作品タイトル不明
114話 密入国
帝国の街で、俺と同じように日本から転移してきたアキラという男に会った。
彼の話によると、雇い主の人使いの荒さに嫌気がさして、王国への亡命をする準備をしていたらしい。
そこに提案された、俺からの亡命の勧め。渡りに船だったようだ。
王国との国境の境目には石で出来た壁があるのだが、高さは5m程。
俺のアイテムBOXに入っている単管の足場を使って、乗り越えて密入国する事になった。
普通なら、こんな密入国を助けたとなれば犯罪幇助なのだが、これは王女の許可も取っている、言わばお墨付き。
――とはいえ、王女が滞在している公爵邸まで無事にたどり着かないと色々と面倒な事になるだろう。
そこで、アキラとレイランさんには、服装を変えて変装してもらう。
派手な魔導師の衣装から着替えたレイランさんは、逆の意味で人目を引き過ぎるような気がするが……。
目の前でバインバインと揺れるおっぱいを見せられたら、どんな男でも振り向くに違いない。
亡命するメンツが足場の前に立った。アキラと獣人のミャア、そして女騎士は腰のベルトに剣を装備している。
しかし今日、飛び込みでやって来た女性も一緒なのだが……。
「あの……アンネローゼさんでしたっけ? このまま亡命してもいいんですか?」
「はい。もう帝国には居るべき場所がありません。このままアキラ様と一緒に参ります。今日この日にアキラ様に出会えたのは、まさに神の思し召し」
本当に亡命する直前にやって来たからな。もう少し後なら、このまま一生彼とは離れ離れになっていたかもしれない。
「荷物も持っていないようですけど……」
「宿屋に鞄を1つ預けてありますが、捨てていきます。路銀は持っていますし、もう未練もありません」
「心配するなアンネローゼ。落ち着けば服なんて俺がいくらでも買ってやるから」
そう言ってアンネローゼを抱き寄せるアキラを、レイランさんがジロリと怖い顔をして睨む。
「センセ、そんな顔をして睨まないでくださいよ。まさかアンネローゼ1人だけ置いていくわけにもいかないでしょう?」
「私は、服なんて買ってもらった事がないのですけど……」
「なんだ、その事ですか。今まで忙しくて服どころじゃなかったじゃないですか。落ち着いたら、センセの服だって買ってあげますよ」
「騎士様もよろしいのですか? アキラの事が嫌いなようでしたけど……?」
「この男の毒牙から、新たな被害者が出ないよう監視しなければならぬ!」
「俺のチ○○から離れられないって素直に言えよ。俺のチ○○に負けた女騎士さんよ」
「くっ! 殺せぇ!」
「いっつも、アヘ顔で死ぬ~死ぬ~とか言ってるのに、全然死なねぇじゃん。いつ死ぬんだよ」
「今すぐ殺せぇぇぇぇ!」
またかよ――掴み掛かる女騎士を、アキラは手慣れた手つきで躱している。
「おい、アキラ。そんな事をしている場合じゃないぞ? モタモタしていると暗くなってしまう」
「おっ! そうだな」
皆で足場を登り塀の上に立つ。塀の上は、幅1m程のスペースしかない。
街の中心にある壁の上はもっとスペースが広くて警備の兵もいるのだが、街の外れはこんな感じらしい。
それでも1日2回程、王国と帝国の兵士が壁の上を巡回しているという。
「1日2回の巡回って、今の時間は平気か?」
「朝と夕方だから大丈夫だ」
そして下を覗くと――塀の反対側は鬱蒼とした草むら。
茅(かや) のような背の高い植物が一面に生えていて、所々に低木も見える。
「皆、塀の上に移ったか?」
「これから、どうするんだ? 飛び降りるのか?」
そんな事をする必要はない。足場を収納してから壁の反対側に出せばいいのだ。
「こういうわけさ」
「な~る。そりゃそうだな」
足場を降りて、俺達は王国側へと降りた。だが、一面背の高い草むらで何も見えない。
「足場収納!」
「この草むらはやべぇ。全く前が見えねぇ」
「北へ進めば、OKだろ?」
「そりゃそうだが」
俺は、アイテムBOXから、草刈り機を出して混合燃料を入れる。
