作品タイトル不明
121話 聖騎士の力を喰らえ!
王都に戻ってきて、国王陛下と謁見をしている。
お城の人たちも、がけ崩れを片付けて街道を開通させたことには感謝しているようだが、その後アキラたちを亡命させたことで、もめているようだ。
問題点は多々あれど――街道を開通させて、王女を救ったことに関しては、褒め称え褒美をくれるという。
気になるのは、それを口にした王妃の顔。また俺を試すような顔をしている。
それを見た俺は、高慢な王族を困らせてやりたくなり、無理難題ともいえる褒美を口にした。
「それでは、王女殿下を私にいただきたい」
謁見の間にいた全員が、それを聞いてどよめいた。
「な、なんたる不敬!」「思い上がりも甚だしい!」
大臣たちが発した言葉を聞いた俺は、声を上げた。
「先代の聖騎士も、褒美で王族を娶ったという話ではありませんか。それなら私にも王族を娶る権利がある」
俺も本気で、こんなことを口にしているわけではない。ただの嫌がらせだ。
「「「うっ!」」」
俺の言葉は、大臣たちの痛いところを突いたのだろう。完全に言葉に詰まり、彼らは固まる。
「聖騎士?」「聖騎士とは?」「なんの話だ?」
俺たちの話を聞いた周りにいる騎士たちは、話が見えないのか、お互いに顔を見合わせている。
やはり、王女が祝福の御業を使って、俺が聖騎士になったことは秘匿されていたようだ。
「おや、下々の方々には、伝えられていないようですね? それでは――聖騎士にまつわる王国の成り立ちから、皆に説明いたしましょうか?」
「待て! 待て!」「それは、いかん!」「やめろ!」
宰相と大臣たちが慌てふためく。さすがに、このクラスになると、国の成り立ちも知っているようだ。
近衛騎士であれば秘密も守れるだろうが、これだけの数の下級騎士に噂が広まれば、制御することは不可能。
お偉いさんが慌てるのも無理もない。
謁見の間は騒然としているのだが――王妃は沈黙してたたずんだまま。機能停止でもしているのだろうか? まったく動かない。
そこへ白いドレスを翻して王女がやって来た。
「そなた! 王族の玩具には、なりたくないと申したくせに!」
「はい、王族の玩具なんてまっぴらごめんですが、王族を玩具にするのは聖騎士の務め」
「そなた、最初からそのつもりで……?」
「はは――それはどうでしょうか?」
「それでは妾に、あんなことや、そんなことなど、口では言えないようなことをするつもりじゃな? 薄い本のように!」
「それは勿論いたしますよ。もう身体の隅々まで調べて、玩具にしてあげます」
俺と王女のアホな会話に、王妃がピクピクと反応している。
「それで! 最後は孕ますのじゃな? 妾の腹を膨らませるのじゃな?」
「それはまぁ――今後の成り行きということで……」
「ケンイチ!」
王女が走ってくると、勢いよく俺に抱きついた。
ホールにいた人々からも、大きなどよめきが起こる。
王族に手を出すつもりなんてまったくなく、勢いだけだったが、王女が否定しないのであれば、こういう人生もありなのかもしれない。
前ばかりを見ていたのだが、王女に抱きつかれると同時に後ろからも抱きつかれた。
「リリス! ケンイチの赤ちゃんを生むのは、私のほうが先だから!」
「なにを言うかアネモネ。歳からいっても、妾のほうが先じゃろうが!」
絡み合う3人の前で、黙って話を聞いてた王妃の身体から、突然黒い霧が噴き出す。
「なんだ!?」
――ズ ル イ――。
王妃の口は確かにそう動いた。次の刹那、彼女の身体が一瞬揺れたかと思うと、俺の首の横で長剣の刃が止まった。
剣はおそらく、彼女のアイテムBOXから出したのだろう。
事態を把握すると同時に、俺の身体からズルズルと何かが引きずり出され、体内を襲う強烈な飢餓感。
おそらく、刃が聖騎士の力で止まったので、それの対価として身体のエネルギーが吸い尽くされたものだと思われる。
