軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話 Parks

探索者高校ではダンジョン探索する場合、6人での探索を推奨している。もちろん前後することはあるが最低でも4人、最大で8人までのパーティ作成を必須としている。

ダンジョン探索の前には、パーティ申請を学校に提出する必要がある。もちろん解散しても追加でメンバーが増えても問題ないが、パーティでの探索が絶対とされていた。

ダンジョンは危険なため、少人数では危険だからというだけではない。本質的な狙いは探索者としての協調性を養うための措置だ。

ダンジョンは決して一人では戦えない。敵を引きつけ攻撃を受け持つタンク役がいれば戦闘はより安全になり、敵をいち早く見つけるレンジャーがいれば不意打ちを受けることは無くなり、人数がいれば強力な敵でも味方同士で スイッチ(入れ替わり) して連続で攻撃することができ、魔法を使えれば多くの敵にダメージを与えることもできる。

個が突出していても周りのフォローがなければ輝くことはできず、逆に周囲と連携できれば並みの能力でも強力なモンスターと渡り合うことができる。

この教えは、探索者高校に通う者ならば誰しもが耳にたこができるくらい聞かされた内容だ。

八王子探索者高校3年生 陵南(りょうなん) も、例によって6人組パーティ『 Parks(パークス) 』を組んでいた。そんな彼らは1層3区へ向かっている。

「3区に入るぞ」

「やっぱ3区は緊張するよな。地形がちょっとうねってるだけで、ここまで厳しいもんかね」

陵南の言葉に、 富士森(ふじもり) が続いた。彼らはすでに3区での探索を行っており、地形変化による影響をじかに感じていた。

「だよな。モンスターも見つけにくいし」

「丘上がったらすぐ近くに序ノ口蛙いた時はクソ焦ったよな」

小宮(こみや) と 長沼(ながぬま) も同意する。今はできるだけ平らな場所やなだらかな場所のみを探索しているが、初めの頃は見晴らしが良いところを求めて丘上に上り、突発的な戦闘に陥ったことがあったのだ。

「あれが 狂乱蛇擬(きょうらんへびもどき) じゃなくてよかったよね」

「ほんとにね。狂乱蛇擬はまだ苦手……」

戸吹(とぶき) と 上柚木(かみゆぎ) が狂乱蛇擬を想像したのか嫌そうな顔をしている。狂乱蛇擬の痛みを度外視して襲い掛かる生物的とは言えない狂った行動は、戦う者の精神を削るのだ。

Parksはすでに狂乱蛇擬も倒しており、3区で出現するモンスターはエリアボス以外全て倒すことができていた。2区では一角兎・疾風兎を避けるべきと探索者高校で周知されているが、3区で避けるべきモンスターはエリアボスのみだ。

3区でも狂乱蛇擬のような強力なモンスターや、 岩石土竜(がんせきもぐら) という土魔法を多用する堅い外皮に覆われた土竜がいるが、対策を十分にすれば倒すことができる。彼らはすでにその壁を乗り越えており、夏休みまでに2層へ上がれるよう3区でレベリング兼アイテム集めを行っていた。

2区同様、3区でも防具を落とすモンスターがいる。探索者の多くは次のエリアに進む際、①そのエリアで上げられるレベル限界に達している、②防具シリーズのコンプリートやそのエリアで欲しいアイテムを手に入れた、の二つを満たしているかで判断している。

特に②のアイテムを得られているかがかなり重要になっている。というのも、ダンジョンではレベル差があると、モンスターを倒してもドロップ率が圧倒的に悪くなるという仕様があった。

そのため、次のエリアに進んでしまえばレベルも上がってしまうため、『やっぱあれ欲しかったな』というのが難しくなってしまうのだ。鈴鹿が 希凛(きりん) から緑黄狼の防具を交換したのは、そのような背景があったからでもあった。

Parksは探索者高校3年生の中で優秀な成績を納めているパーティだ。夏休みまでに3区探索を終えられれば、秋に行われる探索者ギルドへの就活は安泰だろう。

「境界近くにはいないな。いつも通りのルートを進みながら索敵していこう」

リーダーである 陵南(りょうなん) が指示を出してゆく。Parksは男6人で構成されたパーティだが、メンバー全員が気の良い者たちだ。

探索者高校ではステータス上昇の恩恵を受けたことで、気が強くなる者たちが一定層いる。鈴鹿が以前締め上げた者たちがその典型的な例だが、多かれ少なかれレベルの低いものを見下したり探索が遅い者たちを馬鹿にしたりする者はいた。

