軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

128話 貴族たち

やっと湖の畔に帰ることが出来るようだ。

連れていく人数が増えたので、新しい車――マイクロバスを購入して皆を乗せた。

見送りに来ていた王族――アルストロメリアが、一人の男を俺に差し出した。

短い金髪が美しい背の高いイケメンである。

「ケンイチ、そなたが貴族になったのなら紋章官が必要であろ? 連れていくがよい」

「私の監視役ですか?」

「どう思ってもいいが、役に立つ男だぞ?」

一応、紋章官だという男に尋ねる。

「君は、いいのか? 僻地でなにもないぞ? 魔物に襲われるかもしれない」

「王家に携わり働く時点で、その覚悟はできております」

答える彼に嫌味を感じはしないし、邪な感じもない。まぁ見た目じゃ解らんけどな。

「なにも、こんな貧乏クジを引かんでもいいだろ?」

「いいえ、ハマダ伯の先進的な考え方に、心を打たれました故、私もこの身を預けてみようと心に決めました」

「ん? 俺のことを、誰かから聞いたのかい?」

「カールドンから――」

「ああ、彼の知り合いか……彼も、あとでハマダ領に合流する手はずになっているから、旧知がいるのは心強いだろう」

「はい、おっしゃるとおりで」

リリスに紋章官について聞くと、貴族全般の知識や、行事の取り仕切り等々――貴族に関する事典のような職種らしい。

貴族について知りたいことがあれば、なんでも彼に聞けばいいわけだ。

たしかに貴族になった俺には、必要な人材だ。

制服の胸に入っている刺繍は、紋章官の証らしい。

そんな彼がおそるおそる、マイクロバスに乗り込む。

「この鉄の召喚獣って、噛み付いたりしませんよね?」

「大丈夫だよ。それと悪いが、ハマダ領は獣人たちと一緒だからな。それについての抗議も意見も受け付けない」

「承知しております。謁見の間に獣人と森猫を入れさせたのは、ハマダ伯が初めてですから」

「ケンイチでいいよ」

俺は運転席に座ると、シャングリ・ラから、アマチュア無線機を購入して設置した。

ハ○エースに取り付けていたものと同じものだ。

早速電源を入れると、無線機がスキャンを始めた。

ディスプレイに表示された無線機をタッチして、マイクを取るとボタンを押す。

「あ~あ、只今マイクのテスト中~。アキラ聞こえる?」

『お~、聞こえるぞ~。大丈夫だったか?』

「なにが?」

『コ○スターって24Vのやつもあるからな』

「そうなのか。でも、大丈夫だったぞ。そろそろ出発するが」

『オッケ~!』

皆が乗り込んだのを確認して、ハンドル右下のボタンを押して、ドアを閉じる。

後ろを見ると――王族たち、アネモネとプリムラ――次に紋章官とメイドたち、空き座席を挟んで、獣人たちは一番後ろに座っている。

山のようにある荷物は、全部俺のアイテムBOXの中。

助手席にはリリス、俺のすぐ後ろには、アマランサスが座っている。

当然のように席を取られたアネモネは不機嫌だが、すぐに電子書籍リーダーを読み始めた。

時間があるので、本を読むつもりだろう。

運転席と助手席の間には、一段高くなっているスペースがあるのだが、そこにベルがやって来て香箱座りをした。

窓から顔を出して、見送る人々に軽く挨拶。

マイクロバスはゆっくりと動き出した。こいつはATなので、運転は楽ちんだ。

