軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17話 獣人と森猫

森の中で、森猫という黒い毛皮を持つ動物を助けた。それは、獣人――猫人が信仰する神の使いだと言う。

獣人の女、ミャレーを俺の家に招きドアを開けた。

「中はそんな広くないけどな」

「凄い綺麗だにゃ~!」

街には、これよりボロい家が沢山ある。こんな自作の家でも、豪商や貴族の屋敷を除けば、この世界ではかなり上等な部類に入る。

部屋の中には相変わらず何もない。ベッドと敷物だけだ。家具等を入れなくても、アイテムBOXの中に全部入ってしまうからな。

俺が、そのままアイテムBOXの中へ入る事が出来れば、家も要らないんじゃないかと思うんだが。

部屋の隅に敷いた毛布の上には、まだ森猫が、うずくまったままだった。

だが――猫缶が少し食べられている。水も少し飲んだようだ。

「お、少し食べた跡がある。このまま食欲が戻ってくれれば良いんだが……」

「脚の付け根を怪我してるにゃ。可哀想だにゃ……」

「折れた矢が刺さっていたんだよ」

「やっぱり彼奴等にゃ」

彼奴等というのは犬人の事らしいが、証拠も無いのに決めつけるのはどうなのか。

傷口を消毒して再び薬を塗る。だが薬が 滲(し) みるのであろうか、森猫が首を回して傷口を舐めようとしている。

「ああ舐めちゃダメだ――こういう時に使う動物の首に巻くのがあったよなぁ」

シャングリ・ラで検索を掛けてみる。――そう、エリザベスカラーだ。大型犬用のデカい奴を購入する――3000円だ。

落ちてきた透明な三角すいを、黒い毛皮の首に巻く。為すがままにされている彼女の顔も憤懣やるかたない表情に見えるのだが、俺の気のせいだろうか。

動けないのを良い事に好き勝手しやがって――みたいな目に見えなくもない。

「だが君のためなんだ解ってくれ」

三文芝居のようなセリフを吐きつつ身体を撫でてやるのだが、エリザベスカラーを見たミャレーが不思議そうな顔をしている。

「それは何にゃ?」

「傷口を舐めないようにする物だよ。傷口には薬が塗ってあるからな」

「ケンイチは医者なのかにゃ?」

「違うけど傷の手当ぐらいなら出来る――と思う」

森猫が口を付けた猫缶を新しくするために皿を下げようとしたのだが。

「それはどうするにゃ?」

「新しくするから捨てようかと……」

「それなら、うちが食べるにゃ!」

「え~? ちょっと待て。他に食い物もあるんだぞ?」

そろそろ夕飯の時間だから何か作ろうと思っていたのだが。

「それが美味そうだから、それが良いにゃ」

「これは動物用の食べ物なんだぞ?」

「動物が食べて大丈夫なら、うちが食べても大丈夫にゃ」

「そりゃ、そうだが……」

何が楽しゅうて猫缶を食いたいのだろうか。彼女が言うには美味そうに見え、匂いも良いらしい。それに安売り品じゃなくて結構高い奴だしな。

まぁ猫が喜んでまっしぐらだからなぁ――獣人がまっしぐらになっても、おかしくはないが。

「明日、鳥を獲ってくるので、それと交換してにゃ」

「いや、どうしても食いたいなら別に良いのだが」

客に猫缶を食わせるのが、どうにも気が引ける。ここは異世界――気にしたら負けなのかもしれないが。

ミャレーの皿を用意して、森猫が食いかけの猫缶をそこへ移した。新しいのを用意すると言っても、これで良いと言う。

猫缶を食ったことがないが塩味が薄いと聞いた事があるので、追加の塩と胡椒をアイテムBOXから出してやった。

試しに醤油も出してやったのだが匂いがダメらしい。

発酵食品だからな、そりゃ独特な匂いがあるのかもしれないが、俺が気にならないのは日本人だからか。

「美味いにゃ!」

テーブルに座って、猫缶を一口食べた彼女が感嘆の声を上げた。

「そうなのか?」

まぁ、人間が食っても平気だって話もあるし、ネットでも猫缶やドッグフードを食うネタはあったと思ったので、大丈夫だとは思うのだが。

彼女の話では、すこぶる美味いと言う。そうか、そうなのか?

