軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

183話 南へ向けて

湿地帯を流れるアニス川を運河に使う計画を、ハマダ領にやってきたマロウに話したところ、メチャ乗り気だ。

ぜひとも挑戦してみたいと言う。

彼は商売になると思えば、危険な場所でも吶喊してしまう男だが、無謀なだけではない。

商売に鼻が利く本物の商人。俺からの話を聞いて、とてつもない儲けになると踏んだのだろう。

まぁ川を運河に利用できれば、海運を独り占めできるからな。

他の商人が真似したくても、俺が考えたスライム避けや、ゴーレムのコアを使ったモーターなどがないと実現不可能だ。

マロウがアストランティアの支店に行くと、すぐにプリムラがサクラにやってきた。

船の話を彼から聞いたのだろう。

家の前のテーブルに座り、彼女と話す。

「プリムラごめんよ。このままだと、お義父さんを危険なところに行かせてしまうよ」

「いいえ――こうなると絶対に父は話を聞きませんので、なにを言っても無駄です」

「本当に親子だなぁ……」

「うふふ――それと南のオダマキに行く話があるようですね」

「ああ、ちょっと大きくて本格的な船を作るとなると、オダマキじゃないと作れないと聞いた」

「そうですねぇ。海も進むことになりますし、荷物を積めるようにもしないといけませんから、本格的な商業船が必要になりますね」

「だが、いきなり大型船は作れない。まずは小型船での試験だな」

プリムラの話では、オダマキへの遠征には彼女も同行するようだ。

「戦闘などは、まったく役に立ちませんが、商売となれば私の出番ですよ」

「よろしく頼むよ」

「はい! 任せてください」

活躍のチャンスがきたプリムラは、フンスと気合を入れている。

探索や戦闘では彼女の出番はないからなぁ。

リリスのように、そんなこともお構いなしについてくるほど神経も図太くないし、心臓に毛が生えてもいない。

「ついでに、ダリアでの仕事も片付けようと思うんだが、住宅の確保はできてる?」

「はい、先日新たに5軒の住宅を確保して、合計で25軒ですね」

「25か――さすがに、アイテムBOXに入るかな?」

「アストランティアの10軒は入りましたよね?」

「まぁ入らなかったら、何回か往復すればいい。俺の召喚獣なら日帰りもできるし」

彼女にスライムの養殖についても話す。

「魔物の養殖ですか?」

「ああ、魔石を確保するためにな。スライムならなんでも食うし、いくらでも増える。他の魔物より飼いやすいだろう」

「普通は、魔物を飼ったりはしないのですが……」

「これから魔石は、かなり重要な物資となる可能性が高い。常識に囚われていては駄目だ。お義父さんは興味津々だったぞ?」

「魔道具が今以上に普及すれば、魔石の需要も伸びるというわけですね」

この世界に石炭はないが、もしかしたら魔石で産業革命を起こせるかもしれない。

「そうだ。森の中で戦闘をして魔石を集めるより、スライムを飼ったほうが安全だろ?」

「安全だとは思いませんが……」

たとえば――スライム避けのコアを使った柵を作り、それで囲んだりすれば、スライムを内側から逃がすことはない。

男性と女性の違いもあるのだろうが、スライムが生理的に嫌なのかもしれない。

Gが金になるからといって、あの黒いのを飼う女性はいないだろうしなぁ。

プリムラと話していると、リリスとセテラがやってきた。

「はぁい」

セテラが手を振っている。

「これは、リリス様とセテラ様」

「ああ、様とかいらないからぁ」

エルフには様つけする者が多い。ものすごく年上なのが間違いないからなのだが。

当のエルフたちは、年上扱いされるのが嫌なようだ。

俺はエルフ語も解る指輪を付けているのだが、セテラがここで話しているのは共通語といわれる、普通の人間――只人が話しているもの。

もともと少し喋れたようなのだが、アネモネと一緒に勉強をしているようだ。

「また商売の話かぇ?」

リリスが席についたので、ケーキと飲み物を出す。

