軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2話 宝珠の可能性

鈴鹿は澄み渡る空気を堪能するように、大きく深呼吸をする。3層5区は標高が高く美しい景色が広がるエリアだ。新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、満足気に鈴鹿は吐き出した。

「うん。やっぱいいよねダンジョン」

「現実逃避か? 今日も配信するんだろ。ヨキの件、公表するかどうするか決めたのか?」

灰ヶ峰から今一番聞きたくない言葉が出てくる。

「う~~ん、もうめんどくさいし公表しちゃっていいんじゃないかなぁ。どう思うよ灰ヶ峰くん」

「言ったはずだ。ただただ強い探索者が出てきてほしいなら公表し、日本のみ強くしたいのならば国内の特級ギルドだけに告げるべきだと。公表しなければ面倒なことも考えずに済むがな」

「なんだよ。もう少し親身になってくれてもいいじゃんか。お前が言いだしたことなんだし」

灰ヶ峰の態度に、鈴鹿はぶーぶーと抗議する。

鈴鹿が悩んでいるのは、ヨキが発現したスキル『戦神』についてだ。

戦神自体は特に問題はない。神の付く強いスキルをヨキが手に入れた。それはめでたいことであり、次の日にみんなでお祝いに鰻を食べてこの話題も終わった。

当然、戦神をヨキが所持していることをわざわざ公表することはしない。鈴鹿も所有しているスキルを全て配信で喋っていないように、切り札となるスキルの情報は開示しないものだ。だから、鈴鹿はお祝いに鰻を食べたら終了だと思っていたし、ヨキと一緒に四万十川をのんびり散策している時に、今度ヨキが戦っているところも見せてねとのんきに談笑していた。

鈴鹿が頭を悩ませている問題は、灰ヶ峰の一言が原因だ。それは灰ヶ峰の運転で 沈下橋(ちんかばし) を渡っていた時のこと。ヨキと二人して落ちる落ちると騒いでいた時、灰ヶ峰が言った。

『宝珠によって神のスキルが発現したという記録は、少なくとも大阪の特級ギルドにはない。この情報はかなり貴重なものだ。探索者の今後の育成方法を変えるほどにな。狂鬼、お前が何を望むかにもよるが、強い者を求めるのであれば公表するのも一つの手だぞ』

いや、タイミング。そう今ならばツッコめただろう。だが、言われた時の鈴鹿は景色に見とれていて話半分にしか聞いていなかった。こうして鈴鹿は四万十川を満喫し、明日からダンジョンに行こうかというタイミングの昨夜、灰ヶ峰から改めてどうするんだと聞かれた。

正直言えば、鈴鹿はどうでもよい。元々配信では、宝珠で得られるスキルはコモンスキルだろうとも有用だから5区がおススメと話していた。宝珠から神のスキルもゲットできるよと話したところで、今まで通りと言えば今まで通りである。

しかし、ここで灰ヶ峰がわざわざ口を出した理由が出てくる。それが他国にもこの情報が流れてしまうということだ。

ダンチューブで配信しているのだから当然であるが、狂鬼チャンネルは海外の人も見ることができるし、たまに英語のコメントが流れたりもするため実際に配信も見られているのだろう。そんな配信で、宝珠で神のスキルが発現することを公表するリスクとは何か。ダンジョン保有国の中には、危険な思想を持つ国もある。そんな国がその情報を得たことで5区の探索を行い神のスキル持ちが多数現れてしまったら、世界の治安がよろしくないことになってしまう恐れがあった。

実際はそんな簡単にはいかないだろうが、そんな可能性が出てきてしまう。だからこそ、灰ヶ峰は鈴鹿が配信でぽろっと口に出す前に聞いたのだ。公表するかどうするかを。

「実際他の国も知らないのかなぁ、この情報」

「わからないな。ダンジョン保有国の多くのギルドが、日本と同じく1~3区のエリアボス周回を採用している。だが、それらはあくまで準一級や一級についてだ。特級も同じかもしれないが、そこまで開示している国もない。もしかしたら宝珠の可能性を知っている国は、5区探索を行わせているかもしれないな」

特級探索者の育成方法など機密も機密情報だ。同じ日本の特級ギルドたちでさえ、お互いの情報を濁すほどである。宝珠から神のスキルを得られるという重要情報を知ったところで、わざわざ開示するような国は無い。