「母上!」
俺の盾になろうとしている王女とアネモネを抱いて後ろへ飛ぶと、アイテムBOXからバナナとエナジーバーを取り出して、食べ始めた。
これで間に合うかは解らんが、とりあえずエネルギー補給のために食うしかない。
謁見の間にいた騎士団にも緊張が走り――俺の後ろにいた、アキラたちも戦闘態勢に入り周りを牽制している。
「ハ○エース召喚!」
アイテムBOXから出した車に、プリムラとアンネローゼさんが乗り込んだ。
「ベルは、彼女たちと一緒にいてくれ!」
「にゃー」
「アネモネは、プリムラたちを守ってくれ!」
「ケンイチは?」
「俺は、獣人たちとなんとかする! アキラ! 後ろを頼む」
「任せろ! クレメンティーナ、突っ込むんじゃねぇぞ!?」
「解っている! そんなに私が愚かに見えるのか?!」
「どこに、そう見えない理由があるってんだ。センセも頼みますよ」
「ふぅ……結局、どこへ行っても、似たようなものなのですね……」
必死に対応している俺たちを見て、王妃が高い笑い声をあげた。
「ほほほっ! 一撃で首が飛んだかと思うたが、聖騎士になったというのは本当なのじゃな!?」
くそ、なんで俺を狙ってきたのか解らんが、やりやがったな。どう見ても本気だったろ。
もう手加減しねぇぞ。
俺は、バナナを食いながら王妃に答えた。
「ムグムグ――王妃様! 前におっしゃられてましたが、ムカついたら反撃してもよろしいのですよね?!」
「ほう! 面白い! 妾とやろうというのかぇ?」
「やるに決まってんだろ! このピーのクソアマ!!」
俺は、食っていたバナナの皮を、王妃の足元に投げつけた。
「この痴れ者が!」
アイテムBOXから武器とポリカーボネートの大盾を出すと、横にやって来た獣人たちに手渡す。
俺の目には王妃が接近したのが解らなかった。こんな素早い化物相手じゃ、重機を出しても追いつかないだろう。
有象無象の多人数を薙ぎ払うなら、重機は使えるが――相手は一人。
「ミャレー、ニャメナ! 訓練通りだ!」
「わかったにゃ!」「任せろ旦那!」
「ほほほ! 獣人ごときで、妾が止められると?!」
「その前に、一つ頼みがある!」
突然の俺の願いに王妃は意外だったようで、動きを止め驚いた表情を見せた。
「なんじゃ、申してみよ」
「騎士団を突っ込ませるのは止めていただきたい。人死を増やしたくありませんので」
「はは――言うのぅ。聞いたかぇ、騎士団! 手出し無用じゃ! 妾の間合いに入れば、問答無用で切り捨てるからの!」
ぐるりと騎士団を見回し威圧する王妃は余裕の表情だ。だが、ミャレーとニャメナが両脇からプレッシャーをかけ始めた。
「母上! お止めください!」
叫ぶ王女を下がらせる。戦闘の邪魔だ。
「ふん!」
ニャメナが王妃の間合いに近づき過ぎたのだろう、彼女が持っていた大盾の上部が切り飛ばされた。
獣人の大男が、パワーに任せて切りつけても、傷しかつかなかったポリカーボネートを真っ二つにするとは……。
「うひゃ!」
ニャメナは慌てて後方へ飛び――それと同時に右側からフェイントをかけたミャレーの動きに、王妃の注意が一瞬逸れた。
「チャーンス!」
俺は、アイテムBOXから熊スプレーを取り出すと、王妃めがけて黄色い霧を噴射した。
こいつは拡散するから、少々離れていても効き目があるだろう。
「それが奥の手かぇ!」
王妃は、俺の噴射した黄色い霧を難なく 躱(かわ) した――はずだったのだが……。
俺が放り投げたバナナの皮に踵を乗り上げて、180度開脚の股裂き状態になり完全にバランスを崩した。
「うきゃ!」
ちょっと可愛い声をあげた王妃めがけて、熊スプレーを噴射する。
「おりゃ! くらぇぇぇ!」
缶から勢いよく噴射された霧が王妃の顔を捉え、ペンキを塗りたくったように黄色になる。