そして、けたたましい音を出しながら、進路上の草を刈って道を作り始めた。
人が通る場所だけ刈ればいいんだから、簡単だ。
「凄いにゃー! うるさいけど凄いにゃ!」
「まるで悪魔のような魔導具だな! さすが、アキラの同類!」
「ははは、そんなに褒めるなよ、クレメンティーナ」
「誰が褒めるか!」
女騎士さんの名前はクレメンティーナというらしい。
そのまま500mほど進み、一本の細い道に出た。どうやら森へ向かう道のようだ。
これを反対に進めば、街へ行く事になるってわけだ。
「これで、街まで一直線だろ?」
「まさか、こんな形で王国側へ侵入出来るとは」
「もうちょっと道が広ければ車が出せるんだがなぁ」
「車って、どんなのだ?」
「ラ○クルプ○ドだよ、ハ○エースもあるぞ」
「マジかよ! 俺にも売ってくれ!」
さっき説明をして、理解してくれたと思っていたが……。
「だから、燃料の問題があるって言っただろ? タイヤとかプラグとかクーラントとか消耗品も必要になるぞ? 工業規格の工具だって必要になるし、タイヤに空気だって入れられないだろ?」
同じ説明をしているような気がする。
「魔法でなんとかならんのか?」
「ならんならん!」
アキラは俺の話に肩を落としてショボーンとなっている。だが、無理な物は無理だ。
俺の家の隣に住むのなら、都合はしてやれるが……。アイテムBOXがあるので、故障しても回収できるしな。
――とはいえ、燃料は錬金術と魔導具でなんとかなりそうだし、工具も腕のいい職人に作らせればいい。
ドワーフ達なら適任だろう。
クーラントって成分なんだっけ? アルコールか? ……ん~ああ、エチレングリコールか。ちょっとこちらでの合成は無理っぽいな。
クーラント代わりに水も使えるのだが――ラジエーターに水を入れると錆びるんだよね。
鉄が錆びない、何かファンタジーな液体があるならクーラントに使える可能性があるが……。
それに壊れて使えなくなった車も、エンジンを抜いて馬に牽かせれば、ステアリングとサスペンションがついた高級馬車に使えるかも……。
「なんか、アキラ達が訳の解らない言葉を話してるにゃ」
「彼はアキラと同郷という話でしたので、彼等の里の言葉なのでしょう……」
さすがレイランさん。その通りです。しかし横文字がそのまま通じるのは便利だ。
細い道を北に10分程歩くと運河に出た――だが橋がない。
このまま、北へ向かえば国境の門へ通じる大通りに出るだろう。そこまで行けば俺にも道が解る。
「ケンイチ、どうする?」
「3mぐらいだな。これなら大丈夫だ」
俺は運河のギリギリに立って、斜めに丸太を出した。
「これで渡れるだろ?」
「こんな物まで入っているのか?」
アキラのアイテムBOXだとこんなデカい丸太は入りそうにないな。短いのなら入るだろうが、こんな長いのは無理。
この丸太は結構役に立つよな。暇を見てまたアイテムBOXへ入れておこう。
アキラとレイランさんは無事に通過。女騎士もこのぐらいは余裕のようだ。
アンネローゼさんは、落っこちそうだったので、ミャアが背負って運んだ。
獣人なら、このぐらい逆立ちしても渡れるからな。
最後に丸太を収納して先を急ぐ。
徐々に民家が増えてきたが、周りはバラックばかりだ。ここは 所謂(いわゆる) スラムだろう。
当然、治安も良くない。美人がずらずらと歩いていたら、格好の的だ。
「おいケンイチ。センセとアンネローゼは走れないぞ?」
「アンネローゼさんは、それっぽいが、レイランさんはなんでだ?」
「走ると、胸が揺れて痛いんだと」
「ああ――クーパー靭帯切れそうだもんなぁ。仕立屋にブラを作ってもらったらどうだ?」
「なるほど、そういう手があったか……」
シャングリ・ラにもブラは売っているが、あのサイズに合う物は売ってないだろうと思う。
だが、仕立屋にサンプルとしてブラを渡して、似たような物を作ってもらえば、彼女の負担も減らせるのでは?
