軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15話 Vシネマ

練鱗淵(れんりんふち) の番が煙へと姿を変え、鈴鹿に吸収される。それと同時に、何か力の源のようなものが鈴鹿に蓄えられたのが感じられた。

「へぇ、これが『狂鬼の面』の力か。面白いけど、どうしよ」

普段便利なカッコいいお面と思っている狂鬼の面だが、しっかりと能力が備わっている。今回は狂鬼に導かれるままその能力を行使してみたのだが、どうなることか。

【めっちゃ迫力あった!!】

【なんてエリアボスだったの!? 超強かったんだけど!!】

「あ、名前言ってなかったね。 練鱗淵(れんりんふち) の番だって。レベルは192。強かったねぇ」

【ほんと凄かった!!】

【あの剣戟なんで防げるの!?】

【しかも最後エリアボスほとんど消滅したし!!】

【相変わらず意味不明な強さ……】

これだけスキルが揃っていて意味不明な強さじゃなければむしろ困ってしまう。

「あ、剣落ちてる。ラッキー」

淵の番の上半身を喰らった時、手に持っていた剣がドロップしたようだ。収納に収まってないってことは強奪のスキルによるものだろう。

すっかり淵の番の剣を強奪することを忘れていた。つい戦っていて楽しい相手だと強奪含めていろいろ失念してしまう。鈴鹿の 悪癖(あくへき) である。

【すごい綺麗な剣……】

【3層5区のエリアボスの武器……一体いくらするんだよ……】

名前: 淵割(ふちさき) の 剣(つるぎ)

等級: 遺物(レリック)

詳細:一切合切の無駄をそぎ落とし、ただただ斬ることのみを追求した一振り。この一振りは万物を斬る。所有者の潜在能力を開放し、技量を授ける。

「 淵割(ふちさき) の 剣(つるぎ) だって。すげーキレイな剣」

淵の番を彷彿とさせる白金の光沢を帯びた両刃の剣は、美しいだけではない。凪の小太刀のように水の刃を出すようなギミックはないが、これはひたすら切れ味のよい剣である。それは相手の武器であろうと、強靭な鱗であろうと断ち切る。恐らく魔法だろうと斬ってみせるだろう。それだけの力が内包された剣だ。

しかし鈴鹿には使えない。コレクションボックス行きである。

もったいないよなぁ。かといって売りたくもないし。ヤスに貸すって言ってもオーバースペックすぎるしなぁ。

ギルドであれば他のギルドメンバーに貸し出したり有効活用できるのだろうが、鈴鹿はギルドに所属していない。将来的にzooが立ち上げるギルドに所属するつもりなので、彼女たちが成長限界を迎えたらこの剣を貸してもいいかもしれない。

パーティメンバーでもいればまた違ったんだけどなぁ。一人って自由で好きなんだけど、たまにパーティもいいなって思うよな。ヤスみたいに気を使わなくていい気楽な仲間がいれば楽しそうなんだけど。

【十両蛙の隠し条件についてもっと詳しく教えてよ!!】

【まずは宝珠の確認が先だろ!】

【決めるのは狂鬼さんです。外野が指示するな】

相も変わらずワイワイ賑やかなコメントに、まぁ、これも一種のパーティみたいなものか、探索者も多様性だなぁと、鈴鹿の探索に花を添えてくれるコメント達の要望に応えるのだった。

いらなそうな素材系のアイテムをいくつか売却して出てみれば、いかつい兄ちゃんたちが腕を組んで待っていた。

「定禅寺さんですか?」

「違いますね」

今日の夕飯何にしようかなぁ。雲太のメンバーに連絡しておすすめのお店とか紹介してもらおうかな。

「すいません、定禅寺鈴鹿さんですよね?」

「だから違いますって。私の名前は定禅寺オートポリスです。あんな8の字と一緒にしないでください」

そう返すと、いかつい兄ちゃんたちは首をかしげる。ボケたのに理解されないと悲しいよね。せめてなんだよオートポリスってくらいは欲しかった。

「はぁ……、何の用? 神在會(かみありかい) か? つまんないことだったら拠点更地にするぞ? お?」

ちょっと圧をかけながら鈴鹿はいかつい兄ちゃんたちを睨む。

もしかしたら更なるイチャモンを付けに来たのかもしれないし、やっぱあの時のエリアボスの食材返してという交渉かもしれない。もうあれは鈴鹿の食材になったのだ。絶対に返さない。