「ぎゃぁぁぁぁ!! ゲホゲホゲホゲホッ!!」
いくら剣の達人でも、この状態になってはまともに戦えないだろう。
念を入れて、再度熊スプレーを吹きかける。
「ぎゃぁぁぁ! ひぃぃぃ!! ゲホゲホッ!」
黄色に染まった王妃が、涙と鼻水を溢れさせて床の上でバタバタと転げ回り、床の上で嘔吐し始めた。
「うわ、えげつねぇー!」「あんなの絶対に喰らいたくないにゃ」
「毒の霧を撒いたから、こっちに近づくなよ!」
「旦那、解ったぜ。なんかこっちまで、鼻が痛くなってきやがった」「にゃー!」
獣人たちが後ろに下がったのを確認すると、アイテムBOXからスタンガンを取り出した。
前に宿屋で熊スプレーを使った時もそうだったが、ナチュラル 回復(ヒール) が働いているので、俺自身は影響を受けないようだ。
だが大量に撒いたので、かなり目が痛い。
俺は王妃に近づくと、黒いスタンガンを押し付けた。青白い火花が飛び散り、彼女の身体を電流が貫く。
「ぎ!」
一瞬で王妃の動きが止まる。俺は彼女の両脇を掴み、高らかに持ち上げた。
普通なら、女を高く抱えあげるなんて、こんなことはできない。これも聖騎士の力だろう。
「これが、王家の源の聖騎士の力だ食らってみろ!」
俺が力を使い始めると――掲げられた王妃がバタバタと暴れ始めた。
スタンガンを食らっているはずなのに、これだけ動けるのはすごい。
「ひぃぃぃぃ!!」
いくら暴れても、こんな状態で本来の力を出せるはずがない。王妃は長身の身体をのけぞらせてビクビクと痙攣し始めた。
「いぃぃぃぃぃぃ!!!」
王妃の絶叫と共に、身体中の穴という穴から体液を噴き出し、床へ滴り溜まりを作る。
あられもない姿で絶叫を繰り返す王妃を助けようと、動いた騎士団をアキラが制した。
「騎士団動くなぁ!! お前らの足元は油で満たした! 炎の魔法一発で、全員黒焦げだぞ?!」
さすが彼は歴戦――すでに手を打っていたようだ。どうやったかは不明だが、巨大なホール一面に油が撒かれている。
王妃の身体から流れる体液が尽きたころ、謁見の間に大声が響いた。
「もう、止めぇい!!!」
声がする方向を向くと、真っ赤な顔をした国王陛下が立っていた。
いままですべて王妃が取り仕切り、お飾り状態だった国王だが、俺の所へやって来て手を伸ばす。
多分、王妃を渡せというのだろう。
言うとおりに黙って彼女を渡すと――国王は抱きかかえて持ち上げようとしたのだが、尻もちをついて諦めた。
国王がメイドを呼ぶ。集まってきた女性たちが数人がかりで王妃を持ち上げ、奥の扉から消えていく。
周りを囲んだ騎士団は、オロオロと辺りを見回し、どうしたらいいのか判断に困っているに違いない。
その後、国王は宰相や大臣たちとなにか話をしていたが――それが終わると、宰相がこちらへやって来て、皆に告げた。
「皆の者、静まれ~い! 国王陛下のご命令である。ここにおる客人たちには手出し無用じゃ! 逆らえば、極刑に処す! これは勅令である!」
その言葉を聞いて、騎士団は元の位置に戻ったのだが、床に油が敷かれているので、滑って床に転がる騎士が続出。
革底の靴や鉄底のアーマーを装備して、石の床に油が撒かれていれば、確かに滑りそうだ。
それを、アキラが笑っている。
「ははは! 鍛錬が足りねぇな!」
「アキラ、助かったよ。悪いなこんなことになって」
「なぁに、お互い様ってやつよ。それにしても、何がどうなった? 王妃は何が気に入らなかったんだ?」
それは俺にも解らん。
「さぁ――『ズルイ』って言ったように聞こえたが……」
「ずるい? なんだそりゃ? それよりも見たか? 国王陛下は股間にテント張ってたぜ?」
「え? そうなのか? 赤い顔しか見てなかったからなぁ……」
「動けなくなった王妃相手に、やるんじゃね?」
アキラが下品な手の動きをしている。