そんな事を考えていると、ガラの悪そうな男達に囲まれた。
だが、 咄嗟(とっさ) に女騎士が剣を抜いた。
「どけい! 貴様達の相手などしている暇はない」
「あ! この馬鹿騎士! いきなり剣を抜くんじゃねぇ」
アキラが女騎士を止めに入ったのだが、ちょっと遅かった。
「おっ! 抜いたなぁ? もしかして、帝国からの密入国のお姉さん達かなぁ?」
まぁ、こんな所をうろついているんだから、バレバレか。
「おい、あの胸はすげぇ!」「たまんねぇぜ」
案の定、男達の視線は、レイランさんの胸に集まり始めた。
俺はアイテムBOXから、バラした爆竹を1本取り出した。
いつも繋がった塊に火を点けていたのだが、何もあんなに連発させる必要ないからな。
威嚇するなら数発で十分だ。それに、繋げて連発させると不発が沢山出るんだ。
爆竹に火を点けて、集まってきた男達の前に放る――当然、耳をつんざく音がスラム街に響く。
周りにいた住人達が耳を押さえて固まった。
「魔法?!」
「センセ、シッ!」
「邪魔をすると、この魔法がお前等の身体の中で炸裂するぞ?」
俺はもう一発爆竹を放り投げた。
「ひいっ!」「ま、魔導師だ!」
住民達が徐々に下がり始めて、家の窓の板が次々と閉じられる。こんな場所にある家にガラス窓などはない。
「ガウガウガウ! ガウウウ!」
だが爆竹の音に興奮状態になったのか、一匹の野犬が白い牙を剥き出す。
その前にアキラが出ると、野犬が猛獣と化して彼に襲いかかった。
「よっと!」
アキラはいつの間にか手に持っていた剣を横にして野犬に食いつかせる。剣は彼のアイテムBOXから取り出したものだろう。
そして牙が剥き出しになった口内へ黄色いニュルニュルを噴射――彼の 独自(ユニーク) 魔法、マヨネーズだ。
「ゲボッ! ゲヘッ!」
気管に入ったベトベトは簡単には取れない。野犬はそのままひっくり返り、泡を吹いて痙攣し始めた。
なるほど、これが彼の必殺技らしい。文字通り必ず殺す技だ。
「なるほどなぁ。生きとし生けるもの、気管から肺までマヨで満たされたら、窒息するわなぁ。最強の生物レッドドラゴンだって、その例外じゃない」
「まぁな」
彼は歴戦らしく、少しも動揺している節がない。どれだけの修羅場を潜ったのだろうか?
数百匹の魔物を相手にした魔導師であれば、野犬の1匹や2匹など物の数ではないのだろう。
彼の話が本当なら、修羅の道にうんざりして、安住の地に落ち着きたいのも頷ける。
「うわぁぁ! 魔導師だ!」「冗談じゃねぇ!」
集まっていた男達が一斉に逃げはじめた。まぁ住民を殺すと、色々と面倒になるからな。
これで済んで良かったと言える。
「しかし、マヨネーズ使って修羅の道って……」
「端からすると冗談みてぇだが、本人は全く笑えねぇ」
「アキラには悪いが、俺の能力はかなり恵まれているな」
「それでも、アイテムBOXが使えるようになってから、大分楽になったぜ」
彼の話からすると、後で能力が追加される事もあるようだ。
だが、最初から凄い能力を貰ってしまった俺の場合はどうなんだろうな?