「自分らは神在會ではありませんが、その系列です。今回下の者が定禅寺さんにご迷惑をおかけしましたのでぜひ謝罪をさせてほしいのですが、付いてきていただけないでしょうか」

「はぁ? なんで俺がご足労お掛けしないといけないんだよ。謝る気持ちがあるならそっちが来いよ」

謝るんで来てくださいとは随分上からじゃないか。付いて行ったら相手の事務所で怖いお兄さんたちに囲まれる未来しか見えない。まぁそれはそれで映画みたいで楽しそうだし、全然切り抜けられそうではあるが。

「すんません。上の者は一足先に定禅寺さんをもてなすために会場にいまして」

「なんだよもてなすって。鉛弾でもくれるんか?」

「いえ、松葉ガニを用意させていただいております。苦手でしたら鉄板焼きに変更もできますがいかがでしょうか」

「なんだと? カニ? ……ふぅ。しょうがない。今回だけだぞ? どこ行けばいい?」

カニを出されてしまったら付いて行かざるを得ない。なんて卑怯な奴らなんだ。これが裏社会のやり方か。早くも屈してしまいそうだぞ。

ブツブツ文句を言いながらも、鈴鹿はいかつい兄ちゃんたちが用意した車に乗り込むのであった。

スモークの張られた車から夕日に染まる島根の街並みを眺めていると、目的地へと到着した。

料亭。そこは格式の高そうな立派な料亭であった。まるで政治家の談合やヤクザの密会が行われていそうなほど由緒ある料亭。この手の店には鈴鹿は訪れたことがない。

すげぇ綺麗な庭。キョロキョロとあたりを見回しながらいかつい兄ちゃんたちと仲居さんに付いて行くと、一つの部屋の前で立ち止まった。松の間と書かれたそこが、どうやら今日の部屋らしい。

入るとそこは恐ろしい空間だった。

スーツを着た色黒のザ・ヤクザなオッサンや、構成員らしきいかつい兄ちゃんたちが腕を組んで等間隔で壁際に控えている。その全員が探索者なのだろう。肌が青白く角が生えている者や、見える素肌がところどころ鱗に覆われている者もいる。この場にいるもの全てが存在進化を済ませていることがわかる。

そして、席に着いている4人。雰囲気的にもこいつらが上の者だろうな。恐らくレベル200は超えていないはず。それでも、一級探索者のボーダーであるレベル150を優に超えているはずだ。他にも一人同じくらいのレベルで気配遮断を使って潜んでいる者がいるが、頑張って隠れているのだろうし触れないであげよう。

探索者の中でも上澄みに分類される者たちのため、面はいい。だが、それ以上にいかつさが勝る。Vシネの現場か何かかここは。

「わざわざ来ていただきありがとう。さぁ座ってくれ」

4人の中で最も若く、もっとも強そうな黒髪のイケメンがそう切り出す。真っ赤な瞳に黒い髪、整った顔立ちに少し装飾の入ったスーツ姿は、ホストか何かにも見える。漂う危険な香りが女性受けしてホストでもやっていけそうだな。

「カニを振舞ってくれると言われたらね。楽しみにしてるよ」

暗にカニちゃんと出せよとダメ押しをし、構成員が引いた椅子に腰かける鈴鹿。ヤクザの集会所みたいな様子に、若干テンションが上がる。この中に鈴鹿を害せるだろう者がいないからこその余裕である。

