軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

110話 帝国でエスピオナージ

俺達は国境の街、ソバナにやって来ている。

宿泊しているのは、この地の領主である公爵の屋敷だ。

――次の日の朝。久々にベッドで寝て起きた。ずっと王女に家を占領されていたからな。

そして、朝起きると皆で食事を取る。

食事の後、昨日の夜に話していた、フォーメーション戦闘の訓練を行う。

両サイドから、ポリカーボネートの大盾を構えた獣人達が圧力を掛け、俺が飛び道具で攻撃を担当する。

アネモネは後方から魔法で援護&止めを刺す。

食後の運動をしていたら、白いドレスを着た王女がやって来た。

その後ろには、マイレンさん達メイドさんが付き添う。

「リリス様、お早うございます」

「うむ」

「中々、素晴らしいお召し物でございますね」

「ああ、無理やり着せられてしまったわぇ。それよりも、ケンイチ」

「何か?」

「食べ物はないかぇ?」

「は?」

王女の話では、朝食は食べたらしいが……。

「其方の食事を食べた後では、どんな食事も食べた気にならぬ」

王女の言葉に、訓練の後に休んでいた獣人達が反応した。

「そうだよ、お姫様。俺達なんて、外で飯が食えなくなっちまったんですから」

「そうだにゃー、馬鹿らしくて街の飯屋なんかに金払ってられないにゃー」

プリムラのスープと、アネモネのパンを出す。

「おおっ、このパンの柔らかくて甘い事! やはり、これでなくてはならぬ」

食事をとっている王女は満足そうだが――一枚の木札を差し出してきた。

「これは?」

「国境を越える許可証じゃ。其方は商人という事になっておる」

「まぁ、実際に商人ですし……商業ギルドにも登録してありますし」

「国境の門を通過するのは、ギルドの証も必要になる」

「この街のギルドへの登録も必要ですか?」

「いや、それは問題ない。証の中身までは見ないようじゃ」

だが、俺に木札を渡した王女は不満顔だ。

「リリス様――何か、ご不満でも?」

「妾も帝国側へ行きたいと申したら、公爵に大反対された」

「そりゃ、そうですよ。向こうで何かあったら、公爵様の責任問題になりますし。王族だとバレたら、誘拐やら、人質やら――」

「むう……」

まぁ大騒ぎになって、公爵の腹切ぐらいじゃすまなくなる。

「それじゃ皆、俺は帝国側へ行ってくるよ」

「私も行きたい……」

「アネモネ、許可証は一枚だけだからな。大人しく待ってなさい」

「うー」

アネモネは納得していないようだが、こればかりは仕方ない。許可なしだと密入国って事になるからな。

スパイとかの疑いを掛けられたりすると面倒な事になる。

この世界の戦略兵器である魔導師の引き抜きをして亡命をさせようっていうんだから、もろにスパイ活動だけどな。

まぁ、いざとなれば国境の壁ぐらい、アイテムBOXに入っている足場で越えられる。

王女の話では――王国の金貨も同様に使えるそうだから、宿屋にも困らないだろう。

帝国側でも野宿が出来ればいいんだが……実際に見てみないと判断出来ないな。

とりあえず、3日程の予定で留守にする。

パウチ食やレトルト、そしてパンを出した。生肉はアイテムBOXから出すと腐ってしまう。

「そんなに要りませんよ」

「しかしプリムラ、3日留守にするんだぞ?」

「肉も野菜も、ここの市場で買えますから」

そう言われればそうだ。いつもアイテムBOXから出したり、シャングリ・ラから買ってしまうからな。

「それじゃ、パン焼きの鍋と小麦粉を置いていこう」

俺の心配性に、獣人達も苦笑いをしている。

「ケンイチ、大丈夫だにゃ」「そうだよ。逆に俺達はいつも旦那に頼りっぱなしだからさ」

「そうか?」

「旦那も俺達の事を信用して、もっと任せてくれてもいいんだぜ?」

「そうだにゃ」

「う~ん、俺は何でも1人でやってきた人間だからなぁ……」

「ケンイチは、そんな感じがします」

プリムラもそう思うのか。

「獣人にもいるんだよ。人とつるまず、いつも1人な奴が」

ニャメナはそう言うのだが、こういうところに、いつも一匹狼だった弊害が出てるな……まぁ、彼女達が大丈夫だというなら、大丈夫なんだろう。

小麦粉等も市場で売っているしな。金をプリムラに渡しておく。

「お金も私が持ってますから」

プリムラが呆れている――どうも俺は世話を焼き過ぎらしい。それじゃ彼女達に任せる事にしよう。

暇つぶし用に、バックギャモンと、アネモネにはタブレットを渡しておくか。

彼女はタブレットの電池が切れると、モバイルバッテリーから充電する方法も知っている。

頭が良すぎるのも、少々困りものだ。小さい頃からいろんな事を学びたかったのに、何も出来なかったから、知識欲が凄い。

出発しようとすると、門番が鎧を鳴らしながら走ってきた。

「あの、すみません! 魔導師様! 正門前に獣人達が集まっておりまして……」

「なんで獣人達が?」

「なんでも、森猫に会わせてほしいと……」

あちゃー! 俺が公爵邸に滞在していると言ったので、噂が広まってしまったのか。

「申し訳ない――獣人達と話してみるよ」

「お願いいたします」

ベルと一緒に公爵邸の正門へ向かう。門番は――獣人達が正門にいると言ったが、堀に架っている橋の前にいた。

数は――男女1000人ぐらいいるんじゃないか?

デカい図体の男が並んでいると、まるで肉の壁だ。

「おおっ! 本当に森猫様だ!」「おおっ!」「本当にゃ~」「森猫様ぁ~!」

ベルを見た獣人達が、皆で土下座をし始めた。街に住んでいる獣人達は、まともに森猫を見たことがないので神格化しているのか?