王女から祝福を貰っただけでも、結構凄い事だとは思うのだが……。
「あれが、魔法だと言うのですか?」
「あれは錬金術で作り出した、 爆裂魔法(エクスプロージョン) の小型の物ですよ」
「そ、そんな物を……それでは魔力にも頼らず、 爆裂魔法(エクスプロージョン) と似たような力を出せると?」
「まぁ、そうなんですが――ご内密に」
「そうそうセンセ、内密にお願いいたしますよ」
「アキラも知っているのですか?」
「まぁ、作り方は知りませんが、ああいう物があるのは知っています」
アキラも、この世界で火薬を普及させるのは 拙(まず) いと思っているようで、安心した。
そのまま進み、広い場所に出たので、アイテムBOXから車を出した。
「マジで、プ○ドだ! 信じられねぇ! シュノーケルまでついてるじゃん!」
「かなり古い型だし、走行距離も多いからな」
「ディーゼルだし、この手の車なら20~30万kmは余裕だろ。この世界は雨も少ないしな。ああ、貧乏世界旅行で、こいつがあればなぁ……」
そう、橋が落ちたあの大雨が、この世界にやってきてから遭遇した雨らしい雨だった。
「一応、これも俺の召喚獣って事になっている」
「ちょっと無理やりっぽくねぇか?」
「でも、デカいゴーレムもあるし、巨大な重機を俺が運転してても、この世界の住人はなんとも思っていないようだぞ」
「重機もあるのか?! 確かに、ゴーレムはロボットっぽいがなぁ……」
皆を車に乗せる事にした。
「全部で6人だから乗れるだろう」
「そうだな。ミャアとクレメンティーナは一番後ろだ」
「わ、私をこんな得体の知れない乗り物に押し込めようと言うのか?」
「うるせぇ! とっとと乗り込め!」
アキラは真ん中の座席を倒すと、女騎士の尻を蹴飛ばして一番後ろの座席に押し込めた。
続いて、ミャアがその隣に乗り込んだ。
話が通じる相手だと話が早くて助かる。まさに阿吽の呼吸。
彼は免許も持っているようなので、臨時の運転手としても期待出来るだろう。
真ん中の座席にはレイランさんとアンネローゼさん。そして、助手席にはアキラが乗り込んだ。
「まさか、こんな世界で車に乗れるとはな」
「俺も、そう思ったよ。最初は自転車だったんだが」
「王国側で流行っているドライジーネとかいう乗り物はケンイチの発明なのか?」
「義理の父親に絵を描いて見せたら、実用化してしまってな」
「その親父さんは、かなりのやり手だな」
俺は車を発進させた。
「ふぎゃっ! 動いてるにゃ動いてるにゃ! 馬もなしに動いてるにゃ!」
「……ううう」
ルームミラーから見える女騎士は固まっているように見える。
「なんだクレメンティーナ、ビビってるのか?」
「ば、馬鹿を言うな! 騎士がこんな物を恐れるはずがない!」
だが、ちょっと心配になってしまう。
「彼女は、真っ先に死にそうなキャラなんだが――大丈夫なのか?」
「まぁ、かなりへっぽこなのは事実だ」
だがゴブリンや人間の男ぐらいなら、対処出来ると言う。剣術の腕も並のようだ。
「これも魔法だと言うのですか?」
「レイランさん、ゴーレムみたいな物だと思って下さい。でも、ゴーレムは一々組み立てないとダメですが、これはこのまま召喚されてきますので……」
「鉄の召喚獣…… 独自(ユニーク) 魔法ですね」
「その通りです」
アキラがラジオの周りをいじくり回している。
「ラジオは入らないぞ。確かデッキにCDが入れっぱなしだと思ったが……」
アキラがデッキのスイッチを入れると、ギターの音が流れはじめた。
「なんにゃ! 音楽が聞こえるにゃ!」