お店側に迷惑すらかけずにこの場にいる者たちを瞬殺する自信もある。毒魔法レベル9を使えばできるだろう。

「ああ、もちろんだ。私は 灰ヶ峰(はいがみね) 。普段は広島で探索者をしてる。今回出雲の支部にいるうちの者が定禅寺君に迷惑をかけてしまったようだね。申し訳なかった」

そう言って頭を下げる灰ヶ峰。それに面食らったのは鈴鹿であった。謝罪は形だけのものかと思っていたが、まさかちゃんとしてくるとは。神在會の上と言えば蜥蜴と呼ばれる裏社会の組織のはずだ。メンツが第一の裏家業の人間が非を認めて謝るとは、鈴鹿の想定外だった。

「謝罪は大丈夫。この前神在會からはアイテムを貰ったからね。それでチャラだよ」

「そうはいかないよ。私たちとしても定禅寺君、いや狂鬼を敵に回したくない。何か望むものがあったら用意させよう」

鈴鹿が狂鬼だと知っているとカードを切ってきた。が、トップギルドの人間は狂鬼の中の人が鈴鹿であるということは割と知られていると希凛も言っていたし、そういうものなのだろう。

「いや、いらないよ。十分な物をもらったし。あ、ここご馳走してくれるならそれでお願い」

「そうかい? 定禅寺君は3層を攻略中は出雲で活動するのかな? 今日の配信でも5区のエリアボスと戦っていたようだけど」

「いや、気分転換に来てみただけだから、あと1週間くらいで帰るつもり」

「神在會が不快であればその期間だけでも出雲から撤退させるが、どうする? ああ、任せていた神在會の上の者に責任を取らせることも可能だから、気軽に言ってくれ」

「その件はチャラって言ったよね。聞こえなかったの?」

責任を取らせたいなら勝手にとればいい。だが、そこに鈴鹿の意志を介在させることは許さない。鈴鹿に突っかかってきた責任はアイテムでチャラにしたのだ。

「すまないすまない。さっきも言ったが、君とことを構える気はないよ」

「それは俺としても願ったりだ」

別に積極的に揉めたい気持ちはない。火の粉が降りかかってくるのであれば、全力で振り払うだけである。

「 猛虎伏草(もうこふくそう) からも強く釘を刺されていてね。西成とは面識があると聞いているけど、知っているかな?」

「ああ、知ってる知ってる。スカウトの人だよね」

「はっはっはっ。彼女はスカウトではないよ。定禅寺君が特別だからこそ、彼女がスカウトに行っただけさ」

西成をスカウト呼びしたことが面白いのか、他の席に座るメンツも笑っている。

「彼女からぜひ猛虎伏草に定禅寺君をお招きしたいと伝えてほしいと言われたんだが、どうかな。差し出せるものはなんでも差し出すとまで猛虎伏草が言っている。異例中の異例の待遇だ。私が言うのもなんだが、強くていいギルドだよ。猛虎伏草は」

改めての勧誘ということだろうか。ならば答えは決まっている。

「西成さんにも言ったけど、友達のギルドに入る予定だから遠慮しておくよ」

それに 不撓不屈(ふとうふくつ) の永田の話を聞く限り、西のギルドは合わなそうな気もするし。特に川崎掃討戦の話とか普通にドン引きだし。……あれ、こいつらが下手人じゃね。

「そうか。猛虎伏草の創始者である 雨道(うどう) と会うだけでもって言われているんだけど、それでもかい?」

「あー、興味ない。今ダンジョン探索で忙しいんだ」

謝罪するというからのこのこ付いてきたが、そうだよ。こいつら極悪人じゃん。イケメンホストなんて何人の女を沈めてきたんだよ。他のメンツも薬物とかさばいてそうだし。なんで俺カニ食えるからってこいつらと飯食わないといけないの? 探索者相手に身内の一般人攻撃するような奴らだろ? 胸糞悪くなってきたな。帰るか。