「とはいえ、全ての国が知っている訳ではないはずだ。配信をするのなら、事前にどうするかは決めておくべきだぞ」

「だよね。普通に言っちゃいそうだもん」

鈴鹿は今日もエリアボスとの戦闘を配信する予定だ。いつも通り雑談しながらエリアボスのもとへと向かい、エリアボスと戦う。その戦う前の雑談がまずいのだ。最近あったことをポロポロ喋ってしまう鈴鹿なら、『聞いてよ! この前ヨキが宝珠から神のスキルゲットしたんだよ! すごくね?』とか言いそうである。事前に喋らないと決めていれば大丈夫だろうが、そうでなければ怪しかった。

「う~ん。正直思ったよりも重要な事っぽいし、配信では言わないことにするよ。後で 不撓不屈(ふとうふくつ) の永田さんに情報投げとく。永田さんなら上手いことやってくれるでしょ」

「まぁ、それが無難だな。不撓不屈ならば国内の特級ギルドに情報が行き渡り、国外についても日本が有利になるように動くはずだ。とはいえ、一介のスカウトに話すべき情報でもない。彼女を通して、一度不撓不屈の上の人間と話す機会を設けてもらうのがいいだろう」

「まぁそりゃそうか。藤原さんとか 天童(てんどう) さんとかに話すことにするよ。アポとかは永田さんの手腕にお任せすれば大丈夫だよね。永田さんにはお世話になりっぱなしだなぁ。四国のお土産買ってかないと」

蜥蜴の後始末で忙しそうにしていた永田の顔が浮かぶ。重要な情報というのは、知るだけでリスクが発生するものだ。ただのスカウトである永田に荷を背負わせすぎるのもよろしくないため、灰ヶ峰のアドバイス通り特級クラスの人間に伝えることに決めた。

「うし。方針も決まったし、俺はあっちの方にいるエリアボスと戦いに行くよ。灰ヶ峰は前回と同じ奴だろ?」

「ああ、そのつもりだ」

今日も灰ヶ峰とは別々のエリアボスと戦う予定である。ヨキが2層5区の攻略を終えれば、今後は三人でエリアボスを巡っていってもいいかもしれない。

「狂鬼。開示できるならば教えてほしいんだが、お前は宝珠から神のスキルが発現したことは無いのか?」

別れ際、灰ヶ峰がそう切り出した。

「深い意味は無い。興味本位だ。お前の強さの一端は、宝珠にあるのではないかと思ってな。伝えておくが、俺は宝珠からレアスキルやユニークスキルの発現は多々あるが、神の名が付くスキルは出ていない」

「灰ヶ峰は無いか。俺もないかなぁ。珍しいスキルは発現したけど神のスキルは……あったわ」

1層5区から順繰りに発現したスキルを思い出していったとき、1回だけ神のスキルが発現したことがあった。 狂天童子(きょうてんどうじ) 。死闘の末に勝ち取った宝珠からは三つのスキルが発現した。『武神』、『鬼神纏い』、そして『滅却の魔眼』だ。

一つの宝珠から3つもスキルが発現したこともおかしいが、神が付くスキルが二つも発現している。狂鬼自体イレギュラーな存在だったため忘れていたが、たしかに鈴鹿も宝珠から神のスキルが発現する経験をしていた。

「……忘れていたのか?」

「いや、そんなことはないぞ! 決してな! 秘密……そう、秘密にしてたんだ! 灰ヶ峰も内緒にしててくれな!」

ヨキ凄ぇ、めっちゃ運いいじゃんとか思っていた鈴鹿だが、自分も発現済みだった。鈴鹿の場合は運がいいというよりももぎ取ったようなニュアンスの方が正しい気もするが、それら含めて運がよかったのだろう。

「まぁいい。つまるところ、宝珠から神のスキルが発現するのはヨキが特殊だった訳ではないということだ。これで情報の重要度は増したな」

「そうなるね。宝珠について知られてないってことは、剣神は別口で発現したってことでしょ? 今度 雨道(うどう) さんとか天童さんにどうやって剣神が発現したか聞いてみようかなぁ」

「お前、天童が剣神を発現した話を聞いたことがないのか?」

まじかよ、そんな顔を灰ヶ峰が向けてくる。

「え、なになに。知らないんだけど」

「そうか、探索者ならば誰もが知っている常識的な話なんだがな。俺も真っ当な道で探索者になったわけではないが、お前も大概だな」

どうやら探索者ならば知ってて当たり前らしい。天童については日本最強の探索者と言うことは知っているが、確かに詳しくは知らない。もっと言えば他の探索者も全然詳しくないし、探索者ギルドについても詳しくない。ダンジョンばかりに目が向いているため、あまり他の探索者に興味が出てこなかったため調べる機会もなかった。