「おおっ!」
後ろから、獣人と女騎士の驚く声が聞こえる。
「クロ○ド・チアリか――随分と渋い物を聞いてるな」
「ここでポップスやロックかけても理解できないだろ?」
「まぁ、そりゃそうだ! ははは」
レイランさんが、アレコレ聞いてくるのだが説明が難しい。秘密の魔導具で、お教えできません――という事で納得してもらった。
アキラによると、魔術の独自研究ってのも秘匿されているらしいし、あまり根掘り葉掘り聞くのはマナー違反らしい。
それ故、魔術学校に入ったり、有名な魔導師の弟子になるって事は結構重要だ。
そのまま音楽を流しながら、北へ進むと大通りが見えてきた。
この大通りは国境の門へ通じている道だ。ここまで来れば、後は簡単だ。
「アキラ、ちょっと寄り道していいか?」
「オッケ~!」
「桶がどうしたにゃ?」
「解らぬ……しかし、これが王国の街か。帝国の方が整頓されていて美しい」
まぁ、女騎士の言うとおりだな。だが、この雑多な感じがまたいいじゃないか。
俺は道具屋の正面に車を乗り付けた。
「ちょっと待っててくれ、荷物を取ってくる」
「ああ」
俺は、アキラ達を車に乗せたまま、道具屋へ入った。一応、キーは外す。
まぁ乗り逃げしても、すぐにガス欠になるけどな。
「ちわ~、魔導書は出来上がってるかい?」
「あら~、旦那。今日の朝取ってきたところだよ」
店主の女から魔導書をもらう。身体をすり寄せたり、腕を組んできたりして――はっきり言ってうざい。
早々に立ち去る事にしよう。もうちょっと若けりゃ俺の食指も動くんだが……。
「お待たせ~」
「ここは道具屋だろ? 何を買ってきたんだ?」
「魔導書だよ。名義の変更をしてもらっていた」
「王国は魔導師でも商売が出来るからいいよなぁ」
「そうそう、レイランさんが店を開いたら、男共が押し寄せるぞ、はは」
「店をやりたいとは思っているのですが……それはちょっと嫌ですねぇ」
しかし、これ以上ない客寄せになりそうなのだが……。
続いて俺は、ドワーフの店に寄った。あの巨大な剣を受け取るためである。
「鍛冶屋か?」
「ここはドワーフの店だぞ。品揃えも中々良い――高いけどな」
「面白そうだ。俺も降りるぞ」
「鍛冶屋なら、私も拝見したい!」
奥から女騎士の声がする。それじゃ、皆で見学って事になった。
皆が車から降りたので、一旦アイテムBOXへ収納。揃ってドワーフの店へ入った。
店の上に飾ってあった、巨大な剣は既にない。
「ちわ~、親方いる? 店に飾ってあった巨大な剣をもらいに来たって伝えてくれ」
「あ! はい! ただいま!」
店員が奥に駆けて消えていく。
「おおっ! これは業物だぞ!」
女騎士が、壁に飾っている商品の剣に興奮している。彼女の視線の先にあるのは長い金の鍔がついた上品そうな剣。
「おまぇなぁ――稼ぎもないのに、俺に買わせるつもりか?」
アキラ達は、逃げまわっている間には仕事はしていなかったようだ。
まぁ有名人だしな。だが、この世界には新聞も通信手段もなく、あるのは人の噂だけ。
本人が竜殺しだと名乗らなければ、バレる事もない。
「別に、お前に買えとは言ってない……だろ……」
「にゃー! アキラ、ウチはこの短剣がいいにゃ!」
「よしよし、ミャアには買ってやるからな」
「……」
女騎士が1人で泣きそうな顔になっている。
「解った、解った! 買えばいいんだろ! ポンコツ騎士に、こんな良い剣がいるのか?」
結局、剣を買ってやるようだ。レイランさんと、アンネローゼさんも店内を見回しているが、魔導師と普通の女性が欲しい物はここにはないだろう。