ミャレーの食事を横目で見ながら、森猫にも新しい猫缶を出してやった。

食事が猫缶だけじゃ何なので、スープとパンも出してやる。

「美味いにゃ~! ケンイチの食事は美味いにゃ~!」

ミャレーが喜んでいるのは良いのだが、俺としてはちょっと複雑な心境だ。

猫缶を美味しそうに頬張る彼女に、獣人達が欲しがった香辛料の事を聞いてみる。

「故郷の料理に沢山使われるにゃ」

なるほど彼らのソウル・フードって奴だ。日本人でいう米の飯や醤油に相当する物なのだろう。

たまに無性に食いたくなるが、ここでは香辛料の値段が故意に釣り上げられて買えない――それ故、困っていたようだ。

本来はもう少し安い物らしい。

美味い物を食べて森猫の事はどうでも良くなったのかと思えば、そうでもない。やはり心配らしい。

「森猫は良くなりそうにゃ?」

「ここに連れてきた時は全く動かなかったけど、少し元気になったようだし、食事にも口を付けたみたいだ。多分、良くなるのではないだろうか……」

「ケンイチが良い人で良かったにゃ~。他の奴だったら絶対にギルドに持ち込んでいたにゃ」

「ギルドに持ち込んでどうするんだ?」

「買い取ってもらって毛皮の素材にするにゃ」

なるほどな。ミャレーの話では、獣を仕留めて冒険者ギルドに持ち込めば解体してくれるのだと言う。

獲物を運ぶためには、内臓を抜いたり水で冷やしたりしないと傷んでしまうのだが、俺のアイテムBOXに入れて運べば腐ることも無い。

「毛皮は売って肉だけ貰うとかも可能なのか?」

「にゃ」

それじゃ冒険者ギルドにも入っていた方が良いかもしれないな。

冒険者ギルドは元世界で言う職安らしいので、普通の仕事の斡旋もやっているようだ。

隣の帝国という国では、お仕事紹介ギルドという、まんまハロワみたいな名前らしい。その帝国のギルドでは税金を取られるようだが、この国では無い。

「それじゃ冒険者ギルドに入って、仕事に困ったらそこへ行けば良いのか」

「そうにゃ。子供なんかも薬草を取ったりする仕事をしているにゃ」

冒険者ギルドで薬草取りか……RPGの一番最初のお使いイベントみたいだな。

だが、ミャレーの話を聞いてみると、獲物を取ったり、鉱物を探したり、珍しい植物を探したり、そのまんまRPG。

商売の他にも、そういう稼ぎ方もあるって事か。しかし初期登録料は銀貨1枚(5万円)だ。子供には少々高いのでは?

「分割も出来るにゃ」

金のある時に、少しずつローンで払えるらしい。但し、1年間の期限あり。払えないと普請の現場などで、強制労働が待ち受けているらしい。

子供にゃ少々大変だろうとは思うが、滞納する奴は滅多にいないらしいから大丈夫なのか。

まぁ毎日仕事していれば、500円ずつ返しても3ヶ月半もあれば払える金額だしな。

飯を食った後、ガソリンランタンを灯して、ミャレーと話し込んでしまったが、こいつ泊まっていくつもり満々だぞ? 良いのか?

「だって森猫が心配だにゃ……」

「いや別に俺は良いけどな。ベッドは一つしか無いんだぞ?」

「一緒に寝れば良いにゃ」

あっけらかんと言う彼女だが獣人の女ってのはそうなのか?