「そうだ、船を作りに南に行く話をしたろ?」

「貴族が船を持つなどと、聞いたことがない――ムグムグ」

リリスが早速ケーキをパクつき始めた。

エルフはこの手のクリームの類いは食べない。

興味はありそうなのだが、彼らの教義があるのだろう。

セテラには烏龍茶を出した。

「ん? 凄く美味しいお茶だねぇ!」

烏龍茶はエルフの口にも合うようだ。

「王侯貴族が船を持ってもおかしくないと思うがな。武装すれば強力な兵器になるし」

何気に話した言葉に、どこからか反応があった。

「兵器ですと!」

走ってやって来たのはカールドンだ。

彼は魔道具の専門家だが、武器ヲタでもあることがサクラに来て判明した。

俺がシャングリ・ラで購入した、コンパウンド式のボウガンを見て感激。

俺にあれこれと質問してきたのだ。

「地獄耳だな……」

「ケンイチ様がおっしゃる兵器ならば、この世にあらざるような革新的なものでございましょう?」

俺はアイテムBOXからスケッチブックを取り出すと戦列艦を描いた。

この世界には大砲がないので、ズラリと巨大な弩砲を搭載している。

「おおお! これは!」

「複合式の弩砲の巻き上げにコアモーターを使えば、素早く装填できる」

「なんとすばらしい!」

「移動にも、コアモーターが使える」

俺は、アイテムBOXから模型の船と、水が入ったプラケースを出すと浮かべてみせた。

マロウに見せたものと同じものだ。

「おおお! 羽根車に風が当たると風車になるし、逆に羽根車をコアで動かせば、風を起こせる」

彼はコアモーターを使って扇風機をすでに作っている。

「風の流れを起こせるってことは――」

「水の流れも起こすことができる! なんという僥倖!」

カールドンが空を仰いで両手を広げた。

彼はこのポーズが好きなようだ。

「こいつを使って、アニス川を遡ろうと思ってな」

「な、なんと! 私は、ワクワクが止まらないのですが!?」

彼の目が子どものようにキラキラしている。

「あれ? それじゃ一緒に船を作りに、南の港まで行く?」

「もちろんでございます!」

カールドンをどうやって連れていこうかと悩んでいたのだが、杞憂だったみたいだな。

「そんな戦う船を作ってどうするのぉ?」

セテラがちびちびと烏龍茶を飲みながら質問をしてきた。

「帝都にも川があれば遡って攻撃ができるし、海から沿岸の都市を攻撃できる」

「ええ? ケンイチって実は剣呑な只人?」

「まぁ、あくまで一例だ。今回、作るのは商船だし」

「あやしい……」

だが、アニス川に港を作ることができれば、ハマダ領は海軍力も持つことができる。

「帝国の帝都に川って流れているのか?」

「はい、流れていますよ。ドーラという大河です」

カールドンが帝国の地理を説明してくれた。

「それなら船が使えるな。たとえば帝国が王国に攻めてきたとするだろ? まずやつらは、ベロニカ峠を越えてくる」

「そうじゃろうのう」

「峠を崩して足止めしている間に、俺が船を使ってドーラ川を遡り帝都を急襲すれば、帝国軍は撤退せざるを得ないだろう?」

「そ、そのような戦など聞いたこともない!」

「いいえ、リリス様。ケンイチ様のおっしゃることは、実に理にかなっております」

カールドンの言葉に、リリスが腕を組んで考え込む。

「むう……そのような恐ろしいことを考えていようとは……」

「誤解だよ誤解。まずは商業に使うことが前提だからな」

平和目的が第一だが、せっかく作ったものなら他にも利用すべきだ。

残念ながら、この世界に綺麗事は通用しないし、幾度となく戦も起こっている。

俺も領主になったのなら、この地と民を守らなくてはならない。

それに戦うのは戦争だけではない。

俺とカールドンの専門的な会話を黙って聞いていたプリムラに、海のことを聞く。

「プリムラ、海賊ってのはいないのか?」

「いますよ」

「それなら武器の準備もしないと駄目だな。商隊に護衛が必要なように、商船にも武器がいる」

「コアモーターを装備している船なら、帆船に後れをとることはないと思いますが」

まぁ、カールドンの言うとおりだな。