「アマランサス、元王妃がいなくなるっていうのに、皆ニコニコ顔だな! よほど嫌われていたんだなぁ、はは」

ちょっと常軌を逸しているとはいえ、すべて国と王家を守るためだったのに――そう考えると少々可哀想ではある。

「ふん! 聖騎士様と一緒に新しい王国を興して、この世界をひっくり返してやるわ!」

「おい、物騒なことは止めてくれよ」

「……ぐぐぐ……」

後ろをちら見すると――アマランサスが顔を真赤にして、苦悶の表情で下を向いている。これも命令に逆らっているので、苦しいのだろう。

「まったく――命令解除」

「はぁはぁ……」

アマランサスの行動に呆れつつ――俺が運転するマイクロバスは、堀に架かった石橋を渡り王都の街の中へ走り出した。

馬なしで街中を走る奇妙な鉄の乗り物を、住民たちが好奇の視線で見送る。いつもの光景だ。

運転席に、マイレンさんに来てもらい、ナビをしてもらう。

後ろの車が離れないようにしないとな。

1時間ほどで、下町を抜けて街道に出るとスピードアップをする。

「凄い速さじゃな!」

アマランサスが驚いているが、時速40kmほどしか出ていない。

急ぐわけではないが、道の状態がよろしくないので、それほどスピードは出せない。

突然大きな穴があったりするし、ハ○エースやプ○ドに比べたら、マイクロバスの走破性はかなり低い。

ギャップや、穴を乗り越えるたびに、車内が大きく揺さぶられる。

「ふぎゃ!」

後ろの座席で寝転がっていたニャメナがひっくり返った。

「聖騎士様、何日ぐらいで、アスチルベ湖に到着するのだぇ?」

「道がよければ、1日で走れる距離なんだがなぁ……まだ橋は落ちているだろうし、橋を越えれば、2日ぐらいで到着すると思う」

「そんなに早くかぇ?」

アマランサスが、車の速さに驚く。

「母上、この召喚獣はもっと速くも走れるのじゃぞ?」

「真かぇ?」

「ああ、獣人よりも速いし、ドラゴンと同じ速さも出せると思うが、こう道が凸凹じゃな」

「あとで、父上に手紙を書いて、道を補修するようにお願いしよう」

「あの男が、そんなことに金を使うと思うかぇ?」

「アマランサスがいなくなった途端に、財布の紐が緩むかもな」

後ろをちょっとちら見する。

「聖騎士様の言うとおりじゃ! じゃが、妾はもう知らぬ! 国がなくなったら、妾と聖騎士様で新しい国を作るのじゃ!」

また床を転がるので、止めろとも言えん。

別に俺がいなくても、アマランサスだけで国が興せそうな気がするんだがなぁ……。

だって、めちゃくちゃ強いし。

「おおっ! おお~っ!」

俺たちと一緒に乗り込んだ紋章官の男は、ずっと驚いている。

メイドたちは、車の揺れにキャアキャア叫んでいるが、喜んでいるように見える。

気分は遊園地の乗り物感覚なのかもしれない。

そのまま2時間ほど車を走らせると――広く開けた場所に沢山の天幕が見えてきた。

荷物を積み降ろしている商人の姿も多く見える。

働いている人間は沢山いるのだが、橋が架かっているようには見えない。

マイクロバスを停めて、皆を降ろすと、すぐ後ろにアキラたちもやって来た。

「ケンイチ、どうするのじゃ?」

俺のところに、リリスが来て、今後の行動を尋ねる。

「さて、川を渡るのは簡単だが、ここに集まっている貴族たちに挨拶をしていったほうがいいだろうなぁ? どう思う?」

やって来た紋章官のユリウスに意見を求める。

