軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2話 スキルレベル

「え? 何これ」

ステータスを確認すると、確かに文字化けしていたスキルは正確に表示されていた。だが、それ以上に突っ込みどころがたくさんあった。

名前: 定禅寺(じょうぜんじ) 鈴鹿

レベル:52

体力:491

魔力:488

攻撃:495

防御:490

敏捷:490

器用:491

知力:481

収納:205

能力:剣術(5)、体術(1⇒7)、身体操作(5⇒7)、身体強化(6⇒7)、魔力操作(6)、見切り(1⇒5)、強奪、聖神の信条、毒魔法(1)、思考加速(2⇒4)、魔力感知(2)、気配察知(4)、気配遮断(2⇒4)、状態異常耐性(2⇒6)、 精神耐性(new) (6)、 自己再生(new) (7)、 痛覚鈍化(new) 、 暗視(new) 、マップ

「え、待って。めっちゃスキル成長してるんだけど……え、すごっ」

えーすごーいと、内容を理解できず小並感よりもひどい幼並感レベルの感想しか出てこない。どれから確認していけばいいのやら、 右往左往(うおうさおう) してしまう。

「ま、まずはあれだな。新スキルの確認だ……いっぱいあるけど。あの文字化けしてたスキルは『聖神の信条』で良さそうだな。こんな名前だったのか。文字化けも解消してるし、聖魔法も使えるようになってるのかな?」

そう思いながら、鈴鹿は『聖神の信条』のスキル詳細を開いた。

名前:聖神の信条

詳細:聖魔法の神髄を会得し、その力を行使することができる。また聖神ルノアの武器を持たないという信条を己に 課(か) す事で、彼の者が渇望した不死の能力を得る。

「……はぁー、これはやばい。これはやばいわ。存在進化する前に人間辞めちゃったよ」

気づけば鈴鹿は不死を手に入れていた。文字に起こしても意味不明である。

「確かに全然死なないなぁとは思ってたけど、まさか不死だったとはね……」

文字化けスキル優秀!これなら無限ゾンビアタックだってできる!!ヒャッハー!!! と、 猿猴(えんこう) に突っ込みまくっていた鈴鹿。どんな攻撃を喰らっても死なないし、即死じゃなければ死なないのかなぁと 緩(ゆる) い考えで突撃していたが、どうやら不死だから死ななかったようだ。

危なかった。ただの自動回復のスキルで、あのノリで突っ込んでいたら死んでいたかもしれない。

「渇望した不死の能力、か。確かに、なんか不死だったらよかったなぁみたいなことルノア言ってたな。それの影響で手に入ったのかな」

それにしても、不死という能力はいささかチートすぎるのではと思う。この能力を疑う余地はない。鈴鹿の倍近いレベル差がある5区のモンスターたちの攻撃をいくら受けても死ぬことは無く、エリアボスである 狡妖猿猴(こうよう えんこう) ですら鈴鹿を殺しきることはできなかったのだから。

まさに不死。即死の攻撃を受けようとも即座に回復し、一吸いすれば内臓が腐り死に至るような劇毒を全身で浴びようとも腐りながら回復していった。

さらに、鈴鹿は約一週間飲まず食わず寝もせず戦い続けていた。水は数日飲まないと死に至ると言われているが、鈴鹿は7日間一滴も水分を補給できていなかった。

脱水症状による頭をトンカチで殴られているような激しい頭痛も、睡眠不足による眩暈も、空腹による腹痛も、一定のラインを超えると回復し、また発生してはピークを迎えて治るを繰り返していた。『聖神の信条』は敵の攻撃だけでなく、生命活動が阻害されても発動していた。

極論。世界中で核戦争が勃発して大気汚染が尋常じゃないレベルに達しても、鈴鹿だけは生き残ることができるだろう。

だが、死なないというだけで無敵ではない。ここが最も重要な点だ。

鈴鹿は5区のモンスターには手も足も出ず、 猿猴(えんこう) にも結局勝つことはできなかった。死なないと言うだけ。鈴鹿自身が強化されたわけではない。

それに鈴鹿は今まで読んだ漫画の中で、不死者の倒し方を知っていた。死なないならば封印すればいいのだ。 簀巻(すまき) にして東京湾に沈めてもいいし、ビルの基礎にコンクリートと一緒に固めてしまってもいいし、廃村の 涸(か) れ井戸に放り込んでおくだけでもいいかもしれない。