「ま、今度宝珠の件で不撓不屈には行くだろうし、その時聞いてみるよ」

「そうするといい。探索者ならば有名な話だが、本人から直接聞いた者はそう多くはいないだろう」

天童は日本最強の探索者だ。気軽に会える人物ではない。とはいえ、鈴鹿は一緒に浅草観光をした仲だ。永田もいるし会うことだってできるだろう。

「じゃ、ここらで。こっち終わったら蘇生しに行くから、好きなように戦いなね」

「ああ、頼む」

恐らく灰ヶ峰は今日も魔法の練習をするのだろう。レベルを下手に上げる前に、やれることは全てやっておいた方がいい。

灰ヶ峰と別れた鈴鹿は、歩きながら狂鬼の面を取り付けスマカメを起動した。

「こんにちわ~。狂鬼です」

【待ってました!!】

【 魔蝶蘭(まちょうらん) に続いての狂鬼さんの戦闘配信! 楽しみ!!】

相も変わらず平日の日中だというのに、配信開始と同時にコメントが流れてくる。最近は淵の番との特訓ばかりで雑談配信が多かったが、 魔蝶蘭(まちょうらん) を皮切りに残す3層5区のエリアボスとも戦ってゆく。雑談でもそれなりに視聴者はいるのだが、やはりエリアボスとの戦闘の方が人気があるようだ。探索者の配信なのだから当たり前かもしれないが。

淵の番の修行の様子などは、残念ながら配信することが難しい。今では死なずに戦えるようになったが、つい最近までバンバン死んでいたのだ。聖神の信条は開示する気が無いため、修行の様子は見せられなかった。

【今日はエリアボスだよね!? 楽しみ!!】

「そうだよ。3層5区のエリアボスは後三体だから、今回の探索中にまとめて倒しちゃう予定。だから明日も明後日もエリアボス戦だよ」

今までは特訓に比重を置いていたため、エリアボスと頻繁に戦うことはしなかった。エリアボスを倒せば当然レベルが上がる。鈴鹿はエリアボスという強力なモンスターに対し、レベル差がある状態で挑むことで成長すると思っていた。それを裏付けるように、レベル差を覆すために各種スキルが成長したおかげで、鈴鹿が所有するスキルたちはどれも高レベルとなっている。

そんな成功体験を鈴鹿は経験してしまったことで、それ以外の選択肢が奪われてしまった。何故なら一度上げたレベルは戻せないからだ。ゲームのように、セーブして戻ることはできない。蜥蜴を使った実験により、滅却の魔眼によって全てをリセットできることは確認済みだ。だが、さすがにそれを自分自身にしようとは思わない。それをしなければならないほど今の鈴鹿は弱いわけではなく、また自分自身でも今のステータスは奇跡的な幸運によって築かれたと理解しているからだ。

そのため、むやみやたらにレベルを上げてしまうとスキルを成長させる余地がなくなってしまうと思い、鈴鹿は特訓ばかりでエリアボスとの戦闘を配信の度にするようなことはしなかった。

しかし、それも淵の番との長い修行と、 魔蝶蘭(まちょうらん) 戦を機に考えが変わってきた。淵の番との戦いを通し、鈴鹿の欠点でもあった素の実力を十分高めることができた。さらに、魔蝶蘭戦では魔力と存在進化の重要性を理解した。その結果、そろそろ存在進化が強化されるレベル200まで上げてもいいかもなと思ったのだ。

【ヨキちゃんとか灰ヶ峰って、狂鬼さんが戦ってる間はどうしてるの?】

【もしかして後ろにいたりする?】

「いや、二人は二人で別のエリアボスと戦ってるよ」

【え、たった二人で? 何言ってるの?】

【冗談でしょ。狂鬼さんじゃないんだから】

【お前ら何も学ばないな。狂鬼さんとパーティ組んでるんだぞ? 何でもありに決まってるだろ】

コメントが盛り上がってる。灰ヶ峰とヨキは雑談配信で一緒に映っていることもあってか、人気があった。当初は灰ヶ峰について視聴者もどう触れていいかわからず困惑していたが、灰ヶ峰が無理な者たちは配信を離れたことと、基本黙っているのでヘイトが向きにくいためか最近では受け入れられつつあった。

そしてなにより、二人とも容姿がいい。トップ探索者は強いだけでなく見た目も良いため、非常に人気が高い。鈴鹿も男女という性別の垣根を超えた美の化身みたいな見た目をしているが、残念ながら目元以外を狂鬼の面で隠している。そのため、二人は狂鬼チャンネルのビジュアル担当として大活躍してくれていた。