「ええ? まさか?」
「そういうのが好きな性癖ってのもあるしな」
「そうなのか?」
王妃の話では――彼女の前で、国王のナニは役立たないって話だったような。
それが勃ったのだから、今がチャンスと? 本当にそうなのか? わけが解らん。
「いやぁ、うちの皇帝陛下もさることながら、こちらもかなりの難物だな」
アキラの言うことも、もっともだ。なんでこうなったか、さっぱり解らん。
アキラと話していると、そこへ宰相がやって来た。
「閣下! 私どもは、もう帰っていいですよね?」
「あいや、しばし待たれよ。国王陛下から、直々に褒美のお話があります故、もうちと滞在をお願いいたしまする」
「ええ~?」
「 何卒(なにとぞ) 」
宰相が頭を下げる。
「そりゃ褒美は欲しいですけどね? もう、なにも面倒事はありませんよね?」
「それは私の名誉にかけまして――」
「それにしても、今回の茶番も最初から仕組まれていたんですか?」
「いいえ、滅相もございません! 普通に褒美の話で終わるはずだったのですが……」
「王妃様のご乱心と?」
「そうと言うしか、ございません」
宰相の様子から見ても、完全に予定外のできごとだったらしい。
「もしかして、ご乱心の原因は、俺の言った無理難題のせいだろうか?」
そこへ王女が割って入ってきた。
「なにが無理難題か! ケンイチが褒美を求めるのは当然じゃろうが! むしろ妾一人では足りないぐらいじゃ!」
「王女殿下、あまり国王陛下を困らせてはなりませぬ」
宰相は、四方からの板挟みになっていて、気の毒になぁ。この人には、なんの恨みもないんだが。
「知らぬ! 父上が認めぬのであれば、妾が王族籍を抜けるまで!」
「短絡的な思考は、お止めくださいませ」
王女は今回の事件で相当切れているようだ。
「はぁ……なんだか解らんが、とりあえず戻るとするか……」
「そうじゃな」
「リリス様は、王族の方々との、お話し合いはよろしいので?」
「妾はそなたのものになったのだから、リリスと呼ぶがよい! それにもう円卓会議の連中と話すことなど、なにもない!」
王女の様子から――相当揉めたようだ。いくら揉めても、すでに祝福の御業は使われ、俺は聖騎士となってしまっている。
いまさら聖騎士を辞めろと言われても不可能だ。
「老害どもめ、妾の純潔にも疑いを持ちおって!」
「ははぁ、俺がすでにリリス様に手を出したと?」
「そのとおりじゃ! それに様はいらぬ! リリスと呼ぶがよい!」
俺たちの周りを囲んでいる騎士たちには不満がありそうだが、勅令と言われては逆らうわけにもいかないだろう。
撤収作業に入ると――ハ○エースから、プリムラとアンネローゼさんを出す。
車から降ろしたプリムラの機嫌が悪い。多分、王女の件だろうが、本人から突っ込みが入った。
「プリムラ――聖騎士となったケンイチが拝領すれば、正室に貴族や王族があてがわれると話していたはずじゃぞ?」
「た、たしかに、王女殿下のおっしゃるとおりですが……」
「そなたも、妾のことはリリスと呼ぶがよい! もう妾は、そなたたちと同じ身分故」
「そう、おっしゃられましても……」
さすがに抵抗があるらしい。
「さて~ケンイチ、戻ろうぜ?」
「ああ、そうするか」
「皆様お騒がせいたしました~。ああ、床に撒いた油の片付けお願いしま~す、ははは」
アキラの言葉に騎士たちが、「ぐぬぬ」――となっているが、これも仕事だ。
お偉いさんの後片付けをするのが下っ端の務め。
「それにしてもアキラ、どうやって綺麗に油を撒いたんだ?」
「ふふ、それは簡単。ゴーレム技術の応用だ」
「ああ、なるほど」
俺たちも、土を集めて動かす山津波みたいなことをやったが、それを油でやったらしい。
ゴーレムのコアにアキラの作り出した油を集めて、床を走らせたわけだ。
さすがアキラは実戦経験が豊富だな。