「ケンイチ様の言うとおりでございます」

「やっぱり、顔を売っておいたほうがいいか……プリムラ、昼飯の準備でもしておいてくれ」

「解りました」

「それから、マイレンさん、アイテムBOXに入っている荷物から何か出したいものはあるかい?」

「あの、ケンイチ様――さん付けは必要ございませんので」

「ああ、それじゃマイレン」

「お茶のセットを出していただければと――」

「解った」

アイテムBOXから、メイドの荷物が載ったパレットを出す。

パレットでまとめて収納しているので、一つだけ出すというわけにはいかない。

マイレンが、お茶のセットを取り出すと、再びアイテムBOXに収納した。

ついでに、テーブルや椅子。食器や食材、水なども出す。

「アネモネ、ベルにオヤツをあげといてくれ」

「うん」

彼女にチュ○ルを渡すと、耳を立てた獣人たちが飛んできた。

「旦那、俺にもくれ!」「ウチにもにゃー!」

「ほらよ、ミャアにもやってくれ」

「よしきた!」「オッケーにゃ!」

獣人たちが、俺とアキラの言葉を覚えてしまっている。

「まぁ、そんなに時間はかからんと思うから」

「はい、いってらっしゃいませ」

メイドたちが、一斉に礼をする。なんだか、ケツがかゆいが、貴族になったんだから、しょうがない。

根っからの貧乏人の俺には、しばらく慣れないだろう。

「アキラも待っててくれ」

「オッケー!」

周りを見渡すと、普請のための獣人が多い。

商人たちは、どこから持ってきたのか、川に船を浮かべて荷物を運んでいるようだ。

渡しで商売をしているやつらもいる。

橋が完成するまで、船で荷物を渡して、馬車は折返し輸送をしているのだろう。

当然、これだけ人が多ければ、それを目当てにしている商人も集まってくる。

働いてる人夫たちに、食料を売ったり酒を売ったりしているのだ。

食って飲んで――ときたら、最後は女。移動娼館がズラズラと並び、男たちから稼いだ日銭を毟っている。

人が集まる所には、必ずといっていいほど、この欲張りセットが並んでいるのだ。

俺と紋章官――後ろにはリリスとアマランサスが続く。

リリスはハマダ辺境伯の正室だからな。

プリムラには悪いが――以前話したとおり、辺境伯ともなれば正室が商人の娘というわけにはいかない。

本人もそれは納得している。

問題はアマランサスだが、奴隷の護衛ということにする。

首に奴隷紋が刻まれているため、ごまかしようがない。チョーカーなどで隠す手もあるのだが、本人が了承しないのだ。

強制するとなれば、また拒否をして地面をゴロゴロ転がるので、始末に負えない。

全くなにを考えているのやら……。

「さて――貴族様は、どこにいるんだろう?」

辺りをぐるりと見回す。

「ケンイチ様、貴族のいる天幕には、紋章を刻んだ旗が立っていることが多いです」

紋章官のユリウスが、俺の知らない貴族の常識を教えてくれる。

旗がない場合は、大きくて立派な天幕を探せば間違いないらしい。

「へぇ、それじゃ俺も紋章を作る必要があるのかな?」

「強制ではありませんが、作ったほうが便利だと思われますよ」

シャングリ・ラで、ミシンを買って、自作してやろうか。

PCで図案を描くと、リンクを使って刺繍してくれるミシンを見たことがあったような……。

シャングリ・ラにあるかな? あとで、探してみようと思うが――旗みたいな巨大なものは無理かな?