そうすれば、死ななくても死んでいるのと変わらなくなる。不老ではないため、いずれ歳をとり朽ちるだろう。

だからこそ、慢心してはいけない。鈴鹿はまだレベル52。一般的な探索者よりも低いレベルなのだから。

「けど、正直もうその辺の探索者になら負ける気しないんだよなぁ」

気を引き締めるべき時に、慢心丸出しのコメント。鈴鹿がそんな余裕ぶっこいている理由は、不死の能力と共に発現した聖魔法にある。正確に言えば『聖魔法の神髄を会得』という点だ。むしろ、スキルのメインはこちらなのだろう。

聖神の信条。信条という部分が、ルノアの言っていた拘りである『武器を持たない』に由来し、その縛りを 以(もっ) て不死を得ることができた。この内容を、ルノアは面白い形で継承されたと話していた。『本来であれば』とも発言していたため、もともとの想定では付与されない効果であったことがわかる。

つまり、もともとのスキル名は聖神だったのではなかろうか。聖神。この名前は、日本で最も有名なユニークスキル、『剣神』を彷彿とさせるスキル名である。

名前が似通っているだけではない。剣神は発現した者に剣の神髄を授けるスキルと言われている。聖神もまた、聖魔法の神髄を会得することができるスキルだ。

「回復、守護、浄化、加護……うん、全部使えるね。これなら 猿猴(えんこう) 倒せそうなんだけど」

このスキル、神髄を会得とあるが、恐らくルノアが培った技術、技量、発想、研鑽、経験、その全てが継承されている。聖神とまで言われ、あの高みまで至ったルノアの力が引き継げる。まるで強くてニューゲーム。ルノアが転生したようなものだ。

聖魔法は防御特化の魔法の様で、攻撃魔法らしい攻撃魔法はなかった。そこは残念であるものの、防御性能は群を抜いて高い。 猿猴(えんこう) の猛攻だろうが、傷一つ負わずに完封できるだろう。

レベル差のある 猿猴(えんこう) 相手に完封できるのは、聖魔法が防御特化だからではない。ルノアの経験まで継承されているからだ。聖魔法を極めたルノアの経験があるからこそ、レベル120のエリアボス程度簡単に完封できてしまうのだ。

聖魔法には攻撃魔法が無いが、鈴鹿には拳がある。ルノアが加護という名のバフを仲間に掛けていたように、鈴鹿は自身にバフをかければ攻撃力も飛躍的に向上する。そうなれば、猿猴にも届く攻撃ができるだろう。

圧倒的な防御力と、バフによる攻撃強化。この二つがあれば、 猿猴(えんこう) が相手であろうとも問題なく倒せると確信が持てる。

「いやー、試練の報酬がスキルで良かった。これが超強い剣とか、めっちゃすごい防具とかのアイテムだったら死んでたろうな」

攻撃力が凄まじく高く何でも斬れる剣を手に入れたとしても、視認できない速度で攻撃されていたため何もできず殺されていただろう。一匹二匹は倒せても、5区のモンスターの大群に囲まれていたため、飽和攻撃を受けて一方的にやられてしまう。

逆に、どんな攻撃も無効化する防具であったとしても怪しい。能力的には不死に近いが、 猿猴(えんこう) は毒を多用するモンスターだったため、呼吸して毒を体内に取り込んでしまえば無効化されずに死んでいたかもしれない。

それに、 猿猴(えんこう) に散々攻撃され続けていたため、飲まず食わずが原因で死んでいてもおかしくない。

『聖神の信条』を手に入れられれば切り抜けられる試練が用意されていたのか、はたまたたまたま運よく『聖神の信条』を得られたのか。どちらなのかはわからないが、あの場を切り抜けられたのは間違いなく『聖神の信条』のおかげだろう。

「けど、デメリットがなぁ。武器が装備できないってのはきついよな」

『聖神の信条』は死なないという強すぎる能力のせいか、デメリットとして武器を所持できないというものがあった。攻撃まで縛られるわけではないため、魔法を主体として戦う者であればそれでもよかっただろう。だが、鈴鹿のように魔鉄パイプなどの武器を使う探索者からしたら絶望的なデメリットだ。特に、鈴鹿はソロ活動である。ルノアのように仲間に攻撃を頼ることもできないため、なかなか厳しいデメリットであった。

