入ったら余裕ができる。

そのときにアネモネに魔法でバスの中を綺麗にしてもらえばいい。

全員が鉄の乗り物の中に乗り込み、またギュウギュウ詰めになると、道なき道を走り始めた。

屋根には獣人たちが乗っている。

マサキの話では、この道が峠につながっているというのだが、彼もそれを確かめたわけではない。

補給隊の噂でそう聞いただけだが、王国の地理と共和国の地理に鑑みると、方向的には間違っていないと思う。

俺たちの横に見えるコスモ山脈という連峰を横に見ながら走れば、いずれは目的地である峠にたどり着く。

ガタガタと車に揺られていると、獣人たちが騒ぎ始めた。

「旦那! 突撃虫だ!」

上からナンテンの声が聞こえる。

俺は無線機のマイクを取った。

「アキラストップ! エンジン切ってくれ!」

『なんだ?!』

「突撃虫だ!」

「旦那! 右側だ!」

俺の後ろにいるニャメナが叫ぶ。

「アネモネ! 右側に防御魔法! 皆も伏せろ!」

村人たちは一斉に座席に伏せた。

「むー! 聖なる盾(プロテクション) !」

バスの右側に青い光が舞う。

エンジンが止まると、皆が座席で息を飲み静まり返る。

俺たちの耳では音は聞こえない。

「……旦那、通り過ぎたぜ」「うにゃ」

ニャメナが小声でつぶやく。

「本当か?」

『ケンイチ! シュツルムケイファか?!』

『アキラ! &*&&$#$$!』

ツィッツラの声が無線機から聞こえる。

「そっちの獣人たちも気がついたか?」

『ああ、ツィッツラに防御魔法を使ってもらった』

「まだうろついているかもしれないから、しばらく停車する」

『了解』

防御魔法について、アネモネにちょっと聞きたいことがある。

「アネモネ、防御魔法を斜めに出せるか?」

「う~ん? 多分大丈夫だと思う」

「斜めにすることで防御力を上げられるんだ。今度試してみてくれないか?」

アイテムBOXから出したスケッチブックに図を描いて説明をする。

「うん」

「 避弾経始(ひだんけいし) ねぇ」

セテラがスケッチブックを覗き込む。

「さすが、エルフは知っているか」

「まぁねぇ」

彼女が、その原理をアネモネに説明してやっていると、獣人たちも加わってきた。

「旦那、俺たちも知っているぜ」「盾を斜めにすると、少ない力で敵の攻撃を逸らせるにゃ」

「そう、それそれ。それを防御魔法でもできないかなぁ~と思ってな」

「さすが聖騎士様は博識じゃのう……」

アマランサスは感心しているが、それどころではない。

あの虫は車の外板も簡単に貫通するのだ。

この森は簡単には俺たちを行かせてはくれないらしい。

大型の魔物より、小型の甲虫のほうが恐ろしいとは……。