ダリアやアストランティアの獣人達は、こんなに仰々しくはなかったな。

だが俺は、あることを思いついて、シャングリ・ラから1000円程の木箱を買った。

大きさはビールケースぐらいだな。

「え~、おっほん! 森猫様は、美味い肉が食いたいと申しておる。よければ、小銭でよろしいので、寄付をしていただければ、森猫様の御利益もあろうと思われるぞ?」

「「「へへ~っ!」」」

獣人達は、手持ちの銅貨を箱の中に入れはじめた。だが、たまに小四角銀貨もある。

ははは――信者と書いて儲かると読むってな。しかしながら、あまりやり過ぎると邪教扱いされたりして。

だが突然、箱に銀貨が放り込まれた。他の獣人達からも驚きの声が上がる。

「ちょっと待て、銀貨はやり過ぎだぞ」

俺が銀貨を箱から取り出そうとすると、投げ込んだらしい獣人が箱の前に土下座した。

「今度あっしに、ガキが生まれるんでさぁ! 森猫様のご加護があればと思い、入れさせてもらいました~!」

するとベルが、その獣人の所へ行って、頭にポンと前脚を載せた。

「「「おお~っ!」」」

「ベル、お前は優しいな」

「にゃー」

だが俺は帝国領へ向かわねばならない。獣人達には悪いが程々のところでお開きにさせてもらった。

賽銭箱をアイテムBOXの中へ収納し――彼女の身体を撫でる。

「よしよし。それじゃベル、俺は帝国へ行ってくるからな。皆を頼んだぞ?」

「にゃー」

門の中に消えていくベルの後ろ姿を見送ると、道を少し歩き、人通りのない所でオフロードバイクを出した。

街の中にはドライジーネも走っているし、魔法で動くドライジーネって事で誤魔化せるだろう。

実際、カールドンさんが、魔法で動く物を作っていたしな。

アイテムBOXから出したヘルメットを被ると、バイクを発進させた。

峠から下ってきた俺達は、大通りを左に曲がって公爵邸へやって来たが。そのまま真っ直ぐに進むと、国境の門があるらしい。

俺は大通りの交差点を左に曲がってしばらく進んだ。すると見えてきたのは、大きな石の門。

その横には、遥か遠くまで石壁が築かれて、巨大な街を王国と帝国に分断している。

合わせて人口50万人弱っていえば、結構な大都市だからな。

近くまでやって来てバイクを降りると、アイテムBOXへ収納した。

その様子を見た周りからざわつく声が聞こえる。もう慣れたので、あまり気にしないようにしている。

「壁の高さは5mぐらいだな……」

これなら足場で楽勝クリアだ。 勿論(もちろん) 、揉めるつもりもない。なるべく穏便にいくつもりだ。

門にある検問所に並ぶ列に加わる。入国と出国、2つの列が長く伸びている。

こりゃ、時間がかかりそうだ。アイテムBOXからスツールを出して、シャングリ・ラで電子書籍を読む。

周りからは見えないので、何をしているか分らんだろうな。列が動いたら、スツールを持って移動する。

だが、見れば子供も並んでいるな……粗末な服を着て商人ってわけじゃなさそうだが。

そして検問所の順番が訪れると大人を呼んでいる。

「ははぁ、そういう商売なのか」

要は並び屋だ。代わりに並んで小遣いを稼いでいるわけだ。

アルバイトではなく、自分の 丁稚(でっち) などを並ばせている商人もいるようだ。

馬車は一応、積み荷のチェックも行なっている。袖の下を渡したりしたら、検査がゆるくなったりするんだろうか?