「そんな事ないにゃ。森猫を助けてくれるケンイチは絶対に良い人だから良いにゃ」

良い人だから――イマイチ、この世界の貞操観念が解らん……獣人だからかもしれんが……。

まぁ、良いか。ミャレーは中々可愛いしな。

「それじゃ、風呂に入るか?」

「風呂? 風呂って温かい風呂かにゃ?」

「そうだ。お湯の風呂な」

「入るにゃ!」

ぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる彼女だが、飛びすぎて天井の 梁(はり) に頭をぶつけそうだ。

そのまま掴まると逆上がりして、 梁(はり) の上に忍者のように飛び乗った。

「なんだ、すげぇぇ!」

動きが映画のCGみたいだぞ。特撮無しで凄い映像が撮れそうだな。そのままの 梁(はり) から彼女が飛び降りてきた。

「凄いな!」

「このぐらい獣人なら子供でも出来るにゃ」

ええ? 身体能力高すぎだろう。だが獣人ってのは、読み書きも計算も出来ないらしいからな。天は二物を与えなかったか。

ミャレーが風呂に入ると言うので、家の外に作った風呂場にランタンを持っていく。もう森の中は真っ暗だ。

ドラム缶風呂は入浴のためのプラットフォームを板で作ってあり、補助用の手すりとかも取り付けてある。

ランタンを風呂の脇に置いて薪を焚く。

「これが風呂にゃ?」

「ミャレーは温かい風呂に入った事はあるのか?」

「ないにゃ! お湯の風呂に入れるなんて貴族様ぐらいだにゃ」

「多分、貴族様の風呂は、こんなショボイのじゃなくて石造りなんだろうな」

こんなショボイドラム缶風呂でも、真似をして作るとなると多大な労力が必要となるだろう。

手作業で薄い鉄板を伸ばして――溶接も無いだろうから、ろう付けかハンダ付けで組み立てねばならない。

こんなドラム缶風呂でもミャレーは、はしゃぎ回っている。余程、嬉しいらしい。

とりあえずお湯を沸かすが獣人のお湯かげんが解らん。猫舌なんて言うぐらいだから熱いのは苦手かもしれない。

少々、 温(ぬる) めの温度にしてみる。

「ここを倒せば水が出るから、お湯が熱かったら入れてくれ」

「解ったにゃ~」

答えた彼女が勢いよく服を脱いで裸になる。獣人は毛皮を着ているので服を脱いでも裸という感じはしない。

だが胸を見ればポッチがあるし、風呂の縁を跨いだ股間にはゴニョゴニョがちゃんとある。当たり前だ。

ミャレーが生まれて初めてというドラム缶風呂だが、実に気持ちよさそうに目を細めながら浸かっている。

場所によっては大衆のサウナのような所はあるそうなのだが、獣人は毛が抜けるので入れてもらえないらしい。

それじゃ、お湯の風呂が街にあっても入れないのかもしれないな。

「初めての風呂はどうだ?」

「あったかいにゃ~」

目を瞑って極楽気分だろうか?