高校生などそんなものと言えばそれまでだが、彼らは分不相応な力を手にしてしまっているため質が悪い。探索者高校ではParksのメンバーの様な性格に 醸成(じょうせい) するべく、常日頃カリキュラムを見直し倫理観の徹底に注力していた。

「そういえば、 陸前(りくぜん) 先輩の妹、疾風兎狩ってるんだって。聞いた?」

「聞いた聞いた。zooってパーティだろ?」

「やっぱりあそこの家系は凄いよねぇ」

zooのリーダーである陸前 希凛(きりん) には 歌凛(かりん) という姉がいる。歌凛は昨年八王子探索者高校を卒業しており、八王子探索者高校では超が付くほどの有名人だ。

一個上の先輩ということもあり、彼らにとっては希凛よりも姉である歌凛の方が馴染みがあった。

「2区のエリアボスにも挑むんじゃないかって盛り上がってたよ」

「 新緑大狼(しんりょくたいろう) って全体攻撃もバンバン使ってくるって言うじゃん。よく挑むな」

2区には 兎鬼鉄皮(ときてっぴ) もいるが、歌凛ですら戦うことを避けた兎鬼鉄皮と戦う者がいるなんて彼らの頭の中にはなかった。

「凄いが、俺たちの目指すべき探索者とは違う」

陵南の言葉に、他のメンバーは目を見合わせ笑った。

「そうだな。俺たちは俺たちの探索をしよう」

Parksは優秀な探索者だ。学年でもトップを争うほどの実力を持っている。そんな優秀なParksは、優秀ゆえに苦悩してきた。

探索者ならば誰もが目指すのが、一級探索者になることだ。探索者高校に入学した生徒にとって、特級ははるか上過ぎてなれたらいいなぁくらいに 留(とど) まるが、一級は自分でもなれるかもしれないと夢見るランクでもあった。

しかし、大概はすぐにその夢も 潰(つい) える。それは実際にダンジョンに入りモンスターと戦った時か、他のクラスメイトと自分を比較した時か。いずれにせよ、自分が目指すべきレベルを否応なく突きつけてくるのがダンジョンであり、ステータスによる可視化だ。

ある程度レベルが上がれば、そこから自分がどれくらいレベルを上げることができ、どれくらいで成長限界が訪れるかが予想できてしまう。

というのも、現在のレベルとステータスから、1レベル上がるごとに加算されているステータスの平均が割り出せる。そうすれば、おのずと〇レベルではステータスがこうなっている、と計算できるのだ。そして、今までの探索者のデータから、各エリアに求められるステータスというのも、またわかってしまう。

そうなれば、このまま探索を進めていけばどのエリアまでは探索することができ、自分は〇レベルで成長限界を迎えるだろう、ということがわかるのだ。それはとても非情であり、1層3区とまだまだ序盤のエリアを探索している彼らに、否応なく現実を突きつけてしまう。

もしかしたら一級探索者に成れるかもしれない。そんな若者が抱く夢すら見させてくれないのが、ダンジョンであった。そして、その現実を受け入れられず挽回しようと無理をすれば、すぐに死んでしまうのがダンジョンという場所でもある。

何故ならステータスとはレベルアップ毎に変動するため、ステータスを盛るために毎回レベルアップ時に最大値を所望した場合、相応のリスクをとる必要があるからだ。

1度ならば成功するかもしれない。運が良ければ数度成功するだろう。だが、それを100レベルまで続けられるかというと、無理だと言わざるを得ない。

特にダンジョン探索はパーティを組んで行うため、そのリスクを仲間にも押し付けなくてはならず、その選択を取ることすら難しい。

だが、Parksは違った。本気で一級探索者を目指し、死に物狂いで 親分狐(どんぎつね) まで倒すことができた。ステータスの伸びも良く、一級探索者も目指すことができるステータスであった。

しかし、リスクを取り過ぎた。2区で十分なレベル上げが済んでない中、緑黄狼の群れと戦ってしまった。

緑黄狼は防御力も高く素早いため戦闘に時間がかかってしまい、別の群れにも合流されてしまったのだ。ここで逃げ出していればモンスタートレインを引き起こし命はなかっただろうが、彼らは探索者高校でモンスタートレインの危険性を教えられていたため、逃げ出さず自分たちの倍近いモンスターと戦うことを決めた。