おかげで 猿猴(えんこう) と戦う時も素手で戦う羽目になり、何度殴った衝撃で拳が壊れたことか。 猿猴(えんこう) は硬すぎてダメージが入っていなかったため、殴った鈴鹿の方がダメージが大きかったほどだ。

「まぁ、この辺も聖魔法使えれば解決するか。守護で拳を護って、加護で攻撃力強化すれば行けそうだな。……行けそうなんだけど、これを見ちゃうとちょっと考え物だよなぁ」

そう言って、鈴鹿はスキル欄を改めて見てみた。

能力:剣術(5)、体術(1⇒7)、身体操作(5⇒7)、身体強化(6⇒7)、魔力操作(6)、見切り(1⇒5)、強奪、聖神の信条、毒魔法(1)、思考加速(2⇒4)、魔力感知(2)、気配察知(4)、気配遮断(2⇒4)、状態異常耐性(2⇒6)、 精神耐性(new) (6)、 自己再生(new) (7)、 痛覚鈍化(new) 、 暗視(new) 、マップ

「スキルレベル7が4つもあるよ。体術なんて1だったのに、もう7じゃん。やばすぎだろ」

猿猴(えんこう) と戦ううちに動きのキレが格段に良くなっていたのは、鈴鹿が素手の戦いに慣れただけでなくスキルが影響していたのだろう。ずっと使い続けてスキルレベルが上がっていた剣術を追い抜いてしまった。

成長型のスキルは、超えることが難しい壁が3つ存在している。3から4、6から7、9から10。この壁を超えることは非常に難しく、特にスキルレベル7以上は中堅探索者ですら所持していない者が圧倒的に多いほど、その壁は厚い。下手なユニークスキルよりも、スキルレベルが7を超えるコモンスキルの方が価値があるとまで言われているほどだ。

スキルレベル1~3は中級者レベル。守破離で言えば守だ。スキルが行動をアシストしてくれることで、実力以上の力が発揮できる。

スキルレベル4~6は上級者レベル。守破離の破だ。その道のトッププロと同程度の力を発揮することができる。このスキルレベルがあれば多くのモンスターに対応できてしまうため、ここからスキルレベルを上げる難易度がかなり高いと言われている。

そして、スキルレベル7~9は達人レベル。守破離の離だ。もはや流派が立ち上がる程の力で、レベルやステータスに開きがあっても覆すことができる強さを持っている。鈴鹿がレベルやステータスで大きく劣る 猿猴(えんこう) の攻撃を捌けたのも、スキルレベル7の恩恵を受けていたためだ。

スキルレベル10は、もはや語れるレベルではない。ユニークスキルを超える力を持っており、隔絶したスキルとも言われている。コモンスキルであろうとも、極めれば最強へと至れる希望の星だ。

そんなスキルレベルの格付けがある中、鈴鹿は体術、身体操作、身体強化、自己再生の4つのスキルでレベル7を達成していた。

「体術も身体操作・強化も、 猿猴(えんこう) と戦うために必要だから伸びたって感じだよな。いや、すげーわ」

この3つのスキルがレベル6の壁を超えたことで、ようやく 猿猴(えんこう) の攻撃を捌けるようになったのだろう。それでも 猿猴(えんこう) の攻撃すべてを捌くことはできていないのだから、 猿猴(えんこう) の強さが窺える。

自己再生は言わずもがな。『聖神の信条』によって自動で回復してくれるのだが、あまりにもボコボコにされ過ぎて別のスキルとしても発現したようだ。調べてみてもヒットしなかったので、恐らくユニークスキルだろう。

普通なら死んでる攻撃を何千回と受け続け、その度に死ななかったためスキルレベルが7へと至ったのだろう。このスキルを発現しようとすれば、高レベルの回復魔法の使い手がそばにいなければ命がいくつあっても足りなそうだ。発現している者は鈴鹿の様な不死身に近い存在か、ただの戦闘狂だろう。

「他に新しく覚えたスキルは、精神耐性に痛覚鈍化と暗視か。途中からあんまり痛くなくなったのは、痛覚が麻痺してたからじゃなかったか」

ハイになりすぎて痛覚がイカれていたのかと思っていたが、スキルによる恩恵だったようだ。こちらはタンク職に稀に発現するレアスキルのようだが、痛みを無視して行動したことで重大な後遺症を残すこともあるらしく、諸刃の 剣(つるぎ) のスキルであった。