ようやく我に返った鈴鹿。強くなり過ぎたことで警戒心が定禅寺家のカルピスくらい薄まっていたようだ。普通なら拒むような場面も、どうとでもできるだろうから行ってみるかと短絡的過ぎた。

自分の浅はかな行動にイラつき、そもそもこの状態に巻き込んだ目の前のヤクザたちにもイラつきだす。

「そう邪険にしないでほしい。猛虎伏草はただ君に西で強くなってほしいだけなんだよ。レベル250を超える先まで」

「必要ないな。まったくもって余計なお世話。お前らといる方が弱くなりそうだ」

徐々に会話にトゲが出始める鈴鹿。鈴鹿は坊主憎けりゃ 袈裟(けさ) まで憎いよろしく、嫌いになると全てが嫌になる。こいつらと一緒に飯を食うと自分まで仲間みたいに思われるのが耐えられないので、帰りましょう。そうしましよう。

「すまんが用事ができたから帰るわ」

「ああ、ちょっと待ってほしい。伝えないといけないことがあるんだ」

鈴鹿の唐突の行動にも、灰ヶ峰はたじろかない。他の三人も同様だ。

「定禅寺君、いや狂鬼君。君はとても強いね。対面するとそれが嫌でも伝わるよ」

レベル的には目の前の四人は鈴鹿とそう変わらないだろう。装飾品によっては鈴鹿の方がステータスで劣っているかもしれない。しかし、スキル構成が違いすぎる。それこそ、ここにいる全員を相手にしても瞬殺できると断言できる程度には。

「猛虎伏草は君を仲間に引き入れたいと強く思っている。どんな報酬も用意するとまでいう程に。それほどに彼らは君を雨道のパーティに入れたいんだよ。これは理解してもらえたかな?」

「ああ、理解したよ。その上でそっちに付くつもりもその雨道ってやつとパーティなんて組むつもりもないって伝えたつもりだったが、伝わらなかったか?」

「伝わったよ。それでも君が必要なのさ。君も高みまで行けば意見も変わるかもしれない。けれどそれを待っている時間は西には残されていなんだよ」

こんなクズ共に必要と言われても嬉しくもなんともない。それにこんなヤクザたちと繋がりの有るギルドなど、まっぴらごめんだ。

「ならば質問を変える。君は東に付くつもりは無いんだね?」

「あんまりしつこいと東に付いてくれって言ってるように聞こえるぞ?」

「それだよ、それ。中立というのは今後どうなるかわからない危うさがあるのさ。そして、そうやって東に付くことをとても警戒してる。あの猛虎伏草が、たった一人の探索者をね」

灰ヶ峰の濁る瞳が、鈴鹿を捉える。裏社会を生き、多くの地獄を覗いてきた瞳が、鈴鹿を見据える。

「すまない狂鬼君。今ここで決めてほしい。西に付くのか、それとも付かないのか。我々は君を歓迎する用意ができている。君こそが西の悲願になりえるかもしれないとまで思っているよ」

「鳥頭かお前は。何度同じことを言わせるつもりだ?」

面倒くさくなってきた。もう気配遮断使って帰るか。そう思った時、構成員の一人がノートパソコンを灰ヶ峰に手渡した。画面は開かれている。灰ヶ峰はそのまま、画面を鈴鹿へと向けた。

「残念だよ、狂鬼君。本当に。本当に残念だ。君次第ではこんなくだらない東西戦争だって終わらせられたかもしれないと言うのに」

画面には分割されたいくつかの映像が映っていた。それは八王子にある定禅寺家、大学の新歓に向かっているであろう 菅生(すごう) 、帰路に就く父、なにやらカフェでノートを広げて作戦会議をしているヤスたち、そんな鈴鹿の家族や友人が、画面には映し出されていた。

「君は随分周りの人に愛されているようだけど、君はどうかな?」

血のように赤く濁った瞳が、鈴鹿を見据えていた。