帆船なら風まかせだが、モーター推進なら好きなポジションを取れるってわけだ。

皆と話しているとベルがやってきた。

「にゃー」

「よしよし、お母さんチュ○ル食べるかい?」

「にゃー」

ベルがチューブのお菓子を、ペロペロしている。

「なんでお母さんなの?」

セテラが烏龍茶を飲みながら苦笑いをしている。

「まぁなんとなく、ははは。彼女も否定しないし」

「にゃー」

「妾も行くぞぇ!」

「護衛にはアマランサスを連れていくから、リリスは今回留守番を頼む」

「むう……」

リリスは不満のようだが、次はアマランサスを連れていくって約束だからな。

それに護衛ならアマランサスの方が適任だし、リリスとアマランサスのどちらかが、領主代行として残っていないと困ってしまう。

そのままダリア――オダマキへの遠征のための準備が、つつがなく進んでいった。

------◇◇◇------

――ダリアへの出発当日。

朝飯を食べたら、出発の準備をする。

ダリア近辺での仕事は色々とあるが、それを済ませたあとは、そのまま南のオダマキへ向かう。

サンタンカの加工場では、俺のアイテムBOXに入っているクラーケンを使ってイカクンを作っている。

俺がしばらく留守にすると、イカクンの原料を補給できないので、スモークサーモンの加工へ注力してもらう。

家の前から出発するため皆を集めて注意事項などを伝える。

最初の予定どおり、リリスには留守番をしてもらい、代わりにアマランサスを連れていく。

一緒に行けることになったアマランサスはニコニコ顔。

護衛としてはミャレーとニャメナも、いつものように欠かせない。

彼女たちの鼻と耳――索敵能力、追跡能力は、俺たち只人には真似できないものだから当然の選択。

ハマダ領の大魔導師アネモネと魔道具の専門家カールドン、マロウ商会からマロウとプリムラ、同商会の番頭も同行する。

「それでは、1週間から2週間ほど留守にするから、領を頼む」

「むー――任せてたもれ」

並んでいるメイドの前でむくれているリリスは、1人だけ留守番なのが、やっぱり不満のようだ。

その横には紋章官のユリウスもいる。

彼は貴族の仕事の全般に通じており、とても優秀だ。

「ケンイチ様、留守はお任せ下さい」

まぁ、彼もいるので、領の業務のほうは大丈夫だろう。

この領の近くに山賊がいるって話も聞いたこともないしな。

領のパトロールには獣人3人組がいるし、エルフのセテラもいる。

「いってらっしゃ~い。領主ってのは大変だねぇ」

セテラが、ニコニコと笑っている。

「君も行きたいとか言い出すのかと思った」

「ええ? 海なんて嫌だよ。臭いし、あんな所に行くエルフなんていないってぇ」

そうなのか。

「臭いって知っているってことは、一度は行ったことがあるんだろ?」

「まぁね。近くまでだけど、あれは我慢できなかったよぉ」

確かに森の中に住むのが基本のエルフに、海辺は似合わない気もするが……。

「聖騎士様は、海に行ったことがあるのかぇ?」

アマランサスが俺とエルフとの会話に入ってきた。

「まぁな。海で泳いだこともあるし、釣りをしたこともあるぞ」

俺の言葉に、セテラは嫌そうな顔をして舌を出している。

今回はリリスが行かないので、メイドも連れていかない。

アマランサスがいるのだが、彼女は奴隷の身分なのでメイドの世話などを自ら拒否している。

なぜに、わざわざ不自由な選択をするのかは意味不明だが、奴隷紋を外すつもりはないようだ。

一緒にいけなくて悔しがっているのは、リリスだけではない。

「くくく、私がご一緒できないとは……」

無念の表情をしているのは料理人のサンバクだ。

「まぁ、休暇が与えられたと思ってくれればいいよ」

「いいえ、普段作れないような料理の試作をする、いい機会に恵まれたと思うことにいたします」

「おいおい、メイドたちを試食の実験台にするんじゃないよ?」

「なにをおっしゃいます。これもメイドの仕事のうちでございましょう」

彼の言葉を聞いたメイド長のマイレンが困った顔をしている。

