軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話 ヤスたちとご飯

八王子ダンジョン1層2区。草原広がるこのエリアで、探索者高校の生徒でもない者たちが戦いを繰り広げていた。

「 緑黄狼(りょくおうおおかみ) が5体ですね」

「正面は 陣馬(じんば) 、俺が火魔法で一撃入れるから、横に逃れたやつらをかえでちゃんと斎藤さんが受け止めて」

斎藤の報告に、ヤスが3人へ指示を出す。斎藤の言葉通り5体の緑黄狼がヤスたちに標的を定め、駆けていた。対するヤスたちは4人。人数差では不利であるが、しかしヤスたちは一切慌てない。彼らにとって緑黄狼は恐れる必要のないモンスターと思える程度には、戦ってきていた。

ヤスが魔力を意識し、先頭を走る緑黄狼に狙いを定める。

「ファイヤーボール!!」

ヤスの声と共に放たれた火の玉が、容赦なく緑黄狼を焼いてゆく。 弾(はじ) けて広がった火が後ろの緑黄狼たちにも襲い掛かるが、大したダメージは期待できない。直撃した緑黄狼は熱さに耐えかね、なんとか火を振り払おうと転げまわっていた。

そんな緑黄狼を避けるように、正面に二体、左右に一体ずつ展開した。正面のうちの1体、転がる仲間を飛び越えた緑黄狼に向かって、陣馬が大きな金棒を振り下ろしていた。緑黄狼はまずいと思い何とか攻撃に移行しようとするが、苦し紛れに振り上げた前足ごと陣馬の金棒が叩き潰した。

かえでは陣馬のように初撃からハルバードを大振りで振るうことはしない。陣馬はタイミングを読むことがうまく、ここぞという時に踏み込む大胆さがあった。かえでも前に出る勇気は持ち合わせているが、初撃からリスクの高い大振りの選択が取れるほどまだ自信を持ててはいない。特に緑黄狼は防御も高い上に素早さもある。攻撃を外してもヤスがフォローしてくれるという安心感はあるが、賭けに出るような場面でもない。

そう判断し、かえでは展開した緑黄狼の脚を刈り取るように下段を攻め立てる。緑黄狼はそれを下がって回避するが、それはかえでの狙いでもあった。ハルバードというリーチの長さを活かし、かえでは緑黄狼に近づけさせないまま、一方的に攻め立ててゆく。

そんなかえでの反対の位置では、斎藤が魔鉄パイプを振り回していた。狼という肉食動物ががむしゃらに攻撃してくるという恐怖に一切動じることなく、か細い手のどこにそんな力があるんだと思えるような威力で緑黄狼の顔面を殴打する。相当な威力の攻撃だが、緑黄狼は硬質な毛で覆われた防御力の高いモンスター。それだけで倒されることは無いが、斎藤は『それなら倒れるまで殴ればいいですね』と緑黄狼を殴り続ける。

斎藤から逃げようとしても追従し、噛みつこうとすれば横っ面を殴り、前足を振り上げれば手癖が悪いと魔鉄パイプが飛んでくる。緑黄狼は何もできず、キャゥンと吠えながら黒い煙へと変えられた。

フリーになった斎藤と、火魔法によってダメージを受けていた緑黄狼に止めを刺したヤスが、陣馬が押さえていた最後の一匹に集中する。多勢に無勢。あっさりと、5体いた緑黄狼が片付けられてしまった。

「ん~~! 緑黄狼だとサクッと倒せちゃうねぇ!」

かえでが伸びをしながら、戦った感想を伝える。緑黄狼が相手でもやりたいことはまだまだあるが、そろそろ次を見据えても良いのではなと思っていた。

「かえでちゃんの言う通り、少し物足りなく感じますね。予定では夏休み中にエリアボス戦でしたが、テスト明けすぐでもいいかもしれません」

「それでもいいくらいだな。疾風兎の装備集めたかったけど、俺らにはジャージもあるし粘る必要もないか」

「そうだな! テスト明けたらエリアボスに挑んでもいいかもしれん!」

今は6月中旬。もうすぐ一学期の期末テストがあるため、ダンジョン探索は今日でいったんお終いとなる。ヤスたちが通う高尾高校は都内有数の進学校であり、彼らは探索者を目指している訳ではないためきちんと学業を優先していた。それでも予定よりも早く1層2区のエリアボスに挑むことができそうなほど、順調に進んでいる。