それに、これは応用が利く――水を撒いて電撃で感電させるとかな。
アネモネは電撃系の魔法は使えないが、スタンガンとかバッテリーを使う手もある。
シャングリ・ラで手に入る車のバッテリーを直列につなげればいい。それでも溶接出来るぐらいのパワーがあるし。
実際、そいつを使い川に電流を流して魚を取る、違法漁法もある。
俺が、ハ○エースをアイテムBOXに収納しようとすると、アキラが止めた。
「そいつで、お城の廊下を走ってみようぜ?」
「ええ? そりゃ、廊下の幅は十分にあるから走れると思うが――」
「ははは――それじゃ、やってみようぜ!」
アキラがゲラゲラと笑っているが、確かに戦闘で疲れているのに、歩いて裏庭まで戻るのは少々たるい。
スライドドアを開けると、皆をハ○エースに乗せる。
「いいのかね?」
ハ○エースコミューターは11人乗りなので、ギリギリ乗れる。
ぎゅうぎゅう詰めだが、裏庭まで車ならすぐだ。
謁見の間の大きな両開きの扉を開けると、ディーゼルエンジンから黒煙を吐き出し、車を発進させた。
「ヒャッハー! いけいけぇ!」
アキラがウェーイ! 状態になっている。
お城の廊下は広く高く、床は石だ。ハ○エースでも十分なスペースがあるが、角はギリギリ。
アキラが床に油を撒いたので、それがタイヤについたのか少々滑る。
問題はあれど、流石に車で走ると速い! あっという間に裏庭まで戻ってきた。
「イエーイ、お城の中を車で走るなんて、中々できない貴重な体験だな」
確かに、アキラの言う通りだが――。
「普通はやろうとは思わんだろう?」
「まぁな。だけど、ほら! ここは異世界やし!」
異世界は関係ないと思うが――まぁいいや。
ハ○エースから降りたベルが、パトロールを始めると、庭の奥に消える。
それを見た獣人たちが、彼女の後をついていった。
家の前にテーブルと椅子を出して、まったりする。
アキラたちも、彼のアイテムBOXからテーブルと椅子を取り出した。
宰相が、もう安全だと太鼓判を押していたので、大丈夫なのだろう。
しかし――。
「どうしてこうなった?」
思わず俺の口から、その言葉が出てしまうと、アキラが反応した。
「そうだよなぁ、本人に聞いてみたらいいんじゃね?」
「王妃にか?」
「それしかねぇじゃん」
「う~ん……」
一応、王女にも聞いてみるが――。
「知らぬ! まさに乱心したとしか言いようがないの! 昨日の話し合いでも、峠を開通させた偉業に関しては褒美を出すということで意見は一致していたはずじゃ」
「俺が何か悪いことでもしたかな? う~ん?」
「普段から気難しい方ではあったが、理不尽なことはせぬ、と思うておったが……王都で、そなたの噂を聞いてから少々変じゃの」
「え? そんな前からですか? リリス様――いや、リリスでも解らないのに、俺が解るはずがない」
当然、皆も解らず首をかしげるだけ。
俺は疲れて、椅子からずり落ちた。
地面は固いので、アイテムBOXからエアマットを出して、その上に寝転ぶ。
すると、アネモネとリリスが俺の上に載ってきた。
「私がいつもケンイチと寝ているんだから!」
「妾も一緒に寝る権利がある」
「「むー!」」
二人が俺の腹の上で睨み合っていると、獲物を口に咥えたベルが戻ってきた。
口に咥えているのは、以前ここで食べた青い鳥だ。
「にゃー」
「おっ! 獲物を獲ってきてくれたのか? ありがとう」
見れば、ミャレーとニャメナも獲物を手にしている。いつの間に。
「鳥さんを捌いて下ごしらえをしてくれ。今日は唐揚げにしよう」
「おっ! いいねぇ。あの茶色のカリカリは酒に合うからなぁ」「うみゃーだし!」
だが、唐揚げにアキラが反応した。
「唐揚げかよ」
「食うか?」
「食いてぇが――こっちの分までは用意できないだろ?」
「できあいでいいなら出すぞ」