「よぉ! 待たせたな! 剣は出来上がってるぜ!」
奥から6人のドワーフに抱えられて、巨大な剣がやってきた。
「なんじゃこりゃ! こりゃ、『剣と呼ぶには余りに大き過ぎた』ってやつだろ?」
アキラが駆け寄ってきて、降ろされた巨大な剣を覗きこむ。
「まぁな」
「こんな物を買って、どうするんだ?」
「重機に取り付けて、魔物を一刀両断にしようかと」
アキラが呆れているが、重機の種類を聞いてくる。
「重機ってどんなのだよ?」
「ユ○ボだよ、ユ○ボ。アームに、この巨大な剣を取り付けて、ズバッと参上! ズバッと一閃!」
「はは……そんな物まであるのか? 俺もイカれてると思ったけど、ケンイチも相当だな」
「なんだかんだで戦闘が多いからな。戦闘力は高い方がいいだろ。それに、こいつはアダマンタイトだっていうし貴重だろ?」
「へぇ! アダマンタイトの加工は難しいって聞くぞ?」
「ここの親方はそれが出来るんだよ」
腕を組んだドワーフの親方は得意げな表情だ。
「親方、仕事の方は順調かい?」
「ああ、お前さんに都合してもらった鋼鉄の質は最高だからな。そのまま素延べで剣にしても大丈夫ときた。仕事が捗ってたまらねぇぜ」
「そいつは良かった」
元々は金貨300枚(6000万円)という話だったが――。
ドワーフ達と酒の賭けをして勝ったので、代金は半額の150枚(3000万円)になった。
アイテムBOXから金貨を出して、カウンターへ積み上げる。
「そういえば、アキラの金貨も両替しなくちゃダメだな。ソバナは帝国の金貨でも使えると思うが……」
親方に確認すると使えると言うが、大量だと困るという。
「そうなんだよなぁ」
「少しでいいなら、俺が両替してやってもいいぜ」
「それじゃ頼むか」
シャングリ・ラに入金するなら、どの金貨でも同じだからな。
アキラが、女騎士の剣とミャアの短剣の代金を支払う。それぞれ、帝国金貨10枚(100万)と帝国金貨2枚(20万円)だ。
だが、カウンターに山積みになった金貨をみて、ある事を思いついた。
「親方、ドワーフってのは金属や鉱石に詳しいんだろ?」
「ん? ああ、自慢じゃないがな……」
俺は、シャングリ・ラから1オンスのプラチナ貨を購入した。今のレートで15万円だ。
昔はプラチナの方が高かった印象があるんだが、今は金と同じぐらいの値段だな。
「親方、これは解るかい?」
俺はドワーフにプラチナ貨を手渡した。
「こ! こりゃ! もしかして、白金貨か?! こんな物をいったいどこで?!」
「ある遺跡で見つけた。珍しい物なのかい?」
「ああ、これが本物だとすれば、1枚で金貨100枚以上の価値がある」
ええ~っ!? マジで? それなら、金貨をシャングリ・ラにチャージしてプラチナ買えば大儲けじゃん。
まぁ、そんな事をしなくても、金に困っているわけじゃないが、金の確保はたやすくなる。
以前、銀と金の交換レートの差額で儲けようとして怪しまれたが――今は、天下御免の書状があるし、王侯貴族にも知り合いがいる。
王侯貴族に、ダンジョンで入手した白金貨だと言って、売ればいい。
だが、真珠やプラチナで金貨を集めても、シャングリ・ラでは使えない。
この世界の金貨は、なるべく市場へ放出して経済を回さないと……なにか金の使い道を考えよう。
親方の話では、本物の白金貨なら魔力を蓄える事が出来るという。ためしに、親方が魔力のチャージに挑戦してみるようだ。
親方がコインに魔力を注ぎ込むと、それがうっすらと光り始めた――何これ? 凄いじゃん!