ヤスは疾風兎の装備が欲しかったようだが、それは防具として使うというよりも、コレクターズアイテムとして欲しいという意味だ。ヤスたちは鈴鹿に武器と防具を買ってもらっているため、1層2区なら十分このジャージで戦っていける。ヤスはダンジョンに興味があるためアイテムも集めたいが、それで探索を遅らせるのは本意ではない。

「じゃあテスト勉強しながらエリアボス対策もしないとだね!」

「エリアボスがどんな相手だったか、今日鈴鹿様に聞いてみましょう」

「 定禅寺(じょうぜんじ) との約束までまだ時間あるな。あと1、2回戦うか!」

「なら疾風兎狙いで行こうぜ。鈴鹿にお土産に一角兎の肉も上げたいし」

今日はダンジョン探索が終わった後、チームヤス皆で鈴鹿とご飯を食べる約束をしている。場所は八王子駅前なので、探索者協会からすぐだ。いつもより早めに切り上げる予定だが、時計を確認した陣馬がまだ時間があるという。

ヤスの提案を否定する者はおらず、じゃあ兎狩りだー!と歩き出そうとした時、斎藤が動きを止めた。

「どうしたの穂香ちゃん」

「静かに。遠くで何か聞こえました」

斎藤が見据える先はダンジョンの入り口とは反対の奥側。3区や4区、そして5区がある方向だ。斎藤は四人の中でも直感がさえるため、皆して斎藤が見ている方向を確認する。

「光った! 今向こうで光ったよね!?」

「光ったな。蒼かったぞ!」

「蒼い光? ……火かな?」

「 安藤(あんどう) 君。火魔法を使うモンスターに心当たりはある?」

「……ない。少なくともエリアボス含めて1層3区までには出てこないはずだけど」

魔法を使うモンスターはいる。だが、火魔法はいないはずだ。となると、さっきの光はもっと先の4区以降で起きた可能性があった。普段探索者が訪れない4区で。それは通常モンスターによるものなのか、はたまたイレギュラーな存在によるものなのか。

「皆、今日はもう戻ろう」

ヤスが即座に判断する。ダンジョンで違和感を感じたら最大限警戒すべき。警戒し過ぎがちょうどよい。何事も無ければ笑い合えばいいだけなのだから。

「そうだな。ユニークモンスターという線もある」

「かなり距離があるけど、音も聞こえる。それだけ激しい戦闘がされてるということです」

「今日は鈴鹿君とご飯行く予定もあるし、遅刻しちゃまずいしね! ちょうどよかったと思いましょう!」

他のメンバーもヤスに同意し、四人はダンジョンの入口へと引き返すのだった。

八王子や立川に展開するローカルお好み焼きチェーン店。食べ放題ながら安く、味も美味いため学生でも気軽に利用できるそんなお店に、鈴鹿とヤスパーティは集合していた。

「久しぶり鈴鹿君! お好み焼き楽しみ!!」

「鈴鹿よくいろんな店知ってるよな。やっぱ稼いでると外食とか多い?」

「あ~、遠出したら外食ばっかだな。八王子だと基本家でご飯食べるけどね」

高校一年生のヤスたちにとって、外食と言えばファミレスが一番最初に出てくる。だが、鈴鹿と会う時はカフェだったりお好み焼き屋だったりと、高校一年生になり立てで気軽に行くようなお店ではない場所が多い。値段はあまり変わらなかったりするのだが、行ったことのないお店というのは躊躇するものだ。

鈴鹿はタイムリープ前は30歳だったため社会人としてもそれなりに生きていたので、カフェどころか赤ちょうちんだって気にせず入れる。高知ではそんなお店でカツオを食べたりもしていた。

なんか大人っぽいと一目置かれているが、こんなことで驚かれるとはと苦笑する。ただ中身がおじさんなだけなのだ。

「みんなは最近どんな感じ?」

「今は1層2区で頑張ってるよ。みんなレベル10の後半だし、そろそろエリアボスに挑戦しようぜって話してたとこ」

「おお! いよいよ! これは景気づけにお好み焼き腹いっぱい食べてもらわなきゃ!」

陣馬と鈴鹿がお好み焼きを焼きながら、ヤスたちの探索の様子で盛り上がる。

「鈴鹿様。魔鉄パイプへの魔力の流し方なのですが、工夫してることとかありますか?」

「工夫? あ~、斎藤くらいのレベルの時は、常にスキルを使うように意識してたな。ここぞという時じゃなくて、スキル使いまくって無意識でもスキル使えるようにって」

1層3区の双毒大蛇のドロップアイテムが出るまでは、鈴鹿は魔法を覚えていなかった。そのため、魔力の使いどころは身体強化や武器の強化くらいだ。魔力に慣れるために、常に魔力を流して魔力を使う感覚を意識して戦っていた。