「ケンイチ、あそこにあるぞぇ? あの旗は、ジェイドバイン侯爵の旗じゃ」

どうやら、リリスが知っている侯爵らしい。有力貴族の一人だろう。

彼女が指さした白く大きなテントへ向かうと、周りには小さなテントが沢山並んでいる。

これはお付きの役人や、護衛の騎士たちのテントだろう。

女はほとんど見えず、男ばかりのむさい光景の中を進む。

ジロジロと見られるが、仕方ない。

「おい見ろよ。とんでもねぇ、いい女だぜ?」「でも首を見ろ」「ありゃ奴隷か?」

なにやらヒソヒソ話が聞こえてくるが、彼らが言っているのは、アマランサスのことだろう。

一般の兵士や騎士などが、王妃の顔を知っているはずがない。

それに今の彼女は、平民のような服装をしているのだ。

大きなテントの前まで行くと、ごつい鎧を着て、剣を持った二人の騎士がガードしている。

「止まれ! 何用だ!」

「私は、ハマダ辺境伯である。近くまで参ったので、ジェイドバイン侯爵にご挨拶をと思った次第。閣下に、お取次ぎ願いたい」

「しばし待たれよ……」

騎士が出口の布を捲り、中に入っていった。

中から声が聞こえるが、なんて言っているかは不明。獣人なら解るかもな。

話終えた騎士が中から出てきた。

「お会いになるそうだ」

扉の布を開けて、中に入ると薄暗い。

天幕の上が傘のようになっていて、横の穴から明かりが入ってきているのだが、それでも暗い。

明るさを補うように魔法の光なのか青白い光が、灯されている。

中には大きなテーブルに貴族が5人ほど座っていて、胸元や脚を出した女性を侍らせている。

貴族たちは、派手な上着を脱いで、白いブラウスのようなヒラヒラのついたシャツ姿だ。

それを見た、リリスがしかめっ面をしている。

「皆様、はじめまして。最近、辺境伯を授爵いたしました、ケンイチ・ハマダと申します。近所まで来ましたので、ご挨拶にと推参いたしました、ご無礼をお許しください」

「ハマダ辺境伯など、聞いたことがない」

貴族の一人が脚を組んだまま、ボソリと漏らした。

「それもそのはず、数日前に拝領したばかりですし。どうぞ、お見知りおきを」

俺は、アイテムBOXから国王陛下の授爵と拝領を記した証明書のような羊皮紙を取り出して、テーブルに広げた。

「こ、これは、確かに王家の紋章……」

「ケンイチ……ケンイチとな? もしや、城の謁見の間で大暴れしたという魔導師か?」

「その通りでございます。ついでに大規模な崖崩れで不通となったベロニカ峡谷を、神速で開通させたのも私でございます」

「た、確かに、峠が開通した報告は受けたが……」

「私の家族の紹介もさせてくださいませ、こちらが正室のリリス、そちらが私の紋章官です」

「紋章官のユリウスでございます」

ユリウスが頭を下げた。

「紋章官のユリウスといえば、アルストロメリア様の紋章官では……?」

貴族の一人が、彼を知っていたようだ。

「その通りですが、お暇をいただきまして、新しいハマダ辺境伯領に任官することになりました」

「そうだ! 辺境伯殿!」

「何か?」

一番奥にいた、金髪をオールバックヘアにしているヒゲの御仁が、大声を上げて立ち上がった。

彼に寄りかかっていた女たちが、支えがなくなりひっくり返り、悲鳴を上げた。

はずみで胸ポロをしてしまい、慌てて隠している。

ユリウスが俺の耳元で囁いた。彼は、大都市イベリスがある公爵領の領主、エキナセアベア公爵らしい。

なるほど、やはり紋章官というのは必要なんだな。

「貴殿、王族に大粒の真珠を売ったな! 私にも売ってくれんか?! 正室と側室にねだられて、かなわんのだ!」

「公爵様、残念ながら王族との約定で、王族以外には真珠は売れないことになっておりまして」

「金なら払うぞ!?」

「真珠をお求めであれば、王族の方々にお声をかけてくださいませ」

「我々の仲間になれば、損はさせぬ! どうだ?!」

「残念ながら、私は王族派の人間でありまして、今のお言葉は聞かなかったことにいたしまする」

「公爵様が、厚意からこう仰せであるのに、貴殿は無下にするつもりなのか?」

他の貴族たちからも非難の声が上がる。

どうやら、貴族たちで徒党を組んでいる模様。

「そう、おっしゃられましても……」

「あと10年もすれば、カダン王家は衰退するぞ? そうなれば我ら貴族の時代が来る」

「しかし王族の方々のお話によれば、新しい側室を大量に入れて、世継ぎを沢山産ませる――とのことでしたが……」