「間違いねぇ! こりゃ、本物だ! こ、こいつを売ってくれ!」
「え~? それじゃ……この剣の代金をこの白金貨で払うって事に」
「それでいいのか?!」
「ああ」
取引は成立した。カウンターの上に置いてあった、150枚の金貨はアキラが持っている帝国金貨300枚と交換した。
そして巨大な剣も収納。
「旦那のアイテムBOXにゃ、こういったものが山ほど入っているんで?」
「まぁ、詳しくは明かせないけど――それなりには」
「旦那の在所はどこなんです?」
「アストランティアの近くに大きな湖があるのを知っているかい?」
「知ってますぜ?」
「その湖畔に住んでいたが、もしかして拝領するかもしれん。そうなったら屋敷を建てなきゃな」
「拝領ですかい?」
「ああ、王女様の話だと、そうなるらしい」
「ええ? 王族とお知り合いなんで?」
「まぁな」
その話を聞いて、ドワーフの親方が何か考えている。
「旦那が拝領して、街を作るようなら、俺達も行ってもよろしいですかね?」
「おおっ! そりゃ、大歓迎だよ。ちなみに、こんな金属もある」
俺はシャングリ・ラから、ステンレス鋼を購入した。
「これは錆に非常に強い金属だ。錬金術で、色んな金属を混ぜて特殊な特性を持たせてある」
「こんなのは、見たことがねぇ……」
俺と親方が話していると――レイランさんが騒ぎ始めた。
「アキラ! アキラ!」
レイランさんが、アキラに抱きついた。その目は 爛々(らんらん) と光っており、ドワーフが持っている白金貨、一点を見つめている。
「あ~ケンイチ。センセが、その白金貨? ――が欲しいんだと」
「ああ、いいぞ。お友達価格で半額で良いよ」
「ほ、本当ですか?」
「これから、色々と長い付き合いになりそうだし。お近づきの印って事で」
俺がシャングリ・ラから再びプラチナ貨を購入すると、レイランさんに渡した。
「はぁぁ……美しい……」
彼女がうっとりしながら、魔力を注ぎ込むと、コインがうっすらと発光し始める。
ファンタジー世界のプラチナにこんな力があろうとは。アキラから代金として、帝国金貨150枚をもらう。
帝国の金貨は1枚10万円相当で、王国金貨の丁度半額だからな。
「ケンイチ、あの白金貨のデザインって見たことがあるような……」
「人間が異世界に転移してくるんだ、アイテムが転移してきてもおかしくない」
「む……そういう考えもあるか……」
とりあえず、シャングリ・ラの事は黙っているつもりなので、誤魔化す。
「しかし、プラチナにこんなに価値があるとは……最初に、プラチナのアクセサリーでもつけてりゃ、もっと簡単に成り上がれたのか。俺もトレジャーハンターになろうかな?」
アキラが、自分の境遇に悩んでいる。
「それも手だぞ? 戦っても、自分のためなら納得も出来るし」
「そうなんだよ。お偉いさんのためなんてのは、もううんざりだ。俺には忠誠心の欠片もねぇし!」
俺達の話を聞いて、親方が話に入ってきた。
「森の奥深くの未到達領域には、誰にも知られていない遺跡があるって話だしな」
テキトーに遺跡でプラチナを拾ったと言ったが、マジでそういう事例があるようだ。
「むふふ、そいつはいい事を聞いた。遺跡攻略なんて簡単だ。油をドンドン流し込んで赤猫を這わせりゃいい」
金貨は溶けても金の価値があるし、プラチナはそのぐらいの温度じゃ溶けないしな。
生き物がいても、火炎で焼かれるか窒息するだろう。チート持ちのアキラらしい攻略法だ。
しかし、生き物の素材や紙の資料等があっても、全部燃えてしまうな。それに火が完全に消えるまでかなり時間が掛かるのではないだろうか?
そう考えると、彼と一緒には探索などの行動は出来ないな……。
「そりゃ、かなり力押しでチートな攻略だな」
「別に攻略に決まりがあるわけじゃねぇだろうし」
「そりゃそうだが――遺跡なら貴重な資料等があるかもしれないぞ?」
「あまり興味はねぇな」
彼は余り学術的な物には興味がないようだな。
「レイランさんはどうです? 遺跡には貴重な魔法に関する学術的資料とか、知られていない魔導書があるかもしれませんよ」
「アキラ~私に断りもなく、そんな事をしたらどうなるか……」
「は……は、大丈夫だよセンセ! その時は相談してからにするからさ」
アキラがレイランさんに詰め寄られて、あたふたしている。
さて、買った商品は受け取ったし、公爵邸へ戻る事にするか。
皆がクビを長くして待ってるはずだ。