「ハルバードってリーチもあって一撃も強力だけど、大振りしたら隙だらけになるし、槍みたいに素早い突きが難しいんだよね……。鈴鹿君ならどんな風に扱う?」

「ハルバードかぁ。カッコいい武器だよね。多分ぶんぶん振り回すと思う」

ハルバードの一撃の重さは鈴鹿的にも魅力的で、 羅刹(らせつ) の杖にするか淵の番からドロップした 練魂斧槍(れんこんふそう) というハルバードにするか迷ったものだ。

「え~! それだと避けられたらピンチじゃない?」

「ピンチだね。でも俺はそうやって戦いたいし、多分そうすると思う。で、ダメだったらダメなところ直したり、もっと早く振り回せるように身体強化のスキルを鍛えるかなぁ。結局、自分がしたいことをした方がいいと思うんだよね。リーチ活かして最後の止めに大振りで仕留めるのも全然ありだし、全て薙ぎ払うみたいなぶんぶん振り回してもいいと思う。どう極めるかだね」

剣を使っていても、柔の剣か剛の剣か分かれることもある。最終的に自分がどうなっていたいのかを考え、そのゴールに向かって邁進していくのが一番の近道だと鈴鹿は思うのだ。

「一人で戦ってる定禅寺に聞くのもなんだが、エリアボスに挑むとなると引き付けるのが難しくてな! パーティメンバーに矛先が向かわない様にするにはどうしたらいいかわかるか? 俺が引き付けてみんなでダメージを入れる作戦が効果的だと考えているんだが」

「ずっとソロ活動の俺に聞くか。タゲ取りたいんでしょ? たしかzooのタンクのワン子は、挑発のスキルが便利って言ってたぞ」

「それは知ってるが、挑発は発現していないんだ」

「ん~、要するにエリアボスの注目を集めればいいだけなんだから、エリアボスにとって一番鬱陶しくて、一番厄介で、一番最初に倒すべきと判断させればいいんじゃね」

だからそれはどうするんだ。そう聞き返したいような返答でもあるが、陣馬は鈴鹿の言葉に納得できるものを感じ取った。

陣馬は前に出ることが注目を集めることだと思っていたが、それは視覚効果的なものであって本質が伴っていなかった。逆の立場ならわかる。雑魚がいくら前に出てても気にかけることは無く、背後に厄介な敵がいればそちらに目が行くというものだ。同じように、相手にとって陣馬が最も面倒くさく片付けておきたい探索者だと思わせられれば、自ずと陣馬にヘイトが集まる。

鈴鹿の言葉を咀嚼し自分の考えに落とし込みながら、陣馬がお好み焼きをひっくり返す。

三人はそれからも鈴鹿へいろいろと質問をした。彼らにとって鈴鹿とは貴重なプロの探索者なのだ。普通の探索者とは全然違う歩みをしているとはいえ、ヤスのメンバーよりもダンジョンの事を知っている。そんな相手に好き勝手質問できる機会はとても貴重な時間であった。

お好み焼きを食べながら、ヤスも加わりあーでもないこーでもないと話し合う。鈴鹿も最近はパーティを組んだため寂しくないが、ヤスたちの話を聞くとやっぱりパーティっていいなぁと思うのだ。友達とも違う、一蓮托生の信頼関係がヤスたちには出来つつあった。

「あ、そういえば、今日ダンジョンの4区か5区の方で蒼い火が見えたんだよ。ユニークモンスターじゃないかと思って引き返してきたんだけど、鈴鹿知ってたりする?」

「え! ユニークモンスター!? 見てみたいけど1層かぁ。それだと出てきてくれないよなぁ」

「その様子じゃ知らないか。ま、四国いたんだし当たり前か」

鈴鹿はつい最近四国から帰って来たばかりだ。八王子の、それも適正外の1層の様子など知るはずもないだろう。

「そうだよ! 四国! お土産一杯ありがとね鈴鹿君!」

「いいよいいよ。それより美味しかった?」

「めちゃくちゃ美味かったぞ! 特にうどんが絶品だった!」

「私は骨付き鳥が美味しかったです」

「え、斎藤さんが骨付き鳥は意外。俺はカツオだなぁ。やっぱ高知のカツオってすごいんだな。うちの親もうまいうまいってめっちゃ食べてたよ。ありがとな、鈴鹿」

四国に長いこといたため、鈴鹿はヤスたちにお土産を郵送していた。そうしないと数が多くて帰りが大変そうだったからだ。四国の幸詰め合わせみたいなものを送ったのだが、気に入ってくれたようで何よりだ。