精神耐性はなんで発現してるかわからないが、何か恩恵があるのだろう。気が狂いそうなほど殴り殺されてたから、精神を護ってくれていたのかもしれない。

暗視は昼夜問わず薄暗い森の中で戦っていたから覚えたのだろう。ダンジョンに泊るようになってから、暗視のスキルを得るために暗い中も頑張って戦っていたのだが、ここにきて花開いたようだ。暗視はかなり有用なスキルなのでありがたい。

「全然上がらなかった思考加速と見切りが上がったのはかなり嬉しいな。めちゃくちゃ恩恵ありそうだし。 猿猴(えんこう) の攻撃避けれたのも、この辺の影響もありそうだよな」

かなり有用なスキルが軒並みレベルが上がっている。それでも 猿猴(えんこう) に勝てないのは、やはりレベル差が凄まじいからだろう。

鈴鹿のレベルは52。片や 猿猴(えんこう) は120だ。少しばかりスキルが強化された程度では埋められない溝が存在していた。

「てか、レベルが1つも上がってないのにこれだけスキルレベルが上がってるって凄いよな。……ここが 分水嶺(ぶんすいれい) な気がする。ちょっと考えるか」

上がったな、やったーで終わらすのはあまりにもったいない。いつも直感の赴くまま行動している鈴鹿も、さすがにこれは分析した方が良いと判断したようだ。

「まずスキルの有用性は言わずもがなだ。これだけスキルが充実したからこそ、 猿猴(えんこう) と戦えたんだ。初めなんて攻撃すら速すぎて見えなかったくらいだし」

レベルもステータスも重要なのは当然だが、同じくらいスキルは重要だ。スキルの差で勝敗が分かれることも多いだろう。現に 猿猴(えんこう) との戦いでは、鈴鹿はレベルもステータスも変化してないが、スキルが成長したことで 猿猴(えんこう) と多少なりとも張り合うことができていた。

「それに他の探索者と揉めた時、警戒するのはスキルとアイテムだよな。それ一つで戦況がひっくり返るなんてあるあるだろうし」

『聖神の信条』含め、強力なスキルは戦況を大きく左右するだろう。アイテムもそうだ。たとえレベルが劣っていても、エリアボスのドロップ品のような強化アイテムがあればステータスを覆すことだってできる。

むしろ、スキルやアイテムは相手の意表を突けるという意味で、レベルよりも重要度は高いかもしれない。まぁ、レベルを相手にわざわざ開示することは無いので、程度の差ではあるが。

「たしか、スキルレベルが上がるのは修練の果て、もしくはそのスキルを渇望したとき、だったよな」

前に調べた時に書いてあったことだ。

例えば、八王子探索者高校に通う Parks(パークス) のメンバーを参考にしてみよう。Parksの戦い方はモンスターの攻撃を受け止め、動きが止まったモンスターに一撃入れて引く、というヒット アンド アウェイ方法だ。この方法はParksに限らず、多くの探索者が取り入れている方法でもある。

この方法で戦っているParksの剣術レベルは、せいぜい3だろう。

それは当然だ。一撃入れるだけならば、これ以上のスキルレベルが必要ないからだ。

同じ行動の繰り返し。安全マージンを取るが故に、スキルの成長を必要としない戦い方になっているのだ。

だからこそ安全に安定して探索を行えるのだが、スキルの上達にはつながらない。以前遭遇したモンスタートレインの様に、強制的に成長を促されるような状況に陥らない限りスキルは成長しないだろう。

一方、鈴鹿の剣術レベルは5。エリアボスである 水刃鼬(すいじんいたち) と正面から切り結んだり、4区の 灰刃蟷螂(かいじんかまきり) 2体相手に立ち回る戦い方は、必然的にスキルレベルが求められてくる。

