軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9話 理不尽

人通りの無い裏路地に、全裸のヤンキー5人が土下座をしている。

「それで、反省したかお前ら」

「「はいッ!! 私たちは所詮 蛆虫(うじむし) であり!! ひと様に迷惑をかけて生きてきたことを 償(つぐな) うために!! 社会貢献を 邁進(まいしん) していく所存ですッ!!!」」

「そうだな。周りに迷惑かけた分、倍以上で返さないと計算が合わないよな」

「「はいッ!! 一生をかけて償います!!」」

鈴鹿に何度もビンタされたことで顔はパンパンだが、彼らの瞳は清らかなものになっていた。

いい仕上がりになった。できそうだと思って彼らの他人に迷惑をかけて当たり前だと思う悪しき心を滅却の力で消してみたのだが、案外うまくいった。廃人になったらごめんと思ったが、人から400万もの大金を脅して奪おうとするやつらだ。この先も迷惑をかけ続けるのだろうし、なるようになれと思ってトライしてみて正解だな。

気配遮断のスキルといい滅却の魔眼の力といい、解釈次第で案外好きに力を行使できる気がする。高いスキルレベルや強力な能力による恩恵なのだろうが、便利なのでこれからもいろいろ応用していこう。

「それで……ああ、椅子が必要だな」

「自分がなります!!」

そういうと、リーダー格らしきヤンキーが鈴鹿の下で膝をつき四つん這いになる。汚ねぇなぁと思いながらも、気分は犯罪者を更生させる鬼看守なのでヤンキーの上に腰を下ろす。多分鬼看守は囚人を裸にひん剥いて椅子にしたりしないが、鈴鹿もロールプレイを楽しむように偏った知識で立ち回っていた。

「で、お前らは何なの?」

「はいッ! 自分たちは 神在會(かみありかい) に所属する四級探索者です!」

「今回俺から金を回収して来いって言ったのはその神在會が指示したの?」

「はいッ! 神在會の 鰐淵(わにぶち) さんが急遽1000万を用意する必要が出てきたとのことで、定禅寺さんから取り立てて来いと指示を受けました!!」

さっきも言ってたな。とりあえず次の標的は鰐淵だな。小出しにヤンキー送られても面倒だから、今日片を付けてやる。

「その鰐淵ってのはどこにいるんだ?」

「海沿いにある倉庫に金を持ってくるように言われました! ですが、 雲太(うんた) っていう探索者ギルドから金を回収するって言ってたので、今はそこのギルドだと思います!」

「は? 雲太?」

「はい! 絞れるだけ絞るから俺が行くって鰐淵さんが行きました! なので自分たちが定禅寺さんのもとに来ております!」

中華料理屋で雲太のメンバーと会ったときを思い出す。彼らの探索で稼いだ金を回収すると言って、ツッパリが絡んでいた。その時は鈴鹿が今がチャンスとばかりに毒魔法で酩酊させて酔っぱらいの戦いを見て楽しんだが、あれ一回限りで終わると思う方が甘かった。

「おい、ついて来い。鰐淵が雲太のギルドにいなかったらお前らが鰐淵の元まで案内しろ」

「「はいッ!! もちろんです!!」」

「とっとと服着ろ。行くぞ」

こいつらは鰐淵ってのと同じギルドのようなので、雲太の拠点にいなくても連絡つけて会えるだろう。もし入れ違いで雲太のギルドが荒らされてたら、鰐淵には責任を取ってもらわないといけないな。

「探索者の力って消し去れんのかな」

ぽつり、そう呟いて鈴鹿は急いで着替えるヤンキーたちの尻を蹴りながら急かすのであった。

雲太のギルドにたどり着くと玄関の扉は蹴破られており、入口の石門柱も壊されていた。誰が見てもそこはすでに荒らされた後であった。ところどころに血の痕跡も見られ、揉めたことも容易に想像できる。

血痕は道路から先に続いていない。ヤンキー達の物ならばいいが、誰か連れ去られたのだろうか。その嫌な予感を後押しするように、屋内には四人しか気配がない。雲太のメンバーは6人だ。二人足らない。

「お前たちはここで待機」

「「はいッ!! 定禅寺さん!!」」

「お邪魔します。定禅寺です」

挨拶して中に入ると、土足で入ったのだろうか廊下が汚れている。人の気配はリビングからする。気配からして雲太の男子メンバーのようだ。

「定禅寺です。大丈夫ですか?」

警戒してそうな雰囲気を感じたので、名乗りながら中へと入る。みんなで楽しくご馳走を食べたリビングはボロボロになっていた。探索者が暴れればただの家具など簡単に壊されてしまうだろう。その実際を目の当たりにした気分だ。最悪である。

四人は魂を抜かれたように呆然としており、その顔はところどころ腫れていた。

「何があったんですか?」

「じょ、定禅寺君か……。何でもない、大丈夫だよ」

「大丈夫なわけないじゃないですか。話してください」

鈴鹿がそう言うも、彼らは口を閉ざす。言えば鈴鹿を巻き込むと思っているのだろう。彼らは善人だ。だからまだ子供の鈴鹿を危険から遠ざけようとしている。だが、鈴鹿は探索者だ。彼らにもそのことを汲んでほしい。探索者が危ないからと身を引くなんてありえないということを。