【狂鬼さんお願いです!! ヨキちゃんが戦ってるところも見たいです!!】

【私も灰ヶ峰様の戦闘を見たいです!】

「あ~、二人の戦闘ね。うん、まぁ今度ね今度。今修行中だからさ。もうちょっと待ってね」

コメントの要求に濁して答える鈴鹿。二人の戦闘を見たいというのは、よく寄せられるコメントだ。しかし、それはまだできていない。

当然だ。灰ヶ峰はまだ特訓中で、今日も魔法縛りで何度か死ぬだろう。そんな様子を見せられるわけがない。ヨキに至っては視聴者どころか未だに鈴鹿も戦闘シーンを見ていないのだ。そのうち5区の適当なモンスターと二人を戦わせて、問題なさそうなら配信することにしよう。

ま、そのうち二人のエリアボス戦とかも配信してもいいかもな。

狂鬼チャンネルは気づけば有名になっていたが、今は蜥蜴の一件があり悪目立ちもしている。そのため、定期的にアンチが発生するのだ。それに明確なアンチ以外にも、二人を鈴鹿の小間使いとしてしか見ていないような軽んじるコメントもあったりする。そんな視聴者たちに二人のエリアボス戦を見せれば、きっと静かになってくれるだろう。

ここまで狂鬼チャンネルを楽しんでくれた人たちのために配信を辞めたくはないため、二人には鬱陶しいコメント達を実力で黙らせてもらいたい。二人ならきっとできるはずだ。

【二人ってどんな風に戦うのかくらい教えてよ!! 気になって夜しか眠れないんです!!】

「まぁそれくらいなら。えっと、灰ヶ峰は刀を使うよ。前に戦った 錬鱗淵(れんりんふち) の 番(ばん) っていたじゃん? あれと同じくらいは強いね」

【は? あの化け物みたいな強さのエリアボスと同じくらい?】

【いやいや、え? 盛ってるでしょ狂鬼さん】

【灰ヶ峰様そんなに強いんですか!! さすがです!!】

淵の番の強さは狂鬼チャンネルの視聴者ならば誰もが知っている。エリアボスの戦闘は貴重なため、皆何度も見返しているのだ。特に淵の番は鈴鹿も嫉妬するほど近接戦闘に突出している。そんな淵の番との戦闘は探索者の頂点の戦いと言っても過言ではなく、探索者たちはもちろんそれ以外の視聴者も何度見ても飽きない戦いだった。

そんな淵の番と同じくらいと言われ、コメントは動揺する者と懐疑的な者、そして灰ヶ峰ファンたちの歓喜で混沌としている。

【ってことはヨキちゃんもそれくらい強いの!?】

【ヨキちゃんは自分から狂鬼さんより全然弱いって言ってるし、それはないでしょ】

【でもヨキちゃん最近探索上手くいってるみたいなことも言ってたよ】

【確かに。ちょっと前まで落ち込んでる感じだったけど、今楽しそうだよね】

【で、どうなの狂鬼さん!】

「ヨキね。うん、ごめん! 俺も正直よくわかんない!」

鈴鹿の正直な回答に、コメントからツッコミや落胆の声が聞こえてくる。

だが、何を言われても鈴鹿も困る。何せ一度もヨキの戦闘を見ていないのだから。それに、この前の料亭での時もそうだが、ヨキは戦闘の様子を伝えるのが下手なのか正直何言っているのかわからない。一度斧を振ると複数の斬撃が発生するとか言っていて、まるで魔法みたいなことを言うのだ。

それに何より、ヨキは戦神を発現した。戦闘系に特化したスキルっぽいが、詳細はわからない。それでも、このスキルがプラスに働くことは間違いないはずだ。そもそもヨキの戦い方すら謎に包まれているのに、そんなスキルが発現したことで、どこまで強いのか本当に未知数になってしまった。

「いや、隠してるわけじゃないんだよ。本当にわかんなくてさ。ヨキは 戦斧(せんぷ) 使いってことは知ってるから皆にも教えとくよ。まぁ、今度二人が戦ってるところも配信するだろうし、もう少し待ってくれ」

【狂鬼さんクラスの人が見ても強さが分からないってどういうこと?】

【めちゃくちゃ波があるのかな?】

【気分屋のヨキちゃんに振り回されたい人生です】

正解は一度も戦闘を見たことないから、なんて口が裂けても言えない。仮にもパーティを組んでいるというのにそれはあまりにもひどいだろと、客観的に見て改めて自分のひどさを再認識した鈴鹿。今日の晩御飯はヨキが美味しいと言っていた、オークションで競り落とした火炎牛のステーキにしようと決めた。

ダンジョンの中だというのにのんびりと散歩をするように、鈴鹿はコメント達と会話をしながらエリアボスを目指すのだった。