鈴鹿が意識的にも無意識的にも望むからこそ、スキルが成長しているのだ。

リスクを負うからこそリターンを得られる。安全を天秤にかけたからこそのスキルレベルだ。ヒット アンド アウェイで戦っている探索者と同じスキルレベルな訳がない。

「つまり、リスクを取れば取るほどスキルレベルは上がりやすい……ってコト!?」

ダンジョンはリスクを取って挑む者に相応のリターンを与えてくれる。ステータスであったり、スキルであったり、アイテムであったり。

育成所のようにレベルの高い教官と共に拳銃を持ってレベル上げを行えば僅かなステータスしかもらえないし、逆に金属バット片手に一人でダンジョンに挑めば高いステータスを得ることができる。

レベル52がレベル120のエリアボスに挑むということは、リスクが高いというよりも無謀な挑戦だ。だからこそ、それを達成させるためにスキルが応えてくれているのかもしれない。

「けど今の俺って不死だよ? 死なないんだからリスクゼロじゃない? 違うの?」

ダンジョンでのリスクというのは、命に直接関わってくる。無理してエリアの深い場所に行けばモンスターに囲まれて死んでしまうし、強敵と戦えば戦闘が長引いて他のモンスターとの連戦に繋がるかもしれないし、攻撃を一撃でも受ければ場合によっては即死だってあり得る。

自分の命を秤にかけるからこそ、強力なリターンが得られるのだ。

その法則から言えば、『聖神の信条』はどうなのだろうか。無謀な挑戦をしても、ミスをしても、決して死ぬことは無い。天秤にかけられるのは命ではなく、ただの痛み。果たしてそれはリスクを取っていると言えるのだろうか。

「でもスキルレベルめっちゃ上がってるんだよなぁ」

だが、現に鈴鹿のスキルは向上していた。強敵に挑み続けたことで、鈴鹿のスキルは成長しているのだ。

『聖神の信条』を発現した状態で今までみたいに4区を探索してレベル上げをしても、変わらず高ステータスが加算されるかはわからない。もしかしたらそれは、リスクが減ったとカウントされるかもしれない。

だが、『聖神の信条』はスキルであり取り外しができない。このスキルが発現したことでステータスが上がりにくくなってしまうと、鈴鹿としてはどうしようもない。唯一の対抗策は、強力なスキルでステータス差を埋めることだけだ。

「ま、少なくともこのスキルの成長を見る限り、 猿猴(えんこう) 相手なら十分リスクを取ってるって判断されるんだ。それなら、このレベルのまま 猿猴(えんこう) をぶっ倒せばいいだけだな」

そこで問題になってくるのが聖魔法を使うかどうかだ。聖魔法を使えば今の状態でも 猿猴(えんこう) を倒せる可能性は高い。だが、はたしてそれでいいのだろうか。

「……良くないよな。成長の芽が潰れる気がしてならない」

これから先、鈴鹿のスキルが成長しなかったとしても、極められた聖魔法と不死がある限り十分強くなれるだろう。だが、その他のスキルを成長することができる余地がありながら、その可能性を潰してしまうのはあまりにももったいない。

「死ぬような状況で頑張ってるからスキルレベルが上がってるなら、聖魔法使って死ななくなればスキルの成長は止まる。なら、聖魔法は封印するべきだ」

せっかく覚えた聖魔法は使いたい気持ちもある。だが、奥の手として隠し持っておくのも、それはそれで楽しそうだ。追い詰められた鈴鹿が、聖魔法ですべてをひっくり返す。その光景には厨二心がくすぐられる。

それなら、年末の時と同じ状態。レベルも変えず聖魔法も使わずに 猿猴(えんこう) を倒す。今回はタイムリミットのせいで退いたが、時間が許すならあのまま 猿猴(えんこう) を倒すまで戦い続けたかった。どれだけ時間がかかるかわからないが、レベル52の状態で 猿猴(えんこう) を倒せれば尻尾を巻いて逃げたという事実も消える。

どのみち 猿猴(えんこう) は倒す予定だったんだ。それがスキルの上達にも繋がるのならば、喜んで戦おう。

普通は武器も持てず魔法も満足に使えないなら、エリアボスに挑むことはしない。せっかくエリアボスである 猿猴(えんこう) から逃げることができたというのに、再度挑みに行くなど狂人だ。

だが、鈴鹿は狂人であった。武器が持てないなら殴ればいいじゃない、とヴァイオレンスなマリーアントワネットなのだ。

「待ってろよ。次こそ3つの顔全て恐怖で歪ませてやる」

まるで悪役のようなセリフを呟きながら、鈴鹿の探索方針が決まった。