「そうそう。また今度も別のダンジョンに行こうと思ってるんだけど、いいダンジョン教えてよヤスペディア~」

「あれだけお土産貰ったからな。報酬は十分だ。相談に乗ろう」

そろそろもんじゃも食べたいということになり、お好み焼きともんじゃを作りながらヤスが教えてくれる。

「お前この前の配信で3層5区終わっただろ? ってことは次からは4層だから、中層ダンジョンに行く必要があるわけだ。中層は日本に5個しかないし、そんな選択肢ないぞ」

「知ってる知ってる! 中層ダンジョンは札幌と横浜、名古屋と京都、それから鹿児島でしょ?」

「そうそう。その五つのうちのどれかだな」

ダンジョン探索の度に日本全国津々浦々を回る予定だったが、気づけば低層ダンジョンが選択肢から外れてしまい大幅に行く場所が絞られてしまった。

「横浜は近いし無しだな。となると、 札幌(かいせん) 、 名古屋(みそにこみ) 、 京都(やつはし) 、 鹿児島(くろぶた) かぁ」

「この中だと京都は無しじゃね? 修学旅行で行ったばっかだし」

「ああ、たしかに行ったか。修学旅行で」

この身体だとちょうど一年前くらいだが、体感的には15年前だ。修学旅行の記憶も朧気である。

「まぁ、たしかに京都は無しかなぁ。滅茶苦茶行きたいけど、最近西ばっか行ってる気がするし」

出雲ダンジョンに高知ダンジョンと、西側のダンジョンが多かった。京都で家借りてあの町並みをゆっくり堪能したいが、それは次回に取っておこう。中層ダンジョンは4~6層と3層分ある。とりあえず次に訪れる場所は4層だけ過ごす地として選べばよい。

「西以外となると、札幌しかないですね」

「薩摩の地、鹿児島もいいと思うけどな!」

「私は名古屋かなぁ。天むすってのがあってね。あれ美味しかったし!」

わかる。わかるぞ 銀杏(いちょう) 。名古屋いいよね。ご飯美味しくて大好き。

鈴鹿がうんうんと頷く。名古屋はとにかく飯がうまい。天むすにみそかつ、どて煮にあんかけパスタに小倉トースト。台湾ラーメンも美味ければひつまぶしだってある。そして何より味噌煮込みうどん。あれは絶品である。

ただ、香川で散々うどんを食べたことで味噌煮込みうどん欲が薄く、是が非でも行きたいという気にはならなかった。

「う~ん、札幌か鹿児島だなぁ。どっちがいいかな」

「札幌と言えばジンギスカンとかスープカレー?」

「鹿児島は桜島がありますね。ダンジョンも桜島にあったはずです」

「俺は鹿児島が良いと思う! 西郷隆盛の出身地でもあるからな! 一度はそんな土地を肌で感じてみたいと思うのが漢じゃないか!」

「鈴鹿は飯が美味い方がいいんじゃないか? 北海道は飯が美味いって、旅行に行った兄ちゃんが言ってたぞ」

四人がワイワイ情報を出してくる。情報が出るたびにそっちに惹かれてしまい、なかなか決められない。

「確か鹿児島はしろくまかき氷が有名だったはずだぞ! もう暑くなってきたし、ちょうどいいんじゃないか?」

「確かに……! しろくまかき氷は食べてみたい!!」

コンビニなどでも売っているしろくまかき氷。現地で食べる機会はそうないだろう。桜島も見てみたいし、鹿児島にしようかな。そう思った時だった。斎藤がここに来て最強のカードを出してきた。

「あっ、食と言えば、この時期はバフンウニが旬だったはずですね。中二の時に家族旅行で札幌に行ったのですが、苦手だったウニが美味しいと思えるほど美味しかったです」

「は? ウニ? マジかよ斎藤。そんなん札幌行くしかないじゃん。決まりだわ。札幌行ってきます」

今までの悩みは何だったのか。そう思えるほどの早さで、鈴鹿の次に訪れる地が決まった。食の宝庫札幌。次に探索するのは、札幌ダンジョンとなった。