「そのようなことを、あのオーガのような王妃が許すはずがない!」

ちょっとまて――俺は、知らねぇっと……。

貴族たちの言葉を、黙って聞いていたリリスが大笑いをした。

「ははは! やはり野に下らねば、解らぬことが多いのう……」

「何がおかしい、この小娘! 無礼であろう!」

貴族たちが、一斉に叫んだ。

「公爵も、ジェイドバイン侯爵も、シラー伯爵も1ヶ月ぶりだが……」

「なにぃ?!」

彼女の言葉に訝しむ貴族たちだが、その中の一人が気づいたようだ。

「さきほど、辺境伯がリリスと申されていたようだが……」

「リリス……?」

公爵が、じっとリリスの顔を見ている。

「お、王女殿下!」

その言葉に他の貴族たちも、椅子からひっくり返って一緒に頭を下げた。

「妾はすでに王女ではない。辺境伯の正室になる条件として、王室から抜けたのだ」

「な、なんですと……」

薄暗くて、よくわからないが、貴族たちの顔色はあまりよろしくないように見える。

そのよろしくない顔色が、真っ青になってガタガタと震え始めた。

俺の後ろを見れば、アマランサスから、何やら黒いものが噴き出している。

「おい、ここで暴れるなよ」

この威圧の能力は、彼女の個人的な能力のようだが、聖騎士となった俺には効き目がなくなったみたいだ。

「そ、そちらの女は、ま、まさか……」

「これは、私の護衛の戦奴でございますが」

「な、なんだと……確かに奴隷紋があるが……」

一応、アマランサスに暴れないように念を押すと、シャングリ・ラから、貴族たちに贈る、贈呈品を検索する。

貴族たちが真珠を欲しがっているのだが、真珠はダメだ――となると……やはりプラチナがいいか。

シャングリ・ラでは金貨と同じぐらいの価値だが、この世界では金より遙かにその価値は高い。

希少価値もあるし、コスパのいい贈呈品だ。ただ贈り物なのに、コインを裸で渡すのは恰好悪い。

シャングリ・ラで宝石箱を検索すると、金の飾りのついた青い宝石箱が売っている。

1個5000円だ。それにプラチナの1オンスコインを4個入れた。

「公爵様、真珠はお売りできませんが、これをお近づきの印に――」

「これは?」

コインを見た、公爵が訝しげな顔をしている。

「これは、私が見つけた白金貨です」

「なんだと! 白金貨?! 本物なのか?」

「ええ――」

俺は、コインを一枚摘むと、ナチュラル 回復(ヒール) を使う。魔力を流されたコインが、薄暗い部屋のなかで、ぼんやりと光り始めた。

「「「おおおっ!」」」

公爵はコインを指で摘むと、目の前でひっくり返したりしている。

同じものをジェイドバイン侯爵には3枚、シラー伯爵には2枚、後の子爵たちには1枚ずつ渡した。

男爵がいるようなら、1/2オンス白金貨を渡せばいい。

「それでは皆様、今後ともハマダ辺境伯をよろしくお願いいたします。ああ、それから先程のお話は聞かなかったことにいたしますので、ご安心を――」

「ちょっと待ってく――」

話を聞かずに俺は天幕を出た。一応、顔見せはしたし、これ以上話すこともない。

自領をデカくするとか、野望もないのだ。その前に、領といっても前人未到の僻地だしな。

「やれやれ、貴族共の本音を聞けて、まったく貴重な体験だの」

「しかし、オーガは酷いよな、アマランサス?」

それを聞いた彼女が、俺に抱きついてきた。ファンタジーに出てくるオーガとは違うのだろうか?

ユリウスの話では、身長3m以上の毛むくじゃらの化物らしい。

「よしよし……」

アマランサスの頭をなでていると、リリスが俺のほうを向いた。

「ケンイチ、そなた――本当に平民なのかぇ? 相手が王族だろうが公爵であろうが、まったく物怖じの『も』の字もないではないかぇ」

「間違いなく平民だよ」

「それに、ペラペラと口もよく回る」

「それは私も思いました。平民出身で貴族教育も受けていない方が、王侯貴族と対等に言葉を交わすなんて……」

ユリウスから見ても、そう見えるか。

家族といえども、本当のことを話すわけにはいかんからな。前の設定どおりにする。

「前に言っただろ? 森の中にいた賢者から教育を受けたと――」

「それでは、ハマダという家名は?」

「祖先がそういう家名を持っていたというだけで、ここ数世代は普通に平民だよ」

「それにそなた、真珠だけではなく、白金貨も持っていたのかぇ?」

そういえば、リリスには白金貨を見せてなかったっけ?