「あの――サンバク様? スライム料理は……」

「ほら、メイドたちも嫌がっている」

彼に近寄ると、ひそひそ話をする。

「まずは、甘いものから攻めたらどうだ?」

「なるほど……」

俺はアイテムBOXから、グミを取り出し口にした。

クニクニした噛みごたえ――元世界にあったグミによく似ている。

これもサンバクと一緒に作ったものだ。当然、原料はスライム。

あの透明な魔物は塩漬けにすると、日持ちすることも解った。

「ケンイチ、私にもちょうだい!」

よそ行きの青いローブを着ているアネモネが、俺からもらったグミを口に入れ美味しそうに微笑む。

それを見たリリスが声を上げた。

「ケンイチ! 妾にもそれをたもれ!」

「いいのか? 原料はアレだぞ?」

「構わぬ!」

俺からもらったグミを、彼女はしばらく見ていたのだが、覚悟を決めたように口に放り込んだ。

「ぬぬぬ……ほう! 食べたこともないような食感。これは癖になるし、美味い!」

「サンバク、リリスにもこれを作ってやってくれ」

「承知いたしました」

そこにアキラがSUV車のプ○ドに乗ってやって来た。

今回は、彼のプ○ドと俺のラ○クルの2台で行く。

「お~いケンイチ!」

「オッス! アキラ」

「オッスオッス!」

「行く前に、バイオディーゼル燃料を満タンにしようぜ」

「オッケー!」

アキラの言葉に、ミャレーが反応した。

「オッケーにゃ!」

「ふぅ~旦那といると退屈しないで済むぜ~。こんどは海かよ。王国中を制覇できるな」

ミャレーとニャメナは、車に乗り込む前に準備体操をしている。

「別に断ってもいいんだぞ?」

「へっへ、冗談!」「にゃ!」

「まったくアストランティアのボロ屋の隙間で寝泊まりしてたときとは、大違いだぜ」

「そうだにゃー! 初めて会ったトラ公はボロボロだったにゃー」

「うるせい! あのときの俺とは違うんだ! 見ろ! このピカピカの毛皮を!」

ニャメナの虎柄の毛皮は、陽の光に輝いている。

「よろしく頼むよ」

「旦那、任せなって!」「うにゃ!」

獣人たちは、海に行くのに抵抗はないようだ。

ニャメナはダリアまでは行ったことがあるらしいが、その先は知らないと言う。

車両のメンバー分けは――俺の車に、アネモネとアマランサス、そしてプリムラ。

3列シートの後ろには、獣人たちの2人。

アキラの車にはカールドンが乗っているが、マロウと商会の番頭も乗る予定だ。

港町のオダマキに支店を出すつもりらしい。

船を建造して取引をするなら、支店が必要になるからな。

そこに森から黒い影がやってきた。

「にゃー」

俺の脚にベルが身体を擦り付けてくる。

「おい、お母さんも行くのか?」

「にゃー」

「マジか」

それじゃ、アネモネと一緒に乗ってもらうとするか。

道案内をしてもらうプリムラには、助手席に乗ってもらう。

車のタンクも満タンになったので出発する。

皆で車に乗り込むとエンジンを始動。

列になって見送りしてくれているリリスとメイドたちに、手を振る。

「それじゃ行ってくるぞ」

「「「いってらっしゃいませ、ご主人様!」」」

ATセレクタをDに入れて、車で走り出した。俺の車の後ろにはアキラのプ○ドがついてくる。

車には以前取り付けた無線機があるので、向こうと会話ができる。

以前なら街道へ向かうには、サンタンカの近くまで行ってからぐるりと迂回するルートであったが、今は直線道路ができている。

ゆっくり走っても、10分もすればアストランティア近くに出るわけだ。

街道に到着したら、右に進路を取り森の中へと進む。

ダリアからバイクに乗って逃げてきたときには、オドメーターで100㎞ぐらいだったはず。

『ケンイチ、どのぐらいの距離があるんだ?』

アキラからコールが入った。

「ざっと100㎞」

『それなら50㎞で走っても2時間ってところだな』

背の高い木々が立ち並ぶ木漏れ日の中を走ると、ダリアから逃げてきたときのことを思い出す。

『アキラ殿! それはそれは!?』

『この魔導具で向こうの乗り物と話ができるんだ』