その結果、総数10匹の緑黄狼と戦ったParksは、死闘の末生きて帰ることができた。

当然無事ではない。全身傷だらけで出血もひどい状態で、死んでもおかしくない状態だった。たまたま回復魔法を使える三級探索者のパーティが通りかかったため、一命を取り留めたにすぎない状態だった。

回復魔法によって命を繋いだが、全快するわけではない。一ヶ月以上の療養を経てダンジョンに入ったParksが直面したのは、恐怖との戦いだった。

身体の怪我は治っても、心の傷は簡単には癒えない。そのせいで探索もうまくいかず仲間内で揉めることも多かった。

それも、まだステータス的には一級探索者を目指すことができるレベルだったことが大きい。安全にレベルを上げる方針に変えれば、確実に強くは成れるが一級探索者には届かない。かといってまたリスクを取って探索していけば、次は確実に死んでしまうかもしれない。

全員が全員苦悩し、葛藤し、苛立ち喧嘩もした。各々の思いを吐き出せるだけ吐き出し、どんな選択をしても絶対後悔するとわかりきっている中、彼らは一級探索者を諦める道を選んだ。

元々優秀だったこともあり、方針が決まれば後は早かった。しっかりと小鬼や鬼を相手にレベルを上げ、新緑狼とも再戦を果たした。今でも学年で一、二を争う実力を維持している。それは 偏(ひとえ) に彼らの努力のたまものであった。

「生きて帰ってこその探索者だよね」

「そーそー。陸前姉妹はすごいし尊敬するけど、陵南の言う通り俺たちは俺たちだな!」

彼らは一級探索者を諦めたことで、堅実な方針へ変更した。ダンジョンは進めば進むほどモンスターも強くなってゆく。リスクを極端に減らし、自分たちの成長限界まで確実に生きて帰ってくる。

それが彼らが掲げる今の探索方針だ。

実際、ギルドにとってはそういった人材は得難い。探索者が死ぬことがギルドにとっての何よりの損失になるため、自分たちの力量を見極め、ちゃんと引くことができる探索者は重宝されるのだ。

「お! 陵南! モンスターいたぞ」

長沼が指さす方を見れば、 球月蛇(たまつきへび) と 種砲栗鼠(しゅほうりす) がいた。

球月蛇は灰色の大蛇で、自身の身体を丸めて球のような形をしているモンスターだ。

狂乱蛇擬ほど大きくはないが、それでも丸まった姿はバランスボールよりも一回り二回り大きいサイズをしている。

もう一体のモンスターである 種砲栗鼠(しゅほうりす) は、カピバラ程度のサイズをした小さ目のモンスターだ。ふさふさな体に大きな尻尾が愛くるしいが、3区のモンスターのため野生動物とは比較にならない凶暴な性格をしている。

「俺と富士森、戸吹は球月蛇。小宮、長沼、上柚木は種砲栗鼠を頼む」

陵南が指示を出す前から、5人は陣形を整えていた。何度も相対している敵だ。陵南が指示せずとも、最適解は各々が判断できる。

陵南と富士森は大きな盾に長剣を持ったタンク。小宮と長沼は取り回しが容易なサイズの盾に片手剣。戸吹と上柚木は槍を装備している。

球月蛇は素早さは低いがその分攻撃力と防御力が高いため、陵南と富士森が抑え込む。逆に、種砲栗鼠は素早く逃げ回るため、小回りが利く小宮と長沼が受け持つのだ。

陣形を保ったままゆっくりと距離を詰めてゆく。丘の多い3区だが、隠れて奇襲できるような障害物があるわけではない。どうしたって正面衝突を避けることはできないのだ。

「球月蛇が動いてから散開だぞ」

「わかってるって陵南。すぐにリス仕留めて加勢するよ」

小宮が軽い口調で返事する。何度も戦っている敵だが、一つのミスが事故につながるのがダンジョンであるため、わかっていると思いながらも陵南はあえて口にする。それがリーダーとしての務めだからだ。他のメンバーもそれを鬱陶しいとは思わず、逆にまじめな性格の陵南だからこそ彼らも安心して指示に従えるのだ。