「まぁな、良い贈り物だろ?」

3人を連れて皆の所に戻ると、川を渡る算段をする。

俺の所にアキラがやって来た。

「ケンイチ、架橋には参加していかないのか?」

「いや、これ以上手柄を取っちゃまずいだろ? 物流もそれなりに流れているようだし、俺たちは先を急ごう」

「それで、どうやって川を渡る?」

「車を一旦しまって、ゴムボートで川を何回かに分けて渡る」

「ゴムボートがあるのか?」

「ああ」

そこにマイレンがやって来た。

「ケンイチ様、とりあえずお茶を飲んで一休みなされては?」

「そうだな、ありがとう。マイレン」

皆でテーブルを囲み、お茶を飲んで菓子を摘む。

オヤツにはポテチを出した。

「おおっ! ポテチは俺も作ったぞ。油ならいくらでもあるからな」

「この世界の芋でも出来るのか?」

アキラの家族も、ポテチを摘んでいる。

「もちろん」

「これは、塩味のお菓子なのに美味しいです」

アンネローゼさんは初めてポテチを食べたようだ。

「ケンイチ、貴族様たちはどうだった?」

「まぁ、あんなもんだろ。あまり王家にいい印象を持っていないようだったな。それに元より仲良くするつもりもないし」

「ご近所付き合いもあるだろ?」

「付き合うのは近所のユーパトリウム子爵と、アスクレピオス伯爵だけでいいんじゃね?」

「そうだなぁ――とりあえず、他の土地より、自分たちの家の整備だよな」

「その通り。領地の測量もしなくちゃならんし、道路の整備もある」

お茶の後、車を一旦収納して皆で川へ向かう。

人がうじゃうじゃいるので、川の近くまで車で行けないのだ。

架橋工事の上流では、商人たちの渡しが沢山動いているので、邪魔になるといけない。

俺たちは下流に向かい、ちょっと離れた場所で、自然堤防を下る。

前に、ゴムボートで渡った時は、増水直後でコーヒー牛乳のような水が轟々と流れていたが――。

今、目の前で流れている水は穏やかだ。

「よし、ゴムボート召喚!」

黄色いゴムボートが落ちてきた。

「ミャレーとニャメナ、悪いが櫂を漕いで、渡しをやってくれ。後でオヤツを出すから」

「任せてくれよ旦那!」「オッケーだにゃ!」

もう、すっかりオッケーとか覚えてしまって……。

「なるほど、川を渡ってから反対でまた車を出せば、橋がなくても渡れるってわけか」

アキラが川とゴムボートを見つめて、唸っている。

「そのとおり」

「うわぁぁぁ! 落ちる! やめろぉぉぉ!」

「暴れると落ちるにゃ!」

騒いでいるのは女騎士だ。どうやら泳げないらしい。

泳げないのは、紋章官のユリウスも一緒で、かなり青い顔をしてゴムボートにしがみついている。

以前と違い、かなり人数が増えたが、獣人たちに頑張ってもらい1時間ほどで皆を渡し終えた。

「こんな方法で川を渡るなんてな。湖でも使ったのか?」

アキラが、メイドたちを乗せて川を渡るゴムボートに呆れている。

「魚を捕るときにちょっとな。水難が怖いんであまり使ってなかった」

「まぁ、祝福持ちでも溺れれば死ぬからなぁ」

湖にいた時は、祝福はなかったが――アキラの言う通りだな。

切りつけられても攻撃が止まったりする祝福の能力だが、溺れたり窒息すれば間違いなく死ぬだろう。

多分、アキラのマヨネーズ能力で、気管や肺を満たされても死ぬ。

祝福者の天敵は祝福者だ。

その後、しばらく歩き――人気のない場所でマイクロバスとプ○ドをアイテムBOXから出した。

「よ~し、皆は乗り込んでくれ」

皆が乗り込んだのを確認すると、再び車2台で街道を走り出した。