検問所の役人と立ち話をしている商人もいるので、顔見知りのようだ。

いつも並んでいたら、そりゃ顔見知りにもなるよな。

俺の隣にいた商人に聞いてみた。カラフルな色の上下を着た若い男だ。大きな背負子を背負っている。

「なぁ、ちょっと聞きたいんだが――ここで袖の下って通用するのか?」

「大きな声じゃ言えないが、結構取られるみたいだぜ」

「なるほどね」

そして、俺の番がやってきた。

「よろしくお願いいたします」

門の暗い影の下、ギルドの証と許可証の木札を出す。

「見ない顔だな……なっ! これは、公爵家の直々の許可証!」

役人の言葉に周りがざわつく。

「問題ないでしょう?」

「に、荷物は持っていないようだが」

「私はアイテムBOX持ちでして」

その話を聞いた周りがまたざわつく。役人は訝しげな表情をしているが、何も問題があるはずもない。

まして公爵家からもらった許可証を持っているのだ。下手に疑ったりしたら、役人の首が逆に危ない。

普通は、実績に応じて商業ギルドから発行される物らしい。駆け出しがもらえるような物ではないようだ。

この世界は12~13歳から働き始めるから、若くても結構ベテラン商人だったりする。

「通ってよろしいので?」

「通ってよし! だが、つまらん物をもちこんだりするなよ!」

「承知いたしました」

そのまま門を潜り帝国側へ出る。だが景色は一変した。

石畳で舗装された道路。石で出来た3~4階建ての建物が綺麗に並ぶ。

屋根は赤に塗られている物が多い――というか、ここからでは赤しか見えないな。

まぁ、街の端にいけば、バラックもあるのかもしれないが、ここは区画整理もされていて、実に近代的に見える。

王国より、帝国の方が進んでいるのかもしれない。

その代わり、命令絶対、規則は一杯――そんなイメージだ。

「さて、どうするか……」

道端に小さな露店があったので、金を払って聞き込みをする。

紺色の服を着た髭の爺さんだ。

「この街に、『ドラゴン殺し』が来ているって噂を聞いたんだが――聞いた事あるか?」

「ああ、ちょっと小耳に挟んだ事はあるよ」

「どこに住んでいるか、聞いた事はないか?」

「さぁ……?」

ついでに道具屋の場所を聞く。魔導師なら魔道系のアイテムを購入するために、そこを訪れていると思ったからだ。

「道具屋なら、市場の側に行けばあるよ」

「市場の場所を教えてくれ」

市場の場所は国境の門から、右方向――南東の方角だ。

トラブルを避けるために、バイクや車は自重して徒歩で市場へ向かう。

アイテムBOXから方位磁石を出して、方角を確認しつつ――道を聞きつつ、市場へ辿り着いた。

市場の様子は雑多としていて人で溢れ、王国と然程変わらない。屋根付きの露店が所狭しと並んでおり、物品も充実しているようだ。

商人が派手な服装をしているのも同じだな。王国と違うのは市場も石畳で舗装されているところか。

露店で串焼きを買う。日本じゃこういう串は竹串なんだが、ここではちょっと太めの木の串だ。

味付けは塩とマヨネーズだという。1本1000円ぐらいだが、マヨは500円ぐらい高い。原料の油と卵が高いから、仕方ない。

王国の金はそのまま使えるようで、結構出回っているらしい。逆に王国でも帝国の金は使えるようだ。