「大丈夫です。俺は探索者ですよ? 危険なことの分別くらいできます。だから教えてください」

「分別ができるならなおさらだ。見てわかるだろ。ただ事じゃないんだ。関係ない定禅寺君を巻き込むわけにはいかない」

「まぁ、そうなりますよね。でももう関わってるんですよ。僕のところにもヤンキーが来てお金の回収しに来ました」

その発言に彼らは一様に鈴鹿を見る。

「だ、大丈夫だったか!?」

「怪我とかしてない?」

「あいつらこんな子供にまで……」

憤りを隠せない雲太のメンバー。けど安心してほしい。鈴鹿は無事だし襲ってきたヤンキーたちは更生させた。

「なので、何があったか教えてください」

「聞いたら即座に荷物を持って地元に帰ることを約束できるなら」

「できないけど教えてください」

鈴鹿と 佐香(さか) の視線が 交錯(こうさく) する。少しして、佐香が折れた。

「……定禅寺君と会った中華料理屋の事は覚えてるかい?」

「はい。あのときのチンピラが来たんですか?」

「そうなんだ。あの時すぐに支払わなかった利子として、400万払えってね」

「無茶苦茶だよあいつら。ドア壊して勝手に入ってきて、好きなだけ暴れやがって!」

「あいつらはやばい組織とつながってるんだ。手を出せば確実に殺される。俺たちだけじゃなくて家族ごと。それをわかっててやってるんだ……」

手を出せば待っているのは報復。それを恐れ、彼らはろくな抵抗もできずやられたようだ。

「やばい組織ですか」

「そうだよ。日本一帯に根を張るヤクザと繋がってるって噂だ」

「それは本当。広島に総本山がある 尾道(おのみち) 組ってヤクザと繋がりがある。その裏には蜥蜴なんて呼ばれる探索者崩れの一大組織があって、やつらはその下部組織なんだよ」

「 学(まなぶ) はそう言うの詳しいからな。蜥蜴ってのは一級探索者どころか特級までいるって話だろ?」

「うん。これは噂だけど、東京で活動してた特級間近の一級探索者パーティが壊滅して、その後に蜥蜴ができたんだって。その壊滅したはずのパーティの唯一の生き残りが蜥蜴のボスって噂。特級まで行けたのかは確証はないけど、信憑性のある話だってのはネットでは言われてるね」

蜥蜴か。 不撓不屈(ふとうふくつ) の 永田(ながた) もそんな話をしていた。ヤクザと繋がりもあると言っていたし、 学(まなぶ) の発言は正しそうだ。

特級がいるということは、特級ギルドでもあるからな。警察どころか他の探索者ギルドも手を出せないんじゃないか?

「あいつらがやばいってのはわかりました。そいつらに400万請求されているってことも。それで、 八雲(やくも) さんと 雲津(うんづ) さんはどちらに?」

ここにいるのは雲太の男性メンバーだけだ。他に二人女性がいる。夜更けだし自宅に帰ったならばいいが、道路まで続いていた血痕がそれを否定する。

「……奴らに 攫(さら) われた」

「明日までに400万払えなければ八雲たちで 賄(まかな) うって言って……」

「っくそ!! 俺たちが何をやったって言うんだよ!!」

ホコリが舞う程強く地面を叩きつける 鹿島(かしま) 。彼らは憤りと無力感に 苛(さいな) まれていた。

「俺たちは明日400万用意して八雲たちを助けに行く。だから定禅寺君は今すぐ荷物をまとめて出雲から離れろ。広島もダメだ。地元に帰って日常に戻るんだ。いいね?」

佐香(さか) が鈴鹿を諭すように言う。自分たちも大変だろうに、なけなしの気力を振り絞り鈴鹿に気を使ってくれている。

俺たちが何をやったんだ、か。そうだよね。 雲太(うんた) のメンバーは善人だ。誰に迷惑をかけることもなく普通に探索して、地元を楽しんでもらおうと見ず知らずの鈴鹿をもてなしてくれるような、そんなメンバーだ。力を持った奴らが振るう理不尽にたまたま標的にされてしまっただけの、善良な探索者だ。

理不尽か。とてもとても嫌いな言葉である。

鈴鹿には今力がある。理不尽を振るう者に更なる理不尽を押しつけられる程度の力が。

ならば振るおう。存分に振るおう。理不尽を振るったらどうなるか、一生をかけて反省させよう。

「わかりました」

「ごめんな定禅寺君。せっかく出雲に来てくれたのにこんなところを見せてしまって」

「気にしないでください。じゃあ各々やることをやりましょう」

そう言うと、鈴鹿は一同を見回す。

「僕は八雲さんと雲津さんを取り返してきます。みなさんは拠点の掃除をしていてください」

リビングはボロボロだ。掃除も時間がかかるだろう。女性陣がこの惨状を見たら卒倒してしまうかもしれない。衝撃を和らげるために彼らには掃除しておいてもらおう。

「は? な、なにを言ってるんだ定禅寺君?」

「おい話聞いてたか? 子供にできることは無いから早く帰れ」

「そうだよ。奴らは警察どころか探索者協会すら逆らえない組織なんだ。本当に危険だから、早く逃げるべきだ」

彼らの言葉に、鈴鹿はうんうんと頷く。

「わかりました。僕はこれから海沿いの彼らの拠点に行ってきますので、ちょっと待っててください」

「何もわかってないじゃないか!! 定禅寺君! 君には申し訳ないけど、俺らも余裕が無いんだよ!! ふざけてないで早く逃げなさい!!」

「大丈夫ですよ。そのチンピラは潰しますし、そいつが所属する 神在會(かみありかい) にも話付けてきますから」

そう言って、鈴鹿は存在進化を解放する。額から角が一本生えるだけだが、その意味することは探索者である彼らはよく理解している。

「は?……存在進化?」

「その姿……それにその目って……」

「まさか、定禅寺君って……」

「大丈夫です。安心してください。僕こう見えてそこそこ強いんで。だから皆さんは二人が帰ってきて安心して過ごせるように片付けをお願いします」

そう言って踵を返す鈴鹿に、彼らは何も言えなかった。