Parksは位置取りを調整しながら、モンスターに接近した。ちょうど手前に球月蛇、後方に種砲栗鼠が来るような位置取りだ。

鎌首をもたげて威嚇していた球月蛇と睨みあうParks。陵南が一歩踏み出すと、球月蛇は飛び出していた頭を収納するように身体に押し込み完全な球になった。

「来るぞッ!」

陵南と富士森がカイトシールドを構え腰を低くする。直後どういう原理で加速しているのか不明だが、球月蛇が速度を上げParksに向かって転がってきた。

「「っく!!」」

球月蛇は相当な重量があるのか、衝突を受けた二人が後ずさりするほどだ。しかし、盾がはじかれることはない。

動きが止まった球月蛇に向かい、即座に戸吹が二人の間から槍を差し込む。完璧に入った攻撃だが、表面の鱗が邪魔をしてかすり傷を負わせるだけにとどまった。

陵南と富士森も攻撃しようとするが、ボール状の身体の隙間から頭が飛び出して嚙みつき攻撃を繰り出してきたり、上空から尻尾が振り下ろされたりするため、防御優先の立ち回りをしている。二人が完全に球月蛇の攻撃をシャットアウトし、その陰から槍で確実にダメージを与えていくのが彼らの戦法だ。

一方3人が戦闘を始めたと同時に、小宮たちも種砲栗鼠へ向かって駆けだしていた。種砲栗鼠は球月蛇と違い、遠距離攻撃を多用するモンスターだ。

種砲(しゅほう) という名の通り、謎の巨大な種を口から砲撃のように吐き出して攻撃をしてくる。種の大きさは野球ボール程度で、吐き出される速度はプロ野球選手並みの150キロオーバーだ。そんな種砲をちょこまかと逃げながら繰り出してくるのが種砲栗鼠である。

だが、ステータスが上昇している小宮たちは、臆することなく種砲栗鼠へ向かってゆく。槍を持つ上柚木を庇う様に、小宮と長沼が先頭を走る。

球月蛇の援護射撃をしようとしていた種砲栗鼠だが、自分に向かって駆けてくる小宮たちを発見し、そちらに向かって種砲を連射する。だが、そのことごとくを二人は盾を使って弾いていった。

150キロを超える種は脅威であるが、ステータスが上がり動体視力も上がっている二人にとって、盾で防ぐだけならそこまで難しいことではない。だが、種砲栗鼠は二人の距離が近づくと一角兎もかくやという程の速度で離れると、距離が開いたのを確認し再度種砲を撃ってくる。

速度で負けているParksのメンバーでは、種砲栗鼠を仕留めるためには徐々に徐々に囲んで追い詰める必要があり、危険度は少ないが時間がかかるモンスターなのだ。

何度目とも知れぬ追いかけっこの末、長沼の背後から上柚木が飛び出し、リーチの長い槍でようやく種砲栗鼠に傷を負わせることができた。そうすれば、後は囲んで叩くだけ。最後のあがきの噛みつき攻撃を小宮が切り伏せれば、種砲栗鼠は煙となってParksのメンバーに吸い込まれていった。

「陵南達は?」

「あっちももう終わりそうだよ」

上柚木が言う通り、小宮が陵南達の方を見てみれば傷だらけの球月蛇の攻撃を危なげなく防いでいる陵南達がいた。富士森が振り下ろした剣が深々と球月蛇を切り裂けば、球月蛇もたまらず煙へ姿を変えた。

「お疲れ~。球月蛇の討伐速度上がったんじゃないか?」

「お前らもお疲れ。種砲栗鼠は相変わらず倒すのめんどくさそうだな」

各々 労(ねぎら) いながら給水やドロップ品の確認をする。ドロップアイテムは各自の収納に現れるため、一日の売り上げは個人によって差が生じる。

信頼関係の構築されたパーティであればアイテムを申告し、売り上げを頭割りすることもある。Parksはパーティとして長く2区での挫折を経て深い絆で結ばれているため、アイテムはパーティ管理することにしていた。そうすることでパーティの活動資金にも充てることができ、必要な道具はここから捻出している。

「さっき上柚木が弱音吐いてたから、今日は狂乱蛇擬を狩るまでは探索するとしよう」

「ちょ! ちょっと苦手って言っただけじゃん!」

「苦手なら克服しないとな。さ、そろそろ行くか」

「待ってよー!」

命がけで未知の領域を探索する探索者から、確実に生き残ってアイテムを持って帰る職業としての探索者。彼らは前者を夢見て、苦渋の決断として後者を選んだ。

だが、彼らの顔は晴れやかで、充実感すら感じることができるのだった。