帝国の金はセェンとかイェンという単位だというが、大量に換金するのはダメらしい。まぁ当然だがな。

銅貨を払ってマヨ味を買ってみた。食ってみたが、脂がのっていて中々美味い。

豚かイノシシ系の肉だと思うが――よく解らん。魔物やら奇想天外な肉を食い慣れているせいか。

串焼きを買ったついでに、道具屋の場所を聞く。どうやら市場の外周にあるようだ。

その露天の店主にも『竜殺し』の話を聞く。白いエプロンした、スキンヘッドのオッサンだ。

「そういう話は聞くが、見たことはねぇな……」

「そうか、ありがとう」

オッサンに小銭を握らせると、道具屋を探して市場の外周を歩く。

その時、鐘が鳴った。通行人に聞くと、6時、9時、12時、15時、18時に鐘が鳴ると言う。

帝国の人間はそれに合わせて行動をしているようだ。

今のは昼の鐘らしい。

「ここかな?」

道具屋らしい建物を見つけた。石造りの漆喰で塗られた白い壁を持つ建物だ――中に入る。

雑多に物は並んでいるが、鍋やら皿やらの生活用品が多いようだ。

「いらっしゃ~い」

紺色の上下を着た中肉中背の中年の男が出迎えてくれた。

「魔道具や魔導書を置いてないか?」

「お客さん、王国の人だね?」

「解るのか?」

「そりゃね」

店主の話では――帝国では、魔導師は商売が出来ないという。魔導師じゃないと魔道具や魔導書の価値が解らないので、道具屋では売れないらしい。

「それじゃ、そういう物を買いたい時はどうするんだ?」

「魔導師同士で直接売買するんだよ」

帝国では魔導書に登録は必要ないという。

「なるほど」

国によって、色々と面倒な事もあるんだな。どっちもどっちで、どちらが良いかは判断に難しいところだ。

だが店主に小四角銀貨を渡して人探しのヒントを貰った。

「それなら、お仕事紹介ギルドへ行けばいい」

お仕事紹介ギルド――日本でのハロワだが、王国でいう冒険者ギルドにあたる。

冒険者や人が集まるし魔導師の情報なら、そこが知っているかもしれないという事だ。

そのギルドの場所も教えてもらった。市場のすぐ近くらしい。

市場を離れて500m程歩き、石畳の細い路地を進む。

あった――ガラス窓の4階建ての建物だ。たくさんの人が出入りしているので、すぐに解った。

扉を開けて中に入る。さすがハロワだけあって人がいっぱい、老若男女、獣人の姿も見える。

街中なので、あまり重装備の人間はいないな。せいぜいライトアーマー止まりだ。

とりあえず、カウンターへ向かい、紺色の制服を着た職員に声を掛けた。

「ちょっと聞きたい事があるんだが……」

「はい、何でしょう?」

「この街に、『竜殺し』が来てるって噂を聞いたんだが、ここに来た事はないのか?」

「……個人情報にはお答え出来ません」

なるほど――帝国側の方が職員のコンプライアンスはしっかりしているようだ。

それじゃ、ここにいる連中に聞くか。

「皆! ちょっと聞いてくれ」

ギルドの中にいた連中の目が一斉に俺を向く。

「帝国の、『竜殺し』がこの街に来ているという噂を聞いた。会った奴はいないか? 面白そうな話をしてくれたら、王国の銀貨1枚(5万円)をやる」

ざわざわと客達が顔を見合わせている。