シャングリ・ラから、大阪○将の唐揚げを買う――1.2kgで3500円。
「ほい」
「○将かよ! それじゃ、チャーハンはないのか?」
「ちょっと待ちねぇ」
同じページに袋に入ったチャーハンも載っていた――10袋で3000円。
「ほい」
「マジか!? それじゃ、○将といえば、餃子だろ?」
「餃子か……」
検索する――売ってるな、150個で3500円だ。
「ほい、全部で帝国銀貨1枚(1万円)だな」
彼から、銀貨をもらった。
「おおお~っ! センセ! これを魔法で温めてくれ!」
「唐揚げはアキラが作ってくれましたが、こちらも食べ物ですか?」
レイランさんが、チャーハンと餃子を覗き込んでいる。
「そうそう!」
彼は帝国で、お好み焼き屋をやっていたそうだが、唐揚げも作っていたようだ。
「唐揚げも売ってたのか?」
「おう、肉が高いからな。1個400~500円ぐらいするんだ。でも売れたぞ。終いには貴族に呼ばれて、料理を作ったりな」
貴族の催しで、庶民の食べ物を食べてみる――そんな企画があり、アキラが貴族の屋敷に呼ばれたという。
「料理の評判はどうだったんだ?」
「絶賛だったよ。でも、そこでブリュンヒルドと出会ったんだ。なにがどう転がるか解らねぇ」
まさか帝国皇帝との出会いが、そんなことだったとは。
「波乱万丈だな」
「餃子に唐揚げ、これはビールを飲むっきゃねぇ!」
アキラは、自分のアイテムBOXからビールを取り出して飲み始めた。
そして唐揚げと餃子をつまむ。
「か~っ! うめぇ!」
彼が目をつぶり、首を振っている。
「この珍妙なものが、食い物だと言うのか?」
「うるせぇクレメンティーナ! お前は、そこらへんの草でも食ってろっつ~の!」
「私は食べてみますわ。いえ、アキラ様のお食べになるものは、私も食べなくては」
そんなことを言いつつ、アンネローゼさんが、唐揚げをつまむ。
「美味しいですわ!」
そりゃ、唐揚げは道端で売っても人気になるぐらいだから、この世界の住民にも十分に受ける。
「アキラ、ゴミは一箇所に固めて置いてくれ。俺が処分するから」
「オッケー」
だが、アキラたちの食事をみていたアネモネが、俺のシャツを引っ張った。
「ケンイチ、私もアレが食べたい」
「それじゃ、ちょっと早いが夕飯にするか~。獲ってもらった鳥さんは、アイテムBOXに入れておくとしよう」
シャングリ・ラから、アキラに買ってやったのと同じセットを買うと、大皿に全部空けて、アネモネの魔法で温めてもらう。
「 温め(ウォーム) !」
魔法で加熱された料理は、すぐにホカホカの湯気を立て始めた。
「ねぇ旦那――俺もエールを飲みたいんだけど……」
ニャメナが、エールをご所望なので、出してやる。
「やったぁ!」「ケンイチは、トラ公に甘いにゃ!」
皆で唐揚げと餃子を食べる。米が食える人は、チャーハンを食う。
「ケンイチ、このパラパラの料理は?」
リリスが、チャーハンを見つめている。
「リリスがいつも食べていた穀物を、さらに油で炒めたものだよ」
「ほう――むぐむぐ、む! これも美味いの!」
彼女は、なんでも食うなぁ。チャーハンを食べるとスープが欲しくなるので、アイテムBOXに保存していたものを出して、皆に配る。
今日は、できあいの料理で終わりだな――ほっとしていると、リリスがえらい勢いでチャーハンを食べ始めた。
和気あいあい、俺の家族とアキラの家族で飯を食べていたのだが、皆の動きがピタリと止まった。
リリスは、チャーハンを掬ったスプーンを持ったまま固まっている。
「ん? どうしたんだ、皆?」
「おい、ケンイチ」
アキラの声に後ろを向こうとすると、いきなり誰かに抱きつかれた。
甘い匂いと、それに混じる辛子の匂い。そして伝わってくる温かい体温。
「聖騎士様――」
「おわっ! 王妃!!」
俺に抱きついていたのは、白いドレスの王妃だったのだ。