風呂から出た彼女が身体を洗うために、俺から貰った石鹸を毛皮に擦り込むと、みるみる白いブクブクが立ち泡だらけになる。

「ケンイチは入らないにゃ?」

「そうか俺も入るか」

俺も服を脱いで裸になるも彼女は何の反応もしない。男の裸を見ても、なんとも思わないようだ。

風呂に浸かり、ランタンに照らされたミャレーの身体を眺めるのだが――ランタンに照らしだされて、くっきりと陰影のついたそれは、まるで彫刻のような芸術作品に見える。

泡塗れになって、くねくねと動いている自分の尻尾も捕まえて泡立てているが、全身を毛皮が覆っているので隅々まで洗うのは中々大変そうだな。

風呂から出ると、桶でお湯をミャレーに掛けて泡を流してやる。

洗い場は、セメントでスペースを作って、地面の下に埋めたプラ製の船に排水が溜まるようになっている。

セメントなんて扱うのは初めてだが、シャングリ・ラにはその手の建築系の本も沢山あるので、勉強し放題だ。

本当は川の近くに家を建てれば、もっと快適になりそうなんだがなぁ。

「はは、ミャレーの泡を流したら、お湯が無くなってしまったぞ」

「にゃ~」

それでも、ミャレーはドラム缶の中にしゃがみこんで、再度お湯に浸かっているのだが、俺はこのまま上がるとするか。

ズボンだけ履いて彼女のためにバスタオルを何枚か用意する。河原で身体を洗った時もそうだったが、全身を覆う毛皮を拭くには、タオルが1枚じゃ足りない。

彼女のためにヘアドライヤーでも用意しようかと考えたのだが――良い事を思いついた。

工場や倉庫等で暖房として使われている、ジェットエンジンみたいな灯油ヒーターで温風を送ってみるか。

あれなら普通のドライヤーより強力だろう。

シャングリ・ラの画面を出して検索をすると――スポットヒーターとかジェットヒーターとか言う物らしいな。

あまり大型の物も要らないだろうから、小型の物を購入してみる。値段は3万6千円だ。

燃料は灯油だが白灯油がまだ残っているので、こいつを使おう。だが、これは狭い部屋の中では使えないな。

家の外にアイテムBOXからテーブルを出して、その上に乗せて使ってみる事に。手元が暗いので小型の電池式のLEDランタンも購入してみた。

青い光の魔法のランタンという物が、この世界にもあるらしいからLEDでも誤魔化せるだろうと思う。

白灯油を満タンにして、いざ使おうとしたら――100Vの電源が必要なのね、コレ。ついでにモバイルバッテリーを出してコンセントに繋げる。

「スイッチオン!」

カチカチという連続音と共に、ファンが回りゴウゴウという音を立てて風を送り始める。ほうほう、風を送るためのファンが回るので電源が必要なのか。

おお! こりゃ、凄い。紅い炎が噴き出す見た目は、まさにジェットエンジン。これなら、ミャレーの毛皮もすぐに乾くだろう。

「ミャレー、こっちへ来て濡れている毛を乾かしな」

「何にゃ、これ? 熱い風が出てるにゃ」

彼女は不思議そうに、ヒーターから出てくる熱風に手をかざしている。

「灯油を燃やして魔法で風を送っているんだよ」

「このランタンは魔法のランタンにゃ?」

青白い光を放つLEDランタンにも気がついたようだ。

「まぁな。売り物じゃないんだけど」

「ケンイチは何でも持ってるにゃ~」

しかし熱風が出てくるヒーターは気に入ったのだろう、その前に立ち、身体中を撫で回して毛を乾かしている。

まるで、ダンスを踊っているようで中々に艶かしい。

しかし、お尻を向けて乾かしたり、片脚を上げて股間を乾かしたりし始めると、さすがに目のやりどころに困ってしまう……彼女は全く気にしていないのだが。

「おお~、なんか凄いフワフワになったんじゃね?」

「にゃ~、熱い風で乾かすと、こんな感じになるのにゃ。焚き火で乾かしても、こんな風にはならないにゃ」

彼女の毛に触れてみても、フワフワだ。その手触りは癖になりそう。

テーブルやヒーターを片付けて家の中に入る。

「何か飲むか?」

「そんな事よりにゃ……」

ミャレーが、フワフワの身体で抱きついてきて、尻尾を俺の腕に絡めてくる。

うわぁぁぁ――あったけぇぇぇ。

あまりの手触りの良さに、思わず流されてしまいそうになるのだが――。

「いや、ちょっと待て待て。神様の使いが苦しい思いをしているのに、俺達がその横で楽しんで良いのか?」

「うにゃ? うにゃ~」

俺にそう言われて、ミャレーも、はたと考えなおしたようだ。

シャングリ・ラの画面を出して、風呂あがりの飲み物を探す。風呂あがりと言えば、コレだろう――フルーツ牛乳。

「美味いにゃ!」

フルーツ牛乳を初めて飲んで、ミャレーは感激したようだ。

彼女の話では森猫は人を襲わないようなので、ベッドで寝ることにした。森猫を家で寝かせて俺が外のテントで寝ていた事を話すと、ミャレーは笑うのだが――。

だって襲われたら怖いじゃん。

その後――1つのベッドで、一緒に就寝。フカフカになった獣人の毛皮は、どんな上等な毛布より温かった。