「それじゃ、いいかい?」

若いニヒルそうな男が手を挙げた。

「竜殺しを見たのか?」

「いや、そいつじゃねぇんだが、『夜烏のレイラン』は見たぜ」

「なに?!」「マジかよ!」「そいつも有名人だぜ?」

周りの客達から声が上がる。

「夜烏のレイランって奴も有名だな。俺も知っている」

竜殺しだけじゃなくて、夜烏のレイランもこの街にいるのか。

「間違いないのかよ?」「本当か?」

客から疑問の声が飛ぶと男が答えた。

「濡れたような黒い髪に、黒いドレス。そして、あのはちきれるような爆乳! 間違いねぇって!」

男は両手で女のバストの真似をしている。客達も――爆乳の話を聞いて信用したようだ。

それにしても、夜烏のレイランって女だったのか。しかも爆乳! ――それは是非会ってみたい。

だが、情報はそれだけ。誰も竜殺しに会った事や、知っている者はいないようだ。

身分を隠して潜伏しているのかもしれないが……。

「ありがとうな。面白い話だったよ」

夜烏のレイランの話をしてくれた男に、銀貨1枚を渡した。

「へへっ、これで今日の夜はたらふく飲めるぜ」

男は上機嫌だが、これ以上ここにいても仕方ないな。

ハロワから出ようとしたら、客から「依頼にしたらどうか?」と提案がされた。

なるほど、そういう手もあるか……窓口へ行って相談してみる。

「可能ですよ」

紺色の制服を着た受付のお姉さんが事務的に答えた。依頼をするだけならギルドに登録は必要ないようだ。

「依頼手続きの料金は1イェンです」

1イェンというのは、王国でいう小四角銀貨2枚(1万円)らしい。そして掲示板に俺の依頼を貼り出してもらった。

『帝国の【竜殺し】について、有力な情報を持っている者には、10イェン(10万円)を払う』

10イェンは王国の銀貨2枚――期限は今日から3日。あまり長い間嗅ぎまわっていると、帝国の役人から目をつけられるかもしれない。

ダメなら他の手を考えよう。ここから噂が広がれば、向こうからの接触があるかもしれん。

そして依頼の報酬と手続き料金として、王国銀貨2枚と小四角銀貨2枚を窓口へ渡す。

仕事の報酬は窓口から支払われ、その時1割~2割が税金として引かれるシステムらしい。

だがギルドに依頼を終えて外に出た俺は、アイテムBOXからスツールを出して座ると、頭を抱えた。

しかし、これがダメだったら次は、どこを探したらいいだろうな。皆目見当もつかない――う~ん。

だが、このギルドに人が集まるのは確かだ。

スツールをアイテムBOXにしまうと、歩いて再び市場へ向かう。

露天でリンカーを一山買う。これはシャングリ・ラにも売っていないからな。美味いし。

そして、コッカ鳥の卵も見つけた――1個2000円だ。

以前、ミャレーが採ってきて、プリムラの店で売ったりしたが、食った事はなかったな。

ゆで卵にでもして食べてみるか……。3つ買ったら小四角銀貨1枚(5000円)におまけしてくれた。

しかし卵1個が2000円かよ。とんでもない贅沢だと思うが、魔導書に数百万をポンと出す奴の台詞じゃないか……。

市場の外周にあるショップも回る。店員などに話を聞くと、露店からステップアップして、市場の外周に店を開くのが商人の夢らしい。