『なんと! 素晴らしい!』

なんかアキラと一緒に乗っているカールドンが盛り上がっている。

「まさか、貴族になってダリアに戻ることになるとは……」

「森の中から、私を置いて逃げてしまいましたからね」

「ごめんよ、プリムラ――まだ怒っているのかい?」

「別に怒っていませんけど!」

俺とプリムラの会話に、後ろからアマランサスの声が聞こえてくる。

「なんじゃ聖騎士様は、プリムラを置いて逃げてしまったのかぇ?」

「俺が 独自(ユニーク) 魔法を使えるってことがバレたら、貴族が探し始めたからさぁ。マロウ商会にも迷惑がかかると思ってな」

「そうだのう――商人が貴族に黙って、そんな魔導師を囲っていたと解れば、吊し上げを食らうのもあり得る話じゃな」

「だろ?」

「そ、そんなことはありません! そ、それに私にだって自負があったんです……ケンイチは私を選んでくれるだろうと……」

プリムラの言葉に、後ろから突っ込みが入った。

「ケンイチは私を選んでくれたんだよね」

「くっ! それを、こんな子どもに……」

「子どもじゃないから!」

「これ、喧嘩するんじゃないよ。アネモネはまだ魔法が使えるって解らなかったし、放置するわけにいかないだろう」

「そうだとしても……」

「一言相談があっても、よかったのでは――とプリムラは言いたいのじゃろ?」

「そうです!」

「ごめんよ、悪かったよ」

もうとっくに許してくれていると思ったのに、未だに尾を引いているらしい。

「ウチは、自前の鼻でケンイチを追ったにゃー!」

「そうだったな。まずはミャレーに捕まったんだ」

「へっへ、俺たち獣人からは逃げられねぇ」

車は、道行く馬車を避けて街道を進むので、あまりスピードは出せない。

1時間ほどで、森の中の宿泊場所が見えてきた。

通常は、ここで1泊するのだが、そのまま通過してしまう。

あと1時間で到着するのだ。

『ケンイチ、この道って真っすぐなのか?』

「いや、微妙にカーブしている。それで森をショートカットしようとして、迷子になるやつがいる」

『ありがちだなぁ』

『この鉄の召喚獣の速さ! なんということでしょう!』

アキラとの無線にカールドンの声が混じって聞こえてくる。

苦笑いしていると森が切れてきた――懐かしい。

そんなに時間はたっていないはずなのにな。

俺は無線機のマイクを取った。

「最初は、ここらへんの森の中に住んでたんだよ」

『へぇ~、なんでまた』

「アイテムBOXとか、魔法を使っているのを知られたくなかったんでな。それに森の中でスローライフってのが、憧れだったし」

『まぁ、たしかにスローライフといえば、スローライフだがなぁ』

俺とアキラの会話に聞き耳を立てていたミャレーが叫んだ。

「スローライフってなんにゃ?」

「まぁ、そうだなぁ――のんびりと暮らすことかな?」

この世界じゃ理解されないだろう。普通の人々は生活するので精一杯なので、あえてスローライフなんてする余裕がない。

森が切れると、ダリアの城壁が見えてきた。

「ふう――森をたった数時間で……」

プリムラが呆れるのも無理もない。アストランティア――ダリア間は馬車だと2日かかる距離なのだ。

そのまま道を進むと、小さな川と石橋を渡る。

ここの河原で、獣人たちと飲み食いしたなぁ……思い出が蘇る。

「ミャレー、一緒に戦ってくれた獣人たちは元気にしてるだろうか?」

「知らないにゃ! 多分、もらった褒賞金も全部使って、今頃オケラになってるにゃ」

「え~? そうか? だって結構な金額があったんだぞ?」

「それでも、オケラになるのが奴らだにゃ」

ミャレーは一緒につるんでいたが、彼らにあまりいい感情は持っていないようだ。

まぁ、彼らが酔っ払って川に流されたのを、助けたりしてたからなぁ。

分厚い城壁をすぎ街の中に入ると、一斉に人々の視線が集まる。

馬のいない鉄の車が、ひとりでに動いているんだ。

そりゃ注目の的だろう。どこの都市でもそうだった。

以前のダリアと違うのは、ドライジーネと呼ばれる自転車が結構走り回っているところだ。