へぇ~、帝国の商売ってのはそうなってるのか。

宝飾店にも入ってみる。だがやはり、加工も細工もイマイチ。シャングリ・ラで買った物の方が数倍緻密だ。

まぁ機械で加工しているのだから、当然といえば当然。

様々な石が並んでいるのだが、実際の価値は不明だ。アイテムBOXへ入れてみれば、価値が解るかもしれないが、店先でそれは無理だろう。

だが気になる物を見つけた。棚の隅に置かれた黒い 手枷(てかせ) 。なんで宝飾店にそんな物が?

店主らしき男に聞く。緑色の服を着た、太ったビヤ樽のような男で口髭を生やしている。

「あの手枷はなんだい? なぜ宝飾店に?」

「おおっ、お目が高い。あれは、アダマンタイトの手枷でして」

アダマンタイトキター! なるほど希少金属なので、宝飾店に置いてあるのか。

何かに役に立つかもしれないし、財産としても優秀そうだ。価値も落ちる事はないだろう。

「よし、アレをくれ。いくらだ?」

アダマンタイトと聞いて、いきなりくれと言い出した俺に、店主は少々驚いたようだ。

「300イェンでございます」

300イェンって300万か? 王国の金貨だと15枚だ。

「支払いは王国の金貨でもいいか?」

「王国の金貨だと16枚になりますが、よろしゅうございますか?」

ちょっと足下みられたか、それとも手数料なのか。はたまたレートがそうなってるのか? まぁいい。

俺はアイテムBOXから金貨16枚を出した。

「アイテムBOXですか?」

「ああ」

金貨を受け取った商人は、手持ちの金貨と大きさを比べて、天秤で重さを量っている。

あれは比重を量っているのだろう。この世界でも金が一番比重が重い。

偽金や混ぜ物がしてあると、大きさが同じ場合に軽くなる道理だ。

だが、アダマンタイトをゲット出来た。

ドワーフの店にあった巨剣のアダマンタイトも帝国から渡ってきた物かもしれないな。

なるほど、こういう場所に来ると、ゲット出来るアイテムも変わってくるって事か。

持ってみると軽い! 軽くて硬い、ファンタジー物質だ。

アイテムBOXへ手枷を入れて買い取り査定をしてみる。

――【査定結果 買い取り不可】

ええ~っ? やっぱりダメ? とんでもない値段がついたりはしなかったか……残念。

貴重な鉱物をゲットして店を出る。中々面白い物があるじゃないか。

市場を回っているうちに、日が傾いてきた。

露店の人間に金を渡して、宿の場所を教えてもらう。ギルドの近くにあるという。

だが、露店の髭を生やしたオヤジが言う事には――。

「あんた王国の人かい? 宿屋荒らしが多いみたいだから、気をつけなよ」

「荒らしって、強盗か?」

「枕探しならいいんだけど、客を皆殺しにしたりするようだぜ?」

「そいつはまた、物騒だな……」

再びギルドまで歩くと――斜め向かいが宿屋だった。

宿に泊まりながらギルドへ通う人間もいるし、ギルドから食事にやって来る奴もいるだろう。

そういえば、ダリアへやって来た時の俺もそうだった。

一応、ギルドに顔を出してみたのだが、『竜殺し』の情報は来ていないと言う。

ギルドを出ると宿屋へ向かう。

宿屋は、赤い三角屋根で屋根裏部屋を含めると3階建ての建物だ。

俺は小さな階段を登ると、その宿に足を踏み入れた。