足蹴り式ではなくて、車輪にペダルがついているタイプも見える。

あれは新型だ。

『お~、結構にぎやかな都市だな。ケンイチ、まずはどこに行く?』

「とりあえず市場だな。せっかくここまで来たんだ、知り合いに挨拶していく」

『オッケー!』

市場の近くまで行くと皆を車から降ろして、俺の手荷物を1つ掴む。

最後に鉄の召喚獣をアイテムBOXに収納した。

「アキラのも、こっちで収納するか?」

「大丈夫だ。スペースは空けてきた」

プ○ドがアキラのアイテムBOXの中に吸い込まれると、周りからどよめきが起きる。

「今のはアイテムBOXか?」「おい、アイテムBOXだぜ?」「アイテムBOX持ちが2人もいるのか?」

この世界でアイテムBOX持ちは珍しいのに、大容量持ちが2人もいるんだからな。

そりゃ、ざわつくだろう。

このメンバーでは、アマランサスもアイテムBOXを持っているから、3人だけどな。

いや、ここにマロウも加われば――4人か。

「アストランティアとダリアの間は、60~70リーグは離れていたはず! それを数時間で!」

カールドンが車の速さに感激している。よそ行きの彼の服装は黒い上下に黒いマントという怪しげな恰好。

俺からみると、マッドサイエンティストという言葉がぴったりだ。

「馬車にコアモーターを取り付ければ、同じことができるようになるぞ?」

「しかし、こんな速さは到底……」

「それには秘密がある」

「秘密とは!?」

カールドンが俺にかぶりついてきたので、アイテムBOXからスケッチブックを取り出して図を描いた。

「歯車を何種類か用意して、次々と切り替えていく……」

俺が描いたのは、トランスミッションの原理だ。

簡単な図だが、彼なら理解できるだろう。

「ほぉぉぉ! これは! なんという天啓!」

彼が天を仰ぐ。

「はっ! 解りました!」

「な、なにがだ?」

「アキラ殿が、手元で動かしていた棒でございます!」

「ああ」

アキラの乗っているプ○ドはMTなので、操作が必要だ。

「あれで歯車を動かしているのでございましょう?!」

「まぁ、そうだ」

あまり詳しく言うと、車が召喚獣じゃないとバレてしまう――っていうか、カールドンにはもうバレているのかもしれない。

彼ほどの知識と能力がある者が見れば、車が完全なメカニズムの結晶だと解るだろう。

「試作してみたいから、サクラに戻るとか言い出さないでくれよ」

「もちろんでございます! ケンイチ様についていけば、さらなる秘術の高みに……うひひ」

ちょっとカールドンが怖いのだが。

皆で市場の中を手荷物を持って歩くと、早速声をかけられる。

俺と一緒に森猫のベルがいるから、売ってくれとせがまれるのだ。

もちろん、お母さんを売るはずがない。

俺がいたときと同じように、様々な色をした屋根がかかる露店が並ぶ。

「聖騎士様は、ここで商売をしていたのかぇ?」

アマランサスが市場を見回しているが、彼女の美しさはここでも注目の的だ。

視線が痛いが、彼女はまったく気にしていない様子。

「そうだ。最初はそれなりに苦労した――かな?」

チートを使ったあれを苦労と言ったら、普通の商人に怒られてしまうな。

前と変わりない光景だが、売っているものが少々違う。

香辛料が並んでいるのだ。

「へぇ、ダリアでも、香辛料が普通に買えるようになったんだな」

「いい匂いだにゃ!」

「でも、旦那が頑張ってくれたお陰だぜ」

「そうだにゃー」

市場にいる獣人たちは、ベルの姿を見ると膝をつく。

この光景もどこの都市でも同じだ。

さて、ここらへんだったと思うが――俺の異世界生活出発の地点。

俺が探していた女は、ぽつんと小さな露店を広げて前と同じ場所にいた。

以前会った時と同じように、カラフルなパッチワークの布を身にまとい、小さなアクセサリーをジャラジャラと沢山つけている。

「お〜い、アマナ!」

「え!? ちょ、ちょっと旦那じゃないか!」

俺の顔を見た彼女は驚いた顔をして、立ち上がった。

「元気そうだな」

苦楽を共にした戦友との感動の再会ってやつだ。